夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
7月の審査結果発表
兼題「盆」
正しくは「盂蘭盆会(うらぼんえ)」という。陰暦七月一五日前後に行う祖先の仏事供養の諸行事である。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
盆休み熟した海の藻が絡む
ときこ
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夏井いつき先生より
「盆が過ぎたら海で泳いではいけない」これは年寄りが子や孫に伝える戒めです。盆を過ぎると海の色が変わってきます。夏の明るい青さではなく、芯に昏さを宿し始めるような蒼に変わっていきます。「熟した海」はそれを表現した詩句。さらに「海の藻が絡む」は実に生々しい描写。「盆過ぎの海で泳ぐと海坊主に足を引っ張られる」これも古老たちの言葉です。潮の流れで海底の冷たい水が急に上がってくることがあります。足に触れる「藻」の感触、絡め取られるのではないかという恐怖を、何十年ぶりかに思い出しました。時空を越えて「盆休み」の海を蘇らせる。俳句にはそんな力があるのです。海近くに住む者にとって強いリアリティを感じさせる作品。
なまぐさきにほひや盆は川より来
古瀬まさあき
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こちらは川近くに住む者の感覚。「なまぐさきにほひ」を強調することで「盆」に戻ってくる魂を嗅覚で表現したとも読めます。「川」という存在と「盆」の行事は、このように深く関わってきたのです。
盂蘭盆の焔ゆたかにして湿る
ほろろ。
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「盂蘭盆」で点される沢山の蝋燭。それらの「焔」は「ゆたかに」揺れているのですが、豊かに「湿る」と感知した点が秀逸。供養の心は、静かな湿りをもって「焔」のかたちに揺れているのです。
家系図のような柿の木盆休
塩谷人秀
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「家系図のような」という比喩は「柿の木」の形でありつつ、命を引き継いでゆく印象も伝えます。大きな柿の木は子どもの頃からの我が庭の一本。懐かしい気持ちで見上げる「盆休」の光景です。
田で飼ひし鯉は洗膾に盆支度
玉木たまね
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どんな「盆支度」を?と発想した句はありますが、「田で飼ひし鯉」を「洗膾」にして饗する光景にある時代の郷愁を受け止めます。助詞「は」は、他の料理もたっぷりとあることを示唆して豊かです。
立派すぎる盆提灯が来てしまう
青萄
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笑ってはいけないが、こういうことあるなという共感。せめて供養ぐらいはと思いきって注文した「盆提灯」がこんなにも「立派」?! こんな出来事にこそリアリティという名の滑稽があるのです。
らふそくの火といふ盆の重さかな古瀬まさあき
魂棚を灯して生家百年目古瀬まさあき
こぷこぷと盆はしづかに水臭ふ古瀬まさあき
盂蘭盆や十年前の地図に〇ほろろ。
血の匂ひして盂蘭盆のゆふぐれはほろろ。
猛炎を清らに盆の長崎市塩谷人秀
畳まれしものに母の香盆支度塩谷人秀
介護臭消へたる家の盂蘭盆会玉木たまね
出荷せぬ瓜は良馬に盆支度玉木たまね
盆の客去りて家族の定まれりいかちゃん
盂蘭盆をつとめて牛馬蒼ふかむいかちゃん
初盆や祖父母の墓石の光沢かつたろー。
客間拭き上げ盆休始まりぬかつたろー。
盆休み社用携帯持たされてぐ
シャッター街の不思議な明かり盆休ぐ
盆用意長きレシートもらいけりクラウド坂の上
盂蘭盆会母の秘密の恋を知るクラウド坂の上
渋滞のサイドミラーにあるお盆けーい○
盆休のカラオケ言霊のエコーけーい○
盆休み振り子時計が人のようさとけん
母の焚く風呂の熱さよ盆休みさとけん
新盆や箪笥の奥の祖母の恋じゃすみん
鶏捌き鯉釣りあげて盆支度じゃすみん
文字盤の赤きスウオツチ盆の僧すみすずき
子の洗ふ夫の愛車や盆休すみすずき
初盆や柱は家の真ん中にすりいぴい
盂蘭盆や川は大きな川へ出てすりいぴい
盂蘭盆の月の輪郭より駿馬せり坊
軍服のポートレートや盆支度せり坊
盂蘭盆会養子の父の座る位置としまる
隣家から運ぶ長膳盆支度としまる
切り花の色はむらさき盆支度 にゃん
初盆や子生さぬ嫁の細き指にゃん
盆支度ばあちゃんだんだん小さくなるぬらりひょん
風抜けてあと幾たびの盆支度ぬらりひょん
打ち直す布団二組盆支度はむ
一人逝き一人産まれて魂祭はむ
盂蘭盆やシロも帰って来るからねひでやん
蝋燭のぶおつと消ゆる迎盆ひでやん
作業着のままで塔婆をかつぐ盆ひなた
盂蘭盆会お布施はATMで済みひなた
線香のうすむらさきに匂ふ盆ふじこ
盆土産選ぶ馴染のコンコースふじこ
奥つ城の手押しポンプや盂蘭盆会ふみ
同胞の盆提灯の紅さかなふみ
翡翠色の茶器買い足して新盆もつこ
熊除けの鈴が何処かで盂蘭盆会もつこ
盆支度母と義母とに茄子二つ亜美子
盆休み異人の夫と帰る家亜美子
ピカチュウとドラえもん居る盆の棚葦たかし
素麺の空箱二つ盆の風葦たかし
坊さんの煙草の匂ひ盂蘭盆会伊予吟会宵嵐
新盆や金庫の如き納骨堂伊予吟会宵嵐
天井の極彩色や盆の寺一斤染乃
復元の金豊かなり盆の寺一斤染乃
伝来の水にてすすぐ盆供かな可笑式
瓜の牛おそらくこちらのほうが尻可笑式
耳の似た人々集ふ盂蘭盆会花伝
盂蘭盆会水菓子のしばしの甘さ花伝
新盆の和尚の低音響く昼花紋
盆三日鯨のやうないびきかな花紋
盂蘭盆会母は本家の嫁であり海老名吟
初盆やこれは私に宛てた風海老名吟
魂棚と写る正座の十五人樫の木
運び出す祖母のベッドや盆用意樫の木
お勝手に踏み台置くも盆支度宮部里美
盆支度大鍋洗ふ井戸の水宮部里美
杉の香の昼夜に煙る盂蘭盆会月の砂漠★★
初盆や嫁の器量の八分褒む月の砂漠★★
Aコープ店まるごとの盆支度溝口トポル
新盆やてんぷら揚げて揚げて過ぐ溝口トポル
鳥おらぬ盆の空しずかに陰る綱長井ハツオ
盆の夜の土やわらかや踵置く綱長井ハツオ
鍋を持つ指にちからや盆支度高橋なつ
鶏小屋の卵洗ふも盆支度高橋なつ
母の尻豊かなりけり盆支度高橋寅次
酒一本拝借したり盆三日高橋寅次
新盆やうどんいく束茹でようか根本葉音
今年また同じ話や盆用意根本葉音
お妾の家にも寄りて盆の夜佐藤儒艮
鶏縊る杭ふかぶかと盆支度佐藤儒艮
盆の僧目礼をしてスクーター彩楓(さいふう)
お盆様送り姉妹のハイボール彩楓(さいふう)
美しき葉の榊を選るや盆用意斎乃雪
豊かなる声の奏上盆の朝斎乃雪
盆に来て砂壁の金またこぼす山田喜則
脚折つて拭いてお盆の為の卓山田喜則
こまごまと湯呑に水や盆支度山内彩月
板廊下きしませ入る盆の家山内彩月
初盆や閂カタリ無事カエル七瀬ゆきこ
語らへば気の良き先祖魂まつり七瀬ゆきこ
新盆に手向ける父の句集かな室谷早霞でぷちゃん
新盆やビデオに遺る父の髭室谷早霞でぷちゃん
父の居し座椅子の凹み盆提灯小池玲子
新盆や母の箪笥に義姉の服小池玲子
盆支度年金話振られをり城内幸江
口紅をうつすらと母盆支度城内幸江
初盆や兄待つ駅へあと二つ仁和田永
盆用意やせた座椅子のガムテープ仁和田永
まだ盆をする家なので休みます青海也緒
初盆や鉦のからころのぼりゆく青海也緒
補助便座と踏台も買ひ盆用意倉岡富士子
熟れきつてゐる魂棚のパパイヤよ倉岡富士子
天井の木目ゆらゆら盆提灯走流
ポスターの候補者若きままの盆走流
形見なる衣に波模様盆休み宙のふう
棚経の声のやはらか一番星宙のふう
吃逆の如く揺らぎて盆灯籠内藤羊皐
盂蘭盆会供花を禽の傷めしか内藤羊皐
提灯は湾の形に盆支度播磨陽子
盆休子のつく名前廃れたる播磨陽子
日に当てて太らす寝具盆の前比々き
痩せ速き盆の厠の落し紙比々き
息継ぎはみんなちがって盆の経平本魚水
葬儀屋の初盆鳩サブレ供ふ平本魚水
盂蘭盆や雲の湧き出す山の裾北野きのこ
初盆や若葉マークの目指す家北野きのこ
造花にも水を差したり盆参り門前町のり子
大空襲五度と傘寿の盆語り門前町のり子
裏山の名水涸れず盂蘭盆会葉るみ
盆の客囲碁の日取りを裏庭で葉るみ
盂蘭盆や子の座布団に浜の砂露砂
揚げ油黒く染みたる盆の家露砂
月山の風盆前の風となる朶美子
新盆や死者は月山より来る朶美子
田の上に新東名や魂祭邯鄲
盆支度祖母の戸籍はややこしい邯鄲
盆の客骨壺なでて帰りけり青萄
唐揚げの油染む和紙魂祭mika-na
京菓子の優しきを選り盆支度sakura a.
初盆や五十万分買ふ爆竹いさな歌鈴
仏壇の蝶番緩し盆用意いなだ君二年生
誰も居ぬ奥の一間や盂蘭盆会いまいやすのり
盂蘭盆会お経テープの間延びたるうさぎまんじゅう
盆支度ひいひいおばあちゃんは妾うどまじゅ
幾たびもまたぐ犬の背盆支度うまうまさとさ
樹木葬のパンフ取り出す盆の明けおくにち木実
盆の空青し集える魂清しおざきさちよ
旧盆の町から平日通勤すかわいなおき
創業者祀る社や盆休ぐずみ
盆支度宗旨異なる嫁のことくっちゃん
菓子箱の要塞崩し盆休みくま鶉
散骨の海は真青や盂蘭盆会くりでん
おじさんもおばさんも来る盆がいやクロエ
盆休み故郷の朝靄と起きけん
玉子いろのナースコールや盆休サイコロピエロ
語らうは白雲のこと盆の昼しかもり
棚経や親子の経のよくハモるたまよし
りすはもうさっき言ったよ盆休ちま(5さい)
盆の灯や沖には波のあるばかりちゃうりん
ひしひしと父のをらぬを新盆やつちのこ
のけぞつて歌ふ校歌や盆の昼てまり
盆支度もう今日は何も頑張れないてんてこ麻衣
雲の端に金色射すや魂祭とかき星
膨らむ膨らむ圧縮ぶくろ盆支度としなり
新盆や義父の自慢は尺アナゴなんじゃもんじゃ
故郷の水をたっぷり盆支度のど飴
盂蘭盆会兄の真似して拝み箸パッキンマン
初盆の海は穏やか大嫌いはまのはの
盂蘭盆会遥かインドの響きありはらぐちゆうこ
盆の唄消えて久しき老いの町ふうこ
米固く炊けば盆支度の日暮れふるてい
屋久杉の仏間あたらし盆の朝べびぽん
盆の風母の遺影の博多帯ぽん太
盂蘭盆会詫びたきことをまづ詫びてまどん
しんとして明るき盆の座敷かなみかりん
盆波を聴かせる遺影暮れてゆくみなと
新盆やまづ水筒へひやしあめみやこまる
縁側で星つなぐ指盂蘭盆会みやこわすれ
わりばしをぱきりとわって盆支度むらさき(7さい)
仏壇もきらきらしとう盆支度ゆうら(3才)
真菰筵キュウリが尻を向けているゆき
それぞれの役交わらぬ盆支度ゆすらご
盆来たるかごめかごめの庭狭しゆりたん
寂寥も清しきことよ盆休ラーラ
母の瀬を手繰れば盆の静かなり亜紀女
盂蘭盆会女房先に行くなかれ哀顏騎士
ピカピカのホームセンター盆支度葵新吾
盂蘭盆や十年ぶりのキャッチボール或人
ニワトリのこえ黄色くて盆供養安曇野多恵
盆休み農家の土間の朝餉かな伊藤順女
愛称で呼ばれる我よ里の盆遺跡納期
初盆や母の手に触れ星に触れ井原千恵理
母と吾の指瓜ふたつ盆支度井松慈悦
過去に座す盆の灯の酒の宴井上繁
分校の裏に提灯持って盆一重
噴きごぼれそうな大鍋盂蘭盆会 烏飛兔走
初盆や孫の土産の一升瓶下松かつ子
盆の風妣の部屋より藺草の香佳山
供花あふれ墓は饒舌魂祭加裕子
魂祭浄火は濃くなりゆけり果蓏
帰るとは常に良きこと盂蘭盆会花屋
盆休み父なる樹木と語らひて花音りな
魂棚や佳き事告げて手を合わす花咲明日香
初盆や磨き上げたる父の椅子花南天
そこここに帰りし気配盆の夕蛙里
盆休厠の間合い忘れけり甘平
初盆や勝手の灯りジジと鳴く丸山隆子
「ちゃん」づけで呼ばれる父や盆休み岩木あきひこ
我死せば盆に帰るは何処なる紀泰
盆休み始まりしかと今朝の駅亀山逸子
ああけふは盆か仏壇なき我が家亀田荒太
おぼんでもおじいちゃんうまなんかのらないよ吉田結希
アルバムの音の軋むや盆の夜居升典子
まだ燃ゆる線香盆休みの風漁港
初盆や天泣不意に田圃道銀長だぬき
盂蘭盆会一遍の行年を越え桑島幹
盆前のまだ続き間のがらんどう薫夏
戯れてうしろの正面盆の闇薫子(におこ)
盆支度勝手のラジオ甲子園見屋桜花
裏方は環境課なり盆仕舞原田民久
兄弟とお金の話盆休み古都鈴
二年振りの従兄に敬語盆休み五月闇
旋盤を仕舞う手かろき盆休甲山
盂蘭盆会下戸ばかりなる生者かな高田祥聖
すみません母には椅子を盂蘭盆会今田哲和
せっかちな母は帰りも瓜の馬今野夏珠子
盆支度祖父の自慢の志野茶碗佐藤あん
盂蘭盆会亡母愛した花の満つ佐藤ゆづ
油麩の煮しめ香るや郷の盆佐藤花伎
子とつくる白玉清き盆支度佐藤千枝
愛読誌括る七回目のお盆坂まきか
盂蘭盆や蔵に残りし炭の束三河五郎
せせらぎや盆に風立つ奥の院三島瀬波
初盆の留守番に聞く恋のうた山口香子
新盆や煙のゆきがた目で追ひぬ山太狼
盂蘭盆や生者は扉の鍵失せしまま山踏朝朗(楊梅改め)
盂蘭盆会祖父の恋文封切らず山本ふじ子
ヘルメット抱へて入り来盆の僧山名凌霄
遺影の二人は駆け落ちと聞き盂蘭盆会獅子蕩児
妻よりも嫁の座長し盆供養慈温
カルピスに氷たゆたふ盆三日次郎の飼い主
数珠も団子も子も丸い地蔵盆七咲人天
盆休み銀座の空を高くして若井柳児
クレームに頭を下げるお盆かな珠凪夕波
盆の夕あなたが好きな花摘んで潤目の鰯
ひと雨の静かに過ぎぬ盂蘭盆会小鞠
初盆の楊枝美しきを選びをり小川めぐる
初盆や使い残しの紙パンツ小川天鵲
新盆や殊に冷たき井戸の水小倉あんこ
新盆や主なき琴うたひたり小殿原あきえ
俊足の胡瓜の馬を追込み中小田虎賢
盆明けの島影茫として遥か小南子
ざわわざわわ黒白の横切りて盆焼田美智世
盂蘭盆会ハノイの路地の茶の苦し鐘ケ江孝幸
擂粉木のときどき軽く盆の昼上原淳子
盆支度父のポマード残る部屋城山のぱく
身に重き形見の黒衣盂蘭盆会常光龍BCAD
盂蘭盆会従兄弟と足をつつき合い真宮マミ
盆休み仏間に叔父の高いびき真繍
新盆やいつもの赤い椅子で待つ真壁正江
新盆や虎屋の羊羮どつさりと水木華
2B弾通り飛び交う盆の入り酔進
爪切りて天井見遣る盆の夜清水トキ
汲み置きの水のぬるみし盆用意清島久門
合掌のネイル華やか魂祭西原さらさ
紺青のボンタンアメも盆用意西川由野
盆支度旅行の前に似た心地西村圭
省線と呼ばれし頃の盆列車西村小市
辻褄の合う夢哀し雨の盆西條晶夫
旗ゆれて盆展示会開催中青い月
盆迎へ妹に猫加はりて青山あじこ
波静か腥臭残る盆の浦青児
初盆や正座促す母の声石ころ
盆の香の実家にひとり鶴を折り川端孝子
猫みんな引っ込んでいる盆の家曽我真理子
盆の夜しとしと鯖缶ちびちびと双子の父
離陸して眼下に盆の灯りかな倉木はじめ
まだ星にならぬ眼差し盆用意蒼奏
盆僧の声裏返り終わる経村上敏子
弟と煎じし木の実盂蘭盆会多事
死してなほ禁酒はさせず盆供かな多々良海月
盆ぢょうちん昭和の箱に仕舞いかた駄詩
初盆や洋書に母の蔵書印大小田忍
蹴りあえる鶏つかみ盆支度大村真仙
羊屠り草原の国の魂祭池之端モルト
盆の夜をゆつくり沈むアンタレス中岡秀次
石切りも勝てなかったね盆帰り中山月波
背戸を掃く五代目当主魂祭直木葉子
逆縁の新盆棚のアンパンマン辻が花
母の膝畳あと有り盆休み田川さくら
みどり色のものばかり食べて盆の過ぐ田川彩
新盆や携帯に在る亡母(はは)の聲田中詩扇
新盆や棚の賑はひうら寂し斗三木童
老母出す布団の匂い盆の夜渡り鳥
盆路の石ころよけてゆらゆらと渡辺音葉
シャッターの「お盆休みに入ります」登りびと
ただいまと言ってくれそなお盆かな都鳥
補助便座のパステルピンク盆の昼土井探花
指に染む白檀の香や盂蘭盆会土屋雅修
元自室客間になりて盆休嶋田奈緒
お供えを掠める烏盂蘭盆嶋良二
盆休みただの休みになりにけり藤原訓子
新盆や僧侶のオートバイ赤し藤色葉菜
新盆や父の書斎に父のペン藤田真純
夕暮れの砂曼荼羅へ盆の波奈良香里
軽トラに老母と供物と盆の花内本惠美子
ひばりが丘わんぱく公園盆休凪太
白砂に海星の干涸び盆休み薙田碓
見送りに波止場縮みぬ島の盆楢山孝明
盆の空この冥銭は弟へ南風の記憶
盆の海猛しパーランクーの音南風の記憶
地を曳いて波打ち戻す盆の月楠田草堂
兄嫁のいつから母似盆支度二鬼酒
焼酎は芋だつたやね盆用意尼島里志
金髪に鼻ピアス居る盂蘭盆会埜水
一匹の蝿を遊ばせ盆用意俳句の枝幸十佐
座布団の寝息は優し魂祭白よだか
鎌倉の切通し越え盆参り白雨
対岸に祖父をみつける盆じまい白瀬いりこ
盆の動物園パンダ親子は尻向け寝白浜ゆい
畏まる野菜の如く盆の膳畑詩音
床の間は男座敷や盂蘭盆会八幡風花
汁くぐる冷たき蕎麦や盂蘭盆会八木実
こんにやくの無味をかみしめ盂蘭盆会板柿せっか
角瓶と花三本の盆支度飯村祐知子
盆用意常磐色透くレジ袋比良山
盆仕度川につけたる山の花美智子
盆支度終えて空虚や正座する百合乃
拡がれば銀の鳥なる盆の雲富山の露玉
提灯の家紋黒々盆支度風峰
ふたつみつ懺悔もせねば盂蘭盆会風紋
禁煙を解いて亡父の盆供養福ネコ
久々に食う玉子焼き盆の朝福井三水低
老若沸騰腕相撲戦盂蘭盆会福弓
しゃぎりの音訪ね行く露路盆の宵片岡佐知子
子も我も盆休み無しそれでよし片栗子
新しきシャンプーハット盆用意北大路京介
賑やかや白寿の母の初盆は凡凡
塔婆立て盆の終わりの菓子を喰う麻場育子
墓移す話決まらぬ盆の夜夢見昼顔
盆が過ぎ気の抜けた海眺めてる無頓着
盆支度まずは釦を付け替へて椋本望生
好きだった餡の盆供やひとり練る明惟久里
魂棚の影やはらかや夜の風明田句仁子
盆菓子の虚構や三時の夢破れ明良稽古
過去帳の裏打ちしたる盂蘭盆会茂る
墓石の背に白き雲盆参り木村修芳
どの部屋も灯りてをりし盆の家門未知子
兄嫁の指示待ってゐる盆支度野ばら
妣の花嫁衣裳広げ盂蘭盆会野ゆき
堤防の先へまたなと盆の花野地垂木
西暦に変えて引き算盆用意野木編
独り身の角麩煮てをる盆支度有本仁政
畑より見目佳き野菜盆支度柚木みゆき
新盆や今日も写真に相談す雄山卓女
新盆や籐の座椅子は祖父の席来冬邦子
正座する皆同じ鼻盂蘭盆会梨音
瀬を淵を振り返りつつ盆の舟隆泉
盂蘭盆や少し湿気ったマッチ棒鈴木(や)
こびりつく焙烙の煤盆支度鈴木淑葉
ヤンキー座りの中に犬おる盆休鈴木由紀子
名画座のボギーのやうな盆の父鈴木麗門
新盆を迎える前に実家壊す連雀
洗い場の水筒逆立ち盆休み惑星のかけら
ふと漏らす僧侶の愚痴や盆休巫女
初盆や掲ぐグラスに入る星暝想華
一郎も三郎も居り魂祭洒落神戸
夫とよぶ人とはじめて盆支度淺井ゆうこ
転がる実ひと山に盛り盆支度澤真澄
薄闇のLDKに魂待つ盆澪つくし
磨きあぐる墓石の肌や盂蘭盆会眞嘉
落雁の色の淡くて魂祭蓼科川奈
盆休みあいつ結婚したつてさAKI
おりん響く静かな静かな盆の朝ANGEL
盆帰省潮と湿布の香る家いのり
兄嫁の威風堂堂盆支度晴好雨独
先生の平手のはなし盆休赤馬福助
新盆やセンサーライトふっと点く雪井苑生
飾り燃す浜の火柱盆の夜雪割豆
西部劇敵はお菓子だ盆祭り久保弥邦
朝刊の社説は流し盆休きなこもち
新盆に教え子集い夫語る坂本千代子
新盆やお主様プリウスの新車都乃あざみ
おぼんの日やさいの動物おむかえだ西村咲音
提灯の儚き光よ魂祭haru
踊り笠たわやかな腕盆祭りnid
盆休み孫に負けたる王手飛車Qさん
新盆の帰り道迷わぬか妹よvivi
罅の無きバケツを探す盆支度あいだほ
新盆の茄子つややかや大座卓あざむ
盆支度妣に問ふよに独り言つあさ奏
盆の夕揃はぬ詠歌と笑ひ声あまぶー
線香の香り静かな盆の夜あおか
盆の実家かお知らぬ義父に会いに行く あげゆき
盆支度ショートステイへ旅支度あざみ
新盆や一瞬だけの強い風あまぐり
新盆や働き過ぎの哀れかないいむらすず
傾いたままの茄子馬盆支度いくちゃん
初盆や牛馬作る妻帰るいっちゃん
読経の聲涼やかに盂蘭盆会いろをふくむや
魂迎え貸切バスで盛り上がる いわきりかつじ
亡き母が流れにまかせと盆の風ウツボット
仏壇をはね返るごと棚経なりうめがさそう
盆迎え行き交う船や墓終いおうれん
愛鳥のしぐさ懐かし魂祭りオカメインコ
忘却の祖父のもとにも盆は来るおさむらいちゃん
スマホから抜け出る孫や盆支度おっとりガメ
亡き犬の絞りし声や盆の庭おばたよう
りんの音をそおっとつつみ盆がくるおひい
地蔵盆ペットボトルの野草替えおぼろ月
首都高の車いづこへ盆休お品
盆支度去年の棚に背届かずカオス
長男へ嫁ぎ十年盆三日かぬまっこ
義母我流毎年もめる盆支度かのん
盆祭り告白の間なく帰路につくかもめ
フライングの嬰児待つ父母盆支度きさらぎ
新盆の茶の湯気届け妹よきつね火
スマホ切り文庫二冊の盆休みくるめ絣
庭の花手折りて盆棚飾りおりクロまま
盆提灯まくら飛び交う従兄弟の夜けいぜろばん
友の新盆迎えて我ら宴と化すケンG
煙たつ家路をつくれ盆休みこつみ
盆休み母のぬか漬け丸かじりこばやしまき
USJとTDRの被る人々盆休こぶこ
盂蘭盆会読経に被る赤子の声さかたちえこ
仏前の座布団高し盆の朝さきまき
盂蘭盆会母の匂ひの仏間かなさくやこのはな
父の声聞こえた場所へ盆の駅さだとみゆみこ
ふぞろひの迎えだんごや盆の朝さとう菓子
初盆に甘い残り香母そこにさなぎ
懐かしかお盆のお経の後ろ頭しかめっ面
初盆やりん鳴らす孫抱き締めるじょいふるとしちゃん
盆提灯つなぐ命の道しるべそれいゆ
初盆の義母に習いし膳揃えたじま
母のごと出来ずも三十年の盆タシャキ
潔く握手で愛しむ盆の父たすく
三具足磨く鼻歌母の盆たっくん
祖父の遺影盆に髭剃り負けと知るタマゴもたっぷりハムサンド
ラッシュ時に空席ありて盆休みたむこん
盆用意祖母と遊びしござの上たむらせつこ
新盆や跡継ぐ者は誰もいずチャーリー・ヨシダ
茶も菓子も部屋も冷やして盆用意ちやこ
参院選いつもの電話来ず初盆つなちゃん
初盆の経の香あの日の涙漂うてしこ
亡き人は風の名になる風の盆ときめき人
ご先祖が居間に寝転ぶお盆かなとみことみ
風の盆水たふたふと郡上かななめろう
香煙や逢魔時の盂蘭盆会ねがみともみ
盆過やひっそりかんとした仏間ねぎみそ
校庭は静かなりしか盆の夜ねこバアバ
弟と水切りをする盆の朝のりこ
盆のフェスお帰りなさいヤングマンのりこさん
盆支度茄子と胡瓜は孫の芸の菊
茄子胡瓜四足したてて盆めぐりはるる
日本便お盆相場でLineかなひこぞう
逃がしても思いは戻り盆のかぜひっそり静か
白昼に既視の蝶舞う風の盆ひなあられ
盆支度フランボワーズのマカロンひなたか小春
夕灯りほっと弛むや盆の顔ひな芙美子
盆暮れの挨拶終わる定年かなひめりんご
じいちゃんと餃子パーティー盂蘭盆会ひろ夢
盆休み縁側駆ける孫二人ヘッドホン
盆僧の袂茶菓子の膨れをりペトロア
盂蘭盆に提灯ふうわり愛しくてベリーベリー
持ちきれぬ兄の好物盂蘭盆会ほしの有紀
尻子玉狙う河童や盆の川ぼたんのむら
山に祈り海に祈りて盆支度ポンタ
八代目そろそろ飽きた盆支度みさき
新盆や一人離れてばあちゃん子みたせつよ
年毎に減る盆支度老いる母みなお
悲しみと皆に行きあうお盆かなミネゴ
浅草や父と揃へる初盆会みやかわけい子
笹寿司に思い出包み新盆よみわ吉
盆用意チェリオオレンジ一ケースももたもも
盆休み故郷への道遠きかなやったん
百歳の祖母さん囲み盆の宴ヤヒロ
真夜中の仏壇そうじ盆に入るよち桜
背の順に並ぶ孫たち盆の夜よにし陽子
盆に来る魂ひとつ見当たらないラリロリラリラ
盆の夜や灯を追ふ靴の音ワイス
盆明け手術応援団はお帰りに亜紗舞那
婚活の話たけなわ盆休愛燦燦
樟脳の匂い懐かし盆休み愛宕平九郎
新盆の家の庭木に実の成りて安川伊津子
トランクに揉まれる盆の通勤路安宅麻由子
お盆かな僧衣の裾を翻し伊藤ひろし
通販のカタログめくり盆休み伊藤正子
茄子に足なれてきたるや盆支度伊藤節子
盆やいとこ十三人のかくれんぼ稲架くぐる
親戚とゲーム大会盂蘭盆会稲垣由貴
川風の清しき祖父の家や盆宇佐美好子
羽田発高知行き欠航の盆宇田建
すれ違うに含まれる会う盂蘭盆会 羽沖
盆休みあるやなしやの嫁修行卯さきをん
初盆や遣らずの雨の如意ケ嶽永花
今年もまた「精霊流し」聞きて盆永谷部流
夫よりも年を追ひ越し盆用意円
故人浮かべふるさと巡る盆休み延杜
亡き君を酔わす盃盆飾り縁恵
盆の夕灯りはほわり風に乗り遠藤百合
新盆や久しく集ふ同級生塩沢桂子
お盆にはあいすまんじゅうくれたひと横浜J子
手料理も冷めて娘らまつ盂蘭盆会岡れいこ
迎えたき人もなく盆花枯るる夏雨ちや
盆過ぎて心おきなく虫叩く河合久子
布団カバー手縫いて三日盆支度花岡淑子
帰宅請う施設の姑の盆支度花喰い鳥
盆の夜犬の名を呼ぶ末っ子よ花柊
風に揺れ列乱れける盆提灯海口あめちゃん
子のない吾いづこへ還らむ魂祭馨子
老夫婦息子に揚げる盆燈籠笠原理香
初盆は猫も子連れで里帰り笠江茂子
盆休み三日間だけスマホ断ち葛谷猫日和
触りたい孫の見据える盆棚の馬蒲公英
「おやすみ」と盆提灯の灯り消す甘酢あんかけ
隣り家の笑い声聞き盆支度閑蛙
改めて過去帳撫でる盆支度岸田千里
めくられぬ最期の暦初盆の経岸田淳子
孫駆ける御堂に響く盆の経岸本元世
宝くじ仏壇奥に盆供かな希林
気に入りの一膳飯屋盆休亀山酔田
幼き日母の郷里の盆支度菊原八重
盆路や返納したる免許証菊池洋勝
方言に都会訛りの盆休み吉哉郎
白雲が飛び跳ねていく盆参り吉成しょう子
孫の話株の話や盆の客久我恒子
送り盆今年も祖父は健在なり久晃
粥を炊き茶を地に供う盆の暮れ久保恵美
母の新盆父待つ黄泉ヘ半世紀宮杜都
寝て起きて子と過ごすだけの盆帰省魚男
魂棚に別れすぎねと白寿の手狭平
盂蘭盆会初孫を見ず逝った父玉井令子
線香に花の香選び盆支度玉響雷子
盆休み車窓から探す母校かな九里栄太
庭花を束ねし盆の支度かな空
カ・ワ・イ・イ・と盆飾り撮る留学生空豆
盂蘭盆会家族が一人増えました空龍
みあかしに鳥居うかぶやたままつり恵翠
盂蘭盆や積もる話をしに来たよ畦のすみれ
盆支度少し伸びたる母の腰月夜同舟
初盆や迎え団子を母とこね原善枝
うらうらと盆提灯や路地の奥原田
初盆やはしゃぐ孫らに笑む遺影原田彰子
盆迎え亡夫の歳をかぞえたり源氏物語
渾名呼ぶ甥と酒酌む盆供養玄次郎
故郷に会う人もなき盆の入り古史朗
棚経の合わす手母の手恋しかろ戸根由紀
初盆や笑顔の夫に仄あかり枯楓
しきたりを抜かす言ひ訳盆支度湖雪
盆帰省750cc と共にいいなずけ後藤久
迎え盆「おいでおいで」の声やさし広安の石ころ
盆くれば庭先に生る赤い実の弘
吸い込んだ実家の匂い盆休江川月丸
盆ごとに薄紙を置く父のかげ江藤薫
玄関に靴うちそろふ盆休紅さやか
雨の盆一寸ずりの水族館荒巻沙奈
盆支度仕上げは冷やしのっぺ汁香羊
新盆や夫亡き後の部屋広し高橋光加
逝った人忠実に守る盆休み合馬博子
膝痛き歳と知りたり盂蘭盆会克巳@いつき組
新盆や見苦しい義姉の金勘定黒ちゃん
死者ら来て母連れゆきし送り盆今井淑子
旅の風連れちちははの盂蘭盆会光子
お盆来て父母の偉さを思い出す今井正博
送り盆風向き変わり温き雨根々雅水
亡き父を乗せて盆綱宵の庭佐藤明美
盆の火や吾より若き父迎ふ砂舟
不器用に提灯かしげる盆支度砂乃子石丸
近似値の顔つらなりて盆送り坂口安子
盆の風気を取り直し筆進む榊昭広
盂蘭盆会見えない溝のその先に桜姫5
無宗教の夫を悼むや盆休三浦ごまこ
爆竹の刹那の無音魂祭三浦真奈美
跡継ぎのいない菩提寺盂蘭盆会三茶F
提灯の波や盆の宵そぞろ山﨑瑠美
畑より直行便の盆供かな山育ち
新盆や鍋に干る粥ただ半合山沖阿月子
未明より張り切る祖父の盆支度山口要人
黒柴も二拍子踏むか盆の夕山口トシ子
袈裟跨ぎ猫坐りたる魂祭山崎瑠美
初盆の母の好物たんと盛る山々こすみ
似た声を街角で聞き盆近し山田久美子
香炉灰しづかに整へ盂蘭盆会山田啓子
盆休み祖母に似てきた皆が言う山本康
黄昏て瀬音穏やか盆送り山本隆雄
盆の入りとったか追っかけ徹夜なり紫雲英
盆祭り無縁仏に灯のともる紫瑛
初盆の供え団子の不揃いの鹿嶌純子
盆唄を聴置きたいと死刑囚篠崎彰
魂棚の由来で話つなぐ婿篠雪
盆支度母に会いたい一心で紗智
盆支度にわとりの首絞めにけり紫小寿々
盂蘭盆に猫の視線と時計鳴る珠桜女絢未来
庭先の実りラタトゥユ盆の卓酒主肴従
大鍋に作る味噌汁盆の朝寿松
妻と見る初盆の火の消えし闇秀耕
盆に思ふ人の在るのは何故か秀道
旧姓で呼び合う集い盆休み秋月なおと
素振り千気力しぼりて盆の汗秋水
親族の一同集う盆休み秋代
継ぎ居なく盆が過ぎたら墓終い重仁
あつき陽をおくり静かに盆のさと春耕
珈琲と蝋の香あまき盂蘭盆会春日春都
納屋の隅父の作りし盆灯籠春風
冥界の道もラッシュか盆休み初野文子
父のシャツ捨てられず今年(こぞ)も盆来たる渚
るるぶ繰る翁孫待つ盆忙し小熊猫
魂棚にフィギュア十体載せる孫小笹いのり
初盆や褪せし恋文箱の中小山晃
仏間よりテレビ片付く盂蘭盆会小杉泰文
通販に一式頼む盆用意小田慶喜
茄子の馬茄子のロケットへと変身小田龍聖
まだ父母は逝くなと願ふ盂蘭盆会小田和子
早世の墓碑の享年魂祭小嶋芦舟
坊さんも急ぎ鐘つくせわしい盆小本vivi
在りし日の母まねて吾も盆支度松ちゃん
旅立ちの汽笛とけゆく盆の闇松山帖句
新盆の母がいる様な朝支度松虫姫の村人
またひとり児が増えてをり盆用意松田文子
夕暮れや孫と二人で盆支度松島美絵
生垣の伸び放題や盂蘭盆会松尾義弘
盆なか日故人とゆるり会話する松本和加恵
盆の経終えて互いの孫話松野菜々花
盆来れば壊れた玩具ちょいと揺れ上坊幹子
初盆やあいつは会いに来るだろう上野眞理
盆仕度馬速く牛逞しく城ヶ崎由岐子
初盆やそこに居るよにいそいそと植田かず子
大広間ぽつん盆の後の余薫色葉二穂
盆休み住めば都なんて嘘だ新開ちえ
盆休初めましてとハイヒール森都
亡き父と語る静けさ盆の酒森井はな
会釈して寺町をゆく盂蘭盆会森弘行
盆近し逝ったあの娘が風で来る森澤佳乃
盆集う車椅子押す孫二人真優航千の母
新盆や経読む僧の声澄みて真理庵
魂棚にえごのり奥の親笑う神谷米子
初盆や蝋の雫となる私神田央子
盆過ぎて母の齢に近づきぬ水夢
新盆やクワガタ連れて逝った君雛まつり
盆の入家紋が灯る軒の下杉浦あきけん
盆休み帰省促す母は亡き杉浦夏甫
いかないで空を切る手は盆の夕杉山
もうもうと香り今年もまた初盆菅原千秋
燐寸擦る香の玉響や送り盆菅利通
右足の組み方は似る盂蘭盆会世良日守
初盆や迷わず帰れ赤提灯是多
キリトリの遺影にハタキ盆仕度星善之
盆支度白寿の姑の太き指正岡恵似子
あでやかな背の修多羅や盆の僧清水容子
面影の墓前に集む盆の朝清水祥月
盆休浮かれし子らの目がきらきらり西下真由
跨ぐ火と燻る線香盆の匂い西村優美子
メビウスの帯を供へむ盆支度西尾至史
病む吾子が若き亡父と語る盆西條恭子
盂蘭盆会きつと帰るとまた嘘を石井茶爺
チョコの香の線香くゆる盂蘭盆会石岡女依
盂蘭盆会父の見ていた天井を見る石垣エリザ
初盆や母親に似た咳ふたつ石川由美子
風の盆帰りし人に椅子をあけ千鶴姫
盂蘭盆会大皿の豆と知らぬ顔千日小鈴
忘れじの御巣鷹の峰盂蘭盆会千葉睦女
盆支度小さき器の膳揃う川村昌子
盆支度さっと一雨墓洗う川畑彩
お盆でも海に行きたい我が体川畑心奈
足長の馬を見つめて盂蘭盆会潜龍子
風ありて卒塔婆の声聞く盆の入り惣兵衛
満月や新盆の道照らしけり早山
古時計しじまに響く盆休み痩女
末の子は亡き夫に似て盂蘭盆会村松登音
盆休み父と将棋は縁側で村上一杯
巻き爪は祖母とおそろい盆休大久保響子
盆支度つい繰り返す独り言大橋真由美
凡に生き凡に終える盆の夢大山小袖
妣の真似さえできぬまま初盆を大槻税悦
盆とともにありし横顔帰り来る大本千恵子
空席の続く通勤盆休大和田美信
清拭きし花変えるだけ盆支度谷口あきこ
アメリカの上司と寿司へ盆休み知音
「盆過ぎの川に入るなや」祖母の言知足
庭荒れて気づく母の愛新盆や池愛子
母の声想いながらの盆支度池上敬子
年一度親族集ふ盆会かな池田功
石段を照らす灯高し友の盆竹口ゆうこ
年金を刺身に代えて盂蘭盆会竹内うめ
盆来たるアイスの棒が捨てられない竹内みんて
失業保険貰ひて生家へ魂祭中西柚子
魂祭浮かれる父の姿追い中村右茶
風無くも松明ゆれる盆の入り中谷典敬
新しき家族となりて盆支度中島知恵子
七回忌遠雷のごと盆の故郷(くに)中嶋そら
先代の味継ぐ馳走や盆参り中嶋純子
新盆や火の玉を見し少女の吾中道潮雲
魂祭猫も戻ってくれまいか昼寝
十年に変わる様々盂蘭盆会衷子
盆の空わが身もいつか風になる朝和泉
帰るべき家は更地や初盆会長谷川ロンロン
家系図や盆に横線嫁来たる長谷島弘安
盆の夜の祖父語りあふいとこ会鳥越暁
初盆の軽トラック乗る荷台天野姫城
盆支度ひとりの夕餉慣れぬまま田村伊都
盆団子小さく拵へ猫迎ふ田村朋子
新盆の見舞なる母の名代田村利平
盆提灯作る義母の手職人技田中ようちゃん
店先の盆提灯に教えられ田中睦
初恋の人探してしまう盆の町田畑尚美
新盆の家煌々と夜を燈し渡辺牛二
従妹といて喉潤しぬ盆の夕渡辺陽子
味噌をとく祖母の背小さき盂蘭盆会渡邉一輝
一卓で足る新盆の鄙の夜渡邉竹庵
盆提灯更けて語らう静夜なり登久光
盂蘭盆会帰省準備でこぼれたフゥ嶋村紀子
初盆に父とおんなじつむじの坊東風弘典
ナスキュウリ割り箸揃え盆用意桃雨
そうか!魂をおんぶするのか迎え盆藤井聖月
七色のクッション茶の間盆支度藤井茂
盂蘭盆会仏花の奥は華美な花徳
ゆらり蝋燭の火尽きて盆おわる徳庵
盆迎え遺骨は未だ浜歩く惇壹
子はスマホなぞりぬ皆で盆の経奈良素数
キリスト者新盆に花手向けをり日記
煙探知器の音響く盂蘭盆会日午
盆の客見知らぬ顔や代替わり入江幸子
新盆や父を迎える白提灯馬笑
盆休み終身雇用?あるかいな馬場東風
手の溝のおやきの粉乾く盆の夜梅嶋紫
新盆や器一客余りけり梅木若葉
盆の朝夢占いに託す夢梅里和代
初盆を哭く嫂の痛々し白土景子
新盆のろうそくジジと揺れにけり白米
靴くつ靴玄関狭く魂祭函
籠の中走りの野菜盆の市鳩礼
盆帰省霊も家族も宴かな妃
送り盆明かし外灯小雨にて飛来英
盆帰る知らせもしずに「ただいま」と尾関みちこ
盆の朝途切れなき列山の道琵琶京子
初盆に父の匂いの帽子かけ美山つぐみ
海の中黄泉への道あり盆道中美翠
海峡に尺玉響く迎え盆美帆
荒れ庭の花切り落す盂蘭盆会柊月子
野菜馬上手く出来ずも盆は来る彦久保美代子
北帰行我も仏も盆の家浜けい
キヨスクで買ひし土産や盂蘭盆会富野香衣
盆灯籠キュウリも茄子も枯れるまで敷島せっつ
久方の在所の風を吸う盆や風花まゆみ
新盆や青き畳の香(か)と香(こう)と風間たく
盂蘭盆会ひ孫を膝に幸いのる風来坊
盆借りてドーム観戦皆集ふ福祥
祖父の手と夜汽車の汽笛盂蘭盆会福泉
漁港へと千人の影盆の海福良ちどり
痺れ切れ盆僧の声じりじりと文月さな女
盆に逝きし父は行ったり来たりかな弁女
眠ってる道をこじあけ盂蘭盆会豊田すばる
八畳の蚊帳からはみ出す盆休み牧野敏信
初盆や特急券をキャンセルす睦月くらげ
亡き義母の帰省孫との初対面盆生まれ
煙に泣き笑って送る盂蘭盆会盆暮れ正ガッツ
祖母の下駄借りて今年の盆支度麻生恵澄
島の盆正座に痺れみな笑う万白
ラベンダーの線香がいい盆支度満る
盆支度仏壇の奥宝くじ湊かずゆき
だんご粉を求め一人の盆支度木村かわせみ
初盆や難病を生き切った灯り野紺菊
小鬼たる甥っ子来たる盆休野中泰風
線香とバーベキューの香盆の昼矢的
初生りて初盆を待つ野菜かな矢野茂樹
大鵬の手形の朱や盂蘭盆会油揚げ多喰身
六帳の灯り去りゆく送り盆唯飛唯游
家鳴りに父の気配や盆の夜有馬裕子
馬作る胃ろうの父の盆支度有本典子
盆用意働き者の猫娘由づる
雨戸開け息吹き返す盆支度遊飛
酔客の忘れたる数珠初の盆葉月けゐ
土間せまし履物はねて郷の盆里惠子
盂蘭盆会祖母の形見の浴衣着る令子
盆栽やボーンと盆の十三時鈴木上む
盂蘭盆や墓にも行かず海眺む麗し
盂蘭盆や喉潤すは晴明井和舟
生き死にのつもる話や盂蘭盆会侘介
故郷と呼べるものなし盆休み國吉敦子
今年こそシロクマつくる盆休み楡野ふみ
要介護2の義母と盆支度櫻井弘子
新盆や伯母の遺せし緋色帯淺紫
背の丸き義母の読経や盂蘭盆会淺野紫桜
成人になって初めて知った盆祺埜箕來
新盆や母にまず聞くその後のこと苳
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号には苗字を!
〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて姓をつけていただけると混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
●俳句の正しい表記とは?
- 盆にホット 手桶の水 分け合うサチコ
- 墓守に 盆が来る日 待つ祖先ぽん児
- 初盆の、いわきじゃんがら、息のむ孫齊藤広子
- ふるさとに 虫の音響く 盆の暮れ森谷拓之
- 今週の アニメ逃さず 盆支度浅井誠章
- 家守りの 盆の賑はひ 首タオル本間美知子
○五七五の間を空けるのは間違った書き方です。さらに、以下のように三行書きのするのも一般的な書き方ではありません。
- 盆は四日間
ただ会いたくて
混雑の駅に走る
サチコ - 祖母去りて
瞼婉然
若精霊
まるこめ - 初盆や
遺影も微笑む
レアチーズ
稲森雅子 - 盂蘭盆会
花火見下ろす
日航機
華月 - さま変わり
ワイキキまいり
盆休み
高橋憲司 - 盆じまい
笑顔の母のる
ナス太し
高橋和子 - さり気なく
子に伝へ行く
盆支度
星野茜
〇文学的な意図をもって、空白を空けたり、三行書きにすることもありますが、特殊なケースだと覚えて下さい。「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記。まずは、ここから学んでいきましょう♪
●季重なり
- 盆の宵手土産広げ涅槃仏こまたれぶー
- リビングでひとり素麺すする盆なかしまともこ
- 盆来たる家族そろって墓参り加島
- ひぐらしを声明と聴くきみの盆河畔亭
- 母注ぐ切子の麦茶盆休長谷川京水
- 送り火に願いを込めて波の盆田良穂
- 初盆に夏の野菜のゼリー寄せ桃葉琴乃
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。どれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。
●別の季語と考えるべき
- 盆の月照らすは影のない男momo
- 盆の月遺骨で焼けた唇見るスローライフ
- 深夜バス追いかけてくる盆の月海碧
- 松籟のささめごとめく盆の月香箱
- 盆の月三星城を明るうす持留メイ子
- 縄文の土偶の笑みや盆の月宵猫
- 盆の月誰も知らない死んだあと増田賢一郎
- 金星と道行ならむ盆の月中島圭子
- まだ登る坂のありけり盆の月藤田康子
〇歳時記は、時候・天文・地理・人事・動物・植物の六つのジャンルに季語を分類してあります。今回の兼題「盆」は人事に分類される季語です。それに対して「盆の月」は天文に分類されますから別の季語だと考えるのが妥当でしょう。
- おじいちゃん天(そら)から覗く盆踊りうっしー
- 盆踊り「南国土佐」を集荷場にてふじかよ
- 令和初心も踊る盆踊りまさ
- 一族が狭庭に供ふ盆踊正子@いつき組
- 盆踊り二つの影がそっと抜け沢田正司
- 笛太鼓亡者も紛れて盆踊り只野花
- 浴衣よりビールが気になる盆踊り奪首圭介
- 盆踊りプロ歌手ひとを集めけり谷澤慎一郎
- 手の速しアルゼンチンの盆踊天野規之
- 行き交いし過去と今宵の盆踊藤井眞おん
- 月へ行く孫に捧げる盆踊り涅槃girl
〇「盆踊」は、「踊」という大きな季語の傍題と位置付けるのが、俳句としては一般的な考え方です。
- 茄子の牛予防安全機能付け赤橋渡
- 茄子の牛名残を惜しむ向きに置き蓑田和明
- 縁側の軋めばゆかし茄子の牛あさふろ
- 掃き清め花と馳走で母の迎火あられやこんこん
- 集まりは祖母の家からお墓へ変わりへっぽこりん
- 多忙にて花屋の遅き墓参りまーさ
- おがらたき思いめぐらし手を合わす月昭
- 精霊舟流しし我の行く先は白水
- 横顔の祖父に似たるや盆の秋ゐるす
〇「茄子の牛」「迎火」「墓参」「おがらたき」「精霊舟」もそれぞれ独立した季語として考えるべきかと思います。「盆の秋」は、「春の蝶」のように敢えて使っているのかもしれません。季寄せや歳時記は、編者の考え方によって細部に違いがあります。複数の歳時記を手に入れ、比較できるようにしておくことをお勧めします。
●兼題が入っていない
- 昼休みふと天仰ぎ三尺寝内田貴士
- 帰る帰らぬ魂は残人の思い任人
- 父帰るトンボとなりて我を見る大野由美子
- 踊る町 頑固おやじも 陽気かな福井無歳
○今回の兼題は「盆」です。兼題を詠み込むのが、たった一つのルール。次回の兼題を確かめて、再度挑んで下さい。お待ちしてます♪
7月の兼題『盆』は過去最多の2810句もの投句をいただきました。記録的冷夏かと思いきや8月に入ってからの連日の猛暑日。みなさま不要不急の外出は控え、空いた時間で俳句を詠んでみてはどうでしょうか。ちなみに8月の兼題は「桃」です。みなさまからのご投句、お待ちしております。今月も夏井先生より、俳号の付け方について注意事項をいただきましたので、投稿をされる方は「今月のアドバイス」を必ずお読みください(編集部)