夏井いつき先生の俳句生活

夏井先生のプロフィール

夏井先生のプロフィール

夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。

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12月の兼題

「雪催い」

2月の審査結果発表

兼題「野焼」

お待たせしました!2月の兼題「野焼」の選句結果を発表いたします。
毎月、俳句生活を盛り上げてくださるみなさまに、大事なお知らせがあります。4月1日より投稿のルールが変ります。詳しくはこちらをごらんください。
これからも俳句生活をどうぞよろしくお願いいたします(編集部より)。

「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。

天
ヨシキリの空の巣ひとつ明日野焼

菱田芋天

夏井いつき先生より

「ヨシキリ」は夏の季語ですから、「ヨシキリの空(そら)」とは、ヨシキリが飛ぶ夏空かと思うのですが、「~の巣」と続く。そうか! 「ヨシキリの空(から)の巣ひとつ」なのだと理解し直します。
 この句が凄いのはここからです。下五「明日野焼」で、野焼前日の光景であることが分かり、「野焼」は早春の季語ですから、この巣は、去年のものなのだと気づくことができます。明日ここら辺りは野焼の火に覆い尽くされ、この巣も焼き尽くされてしまうのです。眼前にあるのは、空っぽの古い巣だけなのに、明日の野焼の炎を見せ、やがて萌えだす青草を思わせ、新しい巣を作り始めるヨシキリの様子も想像させる。この句は、季語「野焼」の本意の一つ、再生される命の賛歌を見事に表現しているのです。

地
野焼の奥より風向き変わったと怒号

さとけん

「野焼の奥より」という措辞による遠近感。風向きが変わったことを知らせる「怒号」が、リアリティをもって読み手の耳に届きます。独特の破調も内容に見合った緊迫感を表現していて秀逸です。

混線の無線野焼の急接近

高橋寅次

「無線」も、野焼の現場ならではの句材ですね。「混戦の~」という措辞が、無線の雑音やその場のやり取りなど具体的な映像を想像させます。「急接近」の名詞止めも、臨場感を表現して効果的。

野を焼いて千羽のからす渦巻けり

登りびと

「野を焼いて」とゆっくり詠いだした後に出現する「千羽のからす」の迫力。その真っ黒な動きを「渦巻けり」と描写したのも巧いです。火の赤、焼けゆく野の黒、烏の動き等、映像的な一句です。

トイレにて野焼退避のアナウンス

いさな歌鈴

 季語の現場に実際に立ってこその句材。公衆トイレに入ってる時に「退避」を呼びかける放送が始まるとは! ちょっと慌てつつ、いよいよ季語との遭遇だ! という俳人的緊張感も伝わります。

雨止みて三キロ先の野焼の香

ギル

「三キロ先」って何? と思ったとたんにでてくる「野焼の香」が巧いですね。雨によって火は消えているはずなのに、野を焼いた匂いは残っている。これも「野焼」を実体験してこそ書ける一句。

人
  • 急き立てて追ひ詰められて野火の哭く高橋寅次

  • 中腹の巨石の辺りまで野焼高橋寅次

  • 野焼果つ走る観光課の新人高橋寅次

  • 野焼見つつシケモクに火をつけてみる菱田芋天

  • 草赫し野焼の空に残る月菱田芋天

  • 奈良側に抜くれば淡き野焼の香戸部紅屑

  • 拭ひあふ家路野焼の煤の顔戸部紅屑

  • 月ひとつ野焼をさますには足りぬ斎乃雪

  • 根の国は業火野焼の爺暢気斎乃雪

  • 長兄の渾名で点呼され野焼西川由野

  • 野焼へとハンドブレーキきつく引き西川由野

  • 野火猛り出す拡声器はハウリング佐藤儒艮

  • 対岸の野火や酸い風のたゆたふ佐藤儒艮

  • 野火叩くモヒカン刈の研修生あさのとびら

  • 野焼まで愛宕の山は笑はないあさのとびら

  • 野を焼いて残る山影塩むすび足立智美

  • かさぶたのはずだが痛む野焼かな足立智美

  • 波のごと焔打ち来る野焼かな安春

  • 野焼果て空に張りつく昼の月安春

  • 太陽を休ませてゐる野焼かな大和田美信

  • 野焼して頬が何かに濡れてゐる大和田美信

  • 采配は氏子総代けふ野焼にゃん

  • 第二分団走る野焼の防火帯にゃん

  • 野焼終え石碑の文字の現れるいさな歌鈴

  • 己が火の起こす風にぞ走る野火いさな歌鈴

  • こんな大きくなるはずじゃなかった野焼さとけん

  • 己が火にたじろぐ野火を叩きけりさとけん

  • 野焼き果て鼻腔にこびりつく何か秋沙美洋

  • 野焼き果てまだ形ある何かの腑秋沙美洋

  • 煤まみれに野焼き果つ風呂だ風呂だ朝月沙都子

  • TVクルーが叱られてゐて野焼朝月沙都子

  • 野を焼けば生温き夜の被さり来あずお

  • 真つ直ぐに立つは吉兆野火の煙あずお

  • ぬたうつ野火追いてぺちぺち火消棒あまぐり

  • ヘルメット並ぶ野焼に鍔向けてあまぐり

  • 明王の剣唸りをる野焼の火飯村祐知子

  • 野を焼くや火伏の水をまきながら飯村祐知子

  • 野火果てて風なまぬるくあるばかりいかちゃん

  • 人類に禁忌のありし野焼の手いかちゃん

  • 遠まきの頬に野焼の粗熱来池内ときこ

  • 野を焼いて来し瞳孔のおとこかな池内ときこ

  • 野焼して消防団に貸し一つ池田華族

  • 溶けてゆく野焼に投げたフォトグラフ池田華族

  • 豊作となる方角へ野焼の火池之端モルト

  • 野焼せし地より腕無き地蔵尊池之端モルト

  • 我ヤマトタケル野焼の草を薙ぐイサク

  • 野焼して太陽赤く焦がしけりイサク

  • 国生みの島てふ淡路野火走る石塚彩楓

  • 山彦がお忍びで野火見物に石塚彩楓

  • そこはもう闘ひのあと野焼あと石原由女

  • 憂ひごと火の海となる焼野かな石原由女

  • 鳥声を焼かんと野火の猛るかな板柿せっか

  • 堤焼く皮膚を剥がしてゆくごとく板柿せっか

  • ふつくりと土持ちあがる野焼あといづみのあ

  • 火焔土器めらめら揺れる野焼かないづみのあ

  • 海はるか大室山の野焼かな糸川ラッコ

  • 野を焼けば山のかたちの揺らめきぬ糸川ラッコ

  • 勢子の背へ襲ひかかるや野火猛る伊奈川富真乃

  • 鼻の煤袖にてぬぐふ野焼酒伊奈川富真乃

  • 魁が殿となる野火の風うさぎまんじゅう

  • 野火点けし庭師の所作の神事めくうさぎまんじゅう

  • 火付けせんと思ひしことあり野焼宇佐美好子

  • 踏み分け道現れたるや野焼後宇佐美好子

  • 燃やしてまた初めからつて乱暴だな野焼潤目の鰯

  • 根を齧る赤き鼠のゐて野焼潤目の鰯

  • 日輪も巻き添えになる野焼の火朶美子

  • 野を焼いて漢ハーレーに跳び乗れり朶美子

  • 行き交ふはお国訛りや野火走るえんかず

  • 村中の軽トラ集う野焼かなえんかず

  • 縁側を野焼の風の濃き薄きおおい芙美子

  • 瘡蓋の痒みをたたく野焼の夜おおい芙美子

  • 野焼きの火風の形を見つけたり大紀直家

  • 喉の奥灰残したる野焼かな大紀直家

  • 野焼終へ見張りを残し酒を酌む大谷如水

  • 眠さうな一山起こす大野焼大谷如水

  • やはらかき歌にたゆたふ野焼かな魚返みりん

  • 肋骨にざらりざらりと野焼かな魚返みりん

  • あれ埋めしあたりに野火のいたりけり可笑式

  • 野を焼けばあかるき潦いくつ可笑式

  • 野焼して父に薄荷の匂ひかな岡田雅喜

  • 「おう」と来るをとこ八人野焼守岡田雅喜

  • 野焼して平原星の創世記おきいふ

  • 人の声野火を真中へ押し戻すおきいふ

  • 風向きに撤回できぬ野焼なりおこそとの

  • 野焼の火かけ上がる胃の芋焼酎おこそとの

  • 九時方向班長の声追ふ野焼オサカナクッション

  • 詰まる息の吐き処など無く野焼オサカナクッション

  • 野焼眺めて吃逆はよく止まる小野睦

  • よくもまあこんな処を野焼とは小野睦

  • 前世を犬が見てをり野火さかん海音寺ジョー

  • 野火猛る平成の漫画誌が舞ふ海音寺ジョー

  • ひとつまみ野焼きに残る風のあり火炎猿

  • 来し方を裏返しゆく野焼かな火炎猿

  • 野焼の火見てより胸のさうざうし霞山旅

  • 大空の裏側のごと野焼跡霞山旅

  • 大地には小さき痒み野焼かな花伝

  • 堤焼く穏やかな死を否定して花伝

  • 草を焼きぴたりと止める畑境亀山酔田

  • 野を焼くに明日の指示と飯の数亀山酔田

  • 半島の半分ほどの野焼かな花紋

  • 大野焼龍は片眼を開きたる花紋

  • 幾百のスマホの窓に野焼燃ゆ加裕子

  • 野焼跡我の死体のあるような加裕子

  • リアカーに子犬待たせて野焼かな川村湖雪

  • 梵字なりあの田の野火のはじまりは川村湖雪

  • 暗闇を濡らす野焼の焔かな喜祝音

  • 野焼あと一番星の煤けおり喜祝音

  • 火種曳き先づは従順なる野火よ北藤詩旦

  • 絶え間なく咀嚼の音のごと野焼北藤詩旦

  • グラサンに野焼の哮る支団長北村崇雄

  • ツーリングの列に野焼の包囲さる北村崇雄

  • ぢりぢりと焦げたる馬糞野焼跡きなこもち

  • 捨てられたエロ本爆ぜる野焼かなきなこもち

  • 野火の壁おーいと声をかけてみる祺埜箕來

  • 野焼開始消防隊員前へ祺埜箕來

  • 通訳の人に群がる野焼かな城内幸江

  • この靴を履いて野焼に来ちまった城内幸江

  • 野焼の跡に星待つことのありにけり清島久門

  • 野を焼きて残りし鬼の角二本清島久門

  • 生臭く這ふや野焼の心臓部

  • 昼の月淡し野焼に立つ煙

  • 口ずさむ戦艦ヤマト野焼なか久我恒子

  • 野を焼くや宇宙に星を増やしつつ久我恒子

  • サヘラントロプス・チャデンシスの頭蓋の色の野焼跡ぐでたまご

  • 野火走る中に銃声の混じるぐでたまご

  • 野焼の日昼からやけに肉が売れ倉木葉いわう

  • 野焼とは相性悪く水瓶座倉木葉いわう

  • 野焼してピザにタバスコたっぷりと紅さやか

  • 龍の舌空へ荒ぶる野焼かな紅さやか

  • 野焼して細胞の核焦げているけーい〇

  • あとはただ無糖コーヒー飲む野焼けーい〇

  • 野焼果て岩波文庫の匂ひかなケレン味太郎

  • 生存者のようにスコップ野焼き跡ケレン味太郎

  • 手の影の先より野焼始まりぬ公木正

  • 野焼あとしばらくなにもない人生公木正

  • 渡良瀬の起伏あらはに野焼果つ幸田柝の音

  • くろぐろと朝を濡れたる野焼跡幸田柝の音

  • 阿蘇山家野焼斎場こちらです→古賀

  • 一年の光の火葬野を焼けり古賀

  • 野焼終え酢豚に黒酢効かせたる木染湧水

  • 野焼見る少し苦手な人と見る木染湧水

  • 野焼せる農夫の黒き鼻の穴今野淳風

  • 火の色の褪せて野焼の空いびつ今野淳風

  • 咽頭に張り付く野火の塵埃斉藤立夏

  • 野を焼くやウェストポーチの薄荷飴斉藤立夏

  • 野焼きの火浴み足りし身をいま返す榊昭広

  • 野火いまや尽き果ててをり身をはがす榊昭広

  • ころげるか天は野焼ぞだんご虫坂まきか

  • ライブ配信を正座秋吉台野焼坂まきか

  • 髪を洗えばぶわっと匂う野焼かな座敷わらしなつき(9才)

  • 野焼きが来るぞ天道虫を逃がしたよ座敷わらしなつき(9才)

  • 湾内へ降りる野焼の熱き風紗智

  • マンモスの這うた足跡大野焼紗智

  • 灌木の骨累々と野焼跡真井とうか

  • 毛穴の底まで燻されて野焼かな真井とうか

  • 道祖神一時御鎮座野焼本部沢拓庵

  • 鬼岳の鬼へ願いの野焼かな沢拓庵

  • 走る火を火で迎へ撃つ野焼かなしぼりはf22

  • 熊撃ちの勢子も火を追ふ野焼かなしぼりはf22

  • 少年と聴くは野焼の風の音島田あんず

  • 犬ひくく唸り野焼きの風おこる島田あんず

  • ラジオより迂回促す野焼かな嶋田奈緒

  • 明日野焼だから電話するなと母嶋田奈緒

  • 山も野もバスも呑気に野焼かな清水三雲

  • ペライチの回覧で知る野焼かな清水三雲

  • 消防員の急な募集や野焼後芍薬

  • 野焼の夜じっちゃがやけによくしゃべる芍薬

  • 野を焼けば子を呼ぶ山羊の細き声じゃすみん

  • 野火のあと巨神のごとき杉の洞じゃすみん

  • 飛火野の雨を待たせて野焼かな沙那夏

  • 九相図や遠くに野焼始まりぬ沙那夏

  • 風読みの狼煙めくかな野火の空シュリ

  • 加具土命の舌が伸びゆく野焼かなシュリ

  • 野を焼いて剥がしても剥がしても野常幸龍BCAD

  • 名前なき野でも焼かねばなりません常幸龍BCAD

  • 猛る火を手懐け了る一日かなジョビジョバ

  • 太陽の黒点の香野焼跡ジョビジョバ

  • 地の神の目玉は四つ大野焼白プロキオン

  • 草喚く野焼や風神など居らぬ白プロキオン

  • 先づ水を捧げ今年の野焼せり白よだか

  • 飯を炊くように野焼が始まれり白よだか

  • 廃校の土俵に迫る野焼かな新濃健

  • 村の名の袢纏焦がす大野焼新濃健

  • 夜の雨に匂ひ鎮まる野焼かなしんぷる

  • 青年に還る還暦野を焼きぬしんぷる

  • ボタの野火霞むや三池闘争史すがりとおる

  • 手鏡に唇映す野火の窓すがりとおる

  • 風強し野焼延期の無線あり晴好雨独

  • 家路へと野焼の匂ひ嗅ぎながら晴好雨独

  • 野火消えて海峡の色深まれり清波

  • 猛る野火見し夜に長子生まれけり清波

  • 目深なるフード野焼に小雨きてせり坊

  • 野焼して黒き鼻汁袖に拭くせり坊

  • 野焼きの火富士を敬ふごとく燃ゆそうま純香

  • 外輪山野焼きの後の傷多きそうま純香

  • 僧の来て野焼の色の変はりけりそうり

  • 走り行く野焼きに町は歪み出すそうり

  • 祖父の影水にゆらぎし野焼かな染井つぐみ

  • 白髭にすす混じりたる野焼かな染井つぐみ

  • 野焼の火喫んでふくよかな青天高尾里甫

  • 影という影のゆれ野焼は盛り高尾里甫

  • 野焼果つ耳に弔ふやうなぱちぱち高田祥聖

  • 野焼見る あれは怖くないほうの火高田祥聖

  • 草魂のぱりこりばりごり野火となる多事

  • 男らは国盗りのごと野火を曳く多事

  • 危ない火はさつさと潰す野焼かな多々良海月

  • 行儀良き炎を残し野を焼けり多々良海月

  • 猿と人のあはひへ還る野焼かな田中木江

  • 野焼てふ殺風景を後ずさる田中木江

  • 一村の野焼にけぶる豊肥線谷町百合乃

  • 野を焼いて祖母山渡る新風かな谷町百合乃

  • 火も草も反抗期めく野焼かな玉木たまね

  • 津波めく野火を夜空に送りけり玉木たまね

  • ガードレールにぶつかり野焼き朦朧と玉庭マサアキ

  • 打ち寄せる野焼へぶつけたる野焼玉庭マサアキ

  • 見物の眼の熱をもつ野焼かな玉響雷子

  • 長靴の底のゴム臭野焼跡玉響雷子

  • 猛りくる野焼き川辺にきて止まる田村利平

  • 鶴翼の型にくろぐろ阿蘇野焼田村利平

  • 野焼き終ふ灼けぬところはまたこんど丹波らる

  • 野焼き終ゆ物欲しそうに来る烏丹波らる

  • 野焼果てうす汚れたる陽がひとつちゃうりん

  • 野を焼く火そいつは制御できる火かちゃうりん

  • 野火守の卵殻ひょいと放りけりツカビッチ

  • 焼け果てて野焼のぽつと収まりぬツカビッチ

  • 灯台を孤島のごとく野焼の火露草うづら

  • 野焼果て海の気配の濃くなりぬ露草うづら

  • 野焼き後の火の番がてら畑めしツユマメ@いつき組広ブロ俳句部

  • 野焼き後の夜回り月を見るついでツユマメ@いつき組広ブロ俳句部

  • 火葬場の行きも帰りも野焼跡てまり

  • 野焼見る天然水を飲みながらてまり

  • 野焼して大地ぐらりと歪みけり天陽ゆう

  • 地の底のみづ累々と野を焼けり天陽ゆう

  • 遠野火や逃げ来し蝶のやうに灰とかき星

  • 野焼して火星の暗く匂ふかなとかき星

  • 救いたる小さき卵や野を焼きてどくだみ茶

  • 地の力試されており野焼跡どくだみ茶

  • 蒼空明るくて野焼地味だつたトマト使いめりるりら

  • 野を焼きて風の糖度を触診すトマト使いめりるりら

  • 野を焼きてうつくしきもの土の奥とりこ

  • 野を焼きて次鋒の家へ集いけりとりこ

  • 鳥葬の跡を蔵せし野焼かな内藤羊皐

  • 祝祭の如く禽啼く野焼かな内藤羊皐

  • 野火走る岬の果ての海の色中岡秀次

  • 東歌聞こゆる毛野の野焼かな中岡秀次

  • 野を焼きて蛇口の水を口いつぱい中原久遠

  • 明神に清酒ふるまひ野焼へと中原久遠

  • 吠えているばかりや野焼番の犬新蕎麦句会・凪太

  • 太陽の痛がっている大野焼新蕎麦句会・凪太

  • 野焼してもしても鳥の国に戻らぬ七瀬ゆきこ

  • 野辺焼ける点火したのは赤い月七瀬ゆきこ

  • 野焼見て踵(きびす)は軸になりにけり尼島里志

  • 目も口も閉して風と野焼かな尼島里志

  • 野焼見る妻の瞳の潤みおり西村小市

  • 口開けて呆けおりたる野焼かな西村小市

  • 金の粉を撒いて野焼は空を焚く仁和田永

  • 野を焼けり地神の息吹賜りて仁和田永

  • 見張りつつ競馬中継きく野焼馬祥

  • 臨月の妻とみてゐる野焼かな馬祥

  • 白富士を攻めるが如き野焼きかな馬笑

  • ティーショット野焼きに向けて放つなり馬笑

  • 神獣の都を出づる野焼の夜長谷川小春

  • 野焼果て朝をひとりの湯浴みかな長谷川小春

  • 紺碧の海すさみゐる野焼かな早田駒斗

  • 風は火を研ぎて野焼の宵の底早田駒斗

  • 上空を自衛隊機や野焼果つ巴里乃嬬

  • 野火の底青き水満つ鍾乳洞巴里乃嬬

  • 升池の水面へ烈し野焼かなひでやん

  • 野火付けて回る一家の笑ひ声ひでやん

  • 引きしぼる即ち野火となる火矢を比々き

  • どろどろと太鼓囃せば野火走る比々き

  • 錆びついた心ぎぢぎぢ野は焼かれ平本魚水

  • 野焼はげしくて悲しみはみづうみ平本魚水

  • 野焼く火の清しく尽きし夕間暮れ風慈音

  • 野火の這ふ風を率ゐて野の目覚む風慈音

  • ぷすぷすと煙ふて腐れて野焼藤田ゆきまち

  • もうもうと野焼の意志のありにけり藤田ゆきまち

  • 野焼して涙のやうな雨降りぬ藤雪陽

  • 野焼の火激しや痒くなるもゝた藤雪陽

  • 撤収の聲ひび割れてゐる野焼古瀬まさあき

  • 野焼の香させて野焼のこと言はず古瀬まさあき

  • 胃に水のつめたく揺るる野焼かな古田秀

  • 野を焼くや山向ふより軍用機古田秀

  • ハッカ飴苦くなりゆく野焼かな碧西里

  • 野を焼くや阿蘇の乾きを寿ぐや碧西里

  • 十秒を軽々切って野火走る堀卓

  • 火に遊び色に溺れる野焼かな堀卓

  • 心臓にしまふ野焼の火の一片ほろろ。

  • 血はとうに乾ききつたる野焼の手ほろろ。

  • 貧血に臥せる日遠く野焼あり真冬峰

  • 野焼き果て躯の芯にひかり埋め真冬峰

  • 大野焼脇百姓に世継ぎなしまんぷく

  • 野焼きしてみづの御霊の鎮まるるまんぷく

  • 火の鳥の生まれしはこんな野焼だろう三浦にゃじろう

  • 野焼かな火はいつも同じ色して三浦にゃじろう

  • ぐんぐんと野焼の焔立ちあがるみなと

  • 追い風にカメラの走る野焼かなみなと

  • 巻貝の化石のかけら野焼果つ南風の記憶

  • 野焼跡運航は明日より再開南風の記憶

  • 野焼して眼の奥くらき農夫かな水面叩

  • 野焼してバレエ教室まで煙る水面叩

  • 野焼放つ乱れ始むる風の息宮坂暢介

  • 遅参せし野焼の風を一気飲み宮坂暢介

  • 野火猛て空との間(あはひ)みづみづし宮武濱女

  • 野を焼くや千年前は船着き場宮武濱女

  • 火と走るちから衰え野焼かな美山つぐみ

  • 農家父子急所教える野焼かな美山つぐみ

  • すでにおとなの目もて見つめる野焼かなむうさく

  • 奇声なく火のはなたれし野焼かなむうさく

  • 野火の風おこして雲を動かせり紫小寿々

  • 野焼きする酒呑み達は共犯者紫小寿々

  • 野焼終へ昼餉に集ふ歯の白し暝想華

  • 夕野焼風にもののふ見たやうな暝想華

  • 野を焼けり神の牧地のおほどかに山内彩月

  • 土地神に牧を乞ひたる野焼かな山内彩月

  • 車窓から野焼の農夫七人目山﨑瑠美

  • 婆ちゃんも野焼も同じ匂いする山﨑瑠美

  • 低予算映画のやうな夕野焼山田蹴人

  • 独り言くすぶるやうに野焼かな山田蹴人

  • 爺ちゃんの空も野焼の色となる結壱隆月

  • 野を焼きてひとりぼつちのごとく見ゆ結壱隆月

  • 野焼あと身体震はせ出す尿葦たかし

  • ほどけゆく野焼の匂ひ妻を抱く葦たかし

  • 僧の血を滾らすほどの野焼かなラーラ

  • 野火果てて常と変わらぬ夜となるラーラ

  • 宇宙では野焼十円禿のごと雷紋

  • ぷすぷすと大地文句を言う野焼雷紋

  • 煙這う明るき野火の上を這う蓮花麻耶

  • 高々と野火を越えくる父の声蓮花麻耶

  • まほろばや野焼く焔に酔ふごとしRUSTY=HISOKA

  • 遠野火や土神さまの恋かなしRUSTY=HISOKA

  • 死火山の火口へ野火の走りけり樫の木

  • 野焼の火急に膨らむこと三度ギル

  • 満月に墨絵のごとき野焼きあと葵かほる

  • 明星の肥えて野焼を仕舞う声葵新吾

  • 野を焼くる火の粉の行方昼の月蒼空蒼子

  • 野焼き終へ缶コーヒーのプルトップ仮名鶫

  • 大野焼昨日焦眉の香ぞ黒し叶黄不動

  • 八ミリのフィルムに映る野焼かな今藤明

  • 心臓の形して終ふ野焼き跡紫瑛

  • 拍動は小暗き野火に沈みつつ滝川橋

  • 崖を研ぐ波音高し野火の果て谷川下沖

  • 泣けるのは野焼の煙のせいかしらつきのひと

  • 午後五時のメロディーは鳴り野焼終ふDr.でぶ@いつき組広ブロ俳句部

  • 日曜の野焼担当観光課原田民久

  • 支流から大河となりぬ大野焼連雀

  • 野焼きへの合掌震災の跡地佐藤美追

  • 道祖神土手駈け上がる野火の中あ・うん

  • 風起こし風を従え野焼かな愛燦燦

  • 町内放送野焼の灰と知らせをりあいだほ

  • 野を焼きて咆哮没むしじまかな藍野絣

  • 火の神が怒らぬやうに野焼する青い月

  • 申請の通って無事に野焼きせりあおいなつはやて

  • 横一線川まで攻め込む野焼きかな青井晴空

  • 乾坤まで焔走りて夕野焼青田奈央

  • ボアボアと野焼の炎貌を出す蒼鳩薫

  • 消防と警察仰ぐ野焼かな蒼來応來

  • 遠野火や死に後れたる者つどふ赤松諦現

  • 野を焼くや旧友らしき消防士赤馬福助

  • 阿蘇の馬のつこり戻る野焼して明惟久里

  • 火を御する者となったか野を焼いてあさいふみよ

  • 風吹いて鳴り止むジャズと野焼かなあ須藤かをる

  • 不死鳥は野焼の原に生まれけり畦のすみれ

  • 野焼する男衆の手に水ぶくれ雨戸ゆらら

  • 尿してさてと始まる野焼かなあまぶー

  • カルストの野焼き〆日の生配信あみま

  • 阿蘇野焼ゆたかに闇の生まれけり有本仁政

  • サンドラは刺子法被を撮る野焼アロイジオ

  • 火の神が烙印を押す野焼あとアン

  • 息止めて突つきれど野焼の煙石井一草

  • 陽石のごろんと黒き野焼かな石井茶爺

  • 放たれし炎のドミノ野焼かな石岡女依

  • 野焼に木々は我慢するかに動かない石崎京子

  • ダンゴムシ野焼きの前夜の寄合磯野昭仁

  • 天と地を分くる野焼に怯えけりいたまきし

  • 風鐸の静かなる夜野焼かないつかある日

  • 大仏の半眼朱く大野焼伊藤亜美子

  • 半纏の緻密な織目野焼く朝井中ひよこ号

  • 野焼日やスクランブル機発動すいまにしともき

  • 満々と草焼く傍のバケツかな入江幸子

  • 荷台から振り返り見る野焼かな彩人色

  • 清めの祈りまなうらに赤野焼の夜いろどり五島

  • 野焼の火猛りを迎えの火が鎮め色葉二穂

  • 野を焼いた男と思ふ背も腹もウィヤイ未樹

  • ぼんやりと地球に立っている野焼上野眞理

  • 大阿蘇の地を捲りたる野焼かな上原淳子

  • 野焼き見る昔馴染みとわれの影ウスキシュウジ性

  • おにぎりに野焼の灰の降りかかる内田英樹

  • ここまでと野焼の線を地図に引き海口竿富

  • 買ひ食ひの道や野焼きの匂ひけり海野碧

  • ひのもとの臍も灸治のごと野焼うめがさそう

  • 野焼したとこだけ空に穴が空く浦文乃

  • 風たちて手負いの獣めく野焼浦野紗知

  • 野焼跡きのう焔であつた土江藤すをん

  • 湯呑みには煤逆巻きの野焼かな江戸川舟

  • 天つ日の男言葉の大野焼M・李子

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佳作
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  • 野焼きして芽ばえぬ原の風の歌今井淑子

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  • まん丸の姿露に野焼かな井松慈悦

  • あれは野焼きか吾は瓦斯火で肉を焼く今村ひとみ

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  • 胸中を風抜けて行く野焼以後岩木順

  • 雨兆呼ぶ竜が如くに野焼駆け伊和佐喜世

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  • 雑念をくべて煙たし野焼かなわたなべいびぃ

  • 風上に三世代立つ野焼きかな黎成

  • 中3の娘の膝の野焼跡ろんろん

  • 足元に果ててしまひぬ野焼の火渡邉久晃

  • 一歳の重みを肩に野焼かな渡邉わかな

  • きらはれるならば畏れられよ野焼渡邉桃蓮

  • 圧巻の野火の踊るや草千里渡辺陽子

  • 時折に怒声飛び交う野焼かな侘介

  • 野焼の地生まれ変わりを嫌われて笑笑うさぎ

今月のアドバイス
夏井いつき先生からの一言アドバイス

俳号には苗字を!

〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて姓をつけていただけると、混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。


●先月の兼題!

  • 空も吾も風も泣きたし風花す岩のじ
  • 巡礼の鈴へ風花埋もれりまこちふる
  • 動物園かざはな光る命名日珠桜女絢未来

○タッチの差で〆切に送れたのかも……。


●文字化け?

  • 息を?むハイスピードや野焼の火亀田?

○「息をのむ」かな? さらに俳号も文字化け。これこそ、まさに無念……。


●俳句の正しい表記とは?

  • 還暦や あと何回の 野焼かな加藤雄三
  • 無焼観て この山の先 期待する服部コナン

○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪


●季重なりとは

  • 野焼きした香に誘われしつくしの子あいあい亭みけ子
  • 寒いよねふたりで見たね奈良野焼石橋千佳子
  • 動物と春を彩る野焼きかなお寺なでしこ
  • 肌寒い煙いかほり野焼かなかわら俳句人
  • 漆黒の白き息吐き野焼果つ斜楽
  • 春雨の畑に野焼きの灰黒く大河快晴
  • 山動く野焼きの風が春まねく玉置むつみ
  • 登校の吐く息白く野焼きの香ばぅ
  • 湯布院の野焼きの春や空まだら福次朗
  • 青い空野焼きのあとにつくしさく佐々木邦綱
  • 西日眩しいサイドミラーの野焼かな田本莞奈

○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「野焼」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。


●兼題とは

  • 手前屋根まぶし後方は春がすみ北田政文
  • 小山ゆく寒さなめとる橙の帯樹緑
  • 手作りの凧の上行くオスプレイ国芳みさと
  • 邦人や移民の一人初詣二コラ・ブレンダン

○今回の兼題は「野焼」です。兼題を詠み込むのが、たった一つのルールです。

  • 野焼の如くサバクトビバッタ、嗚呼鍵盤ポロネーズ

○確かに「野焼」という言葉が入っていますが、比喩として使われています。むしろこれは、「サバクトビバッタ」が主役ですね。


●季語深耕

  • 故郷の土の残り香野分中三宅剛

○「野焼」は春の季語、「野分」は秋の季語です。

○今回、「末黒野」という季語を使ったものも三十句ほどありました。ページ数の少ない季寄せやネット歳時記等で、「野焼」「末黒野」を一括りで解説しているものもあるようですが、基本的には別の季語です。
 季語は、時候・天文・地理・人事(生活、行事)・動物・植物の六ジャンルに分けられます。「野焼」は人事の季語、「末黒野」は地理の季語です。
 お手元に確かな歳時記を一冊、置かれることをオススメします。

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12月の兼題

「雪催い」

過去の審査結果

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