夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
3月の審査結果発表
兼題「燕(つばめ)」
春彼岸の頃に南から渡ってきて、秋彼岸の頃に南へ帰っていく鳥。
渡来時の新鮮な印象があり、見かけると春の季節を満喫したような気持になる。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
しわくちゃな朝を延ばして燕くる
宙のふう
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夏井いつき先生より
「燕」と「朝」は、気持ちのよさという意味で相性がよいのでしょう。朝の燕を描いた句は沢山あります。一種の類想といってもよいでしょう。類想とは、逆の考え方をすれば大いなる共通理解。この句は類想を土台としつつ、「しわくちゃな朝」という比喩でオリジナリティとリアリティを獲得しています。「燕」がしきりに行ったり来たりしているのは、「しわくちゃな朝」をアイロンのように延ばしているのだよという発想の明るさ。「しわくちゃな朝」とは慌ただしい朝のことでしょうか。しわくちゃな気持ちで目覚めた朝かもしれません。比喩の解釈が縦横に広がっていくのもこの作品の魅力。「燕」の動きを映像として見せる比喩の使い方も見事です。
残像の燕と燕飛び違ふ
樫の木
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「燕」の動きを「残像」という言葉で描写した句はありますが、「残像の燕」と実像の「燕」を映像として描いた点がさすがです。下五「飛び違ふ」のさりげない複合動詞が動きを活写しています。
そこに壁あるかに燕ひるがへる
亀田荒太
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動物の一物仕立ての難しさは、動きや生態をどう映像化するかという点です。「そこに壁あるかに」という把握が「燕」らしい独特の動線を表現。「壁」と「燕」のみを漢字にした表記もよいですね。
削りたての鉛筆眩し朝つばめ
ほろろ。
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取り合わせの技を成功させるためには、季語と季語以外の部分を繋ぐ接点が必要です。この句では「眩し」の一語がその働きをしています。一年生の最初の朝かな。「つばめ」の動きも眩しい朝です。
つばめつばめ友人はみな大企業
或人
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春に渡って来る「つばめ」。春になる度に去来する「友人はみな大企業」という憂い。「つばめつばめ」の呼びかけに入り混じるプライドとコンプレックス。こんな呟きも詩にしてしまうのが俳人の力。
怒号してここは燕の来ない家
海老名吟
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「燕」がいないことで「燕」という季語を描くという考え方もあります。「怒号」が聞こえてくる「家」、その軒に燕の巣はない。「ここは燕の来ない家」と断定することで詩を生み出すのが俳人の感性。
初燕もの干し竿を拭いておく古田秀
つばくろに起こされ風の新たなり古田秀
開幕の前夜燕は戻つたか古田秀
四度目の英検二級つばめ来るはまのはの
坂道の先は青空初つばめはまのはの
燕来る人は必ず立ち上がるはまのはの
A#の音で空切る初燕宙のふう
つばくらめ哀しい海をいくつ見た宙のふう
晴天や燕の来たる駐在所海老名吟
結婚の決め手は軒にいた燕海老名吟
幾度も泥田ついばむ燕かな樫の木
まだ硬きキャッチャーミット燕来る樫の木
燕来るブラック企業で生きていく或人
燕見上げる退学が決まった日或人
燕来てよりの晴天けふ三日いまいやすのり
新任のお巡りさんと燕来るいまいやすのり
縦横に空を広げる燕かなうさぎまんじゅう
閑谷の論語の講義つばくらめうさぎまんじゅう
燕来るそしたら水を汲んでくるうどまじゅ
僕だけ入賞できず燕が来て来て来てうどまじゅ
夜燕やいづこの神も子を抱かむきゅうもん
新宿も裏はさびしき夕燕きゅうもん
つばくらめ掠めているは陽の欠片ぐ
放課後をきゅーんと燕きゅんと胸ぐ
つばめ来ぬ積木の崩れさうな家あまぶー
つばくろや母でゐてやること大事あまぶー
燕切る空定年も悪くなし葦たかし
左目の手術二時から初燕葦たかし
燕来るヘッドハントの打診来る多々良海月
甲板を燕のよぎる帰還かな多々良海月
守備位置を下げればつばくらめ一瞬ふるてい
夕燕ポストに請求書あまたふるてい
白き毛の少し乱れてつばくらめみかりん
マンションの杭打ち始むつばくらめみかりん
青空といふ急坂を燕来る可笑式
波に濡るる十六羅漢やつばくらめ可笑式
百年の梁へ一閃つばくらめにゃん
漣を生み出し朝の燕来る にゃん
影ひとつ置き去りにして夕燕古瀬まさあき
つばくろや唄のきこえる家に棲む古瀬まさあき
佐渡という豊かな死に場つばくらめ綱長井ハツオ
つばくろは潮騒の糞潮風の尿綱長井ハツオ
蒙古斑うすくなりけり燕来るいさな歌鈴
米問屋は姉さん女房つばめ来るいさな歌鈴
通勤の空広くなり燕来るくま鶉
南国の果実のかほり燕来るくま鶉
ひこうき雲か燕が裂いた痕かさとけん
つばくらめ空に迷路はなかりけりさとけん
スキー場の閉鎖看板初燕じゃすみん
百人の村の選挙や燕来るじゃすみん
口中に愛のかたまり燕すみ
ジャグリングのピンの行跡飛燕かなすみ
燕来るフランスパンの屑尖るすりいぴい
燕来るペーパーナイフてふ律儀すりいぴい
本売った金で本買うつばくらめせり坊
燕飛ぶ天使のおしり甘いかいせり坊
乙鳥や海に沈みし街ありてとかき星
絵葉書に女王の切手燕来るとかき星
仕舞屋となつたばかりや燕来るはむ
サフアイアは波打ち際に朝燕はむ
つばくらや良きこと続く旅の靴みなと
ふるさとは既に亡びぬ朝燕みなと
鍵盤を統べる指先つばくらめみやこまる
公園に移動図書室夕つばめみやこまる
蒼穹へ光弾いてつばくらめみやこわすれ
酒蔵の杉玉青しつばくらめみやこわすれ
コンビニは選挙事務所に燕来る安部さくら
燕来る背に聞く教会の鐘の音安部さくら
駅舎には祖父の扁額燕来る伊予吟会宵嵐
燕来る日本にモスクありにけり伊予吟会宵嵐
黒板をしゅわりと消せばつばくらめ一斤染乃
燕来る電波時計に波の音一斤染乃
引越しの荷解き終わりぬ初燕宇佐美好子
つばくらや土あしうらに柔らかし宇佐美好子
飛行機を抜くヘリを抜く燕かな塩谷人秀
残像の奥もつばくろその奥も塩谷人秀
店流れて八年経った夕燕花紋
生温き日本列島つばくらめ花紋
社宅暮らし燕と我ら百世帯馨子
つばくろや観察記載る社内報馨子
取り壊す小さなホテル燕飛ぶ亀山酔田
燕来ず再開発という町よ亀山酔田
いつこうに減らぬタンメン軒燕久我恒子
つばくらめ講堂で聴く「新世界」久我恒子
空っぽの部屋に鍵かけ燕来る宮部里美
巣に躰伏せて睨める燕かな宮部里美
初燕原発のタービン静か桑島幹
初燕地軸はいつもブレが無く桑島幹
つばくろの一閃沼の虫捕らふ紅さやか
フィリピンの熱孕みたる初燕紅さやか
武者返し吹き抜けゆくやつばくらめ佐藤儒艮
二の丸はテニスコートぞ燕来る佐藤儒艮
今朝の空すでに燕の空となり彩楓(さいふう)
掌に新居の鍵や初燕彩楓(さいふう)
何にでも平成最後つばめ来る三茶
燕来る牛舎の梁を予約済み三茶
燕飛ぶ性善説の揺らぐ朝七瀬ゆきこ
燕来る正しき青を引っ提げて七瀬ゆきこ
半ドンの父を待つ駅つばめ飛ぶ若井柳児
拾円玉にぎる駄菓子屋つばめ来る若井柳児
つばめつばめ八百八橋くぐり来よ小川めぐる
石英を拾ふ河原や初燕小川めぐる
過疎のバス待てば快晴燕二羽小川弘志
つばめつばめ我が心臓も鉛なり小川弘志
平成の轍に朝日燕飛ぶ小倉あんこ
夕燕商店街の歌謡曲小倉あんこ
燕です確かなルート知ってます城内幸江
紙で手を切られるやうに燕来る城内幸江
つばくらめ帳場に古き大福帳清島久門
つばくらめ一気に日向灘へかな清島久門
つばくらや百均でモノそろえます青海也緒
慣れた手が燕の糞を流しけり青海也緒
今一瞬飛燕の影を見たような村上敏子
遮らぬ光りを斬りてつばくらめ村上敏子
燕待つ恋の便りを待つやうに大久保響子
フクシマとカタカナ表記燕来る大久保響子
水彩画めきたる朝のつばくらめ中岡秀次
水たまり朝を映してつばくらめ中岡秀次
鯨幕たたむ夕暮つばくらめ中原久遠
赤チンの沁みるくるぶし夕燕中原久遠
つばくらめ子には親しか居らぬのに冬のおこじょ
空の無制限より燕の来たる冬のおこじょ
石臼に水の満々燕来る藤井茂
いと白き燕のまりや金婚式藤井茂
学ランのたらたら無言群燕尼島里志
つばくらや一本ずつのモノレール尼島里志
低空を燕や犬のお葬式播磨陽子
弾痕のモスクや燕濡れてをり播磨陽子
防人へ届けたき詩つばくらめ白よだか
燕飛ぶ祝詞を天へ運ぶかに白よだか
幾千の汚染水槽燕の滑空白水
飯館の廃屋に番う初燕白水
妊活を終え夕空の燕かな白瀬いりこ
不採用通知をついばむ燕白瀬いりこ
つばくらや巌流島へ発つ渡船八幡風花
レプリカの人間魚雷つばめ来る八幡風花
町内に燕よる家よらぬ家板柿せっか
農協にふりこむ学費初燕板柿せっか
燕くる息子に嫁がこない家比々き
清め塩はらふ戸口や夕燕比々き
パサージュのツバメ過疎地のつばくらめ文月さな女
タンク車に映る青空つばめ来る文月さな女
針千本呑みて燕は高く疾く北野きのこ
うそ吐けば空に螺旋を繰る燕北野きのこ
燕来る廊の硝子を篤と拭き椋本望生
ジャワの波ひつぱつて来いつばくらめ椋本望生
難聴の微笑燕の声かすか夜川あみど
燕来て国会前のデモの旗夜川あみど
守備につく外野は二人朝燕野地垂木
牛の背をかすめ燕の淡き空野地垂木
ペンギンの見上げる空を初燕唯我独善
ひらがなのちゅういがきありつばめのす唯我独善
麻雀の帰りの風呂屋燕来る有瀬こうこ
燕来て代返のきく法学部有瀬こうこ
仕舞屋と知らず燕の来たりけり有本仁政
燕来て半年分の町会費有本仁政
燕来るジグザグ海を縫い縮め鈴木由紀子
燕飛ぶ道にかかえる新作パン鈴木由紀子
つばくらめ地球に国境ある不思議露砂
良き土と良き水の国つばめ来る露砂
燕来る防災頭巾新調す惑星のかけら
箱ひらく鞄の匂い燕来る惑星のかけら
この家に待つひとの居て燕来る朶美子
燕また反りて服部時計店朶美子
つばくらめ風の仲間となる心地蓼科川奈
側転をして見る世界つばくらめ蓼科川奈
東京のきれいな夕日つばくらめあつちやん
燕鳴く朝陽がみづのやうであるほろろ。
燕来る水平線の匂ひさせあまぐり
鬼瓦今年も燕と会ひにけりQさん
燕や指を無尽に回るペンあいだほ
トラックへ荷を運び終へ初燕あさ奏
左手で名前が書けたつばめ来るあらあらた
五線譜のショパンのごとく燕飛ぶいのり
ビル裏に朽ちしかんばん燕くるおひい
「癌です」とひとごとのやう燕来しおへま
燕来るフォークダンスの男役おぼろ月
燕二次関数は嫌いですおんちゃん。
天も地も自動ドアも知る燕カオス
帝都焼け沈む大和や燕来るぐずみ
槌音のなほ絶へざるや初つばめくりでん
燕来る児童二人の通学路くるめ絣
つばくらめ肩より街の風を生むクロエ
つばくらめ飛べる低さを競いけりけーい○
つばくろよ異教の友は健やかかケンG
「つばめつばめ」唱える吾子を肩車こばやしまき
玄鳥よ愛をあげやう去勢せばサイコロピエロ
燕来て指のリングの光をりさくやこのはな
ねぶて貼る記念切手やつばめくらさとう菓子
文通という時代ありつばくらめせつよ
地下足袋のままのお八つや燕来るたむらせつこ
文具屋のにおい大好き燕来るちゃうりん
帰る家見えず燕の空を裂くテツコ
つばくろやうちきてくれてええんやでてんてこ麻衣
電線を爪弾く雲や玄鳥ときこ
つばくろや移動文庫は日の含みとしなり
燕来るフーセンガムは当たりつきとしまる
つばめ来た子は学級新聞記者とみことみ
初燕ジーンズの色空の青なおこ
よく晴れて燕は高く高く飛ぶなんじゃもんじゃ
たんじょうびつばめのしたのケーキやさんにしむらおとか
何度めの世界の終わり燕来るぬらりひょん
つばめ来て古き巣なおしかかりおりねこバアバ
初めてのスマホ教室燕来るのど飴
ツバメの滑空ひこうき雲を横切ってパシフィコ
燕来て里山動きはじめ出しひかるこ
原発の無人の町に燕来るひこぞう
燕語の「ただいま」らしき初燕ひでやん
逆上がり今年燕に見て欲しいひな芙美子
燕来るひとりの朝の深呼吸ひろ夢
旋回のつばめの空は海の色ふじこ
ホームルームは二転三転つばくらめほしの有紀
天地の境をぬうて初燕ぼたんのむら
燕来て北へ戻りし漢ありまじねこ
皇居とふ大江戸は森つばくらめまどん
サーカスの旗ひるがへる燕來るみそまめ
あしもとのやさしきむくろつばくらめみやかわけい子
クレープの移動販売つばめ飛ぶみゆき
燕来るがらんどうなる母の家めめそうじ
茶屋街のぼんぼり渡る燕かなもつこ
三日後の譜読みを急ぐ燕来るゆすらご
つばくろの影に抜かれる小気味良さゆづ
廃校の解体決まる燕来るよにし陽子
朝市の空の広さやつばくらめよりこ
燕来る始発駅なる無人駅ラーラ
下町のつばめはつばめ歯切れよし亜紀女
高架下商店街の初燕哀顏騎士
ベランダを一閃かはす燕かな愛燦燦
巣へはこぶ風の動線ひく乙鳥葵新吾
颯爽と燕銀座の四丁目伊藤順女
燕には遠近法の穴がある羽沖
指輪捨て低空飛行つばくらめ鵜瀬由紀子
燕来る水もペットも買う時代塩瀬華
つばめ来る老舗の茶舗に椅子二つ塩沢桂子
古民家の若き移住者つばめ来る岡れいこ
野の草を摘みてつばめと遭遇す花岡淑子
小惑星リュウグウに水燕来る花屋
赴任地は海匂ふ町つばめ来る花南天
寂れたる機織の町燕飛ぶ華
海風に紫雲棚引く燕かな雅水
疾風を抜き去りゆくやつばくろめ海口あめちゃん
燕飛ぶ新宿上空公開空地海碧
燕来る光まとうて空分けて蛙里
せわしなく燕は出入り忌中札閑蛙
里山のすくもに染まる燕かな気球乗り
東京の硝子の林飛ぶ燕菊池風峰
一筆書の花丸や燕来る菊池洋勝
初つばめ孫がまんまと言い始む吉田びふう
玄鳥や十三回忌の夫何処教来石
コンビニの軒に燕と中学生玉響雷子
風の道のゴールテープを切る燕玉木たまね
燕来たかと母は線香を焚く月の砂漠
駄菓子屋の釣りは10円初燕月夜同舟
ハモニカを習いし頃やつばくらめ古史朗
燕飛ぶ昨日と何が違ふやら古都鈴
「店の間の障子燕に開けといて」湖雪
「二千キロ先右折です」燕来る五月野敬子
初燕指さす吾子の白き喉江川月丸
つばくらの抜き去る和尚のスクーター溝口トポル
初燕校歌一番歌ひきる香衣
燕来るベンチの上と下に犬高橋なつ
避難所の目抜き通りの燕かな高橋寅次
地学室に女子は三人濡燕高田祥聖
くろがねのストーブ冷えて燕来る砂舟
ジャズもれるレンガ造や燕来る斎乃雪
玻璃越しの目を見合わせり初燕榊昭広
つばくらめ持ち重りする蛇の目傘桜姫5
新品のノート抱く子や燕桜望子
つばくらめ蔵は天然理心流三浦ごまこ
飛燕切る演説マイクの歪む音山太狼
つばくろや旅籠町には東西山田喜則
此の街も故郷と呼びつばくらめ山内彩月
燕来る上腕二等の黒子かな山本先生
渋滞の10キロ表示夕燕市山利也
燕くる定規で引いたやうな空 次郎の飼い主
夕燕ピアノ流るる大屋敷珠桜女絢未来
燕来る見上げる翁のど白し秀道
燕来る古事記繙く文机秋水
燕翔ぶ着尺織る手の深き皺渚
初燕回帰線をくわへをり勝彦
仏具店並ぶ下町初つばめ宵猫
聞かせてよ呂宋の噂つばくらめ小磯悠人
きみが宮古島に行く日燕来る小山晃
信金の庇を借りてつばくらめ小市
もしかして今が幸せ軒つばき小池玲子
肥沃なる三浦台地やつばくらめ小嶋芦舟
ドドドドと糞してつばめ燕なり小南子
されこうべ眠る国から燕来る小柳悠子
朝日差す「ハチ公」鼻に燕来る松ちゃん
飜り影ふりおとすつばくらめ松山帖句
九州に九州の山つばくらめ上原淳子
一の字の墨の勢い燕来る上野眞理
玄鳥や微かに残る遺墨の香城ヶ崎由岐子
つばくらや切子の青の透きとほる色葉二穂
平成を俯瞰旋回燕かな森都
エ―エンと空にきざんで燕来る真繍
かんなくず反り返るごと燕かな真澄
つばくろや歩こう会に高き声神田央子
つばくらめ利根大堰の水ゆたか水夢
龍の雲立つ嶺につばめ一直線杉本時子
八回も燕来たとてあのまんま菅原千秋
切っ先の光るや我へつばくらめ菅利通
朝ぼらけ法華の太鼓に燕立つ星善之
燕来る降圧剤を飲み忘れ晴好雨独
初つばめ太平洋の風連れて清水仁
つばくらめ空の靴紐結ぶやう西川由野
朝つばめセンターライン掃き清め西尾至史
安達太良の智恵子の空に初燕青い月
ごつた返す小町通りのつばくらめ青山あじこ
海人小舟つばくろ雨に低く飛ぶ青児
翼竜の裔(すえ)なる我も飛燕かな青萄
つばくろの刃を見舞ひたき男あり石垣エリザ
父のいた窓はあの辺つばくらめ石川ぱりん
巣に入る燕切先収めたり赤橋渡
初燕赤い簪貰ひけり赤馬福助
燕来る入江に近き姉の家倉岡富士子
燕行く青空に水尾ありにけり倉木はじめ
幾百年続く祠や燕舞う惣兵衛
巣燕よ給与袋の在りし日よ多事
燕来る明日は退職者のリスト駄詩
晴れわたり逃げてゆく空燕かな大小田忍
馬小屋の産声燕旋回す大槻税悦
糠漬けの野菜色冴え初燕鷹野みどり
燕来る買ったばかりの墨を磨る知音
乙鳥や芸妓はうなじ切り立てる中山月波
牛売りて燕通わぬ巣となりぬ中山白蘭
ふくよかに河流れたり夕燕中西柚子
燕つつつと空を開き光降る昼寝
鮮やかにペーパーナイフ初燕衷子
燕かな「ディー・エヌ・アール」とカルテ打つ椎の木くるみ
五線譜に燕飛び来てスイングす梯子
初つばめ後には空のキリトリセン田川彩
つばめ来るリハビリ室の小さき窓田村ともこ
窯元の泥を燕は知り尽くす田村利平
片親の巣なる燕の深眼差し登りびと
初燕腫瘍をとつて八年目都乃あざみ
つばくらの影がつばくら追ひ抜きさう土井探花
土曜日のカレー温むるつばくらめ嶋田奈緒
君二十歳燕の空の広かりし東風弘典
燕来る家を忘れし老母かな藤原訓子
スカートの襞麗しき燕来る藤色葉菜
地下鉄の出口複雑つばめ来る藤田真純
つばくろや漫画の国へ留学し徳
初つばめ農機も夫も整備よし惇壹
議事堂前とんがらかつて夕燕奈良素数
火事痕を燕の糞の瑞々し内藤羊皐
上屋敷にも下屋敷にも燕楢山孝明
燕の口赤し幾百の死骸南風の記憶
晴天に螺旋を描き燕着く楠田草堂
突き指の包帯白き初燕入江幸子
ワセリンのにぶきひかりや燕来る猫愛すクリーム
海賊の帰還つばめの空青し梅里和代
つばくらめ風の匂いのマドロス帽白樺みかん
燕来る日帰り旅行の郷愁(サウダーデ)函
公園のSL軋む玄鳥かな飯村祐知子
エチュードは白鍵黒鍵つばくらめ彼方ひらく
外つ国の実習生や燕来る比良山
つばめつばめ親のない子は居ませんか富山の露玉
初燕白寿の耳にピアッサー福良ちどり
青空に燕川面を切る小石穂積のり子
夕燕ピエロの回すオルゴール北大路京介
燕飛ぶ迷いなき折れ線グラフ牧野敏信
燕来るくるくる磨くボンネット凡鑽
この家も昔燕の宿なりき麻場育子
青空のひかりはしずく燕鳴く抹茶金魚
つばくらめ祝いの品の届く午後蜜華
つばくろの軒を弾けて迅きかな蓑田和明
燕来る風の電話を聞きしかな夢見昼顔
今日もまた我が家に寄らぬ燕かな無頓着
江戸筆の店へふたたび燕かな明惟久里
朝燕リターンエースの庭球場明田句仁子
漂流の木造船や燕飛ぶ茂る
初燕うれしき朝の目玉焼門未知子
恋文の如き藁しべ燕来る門前町のり子
初燕あした着て行くワンピース野ばら
河川敷の球児のエールつばめ来る野ゆき
コンビニの巣板に番う初つばめ野曾良
夕暮の似合う街角燕来る野木編
川面うずまく夕燕くるくる去る野良古
閉店の貼紙白しつばくらめ油揚げ多喰身
早朝に聴くビバルディ燕来る有本典子
燕来る遺品整理のふるさとへ由づる
燕や博物館の図面引く遊飛
燕飛ぶ砂場の園児五名起立葉るみ
肖像画の青年老いて初燕梨音
ドローンにとって空は孤独つばくらめ鈴木(や)
屋根つまむ燕や吉野ヶ里遺跡鈴木上む
白き手の朱印捺しけり初つばめ鷲尾さゆり
まほろばの空は茜やつばくらめ巫女
つばくらめはらりと空を分割す楡野ふみ
幾たびも曜日問う義母燕飛ぶ櫻井弘子
街の香の少し濃くなり燕哉洒落神戸
県議選の選挙事務所や軒つばめ眞
あの燕去年生まれた子かしらと祺埜箕來
眼鏡して新しき空つばくらめ籠居子
祖母作るポテトサラダや初燕芍薬
「よく生きたもんだ」と母逝く燕来る苳
軒燕間男のごと出入る夫邯鄲
退寮の朝のあいさつ燕来るうい
雨上がりの印刷室やつばくらめ井原千恵理
繕ひの日がな一日つばくらめ大山小袖
燕来る内示の文字の細く濃く大小田忍
芽の匂ひ土の匂ひや燕来る満る
遮断機の高さに合わせ燕飛ぶAKI
曇天を切り颯爽と初燕ANGEL
もしかしてあれは燕一瞬時haru
燕来る生地離(さか)りて半世紀KISOBA・UFO
寒暖のグラフのごとくつばめ飛ぶmika-na
青空をヒューと切り裂くつばくらめmomo
つばくらめ飛行機を折る小さきゆびnid
この青空好しとツバメのゴールかなnoRiko
石段知らずツバメや首里へ青空へS.久美子
半熟の黄身はトローリ燕来るあかり
青空につばめ返しの風の声あきけん
雲梯でくるり見上げる初燕いくちゃん
鹿児島や真白ボディで飛ぶつばめいっちゃん
そろそろか軒下のぞき燕待ついろをふくむや
燕舞ふルッツアクセルトゥループいわきり
新築の窓にぶつかる燕の子うたけいこ
花壇揺れ黒い燕が翔け上がるうっしー
空高く沢すじ一気燕交ふうめがさそう@旧梅笠
初燕急ごしらえのカーシートエゴさん
空低く燕も低く飛びにけりオカメインコ
ひゅんひゅんと燕横切る裏通りおくにち木実
来し方の重荷を捨てて燕飛ぶおざきさちよ
巣につばめ整備士避けしボール紙おばたよう
くちばしの黄色い燕家を出るお玉おばさん
燕帰るあるじ亡き家の軒下へお品
つばくろや返事のこないエアメールかつたろー。
巣汚さぬ燕の知恵や親心かっちゃん
泥落つや渡り廊下へつばくらめかぬまっこ
燕来て古い軒先輝けりかもめ
昇天を導くように燕二羽かわいなおき
軒燕見上げる祖父の笑顔かなかわせみ
シャッターの隙間から出るつばくらめきなこもち
嵐より話題さらうは燕の巣キョロちゃん
川風に乗ってつばくろスカイツリーへケンジー
ババシャツをいよいよ脱ぐか燕飛ぶさかたちえこ
街を行く人波に乗るつばめかなさきまき
男前シュッとキリリと初燕さだとみゆみこ
燕鳴き新聞紙敷き家人笑みしかめっ面
燕くる予感に酔って背伸びするシップ
夫婦ふたりに戻りし庭の燕の巣しょじょじ
つばくろや毒母死んだとLINEありすーぱーまみこ
燕行き目で追いかけつ上着とるすずくら
被災地の一本杉へ燕来るスローライフ
守り人燕に託し幸招くそれいゆ
浚われて残りし壁に燕来るたじま
一直線燕や京都へ里帰りタシャキ
人家縫う高速制御つばくらめたすく
ビル群のすきま斬り裂き新燕たむこん
風そよぎ燕と我がよーいどん!チッチ。
マンションに紅の差し色つばめの巣ちょぴまる
目が合いし燕や明日の雨憂うつちのこ
ドアチャイム切り燕待つ老夫婦つなちゃん
燕来る橋のたもとの一軒家てまり
泥と藁探す燕や白き街なごやいろり
静止画に落書きしたる燕かななめろう
紺瑠璃の背は暖かきツバメ来るねがみともみ
初つばめ防汚加工の高架下ねぎみそ
燕来る戸の少し開く平和かなの菊
シギリヤロック燕と目合う千段目パッキンマン
急降下吸い込まれ行く燕の巣はなあかり
あの燕の餌に来世訪るかハムサンド
どこへ行く寝返り打って燕たちひっそり静か
海燕海岸通を踊り飛ぶひめりんご
燕来るそが村のニュースの寂しさよひゃんひゃんと
旅空で何を見てきた燕たちふう
図鑑しかつばめを知らぬ吾子五十歳ふじかよ
つばめ来る田舎の道をまっすぐにふじたけ
旧巣にひるがえり入る燕ふみ
寝て食べて燕仰ぎて通勤すふみゑ
燕来るそしてどこかへ冒険すヘッドホン
燕舞う青空切りて舞姫やベリーベリー
駅舎につばめ人々は急ぎ足ほたる純子
神宮の森の喧騒燕来るポンタ
海原を飛ぶや燕の一直線ぽん太
「お待たせ!」電線定位置燕来るマザーダック
おおぞらに矢印旋回燕かなみさき
燕叫ぶ烏退治に夫箒ミセウ愛
スリッパをピンクに変えて燕来るみはね
父逝いて燕我が家を守りけりみわ吉
贈らるるシルバーカーや初つばめももたもも
おとしもの見上げる空に燕の巣やったん
鼻先を貫くつばめ明日は雨ゆうじん
平穏の報せ今年も燕来るゆきの字
燕つばめ転出届提出すゆこ
出日和か滑空燕に聞いてみるるりまつり
ほらツバメ眼の端横切るブーメランわたなべぃびぃ
船出港子はいずこかと舞うツバメ亜紗舞那
母逝きて忙しき朝に燕来る亜美子
大きめの制服の子ら初燕安曇野多恵
初燕いつもの町をせわしげに伊藤節子
夕燕鉄塔よぎる白き腹遺跡納期
燕来る幸せも来る予感して井上早苗
「頭上注意」の張り紙ありて燕の巣一貴
十二才合格笑顔つばくらめ一枝
つばめ知るシャッター街の人のぬくもり一秀
教室の隅に歓声ツバメ来る一重
小さき子の生まれし我が家に燕来る一杯
餌めがけ草よけ岩よけ燕ゆく稲垣由貴
人の威はどこ吹く風の軒つばめ右茶
低く飛ぶ燕占う明日の空卯さきをん
つばくろの白い糞(まり)避け電車待つ影山治子
飛びもどる黄帽の頭上初つばめ永花
つばくらめこの先露路を知りつくす円
軒端の巣燕かえりきて子ら見あぐ延杜
軒下で会えて嬉しき親燕縁恵
燕行き一人夜更けのザッピング遠藤百合
ひと筋に切り裂く水面や川燕横井隆和
燕帰らぬ機影も空に飛ぶ横山薫子
主人待つ被災地の軒に燕来る加裕子
塗り替えし壁に一筋燕の巣河合久子
回覧を届け見上ぐる燕かな花咲明日香
燕くる空の青さをともなひて花節湖
つばくらめ斜めに飛んで人恋し花伝
君は去り今年も燕が糞落とす笠原理香
疑ふといふこと知らぬ燕かな葛谷猫日和
活気づく軒の定宿つばめ来る蒲公英
青空に黒い一閃つばくらめ甘平
ようこそと今年も言へる初燕閑話休題
燕すまぬジェット噴射だ軒そうじ岸本元世
つばくらの快速飛行青い空紀泰
山門をすり抜け風となる燕騎行
出入り口開けて今年の燕待つ亀山逸子
燕待つ昔登りし燕岳菊原八重
雨あがり西の空より初つばめ吉成しょう子
帰国待つ羽生結弦の燕の巣久川典子
青空にト音記号を描く燕宮坂変哲
巣立ちの日軒に虫持ち待つ燕金林敏幸
子守唄軒の燕にQueenを銀長だぬき
サファイアも2こでは足りぬつばくらめ駒子
燕来る一日遅れて筋肉痛空遊雲
津波去り八度目の海燕来る空龍
木目からたじろぐ燕睨む龍栗子
行き戻り燕の織る天の機薫子(におこ)
日暮れ前空(くう)切るように燕とぶ蛍子
燕の凱旋は波状飛行なり見屋桜花
母病んで天を仰げば燕飛ぶ原善枝
翻る燕の胸の白さ哉原びいと
痛みない常世へ運ぶ燕かな原口祐子
競輪場ツバメ脅かし打鐘(ジャン)が鳴り原田(はらでん)
ビル谷間双曲線に飛ぶ燕原田民久
ふんひとつ愛車に落とす燕かな源氏物語
解体の老舗旅館につばめ来る玄次郎
燕が糸紡ぐ窓の外玄武
力強く翔ぶ鋭角の燕かな戸根重幸
巣繕ひ落ちたる糞や初燕戸根由紀
城下をで村の燕になりしかな光子
つばくらめ三羽飛び行く雲の下光本弥観
空見上げいつもの燕迎えたる弘
列島へ来訪神の燕かな江原茂実
晴れた朝老いの住みかにつばくらめ香子かおるこ
つばくらめ路傍の無人販売所香箱
軒燕ホットケーキはふつふつと香羊
行列を横目に空を行く燕高橋光加
ハートの弧 描く燕は恋してる合馬博子
初燕まず挨拶の筆記体克巳@いつき組
和菓子屋の旗藤色や燕来る今井淑子
ドンジャ干し燕待ち待ち薪を割り今井野絵
ストーンのごと空滑る燕かな今井葉月
コロッケの匂ひに包まれつばくらめ今野夏珠子
建て替への決まりし校舎つばくらめ根本葉音
ひとつ空つばめとブルーインパルス佐藤千枝
胸反らせ牧を見渡す燕かな佐藤比古太
青空のガラス切るごと燕飛ぶ佐藤明美
太陽光パネルの丘や燕来る坂まきか
鋭角に軌跡の燕雨上がり 坂本千代子
がれきより燕と生りて君帰る坂本美智代
宿つくり燕が来ると楽し父桜月夜
いらっしゃい災害乗り越え燕来る雑賀愛美
低空を燕五羽ランドセル雑賀進
空を切る親ツバメまた空を切る三浦真奈美
青春の平成終わり初つばめ三河五郎
燕来る父母兄の居りし家山育ち
晴れの日やツバメの空のリボンかな山沖阿月子
やっと来た札所に燕先回り山口トシ子
空よぎる翼のかげやつばくらめ山口要人
畑より空を二つにつばくらめ山山こすみ
光風に低空飛行のつばめ来る山川恵美子
つばめ来てにぎわいさみし過疎の村山川芳明
頭上掠め消えゆく影は燕なり山田啓子
つばくろの低空飛行明日は雨山本康子
初燕漁師のごとく空を縫う史
燕来る変わらぬ日々を待ちかねて志貴子
燕来る嘴に土玄関灯紫雲英
燕恋う納屋の梁板清掃す紫小寿々
燕の子吾もコーラスを練習す児玉香織
つばくらめカーブ描いて空を切る慈悦
夫逝きて燕待たるるこの二年慈温
商店街シャッター多し燕減り鹿嶌純子
避難せし騎西に八度燕舞う篠雪
故郷へ続く畦道燕飛ぶ修芳
日和よし昭和こいしや初燕秋月なおと
亡き夫よ燕になって飛んできて秋代
燕来る二間間口の地鎮祭充夜
ツバクロの巣立ちに我が子を写し見る重仁
雲の端をとらえて転ずつばくらめ春耕
エサ運ぶ小洞ツバメ東京駅春都
低滑空雨は燕の背中追う潤目の鰯
お帰りと燕に声かけ出勤す初野文子
転居する娘一家や燕来る小鞠
仮免許追いこす燕自専道小熊猫
陽に光る雨を切ってぞつばくらめ小川めぐる(妹)
つばくろのつがい∞を描く松永裕歩
ふるさとへ向かう列車に燕来る松虫姫の村人
黒き雲つばめ最速横切りぬ松田和之
老いた父ツバメの声に母を呼ぶ松島美絵
葦原に日の暮れて寝る燕かな松尾義弘
燕の嘴カチッカチッと翅に当たる焼田美智世
雨の香や水面に映る燕目祥葉
病から燕に乗って逃避行上田英津子
鈍色の空に斬り込むつばくらめ上坊幹子
シャッター街記憶の中のつばくらめ城山のぱく
独り立ちの深きおじぎや初燕植田かず子
廃校と決まった学び舎つばめ来る慎之介
病床の窓辺で待たん友燕森井はな
廃駅の昼忙がしき燕の巣森弘行
初燕赤ばかりの油性ペン森脇誠
園児らの揃うピアニカ燕来る真宮マミ
懐妊を告げられし日に燕来る真壁正江
四兄弟揃いカラオケ燕来る真優航千の母
あぜ道に燕が波を描き飛ぶ真理庵
低空飛行翻るわざつばくらめ神谷米子
退院の朝の光と燕二羽尋征
曇天を斜めに切り裂き燕落つ瑞峰子
燕の巣見回りに行くシャッター街雛まつり
低空を雨にならんとつばくらめ杉浦夏甫
湧き水の泥と混じりて燕来る世良日守
つばめ撮る祖母の背伸びを撮影す瀬尾ありさ
潦乾き難くくて燕斜かいに正岡恵似子
奈良町を曲がりくねって初燕清水容子
つつがなく終わる平成初つばめ清水祥月
軒下の板新調し燕待つ聖月
燕来る会計監査終えし日に西原さらさ
焙煎の香りに包まれ飛ぶ燕西村圭
燕の尾切れ味上等ナイフが二本西村優美子
つばめ行く応援のごと小波よ西村佳織
悠々と角帽見下ろし燕行く雪割豆
再発無し病院の空燕来る雪兎
軒下の燕一家は賑やかに千川小舟
磨かれた靴の上にも燕来る川越雷鳴
朝つばめ呼び合う声はかん高し川村昌子
閉店の知らせの真上燕の子川端孝子
新宿に落ちた燕のDNA曽我真理子
「今年も燕来るかな?」「きっと来るよ」双子の父
つきまとう過去闇田舎母屋の燕倉岡唯
独居に燕糞さへも愛おしく倉澤慶子
音立てず曇天を裂く燕かな早山
河原風を突っ切る燕目眩まし早川博子
燕日記手に校下をめぐる子ら痩女
行く雲や燕飛び交う高架下走流
妻去りし家に未完の燕の巣増田賢一郎
納骨の読経かすめて燕返し尊雅心
昔日の土間ある家の燕かな村松登音
燕来る軒飛び廻り巣作りす多田ふみ
巣を作り人の見守る知る燕大本千恵子
外灯をともさぬ日課初燕大和田美信
つばくろや大あくびかく昼下がり卓女
初つばめ無沙汰の友に便りする谷口あきこ
足元を燕がよぎる雨近し谷川秋子
足病むやつばめのごとく飛べたらな知足
信号の並ぶ直線つばくらめ智美
真っすぐに孫よ進めとつばくらめ池愛子
風に乗り青空切って燕来る池上敬子
燕見て燕返しの夢描く池田功
脱サラの父も燕も八年目竹口ゆうこ
燕来るひとり住まいと縁を切り竹内うめ
燕来る平和を祈る羽広げ中山清充
初燕弾み出したる立ち話中村純代
目覚ましは古家ふるえる子燕か中谷典敬
あいさつを終えて嫁ぐ日初燕中島知恵子
今年こそ雛落とすまじつばくらめ中島圭子
燕来て土間に広げる新聞紙中嶋純子
帰還せる燕こぞの巣繕えり長谷川淑子
ツバメ飛ぶ国境無き身の自由さよ長谷島弘安
日にかざす紅きマニキュア初つばめ直木葉子
里山の空は群青初燕辻が花
PM2,5多き空裂く初燕鶴の子
空眺め雌雄飛び交う燕かな鶴仙
餅投げのもち高らかに燕かな天野規之
初燕歩道の二人のけぞらせ田村伊都
被災地の子等の言葉や燕来る田中ようちゃん
学舎を子らの立つあと燕来る田中玄華
帰りなん旅のつばくろみちのくへ田良穂
東京は四角き空か路地燕渡り鳥
こびりつき燕の巣後廃材に渡辺音葉
それぞれの復興の道燕来る渡辺陽子
遅刻しちゃう!遅刻しちゃうぞ!つばくらめ渡邉一輝
燕来るエアーメールの届く午後渡邉竹庵
つばめ来る人事異動の発令日登久光
つばめ飛ぶ道しるべ無き三千粁都忘れ
燕の巣どろ塗れの嘴愛しけり土屋雅修
つばめ来たよ目ヤニ拭きつつ大あくび嶋村紀子
初燕筏流しをからかひぬ嶋良二
燕にもヒミツの一つ二つ在り桃葉琴乃
独り居の門に燕の帰り来し藤井眞おん
アレグロで奏でる風や燕飛ぶ藤千鶴
手話の燕おやゆびひとさしゆびこゆび藤田康子
改札の上賑やかに燕来る徳庵
自転車のヒジャブの少女つばくらめ奈良香里
黄昏の逢瀬の後の初燕内本惠美子
ブラタモリ五秒の主役つばくらめ二鬼酒
鬼ごっこ駆けて転んで燕かな日記
雨近し虫追うつばめ農夫婦葱無
耳もひげも仰ぎて猫に燕来る猫星
今年また軒を貸します初燕埜水
ハンバーガーほおばる二人つばめ来る波の音
雨上がり雲間の日差しがつばめ呼ぶ馬笑
燕が土をはこびて巣繕い馬場東風
燕来てのど自慢の鐘ふたつ梅納豆
燕来る家になりたや吾は一人白雨
朱をみせてラーメン橋に燕来る白鷺
つばくろの急降下する雨上がり白米
初燕ひと恋しくて待ちぼうけ畑詩音
キャンパスにあふれる笑顔つばつくめ八重葉
燕の巣ストロー混じる都会かな八木実
子育てはツバメのように軽やかに鳩礼
筆ふるふ如くに燕空かける半香
音楽葬旋回したる燕かな板垣美樹
雨上がり燕飛び交う鐘の音妃
初燕意識もどりぬ友昨夜琵琶京子
茶室より青空望む燕かな美山
糞投中の看板に笑む燕かな美山
奈良町につばくろ帰る軒に二羽美山つぐみ
新時代変わらぬ空のつばくらめ美帆
燕来る「様」から「さん」に変わった日姫山りんご
村燕匂ひあふるる八幡掘百合乃
燕待つ僧の頭上に去年の巣浜けい
つばくらめ新築祝い軒の下敷島せっつ
一筋の風のごときやつばくらめ風花
燕来る十八グラムの身を尽くし風泉
まっとうに生きよと鳴きて燕来る風紋
近代化燕京の人にツバメこず風来坊
燕来て暦めくれば青き空福ネコ
初燕被災地に舞う昼下がり福泉
つばめつばめ神保町のキーマカレー腹胃壮(伊勢史郎)
空間を真一文字に燕かな文女
つばめくる幸せの家合掌す兵頭チズ
晴天を切り裂く影や燕かな平凡
墓じまい清めし軒に初つばめ片岡佐知子
南洋の風の匂ひぞ燕来る本間美知子
軒下に燕の恩義殻ひとつ麻生和風
墓参りせわし燕におい越され枕独活
橋越へて急上昇の燕かな抹香
軒下や燕飛び交う雛五匹湊かずゆき
レーサーのごとき燕や無碍の空明良稽古
燕くる燕尾服がなお嬉し木香薔薇
喜びが一つ増えたりつばめくる木村波平
燕くる家には住めず共白髪野胡のこ
鋭角に三度曲がって燕去る野紺菊
碧き星にて奔放な燕かな野中泰風
軒下の勝手知ったる燕かな矢野茂樹
飛行機雲なぞって飛ぶは燕かな 有馬裕子
碧面に ∞描く飛燕かな由美子
餌運ぶ燕また来てまた去って葉月けゐ
新築の住人を待つ燕かな里惠子
初燕作句生活に馴れもして鈴木政子
KEEPOUTテープ越え燕来る廃校舎鈴木淑葉
ハーレーを抜いて燕は湾岸線鈴木麗門
越え来たるつばめよ許せ軒は閉ず麗し
けだるさを一閃切り裂き燕飛ぶ連雀
ツバメ来の便り白寿の父の筆侘介
燕来し猫一匹の無人駅暝想華
つばくろやビルの足場をくぐり来よ淺紫
軒先の勝手しりたる燕かな淺野紫桜
人け無きアーケード燕突き抜ける澪つくし
つばくろや波恋治男から一筆箋としなり
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳句の正しい表記とは?
- 傘閉じて 燕の塒 仰ぎ見るやままやー
- 昼下がり 燕の巣から 覗く顔山本なつき
- 軒近く 様子うかがふ 初燕星野茜
- 小次郎も 及ばぬ空を 切る燕西條晶夫
- 今昔 燕と人と 同じ家千鶴姫
- 病室で 飛燕を妬む 手術前鈴木珠莉
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
●季重なり
- 青空に燕飛び交う天高しまさ
- 春が来た鯉には勝てぬ燕なり加島
- 花冷えにまっすぐ飛ぶか新つばめ河畔亭
- つばくらめ亀虫二匹飛びにけり妙子
- 五月晴れ軒下に今年も燕くる鷲尾愛子
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。
●兼題が入っていない
- 口開けて待つ児も今は成人式玉田眞三
○本サイトでは、毎回「兼題(予め出題させるお題)」が決まっています。次回の兼題は「こどもの日」(4月末日〆切)。次のご投句お待ちしています。
●季語違い
- 燕の子青空描くト音記号愛宕平九郎
- ツバメの子老人ホームに誕生す河野すみれ
- 初飛行庭を賑わすつばめっ子吉永憲子
- 声高く並ぶ黄色や燕の子恵翠
- 見上げれば菱口開くつばめの子妻有
- 子つばめや1羽は我に似てるかも春風
- ツバメの子空とぶれんしゅうしているよ西村咲音
- 雛つばめウイーンの少年合唱団西條恭子
- 地で鳴く子ツバメ如何にすれば良いか石ころ
- 口ばしの競う子燕餌を待つ桃雨
- 軒にまた連なる命燕の子内井薫
- 新聞店の軒賑わすつばめの子ら夢おとめ
- 巣立ちの日子らを見守る親燕ローズ
- 親燕戻るやヒナの大合唱春野いちご
- 親つばめ雨を背負いてひるがえる成田むぎ
- 崖の宿眼下飛び交ふ岩燕酔進
○今回の兼題「燕」は、春の季語で、動物のジャンルに分類されます。「燕の巣」も春の季語。本来は別の季語と考えるべきでしょうが、季寄せなどでは「燕」の傍題にしているものもあるようですから、今回はぎりぎりOKにしました。が、「燕の子」は夏の季語なの、ちょっと違うかなと。その関係で「親燕」はアウトよりのグレーかなとの悩ましい判断。「岩燕」は、夏の季語です。
毎回、歳時記や季寄せをひらいて兼題の意味を確認しましょう。
3月の兼題『燕』は前回を大きく上回り、2,743句いただきました。毎月投句いただき、本当にありがとうございます。
4月の兼題は夏の季語『こどもの日』です。入選を目指してぜひチャレンジしてください(編集部より)