夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
7月の審査結果発表
兼題「稲妻」
遠く光だけが見え、雷鳴が聞こえず雨を伴わないものを指すことが多い。雷と違い、光に注目した季語。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
稲妻や人は獣のごとく産む
テツコ
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夏井いつき先生より
なぜ、稲光を「稲妻」というのか。「稲妻」は「稲の夫(つま)」の意で、古代、稲は稲妻と交尾することで結実すると信じられていました。傍題「稲つるび」は、稲が雷光と交わる=交尾む(つるむ)の意でもあります。「雷」が雷鳴を主体とする夏の季語であるのに対して、秋の季語「稲妻」はその雷光を指します。
上五「稲妻や」の強調の後に続く「人は獣のごとく産む」という詩語に圧倒されます。確かに、人間が哺乳類=「獣」であることを生々しく実感するのが出産の現場かもしれません。稲が雷光とつるみ結実するように、「人」も「獣のごとく」交わり産むのです。「稲妻」との取り合わせが生と性を腥く匂わせる、迫力ある作品です。
稲妻の走って鼬見たような
亀山水田
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一瞬の「稲妻」、素早く逃げ走る生き物の影を見たような気がします。あれは「鼬」かもしれないが、それも一瞬のことで定かではない。「稲妻」の光が見せた幻影かもしれないと呟く作者がいます。
魚も人も瞳の濡れて稲つるび
久我恒子
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「魚」の「瞳」が濡れているのは当たり前ですが、「魚も人も」とたたみ掛けた後に出現する「稲つるび」に戦きます。一瞬の雷光の下で魚も人も瞳を濡らしながら、交わり産み死んでいくのです。
稲妻を豊かにセイウチの鼾
一阿蘇二鷲三ピーマン
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「稲妻」は農耕の歴史から生まれた季語ですが、「セイウチ」たちの空にも雷光を走らせます。走る「稲妻」を横目に「鼾」をかく「セイウチ」たち。「豊かに」という言葉のなんと美しいことか。
稲妻のへし折れたるとしなりたると
塩谷人秀
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まさか「稲妻」の一物仕立てに挑む句がでてくるとは思いませんでした。「へし折れたる」稲妻があれば「しなりたる」稲妻もあるという淡々たる描写は、まさに俳人の眼力が捉えた瞬間の映像です。
稲妻やイラクの空はミドリイロ
登るひと
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頭上に「稲妻」が走ったのです。この光景はどこかで見た気がするなと思う。空爆のニュース映像の「イラクの空」がこうだったと気づく。「ミドリイロ」の美しさと禍々しさに、胸を衝かれる一句。
稲妻や三面鏡に誰かいるじゃすみん
稲妻やカラカラ錆びてゆく欠片じゃすみん
稲妻やたるんたるんの鰐ののどすりいぴい
隣り合ふ町稲妻を奪ひ合ふすりいぴい
稲妻や捗る二〇〇語英作文つながいハツオ
LAのコーヒー稲妻の一滴つながいハツオ
稲妻や手足丸めて穴に入るなおこ
稲妻やビルの谷間の古本屋なおこ
稲光祝詞佳境に入りにけりにゃん
稲妻や飯は深謝し食べるものにゃん
稲妻からプラズマ粒子猫のひげぬらりひょん
閨房の鏡の曇り稲妻すぬらりひょん
稲妻や王女の耳の赤き石みやこわすれ
稲光骨に刻みし呪文ありみやこわすれ
走れ走れ稲光であるうちにぐ
鋭角に鴉の聲や稲光ぐ
稲妻や産み月の祝女(のろ)脱け出しぬ葦たかし
稲妻や神馬の尿のばうばうと葦たかし
閉じた目の奥まで白しいなびかり遺跡納期
理科室にチョークの音といなびかり遺跡納期
稲妻や鈍色へ沈みゆく阿蘇歌鈴
ベートーヴェンの脳へなだれ込む稲妻歌鈴
稲妻の黒き尾暗き尾根を打つ樫の木
相部屋の雑魚寝五人や稲妻す樫の木
稲妻やロックグラスが一度鳴る輝久
稲妻や飯場住まいに抱く枕輝久
稲妻や異世界はさう遠くない玉木たまね
稲妻や空の裏側にも世界玉木たまね
岩稜帯に稲妻の連射かな桑島幹
稲妻や龍を身籠る北の海桑島幹
うすら日に遠稲妻の生ぬるき薫子
剥落仏稲妻宿す宵あらん薫子
稲妻や歯医者のドリルのどるるるる鯨木ヤスカ
稲妻や雲に放つた四分休符鯨木ヤスカ
稲光生き生きと闇深まれり古都ぎんう
稲妻や冥き雲まで伸ぶる畝古都ぎんう
稲妻に感光しちまった秘密溝口トポル
稲妻や天竜川はいや遠し溝口トポル
稲妻に打たれむと立つ猛き尾根佐藤比古太
稲妻に足踏み鳴らす駒蒼し佐藤比古太
いなびかり縄文遺跡土杭墓彩楓(さいふう)
稲妻や舳先に立てる女神像彩楓(さいふう)
カメレオン七色に稲妻を飲む山内彩月
稲びかりてんでを向いて一家族山内彩月
稲妻や隠しカメラの緩いネジ城内幸江
稲妻や夜を半分になるくらい城内幸江
稲妻や義母に抜かるる指の棘中原久遠
ぬかるみに嵌まる少年いなびかり中原久遠
稲妻や吾子のあばらの柔らかき渡邉一輝
稲妻や東京は群れても一人渡邉一輝
稲妻や人魚が声をなくした日播磨陽子
稲妻の無口パードレの告解播磨陽子
いなづまや菌糸のびゆく榾の中比々き
稲妻を見しより金気くさき舌比々き
裏書に楷書のサイン稲光凡鑽
稲妻や母に繋がる尿の管凡鑽
稲妻や誰か生まれて誰か逝く門未知子
吾妻群嬬恋村や稲光門未知子
稲妻の日に稲妻が濡れてしまう登るひと
稲妻が赤くてすぐに五時がきて登るひと
稲妻やぽぽぽと石は熱を持ち一阿蘇二鷲三ピーマン
鍵盤を殴るバラード稲光塩谷人秀
風冷えて野に稲妻の気配あり本上聖子
益荒男の腹筋固し稲光24516
ジャングルの如き配管稲光あいだほ
稲妻や固く握った鞄の紐あまぐり
稲妻や堕胎ゆるさぬ国に来てあまぶー
ふるさとへ道しるべなり稲光あめちゃん
赤銅の稲妻を抱く雲沖にうい
稲妻に縁取られたる悪巧みうさぎまんじゅう
稲妻やアインシュタインの眼うみの海月
稲光そんなに嫌われてたなんておくにち木実
稲妻や卍望みし黒き富士おぐもぐ
かくれおに納屋の隙間の稲光おっばあ
稲妻の先に君おのD
稲妻や割れた硝子を片付けるかつたろー。
稲妻や右耳音を失ひぬかぬまっこ
たちきりのよとぎのまどのいなびかりくま鶉
稲妻や父の大きな口に管クラウド坂上
島津退き口稲妻走る関ヶ原くりでん
稲妻や翡翠を探す光なりくるみだんご
稲妻や一人称で生きてゆくケンG
いなづまと母のいかりとはんこうきここな
稲妻や驚く子らの声も光るゴンタ
いなたまは非情の槍よ賜物よサイコロピエロ七変化
稲妻やイヤイヤ期の子の握力さきのすけ
稲妻やゴクリと夫の喉仏さくやこのはな
空破れて天啓のごと稲光さくら
稲妻や裂けて光の先尖るさとう菓子
稲妻にはためきたるやパンツ10枚さとう朋子
稲妻にマントルの熱畝りけむさとけん
稲妻や長い電話を切りたくてさとち
稲妻をしもべに世界廻りたししかもり
稲妻や哭かずにすんだ三回忌すずひろ
稲妻が夜の隙間に怒り立つスリム
稲妻や抱く子かばひし母となるせつよ
たまごきらいぜったいぜったい稲光そうた(8さい)
うたかたの恋となるらむ稲びかりターシェンカ
稲妻やはやくちでえいごしゃべるひとちま(4さい)
稲妻やたまさか覗く異界の街ちゃうりん
稲妻や隣県記録的豪雨てまり
稲妻や嬰はちからづよく眠るときこ
稲妻や寂聴の性おっちょこちょいとしなり
稲妻や毛細血管の怒張としまる
稲妻や軒下の泥の巣は空とものこゆめ
稲妻や大水来る夜の帳とよかわ
骨喰らう癌の痛さや稲光なごやいろり
稲光り十勝平野の大き空ななみ
かのじょみててんがいなびかりおとしたナリミナ
稲妻や村半分のジオラマがなんじゃもんじゃ
過去問に賭ける未明や稲光りのっこ
稲妻や夫婦茶碗を五十年のど飴
稲妻や薄荷の飴をピシと噛むはちべえ
「またいつか」小さくなる背よ稲光はちべえ
いなびかり卒塔婆小町のまなじりにはむ
稲妻や嫁姑といふ絆ひかるこ
稲妻や関取たちは出稽古へひでやん
稲妻や一人当直最初の日ひとみうさぎ
稲妻やひりひりと残像白しふじこ
洪水の引きし我が町稲光ぼたんのむら
書き記すくさび形文字稲の殿ポリ
扉を叩くベートーベンの稲妻まつぽっくり
稲妻の落ちるスピード恋に似てマドレーヌカフェ
稲妻を放ってミシンうなるうなるまどん
稲妻のヒビ走る硝子の空まなやたか
稲光箪笥のおくに遺言書みさき
稲妻に浮かぶ男の歪む顔ミセウ愛
稲光油まみれの夜勤かなみつよ
遠稲妻軽く眼を閉づ逢瀬かなみなと
いなつるび通夜振る舞ひのあやふさにみなと
いなずまやらむねをからあってのむんやでゆいのすけ3才
稲妻やフェンスにかかるあかいはたむらさき(6さい)
稲妻の雲の隙間に魔女探すもつこ
稲妻やあめくぢぢめくさんざめくヤッチー
稲妻やひとりで祖父の米食らうゆうほ
稲妻や強き産声母となるゆづ
稲妻やツィゴイネルワイゼンの夜ロマ
稲妻やそこそこ生きて樹木葬亜紀女
稲妻に浮かぶ我が顔の険しき亜美子
稲妻やダムの底なる村の木へ亜来真留美
稲妻や少しそろはぬミシンの目愛燦燦
稲妻や三連休を寝違えて或人
成人誌立ち読み稲妻は止まぬ或人
稲妻の如くこの地に赤子降り安川伊津子
稲妻の夜や稜線の黒痛し伊介
稲妻や叱る母叱らるる父伊予吟会宵嵐
ただいまと土のにおい遠くで稲妻一花
稲妻や土偶堂々正中線一斤染乃
稲光武蔵野一隅射ぬきたり影山治子
稲妻を先に行かせる姉小路遠藤百合
気配なき子の部屋真夜の稲光塩沢桂子
稲妻や妻問い婚の口伝あり岡本育子
稲妻の去りて駅前の喧騒温湿布
稲妻やドーベルマンの耳尖る加藤ふみ
稲妻や口答へせし子の静か加藤哲
稲妻や十六羅漢の猛き眉可笑式
稲妻や己の恋に今気づく花伝
稲妻を吐き出し空の軽き青花南天
稲妻や怪談噺いま佳境華
稲妻にかすかに動く睫毛かな海碧
稲妻や執事の怪死した館葛谷猫日和
稲妻やこの世の道草気にもせず関口はるな
稲妻を集めた者は死んだとか気球乗り
なお深き闇を産み出す稲光亀山逸子
稲光厠の窓の磨りガラス亀田荒太
心臓に稲妻走る痛みかな菊池洋勝
稲妻や卑弥呼にすがる民の声吉田好大
ささくれをむきたる夜やイナビカリ居升典子
稲妻や紙屋町西停留所京野さち
稲光焼き付く父のデスマスク空龍
稲妻や明治生まれの母の喝熊女
稲妻の走りて太き生命線硬膜外
さっきから無言の妻や稲光紅あずま
稲妻や青く尖れる喉仏紅さやか
稲妻や笑ひ止むトーテムポール香野さとみ
新宿の烏合の衆や稲光高橋寅次
稲妻や茶漬け掻き込む通夜の朝鴻毛
稲妻の残像ひりつく静脈克巳
稲妻や猫の心音感じつつ根本葉音
空の底割って稲妻海に墜つ佐藤千枝
猪威しかっぽんかっぽん稲光座敷わらしなつき(6才)
俎板の包丁跡や稲光斎乃雪
稲妻やははの匂いの濃くなりぬ在芽里子
赫雲を縫うて後退る稲妻山口トシ子
稲妻や飛行機雲のなほ遠し山本彩
稲妻の途(みち)探す闇の耳鳴り史
稲妻にこゑなく回転木馬錆ぶ次郎の飼い主
光まず子宮に触れし稲の夫七瀬ゆきこ
稲妻や夜のとばりを金継ぎし汐湯
貴様とふ漢ことばや稲つるび七草
稲妻やこの地球(ほし)の虚の瞬き篠崎幸惠
稲妻や祖父の時計がひとつ鳴り若井柳児
持ち帰る子安の小石稲の妻宗澤美子
稲妻や父の拳固に目をつぶる初野文子
稲妻を見下ろす機内のマティーニ小市
稲妻や姉は非婚でよいと言う小川めぐる
稲妻やがさりとシャツの襟のタグ小泉岩魚
稲妻や螺鈿の箱と海の闇小池玲子
稲妻やダムはやうやう満ちて来し小南子
エフェクトの小さき稲妻の無音小野田達仁
稲妻やエンデのものがたり佳境へ松山帖句
稲妻は翼の軋み龍生まる松廣李子
ざわめきは職場の死角いなつるび上野眞理
稲妻や遺言状と死刑囚真宮マミ
稲妻や神農さんの虎光る真繍
稲妻よ己の背なは未知のまま真壁正江
『罪と罰』カーテン越しの稲光真野悠
稲光仁王の眼からでるごとし真理庵
稲妻や時にあります不発弾雛まつり
稲妻や夫なし子なし義歯洗う雛鍔
稲妻の傷痕探し帰路の空瀬尾ありさ
稲妻の奇襲や無駄毛剥ぐやうに西川由野
稲妻の罅から空の殻を割る青海也緒
稲光真夜中のアガサ・クリスティ石ころ
稲妻の切っ先小さき波頭を捕らふ石垣エリザ
稲光ネコ科の獣のような空石山俊道
さっきまでゐた山の向かうに稲光浅井和子
正解はここになく稲妻の形曽我真理子
留め拍子宵のいなづま薪能痩女
稲妻や遠征帰りのバスしずか走流
稲妻や露店床屋のタルカムパウダ多事
いなずまやばっさりショートにしてください大蚊里伊織
稲妻や無音の闇の豊かなり大久保響子
美ら海に稲妻美ら海の機影大小田忍
稲妻や五分ごと寄する陣痛大槻税悦
稲妻のファルセット卵子冷凍す沢田朱里
稲妻や亡父の時計は秒針だけ谷口道子
稲妻や棚田の畦の道祖神知足
稲妻や弦張り替へるバイオリン中岡秀次
竜骨の眼窩めりめり稲つるみ中山月波
山路には獣の匂ひ稲光中西柚子
稲妻や寂しくなればひかります宙のふう
稲妻へ鬼集い風一度止む衷子
稲妻やそろそろ逝くと兄の声長岡ルリ子
稲妻や喪服の丈を少し詰め辻が花
稲妻や仰向けで爪齧る夜天津飯
稲妻や海月降るかに光る雲天野姫城
稲妻や一音違へ曲壊る田村朋子
焦げ臭き稲妻背なを追ひ掛くる田村利平
稲妻や神輿の蔵の扉あけ田畑尚美
稲妻を恐れもせずに君の来る田付一苗
稲妻や時差を数えるビルの角渡辺音葉
稲妻に棚田は上田から孕む渡邉竹庵
カテーテル検査の如く稲妻す登音
稲妻や闇に啼く狼の群都金時
片言の日本語の妻いなつるび都乃あざみ
稲妻の楔型文字解読す都忘れ
稲妻や股を開いて塗るルージュ土井探花
天窓に収まりきらぬ稲光土屋虹魚
漆黒の不整脈とや稲光冬のおこじょ
稲妻や感電したる土星の環東奈美
隠されし靴を探して稲光桃猫雪子
稲妻の明石大橋袈裟懸けに藤川哲三
稲妻や野に宇宙船めくサイロ奈良香里
いつか終わる介護や遠き稲光奈良素数
PKの助走に疾る稲光内藤羊皐
残業の二十五階の稲光内本惠美子
稲妻にをんなの躰確かむる楢山孝明
観測船見送る母よ稲光楠央
絎針に残りし糸や稲妻す猫愛すクリーム
あしたも晴れ稲妻に背を向け眠る猫路
稲妻や受付嬢のぴんと座す馬場崎智美
稲妻やたれが臼ひく雲の上馬場東風
稲妻や紫の道海に引き白雨
いねのつま水天宮の護符飲みし白樺みかん
太陽と競ふ高千穂の稲妻八幡風花
黎明の厩舎に届く稲光八木実
稲妻や能面のごと顔ありて飯村祐知子
稲妻浴びてより妻のよそよそし彼方ひらく
稲妻の無音無臭の響きかな比良山
稲妻を静かに見入る子抱く夫姫山りんご
稲妻や垂直に立つ湖の上百合乃
稲妻やエロスの落ちてゐる空地百草千樹
宗達の稲妻走るパリの町品子
見えなくていいもの照らす稲光富山の露玉
人を殺すゲーム稲妻鳴りっぱなし福本羽心
稲妻や心折れたる音を足す福良ちどり
稲妻や村道走る霊柩車腹胃壮
初恋の終わりしころや稲びかり文女
稲妻やショートステイに義父送る片岡佐知子
放課後に囚われた日や稲の妻穂積のり子
稲妻や象はアフリカの夢をみる豊田すばる
稲妻とビルは三度目の接吻北野きのこ
稲光融けたヒロシマの青空牧野敏信
稲妻が海のにおいを連れてきた魔女っ子めぐ
稲妻を孕みて鎮座する空よ麻衣
稲妻や逸るフォントのオノマトペ抹茶金魚
暗雲の脈をなぞる稲光未田翌檜
稲妻に浮かぶ無数の尖帽蜜華
稲妻は去りて遺りし嘘一つ蓑田和明
いなつるび賽の河原は祭らし椋本望生
稲妻や罅入びびしき青磁壺明惟久里
稲光眼集めて去りにけり明田句仁子
商談は成立昼のいなびかり木村摩耶
稲妻や列車は雨の切れ間抜け野ねずみ
人ごとのやうに見てゐる稲光野ばら
稲妻や手術知らせる友の声野ゆき
稲妻や昨日の嘘が疼きだし野地垂木
稲妻や尖りて赤き時計台油井勝彦
合宿の低き枕や遠稲妻有瀬こうこ
いなびかり車庫に沈みしブルドッグ有本仁政
稲妻に発情したる河馬二頭由づる
稲妻や試合前夜の合宿所葉るみ
稲妻や置き去られたる囮缶葉子
稲妻や思はぬことを口走り立川六珈
稲妻や第2コースの塩素臭隆之介11歳
空を嗅ぐ犬稲妻の二度三度鈴木淑葉
稲光笑声炸ず十五歳鈴木由紀子
稲妻やニコライ堂の屋根碧き鈴木麗門
いなびかり信仰心は捨てました露砂
親権を譲らぬ妻や稲光蝋梅とちる
稲妻の夜ギザに裁たれし花模様暝想華
遠稲妻横顔深く頷きぬ朶美子
稲妻や宅配便のベルは二度洒落神戸
稲妻や夜の首都高湾岸線淺野紫桜
稲光闇の奥より津軽富士齋藤光子
稲妻の彼方の闇に松の影螢子
能面の額の傷や稲の妻芍薬
稲妻やきみのつく嘘は優しい蓼科川奈
号外に同郷のひとイナビカリ邯鄲
稲妻怖い、驚く、反応する※類想ごとに分類。
稲妻や子の目に映る青天の霹靂MaSa
留守番の稲妻怖くテレビ付けアガペ
あぜ道で母の裾持ついなびかりいくな
稲妻や吾子が飛び込む母の膝つち茶屋
稲妻の光とこわさ正比例ねこバアバ
黒い空驚き直前稲光ファン
稲妻は天の怒りか凄さますやったん
稲妻に身を伏す子猫細く鳴く卯さきをん
吾子震え布団もぐりて稲妻や横地美恵
稲妻や逃げ惑う犬追いかける橋本結女子
赤子の手ぴくり産室の稲妻香織
稲妻や隠れし君に弛むほほ山本よし子
稲妻や耳ふさぎて駈ける子ら志田那子
稲妻や傘捨て夫の手を握る若竹芳子
稲妻はしりきゃと声あぐ六十女(むそめ)かな神本多貴子
稲妻に怯えしクロの換毛舞う生駒しのぶ
稲妻や子猫箪笥に飛び乗りて田中勝之
稲びかり鬼も逃げるやかくれんぼ湯流里参朗
稲妻と動ぜぬ夫と我が悲鳴日々生紡
稲妻に針持つ指のこわばりぬ入江幸子
稲妻や腕に幼子目に涙美乃
稲光帰宅のみちを怖がる子野上浩志
稲妻やべそかく子らがしがみつき有馬裕子
引き裂く、つらぬく、割れる
稲妻が空を裂く夕家を出るかもめ
あおじろく闇夜つらぬく稲光かんじゅん
稲妻や天空の城きりさきて渡辺貴砂江
ぱきぺきと空割るひかり稲の殿詠み人知らず
稲妻の鋭角鉄の塔を射す敬水
濃紺の空切り裂いて稲光佐保子
稲妻や湖面照らして突き刺さる山本康子
稲光山肌を裂く闇夜かな紫江
稲妻や硝子の空に走るヒビ秋まゆ
通夜の列闇引き裂きて稲交西嶋正身
後悔を切り裂いて落つ稲光理佳
一瞬
一瞬ににぎれず消える稲光Stella
シーンと音がして刹那稲光さだとみゆみこ
稲妻やその一瞬の潔さ聖月
漆黒の窓に稲妻刹那の画大山恭子
一瞬の畳を走る稲光中村純代
稲妻の一瞬驟雨を駆ける男白米
人生、生と死、決心、偲ぶ、思い出
稲妻やリセットしたき我が人生KISOBA・U.F.O.
いなびかり若気の至り胸の火にあかり
歳ふれば胸すく思い稲光りあきこ
稲光生ききる友の居る辺りこすみ
悩み病む吾を稲妻荒療治スッキリ
母の人生照らせ稲妻狂おしくとっちん
稲妻に背押され言葉切出しぬ愛弓
稲光生まれるいのち死ぬいのち綾夏
稲妻や旅立つ母と最後の夜霞草
稲妻や良くも悪くも60年海
稲妻を連れて産声上げにけり宮部里美
稲妻や一瞬想い出よみがえり玉響
最愛ののぼりし空に稲妻知らす犬山いぬこ
蒼極む空を稲妻友逝きぬ今井淑子
故郷の父母に届けよ稲光秋代
様々の生の終わりや稲びかり春耕
ゆらぐ決心の背中押す稲光純子
稲妻や孤了のきみの逝く偲ぶ森忠司
いなびかり鏡に母を思ひをり深幽
父と見し稲妻鮮烈引っ越しの夜清歌
稲妻が心に力湧き与え中山清充
稲妻届け初孫の誕生祝え美人教師
心音に吾子となりぬや稲光名ばかり宗幸
稲光り幼き記憶に音はなし柚香
急ぐ、あわてる、動きが止まる
稲妻に自転車駆ける帰り途いっこ
稲光りかごをかかえて帰路急ぐさかたちえこ
稲妻や缶蹴りの子の散り散りにすみ
犬も子らも帰途につかせり稲光のりぞう
山際を走る稲妻帰路せかし蒲公英
稲光あたふた探す知人の家吉成しょう子
息をのむ稲の妻みて湯殿より向井こうぼう
稲妻や凝視する猫笑う吾子江川月丸
稲妻に追われるような自転車の群れ紫陽花
走りくる吾子の早さや稲光室依子
公式を書く手の止まる稲光星乃沙耶
稲妻に追いかけられて急ぐ足千川小舟
グランドの生徒はダッシュだ稲妻だ村人
稲妻や車庫に逃げ込む下駄二つ駄詩
稲妻を見ず早足のランドセル中神主税
稲妻が自然と足を急がせる鶴谷緑平
道草に早く帰れと稲妻が田中玄華
急かさるる漕ぐ足闇の稲光田中紅雲
農夫走る青き田の原稲光萩時雨
稲妻やきみは立ち漕ぎ猛ダッシュ平田葉
稲妻に抱えて走る散歩道明良稽古
田んぼ、収穫、実り
稲光り祖父の田圃はあの辺りあつちやん
田がビルに変わりて惑う稲の夫おざきさちよ
稲妻や郷里の田畑手放しぬかわせみ
稲妻や俄冷気田を渡るさがの
稲妻へとどけ柏手よき実入りたすく
稲妻や田地にパワー注入すつちのこ
泥の田に力を西の稲妻よ久美子
稲妻や農婦ほくほく早じまひ桜姫5
稲妻や瑞穂の国の祈り込め三茶
漆黒に実れ実れと稲光小枝咲楽
稲妻や割れた田んぼのひびなぞる小池佑紀
稲妻や実る稲待つ夫と妻大山小袖(俳号)
作り手無し稲妻むなし先祖の田卓女
窒素増し根張り(ねはり)豊穣稲光武樹
湖などに映る
稲妻や天空のショウ湖に見るの菊
穏やかな湖面に映る稲光バン
龍、神など
稲妻に天井の龍爛々とANGEL
稲妻や神を見たよな惑いの夜オカメインコ
出番待つ龍のジャンケン稲光おぼろ月
信仰も科学も似稲妻プラズマカオス
神さまにポーズをとって稲光つぼみ
いなびかり昇る竜の絵にも似て愛子
稲妻を稲妻走りに昇る神横井隆和
赤道下跳ねるシャーマンと稲妻銀長だぬき
稲妻に姿現す御神木志村紫香
天を裂く龍神如し稲妻や松岡幸子
稲妻が産んだ亀裂に神宿る西村優美子
祈りすぎ天の稲妻怒りだす大本千恵子
稲妻やダナエと雨のゼウスめく中島圭子
稲妻や受胎告知の美術館巫女
雨
雨待ちの筑波のガマに稲光ひふみ
稲光土のにおいに雨感じむな
雨上る遠く稲妻父祖の墓修芳
畑の畝稲妻と共に雨を吸う小島理司
稲妻に振り向く同僚雨は未だ早帆
雨走る窓の稲妻なぞりけり藤井眞おん
恋
稲妻や車中に告知する別離ぐずみ
稲妻が恋の妄想打ち砕くシオン
稲妻や別れ話に雨落ちる縁恵
稲妻やコンマ二秒の一目惚れ宮本敏夫
稲妻やみのりを契る二人の夜三浦ごまこ
ギュッと掴むあなたの袖を稲光真冬
別れよう稲妻走る浮気妻大島サザエ
稲光待ってとび込む彼の胸惇壹
~を照らす、稜線くっきり
戦える道すじ見えて稲妻すけい子
放課後に遠き山映ゆ稲光しおみー
鈍色の雲浮き立たす稲光パシフィッコ
稲妻が揺らす子供の胸の奥ヘッドホン
天窓に見える稲妻部屋照らす稲垣由貴
稲妻や闇を明るき照らしをり円
稜線を網膜に灼く稲光加裕子
いなずまに花うかび立ちにびの空河合久子
絵本閉じれば寝顔を照らす稲光岩永静代
稲光捉えし稜線闇の雲吉田秀一
水平線照らす稲妻隠す雲畦布哲志
昏き窓稲妻照らす我が暮し慈悦
稲妻に山蒼ざめて浮かびけり春野いちご
闇の山稲妻に姿現し晴好雨独
山の背を不意に縁取る稲光中嶋純子
稲妻や遠く近くの田を照らし琵琶京子
臍
稲光あわてて臍を押える子あらさなえ
稲妻に臍をおさえし不惑前吉井迷哲
稲の妻隠しきれるかへそとくり水野白子
道標、案内
灯り消し星のかわりに稲妻をたま
喪の家へ矢印の案内稲光正岡恵似子
稲妻の道案内やトマト畑(はた)鷹野みどり
稲妻に打たれし幹の道しるべ鳩礼
分かつ、つなぐ
夕まぐれ昼夜を分かつ稲光岸本元世
稲光天と地つなぐ糸電話岩沢一行
稲妻や漆黒の闇断ち別つ真紀子
天と地をつなぐギザギザ稲光板倉文音
スポーツ、イベント
フェスの夜イナズマ真横おーと歓声阿部佐知子
稲光サッカー応援今日はなし笠原理香
稲妻にひとふり避けて待避場後藤博文
稲妻にバット残るグラウンド黒川光博
稲妻や野外ライブのラスト曲佐藤由子
眼下、足下に稲妻 ~の稲妻
浮雲の棚引く街を稲光きんのすけ
稲妻の下総辺り又光るやまちゃん
稲妻やキリマンジャロの曇り空甘納豆
稲妻は太平洋のまだ向こう月夜同舟
駅のかなたに稲妻を見て転び高橋なつ
稲妻やあちらは夫の住むあたり佐藤儒艮
稲妻ら眼下でスパーク宇宙基地山川芳明
足下に稲妻走る初登頂酔進
谷崎の京よ密かなる稲妻川瀬八弛
摩文仁の碑怒りと哀しみ稲光田良穂
二千段の社の先の稲光渡邉いろは
稲妻や羆の潜む深い森藤田真純
災害の少なき町へ稲光野紺菊
スマホ、パソコン
稲妻やLINEの既読つかぬままきなこもち
稲妻やエクセル講座あたふたしくれいじいそると
世の携帯の数だけ光るいなびかり加藤俊子
稲妻やオフラインにて着信す海野しりとり
その他
障子に稲妻の影さがしけり畑詩音
全盲の友のメールは稲妻だいいむらすず
稲妻を冬の旬だと思い違いしかめっ面
稲妻や寝汗か尿か羊水かももたもも
夕暮れてジョッキにはしる稲びかりれいこ
泣く子も黙る稲妻の子守唄錦之介
稲妻だギュっとリードを引き寄せる原口祐子
偏差値が下がり続ける稲光柴紫
稲妻を姉とおののき夜具被る水面
もの思う吾の気持ちはあの稲妻倉澤慶子
稲妻や天から探る忘れ物惣兵衛
稲妻は結局虹と似ているね増田典子
稲妻や頑固親父と子に言わる池田功
稲妻やあっちでほいで姉に勝つ八重葉
一人住む窓に稲妻なぜ悲し美山つぐみ
昼下がり稲妻に共振するスマホ浜けい
稲妻にいびき途切れることもなく野胡のこ
稲妻や実りの約束派手に来い櫻井弘子
稲妻や槍太鼓に輪が動くいずみ
イナズマやツワモノどもが夢の中いっちゃん
稲妻の姿に震え脳ドックシロクジラ
稲妻やタロットめくる指の震えすーぱーまみこ
風冷めて胸ざわめくや稲光たかし
曇天に無口な稲妻どこへゆくたなかとまと
稲妻や重い空気のザワザワとたんぽぽ
稲光まぶたこすってまた眠るバードマン
カーテンの隙間稲妻人の影ビバノンノン
里帰り稲妻の空最終便ひろ夢
稲妻や糖質制限やめますほしの有紀
稲光ママは笑顔でご本読むほりぐちみほ
稲妻やはやぶさ2はリュウグウへポンタ
稲妻や雨戸の間より強引にまち眞知子
万引き家族最終行に稲妻がみかん
稲妻や君をしとねにする香りミスト
稲妻に追われ泥んこの片足ゆすらご
稲光指さしつぐむ不乱の鉛筆りんご
田圃なき街や何産む稲光穐山やよい
稲妻や消毒したき水の星安曇野多恵
稲妻が単線電車と並走す伊藤悦子
稲光伝染をする勇気かな伊藤順女
縁側の劇場稲妻走る伊藤節子
稲妻や夜空貼りつくカラスかな井蛙
稲光慌てて打つは雷神太鼓井上早苗
稲光ビルにむらくも地の匂い一佐子
稲妻や妻に知られた涙跡永井基美
稲妻を吸い込んでゆく避雷針園田みゆき
はしゃぐ父と子稲妻ぴかりぴかり河村あさみ
稲妻や野良猫走る夕まぐれ花柊
停電の夜や眩しき稲光灰田兵庫
稲妻に背中押されて夫に寄る笠江茂子
稲妻に見た宇宙が秘める憤り茅ヶ崎典子
お池では遊ぶ鯉たち稲妻と関いと
稲妻に勝負勝負と吼ゆる犬基遊
稲光山掛け試験大当たり希林
稲妻や夜なほ暗き木陰かな宮坂変哲
稲妻の先に何かの兆しあり原田
稲妻や井戸端会議終わりとす原田民久
カンカンと指すサイレンや稲光鯉谷明日香
明日までもつか脚摩る窓に稲妻孝子
うつららと本を片手に稲妻よ弘
稲妻に窓のやもり二匹あり香子
稲妻の意志を受け継ぎ空が鳴る合間五百子
デロリアンに稲妻我が子にも根本佳城
付出しに錦糸卵やいなびかり砂山恵子
すっくと立て夜半に稲妻老い柏砂舟
眠り諦め見つめ続けるいなびかり榊昭広
稲妻とショートカットが背負い投げ作田尚子
朝の四時瞼横切る稲光山川恵美子
稲妻やバラ色の青写真消ゆ山田啓子
稲妻に来るなら来いと神経束をしぼる山本美紀子
稲妻や外気に代わり38度4分四十雀
稲妻や悪口一つまた消去市山利也
稲妻や窓に目をはせルージュひく鹿嶌純子
稲妻や蒼き崖立つ仔犬かな篠原三三子
稲妻や石鹸はねた露天風呂篠崎彰
青筋のごとき稲妻怒濤の天紗桜
稲妻と帰路の競争濡れて負け若葉苗
稲妻に遠吠え連鎖して恐々宗本智之
稲妻や大上段の活人剣秋水
稲妻や煎茶点前す老二人出井早智子
稲妻が迷う道撃つ漆喰の闇順和
稲妻よ被災地はそっとしておいて渚
稲妻にいるはずのなき人の影小笠原町子
稲妻や鏡は落ちてひび割れて小鞠
早暁の稲妻三つ休耕地小嶋芦舟
稲の夫我をめがけよ天の奥から小澤啓子
稲妻にブランコだけがゆーらゆら松浦晃子
はじめて席譲られし日の稲妻よ松浦苳
それ子たち稲妻のあいだに宿題を上田夏貴
天かける稲妻仰ぐ猫と我上田明子
稲妻や板書のリズム跳ね上がる城ヶ崎由岐子
稲妻や行こか戻ろか停留所森都
稲妻の由来を話す父の顔真範
稲光自転車立ちこぎせまる夕真優航千の母
稲妻や明日の天気を思ひをり星野茜
仰ぐ児を抱えゐる母稲光清水容子
稲妻や児のまばたきの繁くなり青柳ふみ子
夜間飛行稲妻踊る雲の上赤寝子
稲妻に挑む乗り子の太鼓たち川端孝子
柵握る子の目に走る稲光泉
稲妻や夜空の毛細血管泉子
稲妻や竜巻三筋定置網早川博子
稲妻や小籠包の小さき富竹伍
稲妻や傘はふり投ぐ登り坂竹口ゆうこ
稲妻とピカドン違うと母憂い中間幸代
稲光ペダル踏む足力入れ中間康博
憧憬は椰子の葉ゆらす稲妻か中谷典敬
稲妻や仮面ライダーポーズの子田中洋子
稲光あやしく光る暗き昼渡邊さゆり
稲妻ひかる夕餉へ駆ける滲みる靴嶋村紀子
稲妻や波形崩れる心電図徳
くの字くの字にいなずま光る黒き空二宮陽子
捨てられぬ小さきこだわり稲光波の音
老猫を抱き窓に寄る稲妻も梅納豆
稲妻や縁側で囲碁老農夫梅里和代
健やかな寝顔を切り取る稲光飯島康司
稲妻やロケットの如し走り抜け尾添ひろ美
稲妻とモニターフラットまじろがず美帆
稲妻に鍬持つ祖母が腰伸ばす冨野千月
葉を摘みし庭に稲妻老い柏福ねこ
稲妻や大盛激辛カレー食ふ文月さな女
稲妻や眠り覚まされ湯飲み取り本銅守
稲妻や風雲急を告げる闇麻琴
耳遠き母が見ている稲光桝元智子
稲妻や胸に飛び込む孫いとし湊かずゆき
稲光わら屋根の色まだらなり妙子
稲妻に痴呆の母が笑みを見せ無頓着
稲妻や三度目にそと鍵を差し野曾良
稲妻や一之太刀に宿りけり野中泰風
稲妻を綺麗だと言う兄不思議矢川コウ
稲妻のタクトよビビれ大太鼓矢野茂樹
稲光赤ちゃんの顔めっちゃ怖柳光辰
稲妻の音なき音に耳塞ぐ有迷人
稲妻を「きれい」と言う祖母逃げる孫湧津雅子
落ちたよね稲妻の先どこの街遊
稲妻に映る鏡の紅の色葉月けゐ
たまりかね呼ぶか稲妻枯れ野菜里恵子
稲妻や一縷の望み安否待つ琉璃
稲妻や話途切れて笑い合う亮介
稲妻やカタカタ回る換気扇鈴木(や)
稲妻や被災情報たにんごと鈴木あむ
稲妻の近づくまでの闇ぞ濃し鈴木眞嘉
稲妻に仁王照らされ凄みます連雀
軽やかに稲妻白く割れて指す和代
宇宙より眺む稲妻瞬くショー惑星のかけら
稲妻やタイプふと止む18階瀟白
稲妻やドリブル模様の回路かな祺埜箕來
牙をむき何に怒るか稲妻よ齋藤典子
稲妻夜田水観し人還り来ぬ茉莉花
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
「稲妻」と「雷」の違い
「雷」は夏の季語、「稲妻」は秋の季語です。以下は、「雷」と混同している(音が鳴る)と思われる句です。二つの季語の違いについて、歳時記を詳しく調べてみましょう。
- 寝てる時稲妻がなり目が覚めたイスラム
- 酷い音稲妻の顔雨豊富HAJILOVKAMIL
- 空爆ぜて万朶の奥へ雷火逃ぐえんやこら
- 稲妻や息を潜めて音を待つさきまき
- 稲妻で聞こえないってばアイラブ・ユージュリー
- 稲妻を聴いたよな気がした目覚めの~しん
- 稲妻やかすかな音と光ありふじたけ
- 稲妻夜恋の告白聞き取れずライムライト
- 稲妻やとどろきわたり雨戸閉め井村澄子
- 音のやや遅れて聞こゆ稲光岩野翠
- 稲妻や聞き耳たてるわれ一人枯楓
- 真夜中のシャツ干す間に遠雷孝啓
- 稲妻の鳴り響くなか子の寝息川畑彩
- 窓際の猫の目光る遠雷や早山
- 稲妻や遠くで響き姿見ず多田ふみ
- 稲妻雷鳴雲から腕が子ら走る楠田たか久
- 稲妻に負けぬ産声上げる吾子夕凪
「季重なり」を成立させる。
- 障子に稲妻の影さがしけり畑詩音
「障子」は冬の季語です。上五にいきなり「障子」とくると、読み手はまず冬を思いますので、語順を変えることで、脇役の季語の印象を薄める方法もあります。
【添削例】 稲妻の影を障子にさがしけり
季重なりの場合は、主役の季語と脇役の季語を区別できる工夫をしてみましょう。
7月兼題『稲妻』は1,772句もの投稿をいただきました。初めて投稿くださる方も増えてきています。4月の開始から7月までの累計で、6,027句もの投稿をいただきました。たくさんの投稿、誠にありがとうございました。
8月以降も引き続きたくさんの投稿をお待ちしています(編集部より)。