夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
1月の審査結果発表
兼題「マスク」
防寒や、風邪予防のためにかけるもの。
近年は花粉症予防などで一年中みられるが、やはり冬に多くみかける。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
避難所のマスクの箱のまた空つぽ
板柿せっか
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夏井いつき先生より
ここ数年日本を襲っている災害を思うと、この「マスクの箱」がありありと見えてきます。「避難所」は体育館でしょうか。段ボールで作られた壁が多少のプライバシーを確保してくれているのかもしれませんし、敷かれた毛布の面積が自分の居場所となっているような環境かもしれません。風邪が流行り始める季節。咳をしている人もポツポツと増えているのでしょう。「また」の一語は、すぐに無くなっていく「マスク」を表すと同時に、それを補充する側の人物をも想像させます。「空つぽ」の一語は「箱」の空っぽであると同時に、避難所にいる人たちの心のありようにも通じます。「マスク」が無いのに、その存在をありありと見せる。これも俳句の力です。
マスクする耳干からびた牡蠣に似て
すりいぴい
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「耳」の形状の不思議を描く句は沢山ありますが、「干からびた牡蠣」という比喩が実にリアルです。可笑しみがありつつ、シリアスにも読める。それもまた季語「マスク」の本意というものでしょう。
マスクする鼻梁うるはし大女優
明田句仁子
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「鼻」を描く句も勿論ありますが、「鼻」ではなく「鼻梁」、しかも「うるはし」という形容がそのまま「大女優」という人物をありありと描写。冬の乾燥から喉を守るのも女優の大切な心得ですね。
劣情のごとくマスクに籠る熱
溝口トポル
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「マスク」の中の己の熱い息を「劣情のごとく」と比喩。生々しい表現ですが、強いリアリティを感じます。後半の言葉の選択が確かなので、比喩を浮き上がらせていない。そこが手練れの技です。
マスク外す大粒の空流れ込む
としなり
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「マスク」を外した瞬間の実感として「大粒の空流れ込む」という表現が新鮮。上五の切れからの「流れ込む」という複合動詞にも勢いがあります。「外す」こともまた、季語を実感する切り口ですね。
シュプレヒコール貫く百のマスクかな
露砂
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冬のデモ隊でしょうか。これぞ防寒としての「マスク」ではありますが、「百」という数詞が「シュプレヒコール」の現場を映像化。動詞「貫く」の選択も確か。「かな」の詠嘆も、しなやかな力です。
検算を辿るマスクの息熱し古田秀
マスクしてひとり集まってもひとり古田秀
酒詰めた身体の蓋としてマスク古田秀
捨てかねてバッグにマスク二三枚朶美子
密談めくマスクAとBの会話朶美子
マスクして熱があがつてきたようだ朶美子
マスクして世界のなんと気忙しき七瀬ゆきこ
マスクしてさも決断の眉毛かな七瀬ゆきこ
ふくみみをひつ提げてゐるマスク清島久門
マスクして道頓堀を一里ほど清島久門
京葉線は遠い、と言うなマスクする石山俊道
使い捨てのつもりのマスク今朝までは石山俊道
マスクして湖なる瞳せまり来り多事
ポケットの砂白骨化せしマスク多事
試験官マスクの中へ喋りをり板柿せっか
受付のマスクの人のアイライン板柿せっか
マスクして青空小さくなりにけり明田句仁子
君の欠片のごとポケットにマスク明田句仁子
母の家の臭い残れるマスクかな露砂
宿直のマスクの紐は伸びきって露砂
マスク外せば猫かぶらねばならぬいさな歌鈴
黒マスク取りて律儀な鼻ピアスいさな歌鈴
初めての夜勤に向かうマスクかなうさぎまんじゅう
マスクして芯のずれたる臨書かなうさぎまんじゅう
マスク目立つ待合我を当ててみよおざきさちよ
マスクするも濃く紅をさす逢う夜はおざきさちよ
マスクとって君の声は美しいサイコロピエロ
マスクの色ながい青年期だつたサイコロピエロ
マスクだが英語を話せそうな眼ださとけん
マスク取りをとこの口で食ふ昼餉さとけん
マスクして眉間に集まる悲しみじゃすみん
マスクして耳に飼うてるかたつむりじゃすみん
初対面のマスク仲良くなれないすみ
とりあへずマスクとりあへず熟睡すみ
耳みんなマスクのために生えたまえせり坊
星空の底にマスクの蠢いてせり坊
マスクとるいつも見つからない言葉ちゃうりん
九人目のマスクあらわる会議室ちゃうりん
マスクする鴉に面の割れぬやうときこ
マスク吐く吸う吐くメトロ出入口ときこ
マスクしてマークシートのやけっぱち にゃん
マスクして眉美しき調律師 にゃん
中吊りを眺め無言のマスクかなぬらりひょん
大空やマスクを外し聞く匂ひぬらりひょん
マスクして目玉に映るものは何はまのはの
マスク三枚重ねて君は街に出るはまのはの
相づちのマスクの会話ずれてをりふじこ
アイマスクデスマスクマスクガスマスクふじこ
暴論は帰路のマスクへ吐き出さんふるてい
幾たびも星の名をきくマスクの子ふるてい
マスクより零るるたましひの息根ほろろ。
般若心経唱ふマスクをして唱ふほろろ。
なるくんのブルーのマスクトーマスだむらさき(6さい)
りすさんの森のにおいのするマスクむらさき(6さい)
笑ってねマスクの中も笑ってねゆすらご
新宿からマスクを取らず泣いていたゆすらご
コピー機の調子悪いしマスクだし或人
マスク外す鉛筆転がしてマーク或人
マスクしてやっぱり猫は我が好き一斤染乃
頑なにマスク酒飲むとき以外一斤染乃
門番のマスクしているほうが父塩谷人秀
推理小説マスクの蛇腹解き放つ塩谷人秀
マスクの佳人柳眉はシェヘラザード加裕子
数多の事マスクひとつで蓋をせむ加裕子
マスク外し剥き身のヒトとなりにけり可笑式
捨てられしマスクの下のがらんだう可笑式
マスクしても道をかえても会うんだよ花紋
どうみてもサイズ小さいマスクかな花紋
青空や朝のマスクのガーゼの香海老名吟
ボクサーのマスク獣のごとく白海老名吟
悪態はマスクの中で吐きにけり紀泰
突堤にマスクの男波高し紀泰
マスクして胎へ戻るや夕惑ひ久我恒子
マスクはづせよ愚痴がはみ出してゐる久我恒子
マスクする目元に淡き母の影玉木たまね
マスクの男子いがいと睫毛ながいんだ玉木たまね
マスクしていきいき語る顎の線薫子(におこ)
マスクして不穏の気配漲らす薫子(におこ)
かほかたちのまゝ転がつてゆくマスク宮部里美
マスクして遠き瓦礫を見てゐたり宮部里美
マスクして肺腑へと星座の匂ひ古瀬まさあき
北陸は遠しと思ふマスクかな古瀬まさあき
マスクして小さき耳たぶあらわなり紅さやか
再会やマスクの中の息熱し紅さやか
マスクを出て鼻は欠伸の形かな綱長井ハツオ
枕辺に酒臭うたるマスクなり綱長井ハツオ
マスクしてモーゼのごとく進む我佐藤千枝
ため息で湿ったマスク捨てる夜佐藤千枝
マスクして死に際ばかり語る友砂舟
マスクして唾吐くが如き我が二十歳砂舟
マスクして世事ことごとく無関心彩楓(さいふう)
マスクしていてもワタシとなぜわかる彩楓
マスクしてもう闇夜など怖くない山内彩月
マスクの中の唄を大きく取りだせり山内彩月
右のゴムだけ伸びるマスクかな城内幸江
少年の目は影をみる黒マスク城内幸江
マスク裏喋りだしそな紅の跡森都
幕引きの校歌マスクを外す朝森都
マスクして余命を隠す雨後の道森田まなみ
数Ⅲのノートに挟むマスクかな森田まなみ
不織布の胡散臭さや白マスク真野悠
プリーツに倦怠滲むマスクかな真野悠
大詰めの商談マスク外しけり晴好雨独
いい加減話しておもむろにマスク晴好雨独
日曜のケンカしたがる子にマスク青海也緒
使い捨てマスクで顔を消しました青海也緒
下顎へマスクずらして糶の声多々良海月
五歳にして猪口才なこと言ふマスク多々良海月
母校初戦マスクの下の校歌かな大小田忍
紙風船のごと溜息のマスク大小田忍
ふいに会い帽子のごとくマスク取る大槻税悦
ゆらゆらと陽の匂い吸うマスクかな大槻税悦
マスクする傷つけられることおそれ中岡秀次
マスクする人も睫毛にひかりあり中岡秀次
アインシュタインマスクの中の荒れた舌宙のふう
しわくちゃな肺胞萎むマスクする宙のふう
世の中を数ミリ隔つマスクかな衷子
実は今マスクの中が事件です衷子
理由ないけどとりあえずマスクしよ椎の木くるみ
マスクした以外なんにもしていない椎の木くるみ
マスクして昨日の首をすげ替える冬のおこじょ
それは昨日からのマスクではないか冬のおこじょ
マスクせし吾をやや子の誤らず内藤羊皐
飼育場のマスクを染みる死臭かな内藤羊皐
マスク外して琴線のゆるみたる猫愛すクリーム
カラコンやめやうかマスクはづさうか猫愛すクリーム
マスクして君我だけの君であれ播磨陽子
山羊髭を剃るかマスク諦めるか播磨陽子
愛憎やマスクに閉じる呪詛の言白よだか
青空に落とせぬものか吾のマスク白よだか
本当をマスクの右に溜めてをり白樺みかん
不機嫌なマスクを剥がしハイヒール白樺みかん
マスクするくちびるあはき裸かな彼方ひらく
マスクしてマスクの人よりマスク買ふ彼方ひらく
霊長類その天辺にゐてマスク比々き
妻問ひ婚語るあぎとにマスクして比々き
カラフルなマスク非正規のままです富山の露玉
制服を返す日マスク外さぬ日富山の露玉
マスクして霊安室の母と我文月さな女
シャッター街や踏まれたマスクぽつん文月さな女
マスクの有効性を十文字で言え豊田すばる
マスクして烈火の息を肺へ肺へ豊田すばる
式終わり放るマスクや青き空牧野敏信
マスク膨らむ君も笑っているんだね牧野敏信
マスクしたまま納骨を打ち合わせ本上聖子
マスク取る野良猫を呼び止めるため本上聖子
慇懃にクレーム言へりマスクして凡鑽
丁重に扱ふマスク夜には棄つ凡鑽
マスク買ふよべの餃子に悪いから椋本望生
助手席のマスクピンクの声をさせ椋本望生
終日のマスク外して痩せる顔門前町のり子
人形のような睫毛のマスク女子門前町のり子
マスク取り私服の看護師の夜明け野ばら
捨てられしマスクハンモックのかたち野ばら
客引きの黒きマスクや歌舞伎町油揚げ多喰身
ずる休み明けてマスクのアッカンベー油揚げ多喰身
人込みやマスクに疼く別人格唯我独善
面頬のごときマスクの女の目唯我独善
マスクして天邪鬼とも勇者とも有瀬こうこ
くまモンのマスクに道を訪ねけり有瀬こうこ
凝固せりマスクの上のけふの澱梨音
このひとの愛の面積マスクほど梨音
マスクして誰かれ遠くしてゐたリ鈴木政子
マスクして己いつわるには非ず鈴木政子
ここからはオフレコだよとマスクして鈴木(や)
守秘義務のある御仕事やマスクして鈴木(や)
マスクして四肢の麻痺せし犬抱ふ鈴木淑葉
マスクの子放課後は日本語クラス鈴木淑葉
胸の穴出口をマスクで塞ぎけり鈴木由紀子
モールのベンチ 重音とマスクの痒み鈴木由紀子
面会のマスク廊下の固き音洒落神戸
本名で呼び出されたるマスクかな洒落神戸
恋人つなぎ解けたあとのマスク祺埜箕來
いつもなら座らない席マスク映る祺埜箕來
マスク越し会話いつしか睦言めく籠居子
不織布の折り目正しきマスクかな籠居子
マスクして転入生は標準語すりいぴい
しけもくの包みくゆらす顎マスクとしなり
どっちみち解らぬ英語マスク越し溝口トポル
マスクとり三億円の利子思ふAKI
マスクして言葉湿りておりにけりあー無精
嘲笑中傷マスクを取つてから喋れあいだほ
病状を告ぐべくマスクとりけらしあつちやん
マスクした二人だけの集団登校あまぐり
福祉課の相談員の大マスクあらあらた
マスクして小鳥になつて空をとぶいおりん5才
通勤や行き交うマスク マスク マスクいのり
夕暮れの夫のマスクに挨拶すいまいやすのり
あの子にはマスクも笑っていてほしいうどまじゅ
帰宅して棄てるマスクや密かごとおくにち木実
ざわざわす心にマスクしたき今おんちゃん。
マスク裏笑み書き試験送り出すお玉おばさん
読み聞かせマスクして出す亀の声かつたろー。
自転車の中国人のマスクかなかぬまっこ
言い訳を隔てマスクのうちとそとかわいなおき
マスクして別の仮面を付けにけりきなこもち
マスクして説教中の飴甘しぐ
イスラムに白きマスクを売る商人ぐずみ
小児科のあんぱんまんの大マスクくっちゃん
路地より湧きてホーム集結マスク人くま鶉
非正規の重さマスクが外せないくりでん
マスクかけ少し本音を言ってみるくるめ絣
マスクしてテンキーの音のみの部屋けーい○
釧路発フェリーマスクの女ひとりケンG
大丈夫マスクの下のひとりごとさだとみゆみこ
殴られてマスクで隠す痣あをしさとう菓子
マスクして不機嫌隠し通そうぞしかもり
黒マスクさえぎるものは何だろうじゅんぼ
マスクする医師冷たき白い壁しろくま
スクランブル交差点をマスクの群れすず
眉静かくぐもる声のマスクの瞳たむらせつこ
悪事少し謀るマスク仮面めいて たむらともこ
マスクしてずっとくもっためがねかなちま(4さい)
喜怒哀楽消えてマスクの白きかなつっちゃん
職質の警官マスク取らぬままテツコ
マスクしてかえつて君と分かりけりてまり
マスク越しにバカヤロウなんて聞こえないかとうひょこ
マスクを捨てる真っ白なまま捨てるとかき星
マスクして透明人間となりぬとしまる
伯母の訃報マスク探して出勤すとみことみ
声援のエールくぐもるマスクかななおこ
被爆駅舎に今槌振るうマスクなんじゃもんじゃ
マスクして古い家屋の過去を吸うねぎみそ
マスク吐くケーブルカーのどっと吐くのど飴
会話する為のマスクはこれかしらはずきめいこ
マスクしてことさら夫に似る子かなはちべえ
結界を解くごとマスク外す夜はむ
退屈を隠してくれるマスクなりハルノ花柊
マスクして少しこの世を遠ざけるひかるこ
プライバシー保護のため音声を変えております黒マスクひでやん
吐き出した語彙で目づまりするマスクひな芙美子
使い捨てマスク君にとっての僕ひろ夢
やはらかに封ずる恋やマスクしてふみゑ
頑ななマスクはずして歌おうよほしの有紀
病欠の連絡受けるマスクかなぼたんのむら
風に転がるマスクの薄く紅刷いてポンタ
黙秘権無効マスクをしたからってまどん
マスクしてキミは何から逃げているみかりん
さよならをマスクした儘言ふなんてみなと
マスクは真白千円札は真直ぐやまもとたくみ
マスクつけさせる曇ったバスが来るゆこ
ぺこぺことマスクの動く 生きて居るよにし陽子
先生のマスク毎朝新しいラーラ
キンと乾いたビル街を行くマスクるりまつり
マスクして防犯カメラの渋谷駅ロマ
大声の人と会いたくない日のマスク亜美子
閉じ込めんマスクの中の日の名残愛燦燦
マスクしてどつと背中が重くなる葦たかし
マスクして夫の綺麗な目に気付く安部さくら
マスクして神保町のキーマカレー伊勢史郎
何食わぬマスクの下に伸ばす髭伊予吟会宵嵐
柴又やマスクは人のためならず羽沖
給食のアルマイト皿と白マスク卯さきをん
倍満貫リーチしてマスクはずしけり影山治子
文明の果てマスク溢れる白い街永井基美
テーブルに二人のマスク重ねてる夏柿
マスクして妬み心をひた隠す花咲明日香
コンビニのサイズの合はぬマスクかな花節湖
誰ひとり味方もなくてマスクかな花伝
身構へて夜のマスクとすれ違ふ花南天
マスク越しありがとうって照れるじゃん海碧
置かれあるマスクに遠く座りけり樫の木
ペコペコと瓢箪型にマスク息づく蒲公英
結界の如くマスクを身につける亀山逸子
嗚呼何と君のマスクの美しき亀山酔田
マスクせし死人行き交ふ夜更の街亀田荒太
マスク真白愛は受け取るほうがいい吉田好大
斜め前マスクしてるのは探偵宮武桜子
柔らかに耳紐もちてマスクとる居升典子
青空を目蓋に映しマスクする栗子
マスクとり去年の君と待合せ桑島幹
母さんのマスクとっても哀しいの原田
マスクして瞬きのせぬ整備工湖雪
水底を漂ひたき日マスクせん五月野敬子
マスクしてマスクの人を避けてゆく後藤久
マスクして己の顔の在りどころ江原茂実
マスカラの伏し目もの憂いマスクかな香箱
登校のマスクの上下直しやる香羊
マスクして眼を先へ先へと走る高橋なつ
本堂を前にマスクを仕舞ひけり高橋寅次
改札を眼だけ眼だけのマスク来る克巳
マスクしたまま盗み食ひしたる夜根本葉音
マスクより爛爛として微熱の目斎乃雪
問い1の検算はしたマスクの子坂巻紙青巻紙
息ひそむマスクばかりの安置室榊昭広
つひに目を合はさぬ女マスクして山田喜則
マスク外しトレドの紺碧を吸う史
マスクしてマスクしている人を避け鹿嶌純子
裏新宿アイシャドウ濃きマスクかな若井柳児
中学生阿修羅見入りてマスク取る修芳
マスクして吾の温もりに籠りけり春野いちご
似たる目の清しマスクの母娘宵猫
マスクして睫毛に風は残りけり小鞠
マスクしてヒールの音颯爽たり小川弘志
黒マスク不落の城の夕日かな小倉あんこ
マスクごしの鼻歌たしかボブ・ディラン小南子
ワクチンは三千円マスクは三百円だった松浦麗久
マスクの突起や魚人族の如し松永裕歩
御守とマスクを渡す初日かな松野菜々花
贋作を見抜くマスクの鼻たかし松廣李子
星の香の澄みてマスクを外しけり上原淳子
雑踏を抜けて青空マスクとる上野眞理
マスクとり今朝の蕾の香を聞く植田かず子
ぽつぺんのごとき笑ひのマスクかな色葉二穂
マスクとる青い空気よ肺を満たせよ森弘行
吾を看るマスクの君の愁眉かな深幽
マスクして自愛の一歩を踏み出せり真繍
マスクマスク振り子時計見つ吾子伏せり真優航千の母
判るからマスクだらけのホームでも菅原千秋
[あえない]と嘘打つ時のマスクかな西川由野
道端に佇むマスク汚れてく西村圭
哀しみの出入り禁止のマスク欲し西條晶夫
マスクして耳朶柔く折れにけり青山あじこ
たどり着き外すマスクに耳朶痒し青児
マスク付けコンビニポストまでは星青萄
ぺこぺこと忙しく喋るマスクかな石ころ
ヘッドフォンの君昨日からマスクもし石川ぱりん
マスクとりタピオカほどの鼻ピアス赤橋渡
マスクかな君の目にひとつ嘘あり赤馬福助
マーカーの単語 微かに動くマスク雪割豆
マスク下愛想笑いが流行す川畑彩
おとうさんゐないマスクのひとはくる倉木はじめ
相容れぬを隔てるマスク薄っぺら倉澤慶子
マスクして積もる言葉と縮む身と惣兵衛
曇天のマスクは重し耳の裏走流
まだ白きマスクや今日の色ならん村上敏子
七色の手作りマスク明日は晴れ鷹野みどり
マスクしてマスクの中の人となる池田功
眼ぢからの目礼やくしやつとマスク竹口ゆうこ
夜のマスク己の息のなまぬるし中原久遠
マスクつけ味方を得たり我は行く中山清充
新宿の夜の香満ちたるマスクかな中西柚子
沈黙のマスク押し寄す交差点直木葉子
黒マスクこの世に疎き生き方し辻が花
マスク棄て口紅点すや夜勤明け鶴の子
ときめく予定など目下なくマスク田川彩
マスクして少し大きな独り言田村伊都
キオスクの桃色マスク選びけり渡り鳥
終電やマスクの下だけが自由渡邉一輝
マスクして少し大胆泣き黒子渡邉竹庵
にんげんの気配を閉めるマスクかな登りびと
スーツケースに箱ごと入れしマスクかな都乃あざみ
疲弊したるマスクよ体育館の被災者よ土屋雅修
思春期やマスクの内に引きこもる藤原訓子
独り言大胆になるマスクかな藤田康子
マスクからつと鼻出せば風に色藤田真純
顔認証できずうろたえるマスク豆闌
壊れゆく学級マスクの口々くち南風の記憶
徳用マスク効用の小さき文字尼島里志
ちょっと良いマスクが嬉し朝の駅波の音
おととい待たされた当てつけのマスク梅納豆
残り香はシャネルの五番マスク捨つ梅里和代
マスクの下は君と同じ梅毒白瀬いりこ
マスクのわけ聞けず見ているポニーテール白米
マスク掛け声まろくなる教師かな八幡風花
色マスクしておしゃれする柄でなし比良山
マスクとり舞台挨拶声清し琵琶京子
ポケットより去年のマスク出て来けり姫山りんご
マスクして姪は東京の娘とならむ風来
マスクの子ひとり遊びにもう慣れて文女
違うんだ!私のマスクは君がため穂積のり子
魂を留めるごとくするマスク抹茶金魚
電車から噴き出る大量のマスク蜜華
マスクして眉間の皺の際立ちぬ夢見昼顔
マスクして今日は何の香に酔おう明良稽古
マスクマスクマスク主日の礼拝堂木村摩耶
マスク取り今日の我を解放す門未知子
ごぼごぼと小言マスクにくごもらせ野地垂木
マスクして吾が身ひこずり行く夜勤野中泰風
マスクして舌一枚を隠しけり野木編
試験官のずらすマスクや「解答やめ」野良古
職安の右も左もマスクかな油井勝彦
助手席にマスク残して帰る倅有馬裕子
マスクして睫毛の手入れ怠りぬ由づる
ままごとの子役のくまにマスクかな鈴木あむ
マスク捨て女優のやうに口笛を鈴木麗門
独り言の中身に惑うマスクかな蝋梅とちる
マスクいる?近所の犬に問われたら惑星のかけら
マスクの子の身から数式こぼれけり鷲尾さゆり
ソプラノの声盗みたるマスクあり淺野紫桜
マスクして町内会の自己紹介澪つくし
氏神さまマスク半纏御許しください茉梨花
マスクして氷山ほどの壁とする蓼科川奈
マスクして目礼の海逆巻きぬ邯鄲
まんぼうが飲み込む海月めくマスク銀長だぬき
マスクして外科医の真似の余裕あり小川めぐる
マスクにはいろんな気持ちかくれんぼ水野祥子
悪夢より覚めてマスクを毟り取る酔進
百枚のマスクは百枚捨てられる楠央
現代人物とマスクは使い捨て入江幸子
続く道マスクで埋まる試験場HARU
口紅やマスクの中のストライプmika-na
乗車率マスク率120%Y.たくみ
朝寝坊髪だけ整えあとマスクアーカー
日本中マスクがうめる白景色あきけん
マスクしていざ鎌倉と出勤すあさ奏
マスクすもなほも奔放なる父よあまぶー
受験まで家族全員マスクするイカロス
自転車の前に後ろにマスクの子いくちゃん
マスクして小さき命と初対面いろをふくむや
ニューハーフ顎髭隠すだてマスクいわきりかつじ
赦されて先ず外したるマスクかなうい
マスク取り赤塚不二夫出没すうたけいこ
聞こえないマスクはずして口をよむうっしー
流行遅れたった一人のマスクかなうつぼっと
柏手の前にはずさん伊達マスクオカメインコ
雑踏の白きマスク黒に染むおさむらいちゃん
無人駅地蔵の顔にマスクかなおっばあ
目ぢからや太きマスクのサスペンスおぼろ月
マスク下の君香るベニスの夜にお品
合格発表マスクはずして叫ぶ人カオス
鼻口を想像させるマスク顔かっちゃん
くすくすとマスクの中で天使笑むかもめ
お守りとマスク鎧やいざ行かむキョロちゃん
マスクして意中の人に会ひにけりクジラ
黒髪をなびかせ漆黒のマスククロエ
マスクする悪人めいてコンビニへこすみ
にぎやかに柄マスク行く朝のかぜこもときよみ
マスクして恋しい人の声を待つさかたちえこ
老眼鏡曇りて外すマスクかなさきまき
マスクから見え隠れする本音かなさくやこのはな
マスクをしモモまる出しの孫ムスメシップ
満員電車挟まれたマスクかなしんぎ
対面のマスクの黒におじけづきすずくら
思春期のこころも守るマスクかなすずらん
マスク越し歌う我が子は眼鏡の子スローライフ
深酒と赤ら顔隠すマスクかなぜしぜし
山手線携帯いじるマスクたちたじま
買い忘れマスクで急ぐ夕準備タシャキ
マスクの娘少しずらさん笑顔よしたすく
浜風に白鳩のごと飛ぶマスクチコ
「はい、マスク。」母から愛も渡されるチッチ
行ってきますマスク持たせる勝負の日ちやこ
マスクでは隠れぬ闘志受験生ちょぴまる
溢るマスクや研究発表会ティーチャー山本
「我も白ぞ」マスクにしがみつく埃てんてこ麻衣
現場作業マスク一枚の暖かさとっちん
マスク越し悪(わる)の密談くぐもりてなごやいろり
蛞蝓がマスクの下で蠢けりなめろう
マスクをねしてるときだけ近付けるにゃ
碧空やマスクはずれて目をつむりねがみともみ
マスクかけ物言う目こそたのみけりねこバアバ
マスクして大口開けて急ぎ足の菊
栄華一寸横綱に送るマスクパシフィコ
正解は面積割る二小顔マスクぱすてる
出頭医マスク外せば幼顔パッキンマン
執刀医マスクを変えてひったくりハムサンド
朝のバスあの娘の頬のマスク跡ひこぞう
マスク咲きまなこいよいよものを言いひっそり静か
マスク取り笑った君の瞳優しふうこ
平和なれ納戸のリュックにマスク二個ふじかよ
マスクして税申告の列にありふじたけ
マスクして三毛は何処ぞや星清かふじの秋刀魚
マスクに隠れ人混みに紛れ往くほたる純子
黒マスク変装も楽しや雪の街ほっさー
風邪でなく杉近づくとマスク出しまさ
マスクのママピンがぶらんこしてるよまさおかのりこ
マスクしてくもり眼鏡の夜の虹まちるだ
朝寝坊眉描きマスクと走り出るみなお
少女くる白きマスクと白き肢みやかわけい子
マスクして白き本音を隠しけりみやこまる
一番星マスクはずして深呼吸みやこわすれ
純粋を覆いたるかのマスクの君もつこ
探る探るマスクの下にある真意ももたもも
寛解のマスクはずしてひとり焼肉ヤーチャイカ
マスクにも乙女心をしのばせるやったん
マスク増えどこかつれない散歩道ゆづ
病み顏を少し隠してマスクかなよりこ
マスクひとつ看護師の声重なりてりんだ
目語りの久しき友やマスクして亜紀女
マスクにも色彩にめさめ時来たり亜紗舞那
歯科助手に覚悟のマスク外しけり阿武玲
マスクとる目は口ほどにもの言えず哀顏騎士
マスクして目は口ほどにモノ言はず有本仁政
スペインで奇異に見られしマスク顔愛子
マスクとり喜びに沸く合格発表愛宕平九郎
マスクの子鎮魂の火の列に入る葵新吾
マスクする妻の表情見誤る安田蝸牛
マスクして半分自我を解放す安曇野多恵
マスクして少し変身できたらし伊藤順女
マスクして手を振る船にドラの音伊藤節子
マスクの子月光仮面になりきって伊豆原半香
マスク外し夜の図書館君を待つ遺跡納期
マスクして誰にも知れず街カッポ井上繁
扮装かマスクの上の目が笑う井上早苗
マスクして大人気分の四歳児一杯
十年の介護を為遂げマスク棄つ稲垣加代子
裏黒いマスクを捨てる就業後稲垣由貴
マスクしてNICU入る朝稲葉かな
無茶をしてマスクという名の免罪符右茶
雑踏に冴える瞳や黒マスク鵜瀬由紀子
マスクに曇る娘(こ)の眼鏡永花
巷には黒マスク付け中国人円
マスクして覆いたいのは心かな園田みゆき
マスクかけ新生児室夜明け前延杜
嫁ぐ子の荷に忍ばせるマスクかな縁恵
発車ベル旅の栞のマスクかな遠藤百合
壁に背を預けし妊婦黒マスク塩沢桂子
マスクしてくぐもる声で「好き」と言う横山薫子
ジャズ喫茶出れば黄昏マスクかな岡れいこ
バス停にマスクとスマホ連なりて温湿布
マスクして身を隠したし全てから下城ムツ子
黒マスクよそよそしさを纏う吾子佳枝
マスクして別の自分となりにけり加藤哲
知らんぷり マスクは素敵な 隠れ蓑嘉藤継世
マスクかけて目はぴかぴかで通学路河合久子
マスク掛け曇る眼鏡で明日を見る河童翁
門口に烏天狗がマスク剥ぐ河畔亭
大人用マスクで子は白面の騎士花屋
マスクする悪戯心湧き出づる華
ただいま!とマスク外せば眉開く霞草
様々な顔をマスクで使い分け海
アリーナへ黒マスクの群れ入りけり海口あめちゃん
危うきやマスクに守らるる命馨子
あいさつを眼に語らせる大マスク蛙里
夜勤明けマスクで髭を隠し帰途笠原理香
マスクとは愛していると言えぬ刑甘平
出会い端つられ会釈のマスクかな閑蛙
耐震の粉塵に耐えマスク3岸本元世
無精髭の夕マスクの息重し岩咲いわ
夜出会うマスクの漢のおそろしや岩品正子
三宮観光客もマスク顔岩野翠
見番から料亭の道でマスク取り鬼弦千枝子
神域の光に白きマスクかな菊原八重
マスクして小言の耳の痛さかな菊池洋勝
マスクして顔で息する小学生吉成しょう子
さよならとテーブルに置かれたマスクかな吉田びふう
母親のマスク取りたい赤子の手橘美智世
ニュース来るマスク買い足す大中小金柑シロップ
帰宅して外すマスクにルージュの香空龍
マスクする耳朶プリリンと福ぼくろ蛍子
肩重きマスクも重き縄のれん月の砂漠
マスクとり話始める志望動機月夜同舟
通学路静かな朝や皆マスク見屋桜花
マスクして荒れたる眉に老いを知り原貴美子
青い空散歩行くかやマスクして原善枝
マスクする大人ぜんそく子らはノロ原口祐子
気休めのマスクずらして大くしゃみ原田一行
通学路小さきマスクの連なりて原田彰子
起き抜けのちょっとそこまでマスクして原田民久
黒マスク厚顔隠す詐欺師かな玄次郎
籍入れたマスクの下に姪笑顔玄武
マスクしてアイコンタクトの瞳かな古史朗
イヤホンとマスク一人になりたくて古都鈴
顔半分隠れて増えるマスク美人戸根由紀
忘れしのマスクの白さ玄関に枯楓
マスク忘れ恐怖のどん底待合室五味芳高
マスクして娘三人良く笑ふ光子
マスクでは鼾轟音補えず幸満る
マスク越しつれづれなるも受験生弘
月曜日マスクと紅きピアスかな江川月丸
外出時皆知らぬ人オンマスク香子
うやむやをマスクに隠す一日かな高橋りつ
ダイエットカロリー消費の鹿マスク高本和美
教室はマスクの妖精溢れたり合馬博子
マスクして己が吐息の艶めかし今井淑子
街景色マスク姿があふれおり今井正博
マスクの全校生の眼波間めく佐藤儒艮
マスクとりやっとできたよ意志疎通佐保子
鼻の穴はこことマスクに印あり妻有
温(おん)か姿(し)か悩むムスメにマスク勝つ作田尚子
マスクして自分隠して別の人桜月夜
ギャングらは角を曲がってマスク取り桜姫5
苦しみの地球にマスクさせたしや三浦ごまこ
マスクかけ曇る眼鏡に時止まる三浦真奈美
予備校生マスク剥ぎ取る発表の日三河五郎
マスクマスクくちづけされて捨てられて三茶
目も見ずにマスク行き交うターミナル三島櫻
封ぜるかマスクに試す愚痴の虫山沖阿月子
マスクマスクただ沈黙を強いられし山口トシ子
マスクして防災誓う祈りの日山崎ひろみ
やいマスクお前は知らぬとi-Pad山川芳明
人混み吸ひしマスク白きまま捨つ山太狼
心痛をマスクで隠し笑ふ人山田啓子
君守る開かずの踏切めくマスク山本巧
はっとするマスクの中の戯言か山本康子
ホットワイン机上のマスク金曜日山本先生
叱られたマスクの下のあっかんべー四元里英
教卓のノートに埋むマスクかな市山利也
付け外すしぐさ美しマスクかな志貴子
マスク越し問いし黒目の心なし紫雲英
マスク越したれかと問えず会釈する紫香
ゴミだし日女優のようにマスクかけ紫式部
自転車のママにマスクのへばりつく児玉香織
マスクして眼で微笑んで喉を診て慈悦
朝練の子らのマスクの光りけり次郎の飼い主
マスク声ささめく下り最終便篠崎幸惠
温泉へエンジンふかすマスク顔若松裕子
マスクして俯き帰る競馬場宗本智之
日溜まりにマスク同士が肩寄せる秀道
筋者の啖呵を暈かすマスクかな秋月なおと
心経のマスクの声は羅網抜け秋水
マスクかけ他人には見せぬ心なり秋代
小役人マスクで隠す裏の裏重仁
顎マスク小顔に見ゆと孫の言ふ出井早智子
マスク取り外して犬へ放りけり春響
白緑のマスクして過ぐ男あり春耕
マスクしていざ買い物へペダル漕ぐ春風
抗がん剤マスクで隠す副作用順和
マスク取り指でいたわる耳の裏初野文子
マスク外すセンター会場あとにして渚
人の群れマスクで何に蓋するや小鷺
Kくんのマスク姿や気になりて小山晃
夕暮やマスクで隠せぬもの溢る小市
携帯にメガネにマスクあと財布小雀
会議中マスクの下の小あくび小川薫
呑み込めぬ言葉マスクで止め笑顔小池玲子
マスク外す自販機前のティータイム小嶋芦舟
くちばしか縮んだマスク鼻被う小澤啓子
待ちわびるマスクの君や夜のカフェ松ちゃん
マスクして美女を装うシャネルの香松浦苳
夜勤明け耳輪にのこりたるマスク松山帖句
マスクつけ誰かわからぬ無礼者松虫姫の村人
グリーン車の客8割がマスクかな松田和之
マスク越し「頑張ってね」と ココア置く松島美絵
自習室マスクに満つる年号や城ヶ崎由岐子
今朝もまだマスクの友に蜂蜜湯織田めい
マスクして重い鞄と重いドア新井泰子
効果なしつい外したまま顎マスク真紀子
二両目のマスクの人を数える子真宮マミ
初仕事笑顔見せたし顎マスク真澄
マスクして恋心だけ目に溜めし真壁正江
マスクして会釈した人どちら様?真理庵
マスクで黙「かたろう会」の珍な客神谷米子
恋伝えマスクの内の熱凍り水嶋悠
マスクして開幕ベルを待っている水夢
終電が過ぎしホームにマスク落つ雛まつり
アメ横は右へ左のマスク族杉浦あきけん
マスクして喜怒哀楽も目元なり杉浦夏甫
アメ横や右へ左へマスク族杉浦晃
永訣のマスクのうちの叫び寂杉本時子
マスク研ぐ眼の鋭さに後退り瀬尾ありさ
警報や廃炉は遠きマスク人星善之
目立て我美女の通る間マスクせじ晴多空
くっきりとニの字二の字のマスクあと清水容子
搾乳すマスク持参し吾子に会う清水恭子
マスクだけ待合室は咳の海清水仁
大口を覗く歯科医の大マスク西原さらさ
街中にぽつりと落ちたマスクかな西村咲音
マスクして照れる気持ちを隠せたか西村優美子
マスクにて見知らぬ人の産まれけり西尾至史
小言多き夫にマスクをプレゼント西條恭子
守りたい物があるからマスクする青い月
美辞麗句マスク剥がせば舌出してをり石垣エリザ
マスク顔十は若いと見る鏡雪兎
おつかいもマスクの下はノーメイク千川小舟
見合い席マスクをとってくださいな千鶴姫
「お久しぶり」マスクはあごに話し込む川村昌子
里の薫に染まるマスクで上京す川端孝子
マスクして変装してもばれる恋川畑心奈
園児行くピンクのマスク黄のマスク曽我真理子
吾子産まれマスク常用「父」となる双子の父亮介
福島へ8歳の息子とマスクでたずぬる倉岡ゆい
院外へマスクを外し深呼吸倉岡富士
憂し心マスクで庇い日和待つ早川博子
へんじ無しマスクの中にへのじ有り早帆
匿名でいさせて今日はマスクする増田典子
マスクしてバーゲンセール憚らず村松登音
今朝もまたマスクの人と会釈かな多田ふみ
満面の笑みでマスクはずす母駄詩
すっぴんを隠すマスクの花模様大久保響子
あごマスク吸った1ぽん旨か味大橋祥男
キスマーク残して妖しマスク落つ大山小袖
歳感じ顔に残りマスク跡大本光代
マスクつけ行くぞ気合いで熱い息大本千恵子
長生きやマスク重ねる息苦しさ卓女
マスク越し共感すれど興ざめも谷口あきこ
色選びマスクも洒落る時代かな知音
マスクして大大名の城に立つ智美
眼麗しくマスクの奥の人を想う池愛子
急ぐ足産科で変えるマスクかな池上敬子
乳母車親マスクかけ行きし先竹井翠葉
温かき息を吸いこむマスクかな中山月波
指を立てマスク回して子ら帰る中神主税
道端にころんとマスク落ちてをり中村純代
満員の目力だけのマスク顔中谷典敬
補聴器と眼鏡とマスク掛ける耳中嶋純子
呼べぬ名をつぶやいてみるマスクかな昼寝
声明の僧のマスクになき穢れ長岡ルリ子
マスク下げ富士に向いて深呼吸長谷島弘安
マスクした人みな下を向いており槌田一成
ドッペルゲンガーやマスクの群れに吾の予感天野規之
マスクして高層ビルの千切る雲天野姫城
マスクして目だけが笑ふ小児科医田村利平
アイメイクマスク美人は目で勝負田中ようちゃん
昇降口のマスクの群れや朝の憂田中紅雲
待合室呼ばれし黒マスクの彼田畑尚美
「スッピンも笑顔も隠すマスクかな」渡辺音葉
ピアス揺れ耳あればこそマスクかな渡辺陽子
マスクして「ひまはり」のなほ禍々し土井探花
息止めん ラッシュ時のマスク 忘る朝嶋村紀子
片耳にたらすマスクや議論中嶋良二
マスクして19日は勝負の日東風弘典
マスク美人美人を隠しをりしかな桃雨
マスクして胸算用の的中す藤井茂
隠したきことある朝のマスクかな藤井眞おん
マスクかけつきたくもない嘘をつく藤色葉菜
マスクして舟漕ぐ通勤電車かな藤千鶴
マスクごし看護師問ふも禅問答藤川哲三
言い過ぎた朝はマスクの見送りす徳
やわらかきマスクの奥の尖りし心徳庵
歯を抜かれマスクを買って人に会う惇壹
無菌室めく路面電車の皆マスク奈良香里
マスク取り一服マスクして去りぬ奈良素数
大マスク世間世俗をはねつける内本惠美子
マスクしてイヤホンもして吾一人楢山孝明
日曜日ただ黒マスクつけてみる南行
跨線橋を空へマスクの園児達(ら)楠田草堂
診断に一分の疑惑マスクして二鬼酒
マスクにて優しき目もと尚更に猫熊
七難を隠すマスクや曲がる腰埜水
悪くないマスクも似合う朝の君馬笑
目じからのマスクの君は別の君馬場東風
カフェひとり転がるマスクシャンソンに梅笠
マスクする君の不安が目に出てる柏新之助
車窓にてマスクの自分見つめけり白雨
喧噪の街に 白きマスクの睨み白水
新生児囲むマスクの笑顔かな函
マスクして上目遣いに口ごもる畑詩音
マスク群れ立ち上がる塵きらきらり八重葉
選びたるマスクの色や温もれり八木実
神仏に供えるときもマスク掛け鳩礼
五割増の美人に見えるマスクかな板垣美樹
空鈍し白きマスクは過ぎゆけり飯村祐知子
マスク取ればボケた母にもやっと笑み飯塚千鶴
マスク顔美人と言われちと微妙飯田あかね
交差点マスクの群れに朝日さす妃
ただいまとマスクあっても児ははしゃぐ美山つぐみ
マスク越し上司は何を心理戦美帆
マスクより漏れる嗚咽の送別の百合乃
醒めた目で何を隠すやそのマスク浜けい
友よいざ空へマスクを受験終了・・・風泉
こみ上ぐる怒り隠せるマスクなり風紋
ファッションのひとつとなりしマスク行く風来坊
丸まれり母のタンスの布マスク福ネコ
寝過ごした!眉だけは引くマスクかな福弓
職員室に口紅付きしマスクあり福泉
マスクして尻だけ洗ふウォシュレット福良ちどり
マスク越し戯れのキッス無菌室片岡佐知子
婚活パーティーマスクの人ばかり北大路京介
老眼やマスクの吾が子に「こんにちは」本間美知子
南国はマスク少なし旅心麻場育子
マスクからはみ出している健康美抹香
続々とマスクマスクや待合室満る
マスクで隠せぬ目に涙ありがと未田翌檜
マスク取り交わす挨拶顔見知り湊かずゆき
夜勤明け我を労はるマスクかな蓑田和明
院展の牛に魅入りしマスクして妙子
タイに日本大気汚染と風邪!マスク夢おとめ
マスク掛け心を閉ざし電車乗る無頓着
棄てられぬあの日あの時知るマスク明惟久里
収まらぬ嫉妬を隠す白マスク茂子
受検会場ヘマスクの息熱し野ゆき
植え込みに潜むマスクと悪太郎野紺菊
飛び乗りて独り言するマスクかな野曾良
プリキュアのマスク手に持て孫二人有
里帰り二重睫毛にマスクかな葉るみ
ごめんねがマスクの中に消えてゆく葉月けゐ
μ(マイクロ)の世界マスクで攻防戦陽輝
終電のマスクとスマホなお静か里惠子
マスクして曇る眼鏡の宣告日琉璃
再診の順番待つやマスクして礼子
終電車泣き顔隠すマスク揺れ麗
マスクした女の瞳語りかけ連雀
遅参して片耳マスクが詫びを言う侘介
マスクして噂話を慎めり巫女
深夜店マスクの客の手には花暝想華
マスクごし君呼ぶ我が名ぬくもりて楡野ふみ
本心を知られまいとマスクする櫻井弘子
沿道にマスクのひとひと旗振れり淺紫
被災地に汗とほこりのマスクかな眞
眉目愛しくもの言いゐるやマスク顔齋藤富美代
風邪よりもズボラを隠す伊達マスク茫洋
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
◆正しい表記~五七五の間を空けない
○五七五の間を空けないのが、俳句の正しい表記です。意図をもって一マス空けるという場合もありますが、特殊なケースだと考えて下さい。まずは、正しい表記から覚えましょう。- マスクなら たやすく嘘を 重ねつつANGEL
- 抑えたい 咳いやため息 マスクしておから晴子
- 一年中 マスク外さぬ 生徒おりかわせみ
- マスクした 妖怪伝説 今も尚つちのこ
- マスクあご しゃべくる母と 陽だまりとにゃんこ
- 猪口すべり ちり紙出せず 拭くマスク山口要人
- i-Pad マスク顔では 解除せず山川恵美子
- 朝寝坊 マスクで隠す ノーメイク小菊
- マスクして 他人の顔に なりにけり星野茜
- マスク取り 君の名を呼ぶ 帰り道早山
- 不摂生 マスクで隠す 口角炎目元美人
◆カギカッコの使い方
- 『いざ子ども マスク外して 鬼ごっこ』いっちゃん
- 「マスクでも目元でわかる怒る君」ヘッドホン
- 「検査医師マスクの上の目は清し」中山白蘭
○一句の中にカギカッコを使うのは次のような場合です。
会話が入る場合 「 」
小説の表題などの場合 『 』
句そのものをカギカッコでくくる必要はありません。◆季重なり
○一句に季語が複数あることを「季重なり」といいます。「季重なり」はタブーではなく、難易度の高いテクニック。まずは一句一季語から練習していきましょう。
以下の句の中の、どれが季語なのか、歳時記で調べてみましょう。季語の知識を少しずつ増やしていくことも、俳句の学びです。- 冬の朝マスクを拒む息子なりローズ
- 月明かり澄んだ空気にマスク下げ握り飯太郎
- 目にチカラマスクが描く冬の朝田良穂
- 散歩道蠟梅見つけマスク取る馬場幸代
- 寒空にホッと一息マスク暖望玄雲
- 北風びゅう振られを隠すマスクかな棒銀
- 風邪睨むマスクの上のサングラス矢野茂樹
◆季語ではないマスク
- スマホ疲れマスクするのはアイマスク祈り桜
- 手術室 病魔に挑む者のマスク聡家夏生
- この国も嘗てスモッグマスクかな中島圭子
- 防悪マスクあらましかば戦なからまし痩女
○「マスク」は、防寒の意味で季語となっているので、寒さとは関係のないマスクを季語として認識するかどうかは、悩ましいところです。
- マスクして美男におはす歯科医かな富野香衣
- 夜勤せり防塵服にマスクして清水祥月
○こちらの二句は、職業的マスクのようでもあり、防寒のようでもあり。これまた判断が悩ましいですね。
1月の兼題『マスク』は、これまでの最多投句数(12月の2,440句)をさらに大きく上回り、2,715句をいただきました。ありがとうございました。猛威を振るったインフルエンザ、実生活でも「マスク」の出番は多かったのではないでしょうか。
2月の兼題は春の季語『春浅し』です。入選を目指してぜひチャレンジしてください(編集部より)。