夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
8月の審査結果発表
兼題「桃」
桃にもさまざまな種類があるが、現代の白桃は皮をむいた瑞々しい光のある果肉が美しい。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
桃食べるこころはからだじゅうにある
ちま(5さい)
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夏井いつき先生より
軽く触れただけで指痕が残る柔らかさ、薄い膜のような果皮、甘い芳香、馨しい舌触り、たっぷりの果汁は腕や唇やナイフを濡らします。黄泉比良坂でイザナギが投じたのも桃であれば、桃太郎が生まれ出たのも桃。天女のようでありエロチックであり、豊かで繊細で美しくて淫靡。こんなにも多彩な要素をもつ果実は他にありません。そんな「桃」を食べ「こころはからだじゅうにある」と感じているのです。「桃」を通して「からだじゅう」から入ってくる微細な刺激。それによって「こころ」という見えないものの存在を感じ取っているのです。この世界には「桃」と「からだ」と「こころ」しかない。うっとりと味わう桃の、何とうっとりと香ることか。
まかねふく吉備は平らか桃まろし
中岡秀次
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「まかねふく」は「真金葺」とも書き「吉備」にかかる言葉。鉄の産地でもあった「吉備」は「平らか」な国であるよ、「桃」も丸々と美味しいよ。桃の産地でもある「吉備」への豊かなご挨拶句。
匂ひ立つ白桃ひとつ月ひとつ
にゃん
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季重なりの一句ですが「月」が「白桃」を主役に立てつつ自身の存在も匂い立たせる、実に巧い手法です。「白」の一字は「月」の色をも想像させ、「ひとつ」のリフレインが美しい調べを作ります。
産土の桃や不眠の喉へ沈む
古田秀
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「産土」は生まれた土地の意。故郷の「桃」が送られてきたのでしょう。眠れない夜、起きだして食べる「桃」は「不眠の喉」へひんやりと落ちていきます。「~へ沈む」という描写が巧い一句です。
求婚の指輪のごとく桃をもぐ
じゃすみん
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「求婚の指輪のごとく」は「もぐ」に掛かります。求婚の指輪を捧げるかのように、求婚の指輪を入れてもらうかのように、瑞々しい「桃」をもぎとるのです。比喩の分かりにくさも魅力に感じます。
テーブルに桃と妊娠検査薬
板柿せっか
「テーブル」に置いてあるものを並べただけですが、「桃」と「妊娠検査薬」が思わせぶり。桃太郎が生まれた桃であり、エロチックな桃であり、さて調べてみるかと買ってきた検査薬なのですね。
白桃や月の脱皮のごと濡れてさとけん
桃啜るしづくのやうな福耳よさとけん
水蜜桃啜りギプスを巻き直すさとけん
桃の実や月打つやうに獣の尾じゃすみん
桃の箱届きぬ月の香を連れてじゃすみん
白桃や真夜のつわりの獣めくじゃすみん
嬰児の頭重しや桃熟るる古田秀
さびしさのひとつ桃の種はいびつ古田秀
喉老いて桃ひと切れに湿りけり古田秀
大学は学ぶ場家は桃食う場綱長井ハツオ
鼻歌がループに入り桃が余る綱長井ハツオ
閑散や線香臭き桃を剥く綱長井ハツオ
謝りてきのふの桃がべたべたす板柿せっか
嘘つきは何のはじまり桃の種板柿せっか
夜の桃戦争知つてゐるをんな板柿せっか
星あふれて桃はひかりを吸ひゐたりほろろ。
桃を吸ふ星くづをこぼさぬやうにほろろ。
桃くへば聖書に愛の話かなほろろ。
故人のこと誰も話さず桃を剥く若井柳児
八時間よく寝て桃を食ふよき日若井柳児
少女にも薄きヒゲあり桃熟れる若井柳児
手を喉を脇を乳房をぬらす桃にゃん
白桃へ銀の刃先を入れさびしにゃん
桃とどく安達太良山の麓よりあつちやん
白桃の白熱灯に淡き影あつちやん
白桃の届いたらしき仏間かないなだ君二年生
片側のおとがひ濡らし桃を食ぶいなだ君二年生
ステージ4告げられし日の桃の傷おうれん
縄文人今年の桃は甘からんおうれん
桃の香やサナトリウムの十五歳オカメインコ
くるりんと水桶の桃強情にオカメインコ
桃甘く滴り落ちて恋終わるかもめ
検査結果憤りつつ桃かじるかもめ
桃振つて極楽浄土の音したりきゅうもん
桃の吐く吐息にいろがあるらしいきゅうもん
月光を吸ふ白桃はよく眠るぐ
脳髄を垂らして桃の喰はれをりぐ
たましひに痛む疵あり桃啜るぐずみ
地球規模の大事な話桃洗ふぐずみ
白桃や恋は奪うか与ふるかクラウド坂の上
桃を剥く爪先すでに獣めくクラウド坂の上
吃音の熱治めむと桃を食ふクロエ
桃の皮の薄さへ沈ませるナイフクロエ
尻の向き揃へて桃が箱の中すりいぴい
桃剥いてするする水の動く音すりいぴい
桃を食む金星の地に女性名せり坊
白々と桃は獣の卵めきせり坊
水蜜桃チェリストの妻明るくてとしなり
ぽぽぽんと白桃尖る葬儀かなとしなり
白桃や天地無用の赤ん坊ぬらりひょん
母は食ぶ暗き厨の黄泉の桃ぬらりひょん
白桃や切先が喜んでゐるはむ
愛に似る不確かで甘やかな桃はむ
をとめありし下照る道に桃たわわひでやん
手白香皇女桃をたをやかにひでやん
西王母頬うるはしく桃賜ふふじこ
思春期のきず透明に朝の桃ふじこ
水墨画の河へ水蜜桃零るふるてい
桃切ればメロディ溢るるやうに蜜ふるてい
三度目の離婚話や桃香るべびぽん
大丈夫桃さえ食えば熱下がるべびぽん
桃むくことキミに言葉をかけることみかりん
夜の桃指に他人を飼うてをりみかりん
桃洗へば受胎告知めく産毛みやこまる
恐竜の脳みそほどや桃むきぬみやこまる
喧嘩した日は桃なんて触れないみやこわすれ
かはたれ時香り明るき桃の家みやこわすれ
キャバレーの看板錆びて夜半の桃ゐるす
白桃や色街抜けて学校へゐるす
かりそめの平和刃先に触るる桃葵新吾
白桃や剥かれて皮は影となり葵新吾
桃剥くや机の上の避難地図葦たかし
白桃や侍るホストの長き指葦たかし
この部屋でこの桃が一番高価或人
生命や桃の汁でかぶれる頬或人
出窓から望むネオンや桃洗ふ伊予吟会宵嵐
午時過ぎて桃の残滓の色濃かる伊予吟会宵嵐
夜と朝のあいまい白桃の輪郭一斤染乃
印象派の女の顔になりゆく桃一斤染乃
そんなふうにも鳴らせる楽器としての桃羽沖
一皮の内ゆるやかに桃時間羽沖
桃のうぶ毛微かなる抵抗ならむ花伝
穢してはならぬ桃の実預かれり花伝
桃食みて空はいよいよ透明に海老名吟
怠け者呼ばわりされた夜の桃海老名吟
大往生供物の桃はまだ若く笠原理香
桃の毛がチクチク痛い帰りたい笠原理香
背徳は夜を育ちゆく水蜜桃久我恒子
十字切るごとく白桃へと刃久我恒子
白桃にナイフは深く夜の銀座宮部里美
桃の種放られてなほ香を放つ宮部里美
言葉にも糖度はありぬ桃齧る玉木たまね
皮の中で溶けるごと桃くずれゆく玉木たまね
みつしりとひかりありけり桃つるり古瀬まさあき
ぐずぐずと折檻の夜の桃のきず古瀬まさあき
昨晩だけの女が剥いた桃を噛む五月闇
独身を貫きまして桃喰らふ五月闇
物言ひに毒持つ少女桃固し溝口トポル
剥きし妻の手の熱すこし残る桃溝口トポル
乳房失くし白桃はなぜやわらかい高田祥聖
汝の耳朶や触れずに桃の実の腐る高田祥聖
水蜜桃の匂ひ満ちたる楽屋かな彩楓
水蜜桃剥けば指先より淋し彩楓
過去問十年分桃一気食い坂まきか
軋みゆく空の実家の桃たわわ坂まきか
種割れて桃の一切穢れたる山田喜則
いつか死ぬといふしあはせ桃甘し山田喜則
桃洗ふ銀の光りを毀たぬやう山内彩月
赤んぼは水の生きもの桃実る山内彩月
まだ硬き桃の世界を拒みたり次郎の飼い主
桃を剥く女とをんなもう時効次郎の飼い主
桃ならばあんなに愛撫されたのに七瀬ゆきこ
触るるとき桃の産毛の棘となる七瀬ゆきこ
白桃のしたたりこれでもかこれでもか室谷早霞でぷちゃん
桃傷むこの惑星も傷つきて室谷早霞でぷちゃん
桃の疵家族はとうにありません潤目の鰯
桃熟れて鉄工所には焦げた靴潤目の鰯
十七の身の置きどころ硬き桃小池玲子
放蕩の兄は帰らず桃を剥く小池玲子
熟れごろのストラディバリよ白桃よ小殿原あきえ
白桃やべたべたの手で十字きる小殿原あきえ
箱畳む桃の残り香家しずか焼田美智世
手の内に桃あり声は柔らかし焼田美智世
少し距離おこうと伝へ桃を食む上野眞理
悲しくて桃はそれでもおいしくて上野眞理
傷口はすこしすつぱい水蜜桃城内幸江
危なげなまま白桃の剥かれをり城内幸江
桃の香にまろむ鬼胎や朝の卓仁和田永
桃賜り貴種流離譚完結す仁和田永
どこまでが桃かくづれるまで眺む西藤智
白桃に犬歯を立てて頬の照り西藤智
桃に爪立てて不倫にもう飽きて青海也緒
思春期の歪な喉をネクタリン青海也緒
よく熟す夜の一部屋水蜜桃青萄
白桃や指のかたちに汚れゆく青萄
家離る母の座にある桃一つ大庭慈温
桃傷む指の形のまま傷む大庭慈温
桃むいて老人ホーム入居の件直木葉子
桃包む山梨新報文芸欄直木葉子
納棺の色なき頬に桃ひとつ辻が花
桃すする姑に力蘇る辻が花
書きたての離婚届から桃の香田川彩
ハルシオンの代わりに桃ふたつです田川彩
完璧な昔話のやうな桃奈良香里
白桃の熟れゆく異類婚姻譚奈良香里
子をなさぬ身を今更に桃剥きぬ奈良素数
すつぴんの笑みは臨月水蜜桃奈良素数
白桃の傷みを妻へ供へけり内藤羊皐
地図帳を桃の滴に滲ませり内藤羊皐
白桃の色香にナイフぶっ立てる内本惠美子
桃熟れて地獄とやらに誘い出し内本惠美子
剥きたいがために贖ふ桃である楢山孝明
桃腐る地球と同じ速さにて楢山孝明
崩れゆく桃の香ホスピスの造花南風の記憶
逢引の声白桃の潰れる香南風の記憶
あの子また男に桃を貢いでる播磨陽子
ぽこぽこと孫の生まれて桃に臍播磨陽子。
割らないで桃に小人がいますので白よだか
マタニティマークを付けてそうな桃白よだか
桃に刃を突き立て妻の意思表示比々き
桃熟れて包丁甘くなる真昼比々き
十八歳未満淫行桃かじる福良ちどり
吐息のごと安らかに桃剥がれたり福良ちどり
甘美とは桃むき終ふる指の先平本魚水
話聞かぬ形の耳へ桃の息平本魚水
桃くるり噛みつきやすい場所選ぶ豊田すばる
うぶ毛浮く桃のまろみや星白し豊田すばる
保育器にありしあの指桃を剥く北野きのこ
桃潰す奥歯の軋み少年兵北野きのこ
背徳の短編を閉じ桃を食む門未知子
あかつきの桃ほのぼのとやや生まる門未知子
水蜜桃狂った男の破滅譚門前町のり子
明日までは生きるまじない桃を買う門前町のり子
暮れゆきて夜の余白に桃香る柚木みゆき
夜の桃メールの届く音一度柚木みゆき
白桃の蜜の一滴乳房張る梨音
水蜜桃わたしは愛でできてゐる梨音
桃傷みそむ寂しさの濃き朝に露砂
そこに毒詰まつてさうな桃の種露砂
また一つ失せしコンビニ桃を剥く邯鄲
ひき上げて桃は涓滴落としきる邯鄲
フルートを吹く唇で桃を食ふ中岡秀次
白桃のゐまそかりけり化粧箱⑦パパ
白桃や眠ていることの飽きだしてM.李子
義母きれい桃に濡れたる刃のきれいRUSTY
そりゃそうさいびつな桃も桃なのさあ
背徳の桃こんなにも手を汚すあざむ
桃を持つ潰さぬ指の形してあさ奏
包丁持ち手首に滴る桃舐めるあまぐり
桃と桃ふれてやはらか腐りそむいかちゃん
人も鬼も傷つけずには剥けぬ桃いさな歌鈴
桃に歯をあてる一人の昼下がりいのり
桃剥いて暫し濃くなるこの話いまいやすのり
幸運を桃ひとつ分使ひけりうさぎまんじゅう
理屈無し白桃剥く頤ようめがさそう
包丁の柄から肘へと桃の汁おおい芙美子
桃ひとつ分の優しさ重たるいおくにち木実
桃桃桃唱ふ毎増す甘みかなおざきさちよ
大臣賞の桃や物々しく開けるおばたよう
桃むくや存外やさし男の手カオス
桃の香やシーツの柔らかき産後かつたろー。
桃を剥くこの世のことと言い聞かせかわいなおき
白桃や消しゴムに書くあの子の名きなこもち
桃剥けばハープの音の溢れけりぐでたまご
手つなぎの夜道のかほり水蜜桃くま鶉
阿多多羅のほんとの空や桃熟るるくりでん
桃は悪くない原発事故の前と後クロまま
手の桃の汁を笛吹川に洗うけーい○
桃の実を抱いて女の登る道こぼれ花
ジャベリックボール投げ桃はべたべたサイコロピエロ
蟠桃や曹操高陵は質素さだとみゆみこ
寄せつけぬ水のほろろと桃の毛のさとう菓子
先生の学会土産は汽車の桃たじま
「取り扱い注意」赤ん坊と桃タシャキ
地方紙の袋裂けたる桃ひとつたむらせつこ
ひりひりと白桃の肌引き剥がすちびつぶぶどう
桃を剥くこの星の抱く水の量ちゃうりん
桃の皮つるんと剥きて善き日哉つちのこ
模試前夜重たき脳に桃をむくつばさ
絶縁のメール送つて夜の桃テツコ
いざ桃へこんなに口は開くものかてまり
優しげに触れし指より腐る桃とかき星
蜜の手を瀬にあそばせて桃を食むときこ
苦桃や母と子燃ゆる「原爆の図」ときめき人
献上の桃は光りて桑折(こおり)発つなんじゃもんじゃ
桃の実や夢におとなふ黄泉の人ねぎみそ
つるつるとワルツの如く桃をむきねこバアバ
カタコトの説明受けて桃園へパッキンマン
白桃や半紙を滑る筆の先ひなた
桃の香や妣の匂いや空の香やふくろう悠々
桃に頬ずりし反撃くらうほたる純子
この街の月は透明桃洗ふほろろ。
福島民報届けに来たり桃ひと箱ポンタ
母の掌より毀れて桃の忘れられみなと
白桃の息して暗き仏間かなみやかわけい子
桃むいてじくじくいたむ膝の傷むらさき(7さい)
白桃やおつとめ品のまだ綺麗もつこ
三冊目のお薬手帳桃をむくももたもも
ちんぴらの売りつける旨そうな桃ヤヒロ
赴任地の極上桃てふ父宛てにヤマネ
そらのしっぽぴかりひかってぽとり桃ゆうら(3才)
ひとくちに収まるやうに父の桃ゆすらご
桃ふたつ香らせておく保健室ゆりたん
被曝の村盗る子もなくば桃腐すよしだ悠
白桃は固し乳房は柔らかしラーラ
欄干によって夕日の桃を食うラリロリラリラ
破れさうな桃持ち寄りて密談するりぼうし
老愁や指先の桃滴る月亜紀女
桃囓る桃売る屋台しまいつつ亜美子
言いたいこと言ってつるりと桃を剥く愛燦燦
桃を剥く難しき女に触るるかに伊藤順女
もも色の桃にもも色の虫潜み稲架くぐる
烙印の木箱を抜ける桃の香(かざ)横浜J子
白桃のぼんやり浮かぶ仏間かな加裕子
白桃や触れざるところなほ香る可笑式
桃来たり夜気も煮詰めてコンポート夏雨ちや
白桃の重さずつしり嘘の海夏柿
ひんやりと桃皮下にある沼地河畔亭
御下がりの桃分け合うて命濃し花岡淑子
最高の笑顔の父よ桃供ふ花南天
お外まで透けてみえさう水密桃花紋
齧りかけの桃波打ち際のズック片っぽ華
桃の雨けむる向こうに八ヶ岳海口あめちゃん
横綱と同じ呼び名の桃を食む海碧
触れ難し桃の内なる匂い傷蛙里
桃押しし指かも真夜を疼きをり樫の木
白桃や勝者はすべからく素直甘平
桃切りし刃の先の蜜舐めてみむ岩佐恭子
たちまちにすとんと桃を食い納む亀山酔田
桃選ぶ妻の項を見てゐたる亀田荒太
指ごとにやさしくなりて桃をむく菊池風峰
ももかたいゆっちゃんねいまかんがえちゅう吉田結希
初恋はこの桃一つ分にせむ魚狐
表面張力桃の水滴破綻したり魚男
桃淡し諍いのまま暮れゆくも玉響雷子
白桃や魔女の鏡に映るもの桑島 幹
桃の実や滴に宿る雨中の陽薫子(におこ)
五十年物の立派な桃の尻畦のすみれ
肝移植終へし義弟よ桃ですよ月の砂漠★★
故郷にバケツで冷やす桃一つ古史朗
桃洗ふ腿の始まりどこからか古都鈴
桃色は桃の色ではありません五月野敬子
桃吸うや岡山の空濡らしおり光子
熟るる桃メトロノームの刻む闇江川月丸
終戦の記憶白き桃ひと口江藤薫
桃食ふや十指の爪きらめかす高橋なつ
桃の種吸ひ尽くすまで子規の口高橋寅次
母の桃甘し母は元父の妻克巳@いつき組
ちゃん付けの名で呼ばれつつ桃を食ふ今井淑子
仙人の髭も濡れけり熟るる桃今野夏珠子
持っている桃崩しつつ児は生きる佐藤ゆづ
傷ついた桃の涙の甘からん佐藤花伎
野球部やたまに逆毛に撫でる桃佐藤儒艮
桃一つ与ふ二十歳の恋一つ砂舟
米粒ほどの命の芽生え桃齧る斎乃雪
ともしびの更けて艶のる桃の影榊昭広
姉兄は永遠にみどりご桃かじる三茶F
ビルなべて西面明し桃熟す三島瀬波
病室に心臓ほどの重さの桃山
白桃や残り一玉六百円山﨑瑠美
白桃の種に未生の兄昏昏山踏朝朗
フクシマや母の集いに桃固し山辺道児
青春や桃を見て桃と思わぬ山本先生
人生は借物桃はすぐ傷む山名凌霄
嗚呼四球自滅の夜に齧る桃獅子蕩児
太ももの痣のうずきや桃傷む紫瑛
光増す桃の産毛の水弾き寿松
泣き黒子紅き口にて桃を食む秀耕
母さんに供えて二日桃熟れて秋月なおと
白桃やフルートの指回りおり春日春都
桃匂ふ写真の父と語る朝渚
桃洗ふ昔話のウソホント宵猫
予定日へ×あと五つ桃を剥く小笹いのり
「桃」と書き「しあわせ」と読む甘さかな小山晃
白桃や五十路は少女なりぬべし小川めぐる
樹にありて金色ちくちく若き桃小川天鵲
後見人の身上監護や桃眺む小倉あんこ
福島の桃やうぶ毛にひかり満つ小南子
口いっぱいに頬張る桃ぢかぢか松永裕歩
桃啜る甘やかに満つる羊水松山帖句
桃一片きらめくうちに食べにけり鐘ケ江孝幸
白桃や老衰といふ旅始め上原淳子
友の剥く桃美しく揃いけり城ヶ崎由岐子
小気味よく剥けて白桃滴る城山のぱく
白桃の種よ真紅の鬼の目よ色葉二穂
手のひらにつつむ太陽桃ひとつ森弘行
白桃や夜明けの海のひたひたと水夢
暗香よ中より朽ちる桃と吾杉山
好きだけどあなたも桃もすぐ傷む菅原千秋
柔らかく右折軽トラの白桃世良日守
桃の実や寝る子の睫毛麗しく瀬尾ありさ
がむしゃらに桃食んで婚の整う正岡恵似子
甘やかに光束ねて天辺桃青い月
うぶ毛に頬擦り桃の拒絶の棘のごと石垣エリザ
発禁の小説貰ふ水蜜桃赤馬福助
甘露とは熱に臥す日の水蜜桃雪井苑生
桃齧る全て許せるような気に川村昌子
還れないあの町からの桃届く浅井誠章
白桃やまた髪を染めてしまった曽我真理子
桃つひゆテレビの明かりだけの部屋倉木はじめ
白桃や宦官の手の速き脈村上敏子
離婚した父来る箱の桃持って多喰身・デラックス
傾国の貴妃の軆や水蜜桃多事
桃剥きて全き月を露はにす多々良海月
味のなき桃食ひ終へて七度五分大山正木
白髪染のチラシ四枚桃を剥く大小田忍
七歳の子のムンプスや桃甘い大津美
桃食ふや桃に蹂躙せらるべく中山月波
桃の実やちょっと淋しき片思い中村朗人
いくつもの掌経て桃無傷中嶋純子
不老不死の桃要りませんわたくしは宙のふう
何がある桃の割れ目は閉じた後昼寝
嘘つきの夜は冷やした桃食はむ田川さくら
母のいたゆるき時すぎ水蜜桃田村伊都
人を待つ夜まで甘い桃である登りびと
胃カメラの一時間後の桃である土井探花
握る手をかこむ昼の産毛に桃冬にうちわ
桃のたねしやぶり尽くして吾の味嶋田奈緒
へろへろと剥けてかなしき水蜜桃藤色葉菜
幼子の戒名長し桃香る藤田康子
濁声の八百屋なよやかに持つ桃藤田真純
ご機嫌なのんちゃんの歌やわき桃徳
桃剥きて意外な固さ世は不穏徳庵
解党の見出しに桃の滴れり凪太
白桃触るる君からの静電気尼島里志
玄関に勧誘の声桃剥けり日記
赤子めく桃のまあ間の抜けた味日午
水蜜桃入れ歯外してすすり上ぐ入江幸子
その爪と同じ色した桃を食む梅嶋紫
姫巫女が食みしは波斯由来の桃白水
君の手ごとねぶる桃やなお甘し白瀬いりこ
桃の毛の薄皮剥ぎてたよりなし白土景子
銀ぶらや妻と分けあう桃のパフェ白米
在りし日の祖母の手我に桃を剥く函
桃むけば眼の中で溢れだし畑詩音
えぐられた心へ流し込む水蜜桃八幡風花
白桃の咥ふるまなく崩れをり飯村祐知子
桃の皮剥く下手人と成りにけり比良山
図星を突かれ桃に爪を立てけり富野香衣
お持たせの桃を出したる三時かな風花まゆみ
桃あるよと耳の中くすぐる声福井三水低
白桃や耳たぶ薄い女なの文月さな女
ままならぬ今を生きぬくための桃片栗子
桃放る樹上の君は一つ下穂積のり子
「水蜜桃」昭和の母の若き声北原早春
白桃や爪立てる訳見つからず牧野敏信
桃喰らふ柔道五段の喉ぼとけ凡凡
桃食べるラジオの世評の辛きこと麻場育子
桃剥けば火傷の跡といふ乾き抹茶金魚
桃を剥く美しく剥く晴れ女満る
触れたきを眼差しに込め水蜜桃夢見昼顔
別々のことを考ふ桃の種椋本望生
白桃や洛神の賦を刻む墓明惟久里
桃の香やハープきらめく音のごと明田句仁子
種のところは母さんのもの桃を剥く野ばら
人間失格読み終えて食う桃野中泰風
仏壇の祖母に似たよな桃一つ矢的
おそろしき夢をみてをり夜の桃由づる
纏足の貴婦人の手に重き桃遊飛
香立つ桃にぽつりと穴の闇葉るみ
妻の手に見慣れぬ指輪桃を剥く葉月けゐ
朱き桃の川瀬を流れ寄りきたる来冬邦子
桃食むやよからぬことを考えて鈴木(や)
桃半分明日もお熱でないかな空龍
りえちゃんち桃が切られて出てきたの珠凪夕波
木漏れ日やがぶつき吐き出す桃と皮清水トキ
ワイルドに桃をかじって手と口洗う羽生誠
病床の手付かずの桃錆色にANGEL
指間流れる清しさは桃の香りを思い出しアーカー
柔肌にそっと触れたる桃の実のあおか
甘き香や鬼も仏も桃が好き蒼空蒼子
一仕事終えて冷たき夜の桃赤橋渡
軽トラの茶髪をのこや桃を売るAKI
義母植えし虫食い桃を頬張りぬ秋代
桃の香やきっとあの人ここに居る明良稽古
桃噛る吾子は肘まで舐め尽くすあくび指南
乳飲子の産毛の柔し桃甘し淺野紫桜
祖母の手に大きく甘い水蜜桃亜紗舞那
桃香る箱入り娘の1DKあざみ
こそり食ふ桃はまことに分け難し淺紫
水蜜桃仙人からのお裾分け麻生恵澄
手書き値の路肩の桃や伊勢の朝麻生和風
潰しきる桃のひかりや離乳食安宅麻由子
風呂上がり楊枝に刺さった桃一つ愛宕平九郎
白桃を食めば心たわやかなりsakura a.
お供えの桃の産毛が光る朝甘酢あんかけ
一人ゐて指で剥きたる夜の桃あまぶー
しぼしぼの心ふくらめ桃をむくあまぶー
桃ひとつ新米ママとパパの笑綾乃栞
桃を食う義母の口元つたう汁有馬裕子
流水に桃のくるりと尻を見せ有本仁政
白桃や赤子抱く如籠に入れ郁松 松ちゃん
競泳負けても楽し桃の笑顔池愛子
桃たべよスーと皮むき甘いあまい池上敬子
桃買って赤子のように抱き帰る池田功
桃喰らうツキノワグマのごと喰らう池之端モルト
白桃を吸う唇の紅きかな石井茶爺
うぶ毛まで丸ごと食らう桃の醍醐味石岡女依
亡き祖母に似てきた母と桃をむく遺跡納期
象老いて桃を?むる鼻掲ぐ板垣美樹
店先の桃痛々しい指の跡伊藤悦子
箱開けて白桃の香匂ひ立つ伊藤節子
赤ちゃんのお尻のやうな桃ならぶ伊藤ひろし
陽に光る産毛の桃に手をのばし伊藤正子
白桃の隠せし傷や吾もまた伊藤小熊猫
仏壇に供えた二個の水蜜桃稲垣由貴
絡みつく甘い薫りの桃のわな井上繁
朝日さす祖父の遺影と桃三つ井上あ
帰省する娘のための赤き桃今田哲和
罪あるを忘れてならじ堅き桃井松慈悦
桃買うて胸に抱へて酔ひ醒めて岩木あきひこ
白桃の飛び交っているお裾分け岩澤良子
十代の君のようだ桃や桃植田かず子
初物の桃を皮ごと丸かじり卯さきをん
買い物のてっぺんに置く桃そっと宇佐美好子
病み上がりの喉通る桃冷んやり宇田建
桃の実や幼馴染はアイドルにうどまじゅ
桃むくやまた純粋な恋をしてうまうまさとさ
陽が足りず不作とぞ聞く桃甘し梅一輪
発熱や一体となる冷やし桃梅木若葉
青果店熟した果実桃の山梅崎速人
桃熟す化粧ののりの良き日朝梅里和代
叔父帰郷開く両手に桃赤くS.久美子
桃剥けば指に滴る雫かな円
病棟へ桃捧げ持ち駆け行く子遠藤百合
まな板に残りし桃の種しゃぶる大槻税悦
桃ひとつ二人の夕げに色ゆたか大原妃
桃かじり中より元気な桃太郎大村真仙
桃の香は何とも比べず甘く漂う大本千恵子
六度目の亥年を迎ふ桃夭々?大山小袖
そばかすとしわに眩しきネクタリン大和田美信
桃の香ものせ渋滞のバスツアー岡れいこ
離乳食はや好物の桃ピューレ小川都雪
死を前に桃を命の水と父奥文緒
桃の産毛鼻先触れる冷たさよ奥村俊哉
梯子上恥じらい忘れ桃喰らふ小倉藍朱
口あふれのどを垂れたる桃の汁小栗福祥
桃2玉たわむ袋晩の苦労おさむらいちゃん
桃の香に幼き日の発熱思う尾関みちこ
はこばれし桃のスープはエルメスにおひい
マイバッグ卵の上にそっと桃おぼろ月
墓前の桃そっと包むや手のひらで雄山卓女
水蜜桃食む写真の中のじいちゃんとおんちゃん。
霊前の白桃のみづみづしさよ馨子
恭しく仏壇に座し桃を取る薫氏
桃かじる乳歯3本白の笑み風間たっくん
桃ひとくち痛み忘れるつかの間の鹿嶌純子
ご挨拶出された桃の指の跡和舟
待ちわびて茶トラの桃よ冷えに冷えかたちゃん
熟桃の人差指の凹みかなかぬまっこ
桃香るあーんされてる熱の推し鐘ケ江桜(ヲタク女子)
染みゆかんうだる昼餉の桃果汁花音
桃一つ備前に盛るや独り者甲山
凹みあと密のたまりや桃よき名神谷米子
秘密めく気配に満ちて水蜜桃亀山逸子
桃託す明日(あす)着便でかの世へと果蓏
桃被う産毛きりっと水はじく河合久子
桃食し子は明日のため種埋める川畑彩
吸血鬼のごと皮越しすする水蜜桃川端孝子
義母の桃いらぬと言えず腹ゆるむカワムラ
桃畑風閉じ込めて匂い立つ閑蛙
擦り剥いた傷の肉上ぐ桃の皮菊池洋勝
手のひらの桃やひとすぢなぞりけり菊原八重
白桃や香も満ち満ちし内祝い岸本元世
毎年に桃くれし人ガンを病む紀泰
思春期の傷つきやすさ白き桃きみえは公栄
桃の実にツっとナイフを当てる昼木村かすみ
白桃の甘し名を記し冷やしおり木村かわせみ
白桃のつるりと剥けて母笑顔木村修芳
店頭や桃の香無きまま通り過ぎ木村波平
すすれどもなおぽたぽたと午後の桃鳩礼
桃の香や瞼閉じゆくユーフォリア漁港
桃喰ふは産毛の残る乙女かな希林
お供えの白桃包みゆく朝日銀長だぬき
白桃やガブリと噛めばふるるもの楠田草堂
うぶ毛までかぶりてみよと香る桃久保恵美
桃4つ大きい一つ泣き声が久保弥邦
丸かぶりして白桃のしづく跳ぶ倉岡富士子
白桃のしたたる果汁真紅かなくるみだんご
陣痛の合間にすする水蜜桃紅さやか
相部屋の患者食うらし桃の香よ佳山
色づけど香れど固し桃なぞる恵翠
白桃や赤児のおしり柔らかき月昭
ただ何気なく傍にある熟れた桃月夜同舟
頬ずれば産毛ぞ痛く桃の肌紫雲英
ネクタイを外せし日々や桃甘しケンG
桃の香が漂よう日には友偲び源氏物語
子を抱え伸ばすも届かぬ桃の木よ弘
ぬるき桃かじる休息畑の風香羊
赴任地の河岸段丘水蜜桃小嶋芦舟
白桃や祖母の御詠歌録音す湖雪
一心に桃食む吾子の頬柔しこたろう
桃の蜜垂れて啜りし手を眺む東風弘典
つゆだくの我が子の手から桃香りこつみ
白桃に食べごろ問うた指のあと後藤久
徹夜明け旬の名残の桃食らふこばやしまき
包まれし産毛の下に白き桃こぶこ
空しらみ黄ばむ桃這う蟻潰すこまたれぶー
白桃にそっとぐさっと刃を入れり小鞠
桃切ればラ・セーヌの風頬に吹き是多
絶筆の桃らしきもの祖母の日記金平糖
卒寿過ぎ桃の皮むく母の指西條晶夫
産毛剥ぎ手弱女な桃食む妖怪西條恭子
桃の香に思わず買ってしまったよさかたちえこ
熱の身に冷たき桃が喉こしぬ 坂本千代子
立ちしまま齧り付く桃のど濡らし佐久間夕猫
戌の日の岩田帯巻き桃香るさくやこのはな
新しき村桃デッサンの実篤翁桜姫5
朝採れの固き桃分け笑う友紗智
桃ひとつ三世代で取り合うサチコ
羊水や両手にあまる水蜜桃紗千子
大ぶりの夫剥きし桃指の痕佐藤明美
腐りゆく香り艶やか水蜜桃佐藤千枝
ぬるき桃祖母が剥く手思い出す さなぎ
かぶりつく顔丸ごとの桃の汁澤真澄
ほつぺたにうぶげざわりと水蜜桃山太狼
桃つかむ指のじくじく沈み入る山陽兵
手探りの湿布の位置や水蜜桃塩沢桂子
桃の毳ナイフに敵う訳がない塩谷人秀
ビル街の君に渡さん青き桃しかもり
白桃や白き肌を笠の中敷島せっつ
白桃や乳房を探す掌の小さ茂る
頬寄せてちくと痛むや恋と桃詩扇
発するは到来物の桃二つ篠雪
きみ偲び光るうぶ毛の桃にくちづけ栞
静寂のなか読経桃の香満ち満ちる島ともこ
桃がぶり昼の片づけひと休み嶋村紀子
夕暮れや桃の故里帰りたき嶋良二
桃の香や石鹸の香もデザートも清水祥月
むせぶ香に口中うなる水蜜桃清水容子
月照らす友にもらいし桃三つ秀道
心臓悪しき乙女子の白桃夜珠桜女絢未来
立てた歯に沁みる浄さよ桃酷し酒主肴従
親子して深呼吸する桃売場シュリ
味をみる撥ねられた桃選果場惇壹
「桃ですから」宅配人はそっと置きじょいふるとしちゃん
病室の味なき桃と友の声常光龍BCAD
白桃の構造似たりこの地球城博
頽れし墓前の桃に薄日差すしらふゆき
みずみずしく甘く桃問う鬼何処真繍
街道の桃売りの旗「日本一」酔進
光ある水蜜桃の果肉かな杉浦あきけん
蟠桃や悟空の罰は五行山杉浦夏甫
鬱憤を桃ごと握り潰したし鈴木上む
齧られし跡ひとつお下がりの桃すみすずき
白桃や猫の顎先そっと触れスローライフ
唇にチクリ皮ごと桃食らふ晴好雨独
やわ肌に入れし刃先や水蜜桃青児
ハナムグリ桃の果肉やべっちゃべちゃ星夢光風
桃食し点滴みたいに沁み込みて千鶴姫
桃の皮剥くを教わる鏡ごし千日小鈴
深夜スーパー痣つきの桃をそっと置く蒼奏
初物の無垢たる桃を眺めおり惣兵衛
しなやかな指のすきまの桃の汁空
桃あるよ祖母のひと声手を洗う駄詩
南国行きトラックの荷台に福島の桃第一句けいぜろばん
やわき桃がぶりと食んで恋進め髙橋理佳子
店頭に桃の香りとATM高橋光加
桃冷えて縁台将棋ひと休み竹内うめ
幼な子のほっぺた甘し水蜜桃竹内みんて
母の忌やまるごと啜る水蜜桃竹口ゆうこ
恐恐(こわごわ)と赤子抱くよな産毛桃たすく
桃の箱開けるまでもなく香りたつ多田ふみ
ベタつきも産毛もなんの桃果肉唯飛唯游
屑桃といへど妙なる旨さかな橘右近
今年また届いた供え香る桃立山枯楓
桃の香をほのかに残し下車の人田中ようちゃん
手に取れば期待に応えて桃重し谷口あきこ
桃狩りの帰りの車内酔うほどに谷本真理子
特売の桃二つ買う日曜日玉井令子
包丁や桃の実そして種までもタマゴもたっぷりハムサンド
熟れし桃するりと衣脱ぎすてしたむこん
目移りの桃2ヶ入のパックかな田村とも子
桃かじるたとへ毒だと言はれても田村利平
桃かじる子頬のうぶ毛の陽に浮かぶ蒲公英
たわわなる完熟桃や被爆の地知足
桃かじり腕に一筋汁はしる千葉睦女
桃しみじみ見てから食べる四十九日衷子
白球と声援空に放る桃土田耕平
糖度十四はマイセンの皿に水蜜桃土屋雅修
白桃の妣の薫りす産毛かな出井早智子
モネの睡蓮の色したる桃桃てんてこ麻衣
四畳半ほっかり丸い桃四つ苳
赤子抱く様に皮剥き桃を食む桃雨
もみじ手は黄泉のじいじに桃ねだり堂林心太
病室に桃の香乗せた風満ちてDr.でぶ
人肌に触れればとける水蜜桃としまる
整理券配られており産地桃戸根由紀
脹やかな白桃愛でて君愛でて斗三木童
仏壇の桃消えておりポチ笑うとみことみ
お供えの桃の香りに帰宅する富山の露玉
赤子の頬撫でるごとく桃をむく豊田純子
弾きたる産毛の白き冷し桃鳥越暁
堂々と父猿庭の桃食らう楠央
歯みがきの途中で届く桃の箱中島知恵子
赤子抱く桃の実採る手の優しさよ中嶋京子
桃を買ふ長蛇の列に整理券中島圭子
まだ青き桃さぁどうするアダムとイヴ中嶋sola
桃のたね磨く母の手逆むけたるなかしまともこ
桃かじる仕事の終わり見えぬまま中西柚子
桃の実やつるり皮剥けこれ当たり中道潮雲
桃狩りの記憶は雨の音と共に永谷部流
白桃の薄皮ひん剥き真夜中薙田碓
桃の香に財布の紐が緩みけりナサケモノ
薄皮の桃の実食べる子供たち菜奈子
熟れ過ぎた桃だけがある独居かな七咲人天
初孫に似てほうばりし桃独り身ゆかり
早朝の櫓組立て桃冷やす新見妙子
白桃の産毛触れよの媚に負け二鬼酒
かぶりつく冷桃生きているしるし西尾至史
桃剥くや肘に触れたる小さき手へ西川由野
吾子跳ねるほころぶ桃のやはらかきかな西下真由
主婦目線箱入り桃を選別す西原さらさ
禁忌侵犯硬き桃の皮を剥ぐ西村小市
仏壇でほどよく熟れた桃の美味西村優美子
新しき桃の剥き方新しき我にたいも
わが家にこわれやすくも桃のあり楡野ふみ
母の桃主亡きまま朽ちてゆく任人
桃香り触れた指跡手でなぞりねがみともみ
桃の香や気怠き午後のまどろみに根々雅水
嬰児を想い頬擦り桃のとげNERO
どつしりと白桃匂ふ赤子かなの菊
麻痺の手に三つ転がす桃の種野木編
検査結果聞く日の朝の桃ふたつ野紺菊
ひと目惚れさせ触れさせぬ桃美味し埜水
指でむくきらきらにむく今朝の桃のど飴
車座で皆がほおばる庭の桃延杜
あご手首ひじへ滴る桃の汁のりこ
桃一つ転がつてゐる夜の闇俳句の枝幸十佐
種めがけ断つ音も美味し冷し桃白雨
桃狩りや視線を感じた背には猿白康人
桃を食む長女臨月逞しく馬笑
原稿の埋まらぬ夜や桃を切る走流
母からの箱開け桃の硬さかな長谷川京水
道の駅香り案内す桃売場長谷川ろんろん
桃剥けば忘れぬ五感香りたつ長谷島弘安
ご褒美は水蜜桃の丸かじり初野文子
こそばゆく伝ふ手首へ桃しずくはなあかり
老介護そっと優しく桃の様に花咲みさき
お下げ髪桃の産毛は汚れなき花咲明日香
レジ係両手でひよいと桃ひとつ花節湖
お供えの桃に小さき指の跡馬場東風
笑み零る白桃充つる台所浜けい
離縁決断未練の水蜜桃早山
白桃の味知らず遺影の笑顔原貴美子
こだわりの桃の剥き方母の真似原善枝
桃残る部屋エンゼルケアも終わりはらぐちゆうこ
不作じゃが桃送ったと聞く訛原田民久
白桃の光る産毛よ赤子に似てharu.k
桃食うやアンドゥトロワの声響くハルノ花柊
桃がぶり負けず大口蜜満つるはるる
ひとかじり肘までつたう桃のつゆ晴空
病室のしじまより匂ふ白桃樋熊広美
香港の民主の光桃くらふひこぞう
純情か淫らか桃の曲線はひっそり静か
両の手に受ければ桃の重さかなひな子桃松
持ち帰る桃も通らぬ叔父の喉ひなたか小春
俯いて桃むくほっぺも桃ふたつひな芙美子
吾が奥に熟れさせきれぬ桃一つ雛まつり
病床の乾きし我に桃の甘ビバノンノン
ほとばしる桃の旨さに生き返るひめりんご
熟し桃剥いたそばから傷みをり飛来英
食べ頃も茶色に傷む桃と吾ひろ夢
桃の実食みて種すする果報かな琵琶京子
追憶や桃の香りと切なさとふうこ
歪なる桃も桃なり香りたつ風紋
桃を剥くマニキュアの爪高校生福泉
うれし桃遠く故郷にわれ巡る福田まなみ
母逝くを見守るだけの籠の桃福ネコ
幼子の産毛光りて桃の香や福弓
肘上げて丸ごとの桃吸い上げる藤井聖月
お下がりの桃食む夜の一人きり藤井眞おん
入院の主待ちわび桃三ケふじかよ
ごくごく呑むやうに食らう水蜜桃藤田ゆきまち
渋滞に香るはねだし桃一箱藤千鶴
桃の実は赤子のおしり頬ずりす藤原訓子
桃に頬擦り付け刺さる毛の痛し双子の父
白桃の滴る香り手に残るふみ
桃喰えば身延山からお題目古いっちゃん
モー、もーとねだる幼子かぶりつきぶるーふぉっくす
桃の香にいざないて月寄るやうな古田七七
落桃に虫らの宴は豪奢なりか古田もも
桃を食べ至福満開頬地底ヘッドホン
園児らの桃狩る頬も桃のやうペトロア
子の友の土産立派な箱の桃弁女
桃ならば天使の吾子と食べたくてベリーベリー
朝帰りの脳に水蜜桃甘しほしの有紀
地方紙がギッシリと詰まる桃の箱星善之
超過保護押すな触るな桃産毛蛍子
山道やナナハン飛ばし桃の風盆暮れ正ガッツ
頬染めてうつむく恋や桃の香よ本間美知子
泣いた朝優しき母は桃切りし俳号なをみ
独り身をよよと挑発熟れし桃真壁正江
祖父選ぶ祖母が好きな桃をふたつ孫
桐の箱桃が飾られ値段見ず誠「羽生誠」
桃で一句ときめいていまボタン押すマサクン82
桃食むやテレビにストの叫び声真子
桃の皮剥かずに囓りつく子かな増田賢一郎
桃の種剥いた最後にしゃぶりつく松井くろ
ゲームセット喉の渇きや冷えた桃松尾義弘
白桃を剥く手にそっと彼のキス松島美絵
ふくよかや水蜜桃の皮剥けば松田文子
寄る犬の鼻近づける水蜜桃まつばらたかお
思春期は傷つき癒す水蜜桃松虫姫の村人
桃うちて心の内の傷みかな真理庵
朝の電話むきたる桃の色変はり丸山隆子
失恋の予感白桃食べ尽くす三浦ごまこ
夜一人シンクに食む水蜜桃澪つくし
白桃の香り居どころ知らすかにmika-na
被災地の友より届く桃の箱三河五郎
夫言う昔は君も桃だったみさき
桃の子はどこにいるのか種の中美翠
桃剥けた手を出す父と隠す母水香
桃林に分け入り墓を尋ねけり三須田敏
桃たわわ夜の果樹園香に酔ひし水木華
食べたさが手間に勝りし桃うましみなお
店先の桃裏返し比べけり湊かずゆき
報われぬ日々過ごしつつ今日は桃蓑田和明
旅立ちを見送る路線桃の花宮杜都
桃狩りも一興妻とバスツアー見屋桜花
桃を剥く今日は妻と母返上都乃あざみ
桃ひとつ無言で分ける夕べかな宮武桜子
桃二つ描きたくなる愛らしさ美山つぐみ
添えられた文まで桃の香り立ちみわ吉
桃の皮つるっと剥けて告白す睦月くらげ
かぶりつく桃の甘さで目を覚ます無頓着
桃の実を右手にのせし重さかな村上一杯
もものみのゆるゆるふるるややのほほ紫小寿々
一人居や吾に一個の桃をむき村松登音
白桃や植ゑし祖母の頬に似て村山信子
掃除機を立てかけ喰らふ朝の桃暝想華
指から手へ腕へ流るる桃の汁めたる
白桃や死は傍らに佇んでmomo
桃齧るあなたを見つめるただジッと桃葉琴乃
ハミングとあらはれきたり黄金桃森田鞠子
桃の香の重さ味わう病床の母森谷拓之
白桃や過ぎ来し日々の甘苦さ焼津昌彦庵
白桃や眠りを誘うハンモック八木実
玄関に着くなり香る旅の桃痩女
お供えの水密桃に母想うやったん
手土産は桃積年の姉への不義理柳川心一
蜜桃の羽衣踊る母の手よ柳田恋
皓を足し皓を足し明け水蜜桃山沖阿月子
水蜜桃線香の香とともにあり山川恵美子
桃たわわ被災フクシマまだ苦難山川芳明
売れ残るうぶ毛の桃や痣一つ山川真誠
果樹園の水禍の川面桃一つ山口要人
桃の香に食べ頃待ちつ吾子ありて山口香子
ゆっくりとこぐ前籠に桃二つ山育ち
甘美なる桃よ確かにある幸せ山田啓子
桃かじる野球小僧は種も噛むやまなみ
桃2つ並び見つめる兄と弟山野花
桃食めば食細き吾子思いだす山本康
黒一点平日カフェで桃がぶり山本隆雄
桃供へ満ちる香りの一昼夜山々こすみ
残れるは皮と筋のみ愛し桃八八牧七
桃の香や花畑のごと商店街弓場朝日
桃の実を投げて黄泉より帰還かな柚木窈子
雫したたる首つきだし桃かぶりつく雪割豆
熟す香と芳し桃の誘ふ朝ゆりこ
桃を食ぶ何処へも行かず糖度13百合乃
桃の実や皮と種取り嫌で嗅ぎ吉哉郎
病室に指の跡つく桃ひとつ吉田びふう
車停め直売の桃買ひにけり吉田喜美子
いつの日や桃の香りてお年頃吉田有里
白桃やかんばせ熟れし年祝いよち桜
祖母の手に宝珠の如き水蜜桃よにし陽子
あまき香やゆったり冷やす桃ひとつよりこ
すべもなく花畑のごと落ちし桃里惠子
指跡付け桃まるかぶり香る指龍季
あまた蟻類を競わず桃の種隆泉
笑くぼかとそっと触れたる桃の傷稜風
桃ひとつばぁちゃんに供えけりルゥ
桃二つ有らば許せる熱の妹和伊子
前を行くカップル桃の甘さかなワイス
おにぎりに桃ひとつ持ちスタンド・バイ・ミーわかなけん
桃の芯しゃぶりつくせし我自由惑星のかけら
白桃の匂香懐かし移動売りわさびあられ
桃の種磨きて妣の帯留めに渡辺音葉
残業や家に帰れば桃がある渡邉一輝
桃ふたつ一人で喰らう夜アロマ満つわたなべぃびぃ
靴紐を緩めリュックの水と桃渡邉竹庵
水蜜桃みずみずしき蜜口ひたす渡邉久晃
小ぶりな桃吾のため父の植えし桃渡辺美智子
にわか雨そっとそっとに桃を剥く渡辺陽子
古希過ぎて夜勤の朝に桃を喰む侘介
産毛ひかる子らと桃とが川にて冷えたるくじら
桃入りや神保町のキーマカレー腹胃壮(伊勢史郎)
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
【お願い】
●俳号には苗字を!〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて、姓をつけていただけると、混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
◆ひとことアドバイス
●俳句の正しい表記とは?- 桃かじり 滴る甘さと 母の愛ちゃっぴー
- 汁垂れる 桃独り占め 子は部活のさち
- 水蜜桃 腕試される ナイフ跡井上早苗
- 桃の香に乗せ 邯鄲の 恋調べ茅鼠夜鷹
- 点滴に こめし思ひや 桃香る星野茜
- かぶりつく 孫のほっぺは 桃ににて由比浜亨
- 早朝の 花桃の実の かほりきて葉月檀
- 桃も無理 甥っ子哀し アレルギー和奴
- カリカリと、諦める祖母、熟れぬ桃齊藤広子
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
●兼題とは
- 扁額の筆は桃季の山の庵秋水
- 哀の根桃郷にあらん還らばや鈴木大和
○今回の兼題は「桃」です。兼題を詠み込むのがたった一つのルールです。この二句には確かに「桃」という字が入っていますが、本サイトでは、毎回季語を兼題として出題しています。兼題を季語として使っている句をお寄せ下さい。
●別の季語
- 老い心ほんわかほぐす桃の花今井正博
○「桃」は、桃の実を指します。秋の植物の季語です。それに対して「桃の花」は春の植物の季語に分類されています。
●季語かどうか、ちょっと微妙
- 桃の木の家で尾を振る夕散歩田畑尚美
- 桃農家の叔父の軽トラ来阪す真宮マミ
○「桃の木」は一年中あるので、実なのか花なのか、はっきりさせる必要があります。「桃農家」もちとビミョーです。
●桃が比喩になっている
- もぎたての桃のごとき男児の頬いろをふくむや
- 白桃に触れるがごとしおしめ替えお品
- 桃の様パワハラセクハラに過敏篠崎彰
- 口付た蜜桃の様な君の頬布尼呼
- 桃の味すすり込むよに秋の月森澤佳乃
○「ごとき」「ごとし」「様」「様な」「よに」によって、季語「桃」は比喩として使われています。季語を比喩として使ってもよいのですが、往々にして季語としての力が弱まります。ここにあげた五句はどれも季語「桃」が描かれているとは言い難い。季語を季語として描いた句をお待ちしています。
●一句一季語から練習
- 灼熱や逃げ入るスーパー桃の香nid
- 切なさよ線香花火としわの桃まるみ
- 立秋残暑厳し桃の木々加島
- 炎天下埃のにほひ桃食らう中谷典敬
- 白桃の産毛はやさし日焼け肌田中玄華
- 新月や熟し切らない桃一つ登久光
- 桃の傷きずかぬほどの夏がゆく夢おとめ
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「桃」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。
- 虫喰いの桃煮る母の背祖父おくる都靑
○「虫」は秋の季語ですが、この句の場合の「虫」は「桃」を食う害虫として描かれているので、季重なりとしてはセーフ。が、一句に入れる材料が少し多すぎるのが問題です。「虫喰いの桃煮る母の背」で一句とするか、「桃煮る母の背祖父おくる」で一句とするか、推敲してみて下さい。いやいやどちらも入れたいのだ!ということならば、俳句ではなくもっと音数の多い詩型で表現することをオススメします。
8月の兼題『桃』はまたまた過去最多の2926句もの投句をいただきました。毎月投句いただき、本当にありがとうございます。(編集部)
【ご注意】9月30日20時よりサイトメンテナンスを行うため、9月分の投稿は20時で締め切らせていただきます。
また、10月の兼題は10月1日12時以降の発表となります。ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。