夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
8月の審査結果発表
兼題「残暑」
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
父母会は残暑の臭う体育館
葉るみ
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夏井いつき先生より
秋の季語「残暑」と夏の季語「暑し」の違いは言うまでもなく「残」の一字。残念の残、残業の残、残尿感の残は、後に残り気分を損なう「残」です。それを色濃く感じたのがこの一句です。最近は保護者会というそうですが、通称「父母会」と解してよいでしょう。「残暑」の頃に「体育館」で開かれるPTAの会合。「残暑」は初秋の季語ですから八月初旬~九月初旬の頃。この会は定期のものではなく、夏休み中に起こった事故や事件についての臨時総会ではないかと読みました。「体育館」に集まった何百人の父母たち。人いきれは蒸し蒸しと「残暑」を臭わせます。紛糾必至の会は、今始まろうとしている。「臭う」の一語のリアリティにざわめく迫力があります。
残暑の諍いはペンギンのせい
石山俊道
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「残暑の」と性格付けされると「諍い」が益々鬱陶しく感じられます。そもそものきっかけが「ペンギン」だったか、「ペンギン」のせいにしているだけなのか。「残」の一字が益々暑い「諍い」です。
秋暑し象の隣りに象がゐる
登りびと
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「残暑」の傍題が「秋暑し」。映像を持っていない時候の季語に「象の隣りに象がゐる」という只これだけの映像を取り合わせる発想が実にユニーク。皺だらけの「象」と「象」のインパクトに脱帽です。
赤茶けたシャーレの中の残暑かな
塩谷人秀
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何かの実験なのでしょう。じっと見つめる「シャーレ」の中には何か「赤茶けた」モノが張り付いているのでしょう。「シャーレの中」にも「残暑」を感じ取ることができるのが俳人のアンテナです。
潜る子を残る暑さへ引き上ぐる
青海也緒
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「へ」の解釈を迷ったのですが、「残る暑さ」の中に立つ作者が、水中に潜っている子を掴み上げる瞬間だと読みました。「潜る子」は小さな我が子でしょうか。水飛沫が残暑を濡らすかのようです。
然り我が初老残暑のサザンオールスターズ
羽沖
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「然り」は、その通りであるの意。そうだよ、「我が初老」の「残暑」は今年も「サザンオールスターズ」と共にあるよ。サザンを愛してきた同年代として「初老」「残暑」の二語が胸に響く一句です。
ピーナッツバターのような呼び込み夕残暑ぐ
豊かなる湿り気の椅子秋暑しぐ
チャップリンの足を引きずり行く残暑ぐずみ
第五回閉店セール残暑中ぐずみ
太陽の心音弱き残暑かなしかもり
ペリカンののど袋揺れ残暑かなしかもり
指紋付く革のアルバム残暑かなじゃすみん
チョークの絵道路に踏まれゆく残暑じゃすみん
二号棟の影に嗤つてゐる残暑すりいぴい
猫の乳二列に揃ふ残暑かなすりいぴい
残暑かな魔法がそろそろきれてきたちま(4さい)
残暑の日ジュゴンはのっしり回ってるちま(4さい)
パスポート残暑とともに仕舞いけりなおこ
ポケットに異国の硬貨残暑かななおこ
クレームの電話を捌く残暑かなにゃん
ライオンの陰嚢晒せる残暑かなにゃん
湧き水や肥後の残暑をせんせんとふじこ
夕残暑キリコの少女輪を回すふじこ
膝裏を伸ばす体操残暑かなぼたんのむら
間違ひはすべて残暑のせいらしいぼたんのむら
残る暑さ抽斗の中かき回すみやこわすれ
残る暑さあの折り鶴の羽のいろみやこわすれ
放免の日を待つ如き残暑かな加裕子
家計簿に滲む赤文字残暑未だ加裕子
古書店の仄暗き匂い残暑かな歌鈴
動物園めきたる夕べ残暑かな歌鈴
紙皿に乾く残暑のハムサラダ樫の木
電球のぷつと消えたる残暑かな樫の木
不祥事のぞろろぞろろと残暑かな久我恒子
残暑なり肉芽ふよふよ押し戻す久我恒子
赤本の付箋はらりと残暑かな宮部里美
残る暑さ眉墨はポキリ折るる宮部里美
銅鏡の裏ばかり見てゐる残暑玉木たまね
二巻だけ貸し出し中の残暑かな玉木たまね
秋暑し真っ白い涎の駱駝桑島 幹
秋暑し理科室のホルマリン漬け桑島 幹
残暑なお小指でたどる貝殻骨薫子
風たえて町うずくまる残暑かな薫子
ぷつぷつの紅い残暑へオロナイン溝口トポル
はらわたのとろりコロネの残暑かな溝口トポル
空を飛ぶかたちに犬の寝る残暑香野さとみ
ガスパチョを平らげ新宿は残暑香野さとみ
高気圧残暑のしっぽつかまえた佐藤千枝
残暑かな大阪の人みな無口佐藤千枝
宿題しなさいって言うけど残暑座敷わらしなつき(7才)
フッ素塗り口がすっぱい残暑かな座敷わらしなつき(7才)
秋暑し海の果てより油槽船彩楓
ダムに濃き山の影ある残暑かな彩楓
潮の香や残暑を抱く空貝斎乃雪
ジェットコースターの振りほどく残暑斎乃雪
狼の舌長々と残暑かな山内彩月
紫の海面呻く残暑かな山内彩月
ふるさとの窓開けにゆく残暑かな七瀬ゆきこ
留守宅の鍵穴鬱ぐ残暑かな七瀬ゆきこ
親知らず抜くと決まりて残暑かな小市
両替に列のできゐる残暑かな小市
やせ猫と夕餉わけあふ残暑かな小池 玲子
浅間山の噴火レベル告ぐ残暑小池 玲子
砂利道を沈めて歩く残暑かな城内幸江
残暑かなアンモナイトの深い息城内幸江
森に降る雨が残暑を洗っている真野悠
ほくほく線トンネル抜けてまた残暑真野悠
寝不足に街の傾く残暑かな多々良海月
残暑なり父の猫背のきはまりぬ多々良海月
簡体字をどる残暑の心斎橋中岡秀次
水槽に水をつぎたす残暑かな中岡秀次
きりんの首まっすぐ伸びて残暑かな宙のふう
抽斗の奥に残暑の鎮座せり宙のふう
残暑蹴散らせベーコンはかりかりに田川彩
おじさんが走り回っている残暑田川彩
口元の面皰さすりて残暑かな渡邉一輝
太陽の不器用ゆえの残暑かな渡邉一輝
理科室のシンク臭うて秋暑し内藤羊皐
鶏の鶏冠潤める残暑かな内藤羊皐
ふるさとの残暑は一塊の鉄猫愛すクリーム
叔父の訃のはがき一枚残暑かな猫愛すクリーム
仁王立ちしたる残暑のフラミンゴ播磨陽子
バスの来ぬバス停残暑のキャラメル播磨陽子
山手線残暑の被膜はりつけて白樺みかん
スカイツリー下はアジアの残暑かな白樺みかん
ケロイドめくBCGの痕残暑比々き
愛国歌撒いて残暑の街宣車比々き
猫の舌しまひ忘るる残暑かな比良山
屏風絵の虎の出たる残暑かな比良山
脚太くなりたるやうな残暑かな富山の露玉
貝殻の螺旋残暑のビル白し富山の露玉
上向いて蛇口二三個残暑かな豊田すばる
足首をしりしり残暑の風舐める豊田すばる
疱瘡の痕のあらわに残暑かな本上聖子
魂の蒸発したる残暑かな本上聖子
風吹けば残る暑さの裏返る凡鑽
秋暑し癌細胞は大食漢凡鑽
父の髭ぬるり剃りやる残暑かな野地垂木
残暑光山師の叔父も逝つたそな野地垂木
折り鶴の翼弛みて残暑かな由づる
子を叱るこゑ母に似て残暑かな由づる
ありありと顔が残暑を告げてをりくりでん
着ぐるみの怪獣残暑吐き出しぬくりでん
中指の水脹れ刺す残暑かな石山俊道
残暑にもジャズにも乾く昼の星登りびと
子はしりを私はちちを出し残暑青海也緒
水引のほどけぬ固さ残暑とは24516
喧騒をしまい始める残暑かなANGEL
残る暑さテールランプの尾を引いてmika-na
秋暑し液体のりの西日色あいだほ
天色に雲猛々し残暑かなあきこ
手相見の客待ち顔や残暑まだあつちやん
かさぶたの半分残る残暑かなあまぐり
こころの声のこぼれてしまふ残暑かなあまぶー
蔵窓の三角形の残暑光いち瑠
ピアス孔かたまらず膿む残暑かなうい
白鷺のたじろぎもせぬ残暑かなうさぎまんじゅう
愛犬の墓標を探す残暑かなうたけいこ
残暑きびし昨日は火星大接近うどまじゅ
恋もまた冷めるものです嗚呼残暑おくにち木実
この残暑地獄の余り熱混じるおざきさちよ
ヒール脱ぎ紅と残暑を拭う夕おぼろ月
秋暑し今日も人来ぬ接骨医カオス
牛の尾の尻を叩きて残暑かなかぬまっこ
ござ敷いて祖父と昼餉の残暑かなかわせみ
天井の染み広がりし残暑かなきなこもち
ゆぶゆぶの風半色残暑なりくま鶉
甲子園光れる放水の残暑くるみだんご
木の箱に石ころひとつ残暑かなけい子
被災地はなべて寡黙に秋暑しケンG
スライディング白い歯見せている残暑こすみ
秋暑し洗ひし湯呑み口薄しサイコロピエロ七変化
墨汁の葉書掠るる残暑かなさくやこのはな
プレス機の吐く息重し残暑かなさとう菓子
破砕機の唸る残暑や潮の風さとけん
びん底の蜂蜜こそぐ残暑かなさとち
空見上げ笑う百歳残暑かなシロクジラ
太鼓打ち念仏踊り残暑澄むスージー
とろけては残暑貼りつくドロップスたなかとまと
トラクターに踏まれ轍となる残暑テツコ
軋めいて残暑吐き出す室外機とかき星
表がへす昆虫かろき残暑かなときこ
突堤を残る暑さや星の魚籠としなり
生家も骨も野に帰す残暑なりとものこゆめ
抜け殻のまた動き出す残暑かなぬらりひょん
残暑の日胡坐の父の細きすねねぎみそ
列島の残る暑さやまっ赤っ赤ねこバアバ
押入れを開けて残暑の匂いかなのりぞう
白球の残響黒き残暑かなひでやん
投稿の齢足したる残暑かなひふみ
残暑なほ顔尖りたる犬のゐてふみゑ
雲を見て妊婦の歩む残暑かなポンタ
歪むレール黒き残暑とこの恋とぽん子
プルタブのプシュと残暑へ立つ小指まどん
会議後に火星見上ぐる残暑かなみかりん
蜘蛛の骸掃けばばらりと残暑かなみかん
畑土の喘ぎ身に沁む残暑かなみきこ
泥臭の楽器音出ぬ残暑かなミセウ愛
象の鼻ずずずと水を吸ふ残暑みなと
球児らの残暑蹴散らす打球かなみゆき
残暑の日のアシカのひげは雲につくむらさき(6さい)
口紅はボルドー残暑に背を向けてもつこ
さて今日も唸る残暑ややや謀反モッツァレラえのくし
郵便受けチラシ溢るる残暑かなやまちゃん
あきあつしゆいとがじぶんでもぐるんやゆいのすけ3才
クレヨンの青買い足しに行く残暑ゆうほ
アメ横の喧騒に入る残暑かなラーラ
残暑とはおおあくびして樹々起立亜紀女
残暑の日々ブルーシートの屋根続く亜美子
大河たひらかに流る残暑の底愛燦燦
孫と書く墨の香残る残暑かな愛子
「X」のスコアボードや秋暑し葦たかし
原付のきよらかに白残暑なり或人
宮殿の多国籍臭残暑かな安曇野多恵
陋屋にふんぞりかへる残暑かな杏と優
黒鍵の異音小指の残暑かな伊介
墨壺に筆柔らかき残暑かな伊予吟会 宵嵐
紙コップ握り潰して投ぐ残暑遺跡納期
鉛筆の匂ひは喉へ浸む残暑一斤染乃
豆腐屋のラッパが残暑に枯れている卯さきをん
数珠くりの子らの念仏残暑ゆく永美
異国語が混じるコンビニ秋暑し円
残暑かな月曜朝の無精髭加藤哲
自動ドア重たく開く残暑かな花伝
井戸水のまだ甘さ濃き残暑かな花南天
白髪染め止めると決めた残暑かな花柊
残暑見舞まあ下手くそな次男の字華
絆創膏より傷覗く残暑かな霞山旅
会葬にきつい喪服を着て残暑笠原理香
玄人の洗ふ陰部や秋暑し菊池洋勝
回らない錆びた地球儀残暑かな宮坂変哲
手術痕薄くなりたる残暑かな宮武桜子
ヒロシマや残暑のドーム赤く揺れ居升典子
山の手言葉迫る長電話や残暑京野さち
ゼラチンで固めし残暑透けぬ空銀長だぬき
多摩川の水面てらてら秋暑し古史朗
グライダー空青すぎて残暑なり古都鈴
古九谷の緑濃きふち残暑かな光子
つけまつげ端にとどまる残暑かな江口小春
残暑の夜幽かに歪む畳の目江川月丸
道化師のちらし撒きたる残暑かな硬膜外
ひかがみに残る暑さや少女過ぐ紅さやか
瓶に詰め残る暑さを海へ投ぐ綱長井ハツオ
生け花や残る暑さに向かいつつ香子
陶器市に夫を探す残暑かな高橋なつ
避難所の淀む残暑へ臥せにけり高橋寅次
接近の火星を仰ぐ秋暑かな高村安子
吟行の膝へ残暑の湿布かな克巳
湿りたる漢字ノートや秋暑し根本葉音
残る暑さペディキュアの爪伸びてゐて佐藤儒艮
老い兆す秋暑に起きる夜の影榊昭広
黒牛が運ばれてゆく残暑かな三茶
雲愛でる余裕でてきた残暑来た志貴子
また逝きてまた逝きてまた残暑かな次郎の飼い主
老犬や瞬き二つ逝く残暑篠原三三子
残暑かな唸りをあげる洗濯機柴紫
中華屋の床のべとつく残暑かな若井柳児
残心は袈裟に切りたる残暑かな秋水
掃除機のホース絡みて残暑かな春野いちご
溶けさうな夫のふぐりや秋暑し小川めぐる
桟橋の残る暑さや警備艇小嶋芦舟
口笛はサッチモ残暑の川面とぶ小南子
紅毛の膝下長し残暑かな小漣世
鎌振るう腕にも力残暑かな松永裕歩
仁丹をがりり残暑の外に出づる松山帖句
親友の意味を問われて残暑かな上野眞理
沖つ風ざらり残暑の汐の香や城ヶ崎由岐子
網棚に残暑の故郷載せにけり森都
傷跡に鉄錆匂ふ残暑かな真繍
体内のゆるむねじ巻く残暑かな真壁正江
土嚢積む首巻くタオル嗅ぐ残暑真優航千の母
渋滞の光の帯や道残暑水夢
いろは坂下り残暑の町に入る晴好雨独
麻痺残る手が一鍬一鍬残暑積む正岡恵似子
叔父の名をさがす摩文仁の残暑かな清水容子
作業場へ残暑ガレーを漕ぐ如く西川由野
鉄錆の匂へる駅舎(えき)の残暑かな走流
残暑です呪いのやうな爪の紅(あか)大久保響子
残暑の夕に拾った恋と半世紀大山恭子
差し戻す稟議書二件残暑かな大小田忍
丸付けのドリル波打つ残暑かな大槻税悦
青空の切れ目を探す残暑の朝大弐の康夫
鳴き鳴きてむくろとなりし残暑かな大野浩平
雲に影映す白鳥(しらとり)秋暑し鷹野みどり
残暑のダイナミズム古稀に弾ける沢田朱里
かっかが来るよ平成三十年の残暑谷口道子
甲子園残暑サヨナラホームラン中間康博
干涸びたボート引きたる残暑かな中山月波
褪せた朱のさるぼぼ笑ふ残暑かな中西柚子
残暑なる金糸雀色の現かな衷子
脳天に大きな穴開く残暑かな辻が花
カタカナのサプリとりどり残暑かな天満の葉子
球児らの残暑の泥を揉み洗う田村利平
殺人鬼のごとき残暑めらめらと田中紅雲
描き眉の少し残暑に滲みをり田中洋子
秋暑しのびたまんまの犬の舌田付一苗
白球にノボさん偲ぶ残暑哉田良穂
石畳下駄音こもる残暑かな渡辺音葉
太極拳の腰定まらぬ残暑かな都乃あざみ
踊り字のグラマーすぎる残暑かな土井探花
桟橋の水しづかなる残暑かな土屋虹魚
嗚呼嗚呼と残暑の鴉ゴミ漁り冬のおこじょ
二日目のカレーのごとき残暑かな藤間和美
残暑吐く埴輪の口の形かな奈良香里
立ちし後のソファーの窪み秋暑し奈良素数
挨拶に手垢のついた残暑かな楢山孝明
深夜ふと老い確かむる残暑かな楠田たか久
秋暑し錆クギ一本転がりぬ入江幸子
理性残量表示不能にして残暑猫路
もの言はぬ父と息子の残暑かな波の音
寝返りて箪笥を小指で蹴る残暑白瀬いりこ
カタカナとローマ字溢れ残暑かな白米
床の間に陛下の写真村残暑八幡風花
裸婦の痣うつすらと描く残暑かな彼方ひらく
JKの枝毛に残暑匂ひたる柊月子
名付ければ恋とは言えぬ残暑なり風来
東京の残暑アスファルトの歪文月さな女
残暑来て律儀な膝が痛み出し穂積のり子
焼き網にホルモン反りて秋暑し北野きのこ
シャワー室乳房持ち上ぐ残暑かな本間美知子
家と歌残し残暑に逝く祖母よ麻衣
秋暑し歯科のドリルの高き音明田句仁子
マトリョーシカのひとつ転びて残暑かな門未知子
残暑の候室外機だけ鳴いている野ねずみ
秋暑し手首を掴む腕時計野ばら
言葉尻残暑に置けば火を穿つ野胡のこ
残暑なり肺に影あるレントゲン有瀬こうこ
停車位置少しずれたる残暑かな有本仁政
顔洗う残る暑さの仮設かな遊
縄文の土器のやうなるこの残暑立川六珈
共生の灸の香こもる残暑かな琉璃
残暑の夕廃屋なりし祖母の家亮介
残暑なほ仇敵がごと拭く濡れ縁鈴木淑葉
秋暑し土器の破片がつながらぬ鈴木麗門
色褪せた造花残暑のジャズ喫茶露砂
横田にもオスプレイ来て残暑の夜蝋梅とちる
印刷室の奥に立ってる残暑かな鷲尾さゆり
火星カレー食べる残暑の池袋朶美子
脇腹のギプスに残る暑さかな洒落神戸
腕まくりの筋逞しき残暑かな芍薬
六十五年黙す木馬や秋暑し苳
音ばかり降つて気怠き残暑かな蓼科川奈
残暑なら残り時間を掲示せよ邯鄲
膠く残暑北半球のヒトも黙すKISOBA・UFO.
今日こそは家計簿つけよう残暑の夜おっばあ
今日の歩数四十八歩残暑かなオパール
りーんりーん秋暑の庭の夜の風河村あさみ
残暑さえ静寂の寺包み込むアガペ
大の字に寝ても覚めても残暑かなあかり
鯊を追い残る暑さも愉しけりあめちゃん
爪の赤サックス唸る残暑かなあん
残暑来い負けてたまるか肉を焼くいいむらすず
母逝きて四十九日も残暑なりイカロス
蚤虱残暑の仮舎(かりや)寝息満ちいっちゃん
残暑厳しい義母の故郷土運ぶうっしー
赤い花ゆれて息つく庭残暑オカメインコ
爪先を突き刺し砂で知る残暑おぐもぐ
残暑には負けぬ体力肉喰らうお品
もう一枚着替え入れおく残暑かなかつたろー。
残る暑さ逢魔が時に紅を買うかもめ
答案の白さ悲しき残暑かなきみえ
ジャケットの中腕まくる残暑かなキリマンジャロ
ゆく平成草しなだれる残暑かなさがの
海越えて残る暑さの郷里かなさくら
残暑には祖母の茶粥のとろみかなさだとみゆみこ
バス待つ君の影と手つなぐ残暑の夕しおみー
今残暑上の字あれど福いずこしかめっ面
通り雨残る暑さを連れ去りてジョバンニ
朝夕に母ため息つく残暑かなシリウス
隠し事残暑の苦にも消え去りぬスーザン
昨晩のカレー酸っぱき残暑かなすーぱーまみこ
新しき深紅の旗へ残暑光すみ
トラウマも一時忘却残暑かなスミス
湯上りに残暑忘れる碧の風スリム
甲子園の熱闘去りて残暑なほターチャ
焦げた葉よゆるりとくだり残暑落つたすく
宿題終え背伸びし払う残暑かなたんぽぽ
これがまあ残暑か三十六度五分ちどり
隣室で皿割れる音残暑かなちゃうりん
玄関の静まり返り残暑かなつちのこ
程長きデジャヴに遊ぶ残暑かなてまり
台所に残る暑さのカレー皿としまる
掛軸のおばけも痩せる残暑かなとみことみ
残暑でもへこたれません室外機とよかわ
戸口から花の香猫臭残暑かななごやいろり
退院し残暑の庭へ下駄ばきでなんじゃもんじゃ
火花散り紙縒のゆらぎ残暑かなねがみともみ
置き忘れし宿題送りて残暑かなのっこ
二日目のカレー大盛り残暑かなのど飴
伸びた草残る暑さにまた明日バードマン
ダブル高気圧残暑の因はあなたですパシフィッコ
三行半破り残暑の夕支度はちべえ
逆縁の残暑の浜に影ふたつパッキンマン
断捨離の捨てきれぬもの残暑かなはむ
残暑まだ人の融点超えてくるヒカリゴケ
元気かと母より残暑見舞かなひかるこ
旅の帰路残暑のごとき足の裏ビバノンノン
残暑にも七分のシャツを着たい朝ひろ夢
秋暑し病に負けじリハビリすふじたけ
夢破れ歯を食いしばる残暑かなヘッドホン
海碧く飛沫は白く残暑かなベリーベリー
ぶつぶつと残暑を進むシルバーカーほしの有紀
読みかけの本積み上がる残暑かなポリ
ずり這いの後追いかわしつつ残暑ほりぐちみほ
幾日も強き残暑の屋根修理まち眞知子
ビル街の残暑に浮かぶLEDまつぽっくり
吹き抜ける残暑の風人いきれマドレーヌカフェ
珈琲の氷に溶ける残暑かなマリちゃん
不採用胸に飲み込む残暑かなみつよ
縛れない長さに髪を切る残暑ももたもも
墨すれど筆はすすまぬ残暑かなやったん
乳液を戻し残暑の化粧水ヤッチー
二人前麺茹でる癖残暑かなゆこ
弾け飛ぶ洗濯バサミの残暑かなゆすらご
虫けらと嗤うな残暑をゆく同志ゆづ
赤銅と白のさかいめ残暑かなゆみゆみ
ホームラン沸き立つ子らの残暑かなよりこ
アスファルトゆらゆらにおい立つ残暑るりまつり
セピア色の残暑見舞いや青インクれいこ
女子高生の合服匂い立つ残暑綾夏
気がかりもそのままにして残暑かな伊藤朋子
凶悪犯逃走中の残暑かな伊藤順女
のら猫もとおりかからぬ残暑かな伊藤節子
一瞬の風無口なる残暑かな井上早苗
大きくなったね残暑と母の認知症一花
アスファルト濡れて蒸される残暑かな稲垣由貴
山流れショベルの音続く残暑かな稲葉玲子
秋暑し触処一切無音なり影山治子
増殖せし雑草憎し残暑かな永井基美
掛け布引く朝の目覚めの残暑かな英男
愛犬の舌に残りし暑さかな詠み人知らず
通勤の扇子くたびれ残暑かな縁恵
残暑の朝熱き味噌汁エネルギー遠藤美佳
のしかかり言葉もぎ取る残暑かな遠藤百合
くちびるの欠けしままなり残暑かな塩沢桂子
潮満ちるさざめき病舎の残暑かな横山薫子
白壁の窪み沁み入る残暑の陽横須賀太郎
庫裏の水入り日に光る残暑かな岡本育子
ぬるま湯で上履き洗う残暑かな温湿布性
疎んでも惜しんでも残暑ただ居りて佳枝
73歳残暑身に沁むボランティア加藤俊子
重力の撓垂れ掛かる残暑かな可笑式
虫の息やっと残暑のカレンダー嘉藤継世
残暑なり母思いつつ文を書く夏甫
友逝きし川面ざわめく残暑かな河合久子
寝乱れし後れ毛直す残暑かな海
担ぎ手の掛け声遠し残暑かな海碧
残暑かな気怠げに行く下駄の音葛谷猫日和
突然の永遠の別れよ暑さ残る蒲公英
描かれし酔い山ぶどう残暑見舞い茅ヶ崎典子
新学期残暑バス停に腰かけり甘平
口笛も下手になりたる残暑かな閑話休題
水換えてなお垂る仏花やこの残暑岸本元世
時間指定宅配便の来ぬ残暑岩永静代
体温に追いつく残暑衰えず岩野翠
土砂掻きのショベル休憩呉残暑希林
鉄柱の烏残暑に喘ぎ鳴く幾恋良石
年取った母娘の喧嘩ああ残暑気球乗り
今日からは残暑気持ちを立て直す亀山逸子
ちひろの目なにか言いたいざんしょかな亀山水田
息遣ひ残暑の声にまぎれたり亀田荒太
少年の肩黒光りして残暑かな菊原八重
残る暑さ白球飛ばす高校野球吉成しょう子
昆虫の道端の死骸残暑かな吉田 秀一
燭台の火を飲み込むかのよな残暑吉田好大
打ち捨てたユニホームにも残る暑さ橘 美智世
農耕民族狩猟民族宿題の山残暑の陣橘薫
スパイクの砂ほろいて嗚咽残暑かな久美子
残暑かな夜に郵便出しに行く宮武由佳子
年々ときびしくせまる残暑かな京
つり橋の順待つ長蛇残暑かな橋本いずみ
残暑に親子で励む宿題橋本結女子
水玉のコップの奥へ残暑去る金平糖
線香の香りまとわる残暑かな空龍
窓閉めてリモコン探す残暑かな恵翠
新学期残暑が連れてやって来る敬子
ほろ苦く残暑迎えしピンヒール鯨木ヤスカ
影みっつ縁台将棋の残暑かな月夜同舟
誕生日残暑只中老母へ感謝犬山犬子
ああ残暑転移告げられ足すくむ原口祐子
ジリジリとただジリジリと残暑かな原田
イライラの沸点低き残暑かな原田一行
留守電にお辞儀挨拶秋暑し原田民久
明り消し冷茶のみ干す残暑かな枯楓
友とあそび残暑遠き課題あり弘
家仕舞い沓脱ぎ石の残暑かな綱島鈴枝
ナイトシアター残暑の芝生や靴脱ぎぬ香織
被爆樹に空合い求む残暑かな鴻毛
早すぎて仏花の傷み残暑かな国只妙子
盲し犬にへばりつきたる残暑かな腰痛子
老犬の為すすべもなき残暑かな佐々木ななみ
宅配で選外届く残暑なり佐藤啓子
天と地が残る暑さや逆さ吊り佐保子
孫ら去ぬミケが欠伸す猛残暑砂舟
水俣とサリン残暑の不知火海在芽里子
ゲリラ雨ワイパー狂わす残暑なり咲楽
初めてのマニキュア落とす残暑かな作田尚子
甲子園地元大敗残暑かな桜姫5
ミネルヴァの使い飛び立つ残暑かな三浦ごまこ
味付けは濃いめの残暑夕支度山口トシ子
避難所の狭きスペース残暑かな山川芳明
夕方の散歩は続くなほ残暑山田啓子
息潜め日没を待つ残暑なり山本康子
穴掘りて腹涼む犬残暑の夜史
残暑ひしと墓守る蜘蛛や石のかけ四宮亨
残暑集めエンケラドゥスに持て行かん四十雀
負けた碁をぐずぐず巡る残暑の夜市山利也
明日からは差し歯を磨く残暑かな市田和裕
予報士の今日も告げるや残暑かな志村紫香
涙拭く残暑の中の勇者かな慈悦
ペディキュアに残暑を記す鼻緒跡持田京子
残暑なほ病む母の脚細りゆく汐湯
ポケモンを探す残暑や65歳鹿嶌純子
課題図書返しそびれて残暑かな篠崎幸惠
残暑の屁ひざのあたりに留まりぬ篠崎彰
犬小屋の堀り凌ぎ残暑来る紗桜
残暑かな高校球児と青い空若竹芳子
無人棚秋暑の夕陽残るのみ酒井弥生
終電に乗り損ねたる残暑かな宗本智之
靴の砂捨て履きなおす残暑かな宗澤美子
室外機響き今宵も残暑かな修芳
木陰あり犬もくつろぐ残暑かな秋代
咳き込んで残暑吐き出し青い空春耕
こむらがえりがアラーム残暑の朝純子
残暑なら暦どおりに風よ立て順和
制汗剤買い置き探す残暑かな初野文子
涙かわきし残暑の風のテラス席渚
雲一朶遠くになりて残暑かな小鞠
参拝の人もまばらに残暑かな小山晃
残暑宵サックスの響ジンライム小枝
うつろいを猫の寝床にみる残暑小池佑紀
幼子に教える残暑この気温小波
なぜ父母は同じ微笑み残暑かな小澤啓子
八時十五分残暑の空の青き黙松ちゃん
階段に足の小指のつる残暑松田てぃ
焼夷弾降りし手に残暑のケロイド松野菜々花
残されて残暑と戦い深呼吸上田明子
沈黙の残暑の命日里の家植田かず子
失敗は残暑で蓋し晩酌す織田めい
風を割り石垣聳え立つ残暑色葉二穂
赤土に残る暑さや甲子園新井一豊
病院を出てタクシーを待つ残暑森弘行
暖簾さへ押すに重たやこの残暑深幽
残暑見舞土嚢袋に泥詰めし真紀子
ピンを足す残暑のシニョン宙返り真宮マミ
振り返る母居る病院残暑かな真冬
照りつける残暑感じる病室の窓真範
風に聴くあと一息の残暑かな真理庵
残暑なり記憶の日にも体感も真留美
ウェザーニュースの赤き列島秋暑し神本多貴子
破顔を漫画で描くや秋暑し水口無果
風呂上がり残暑恋しき肌寒さ水野祥子
燃ゆる恋兆しも見えず早残暑酔進
ファミリーツリー伸び縮みして残暑なり雛まつり
黒々と下駄に足形残暑かな雛鍔
寂寞とただ木漏れ日の残暑かな杉本時子
アスファルト木蔭辿るや残暑かな瀬田かおり
残暑かな四十度超え昨日今日瀬田かずこ
トーフーの売り子の声する残暑かな瀬田せんかい
疲れをば残暑によってなほ烈し瀬田よしこ
巡業の力士に残暑追いつけり瀬尾ありさ
焙じ茶を煮出す香や残暑なほ星野茜
アラ還に堪える残暑容赦なく聖月
残暑の夜車窓の景色滲んでく西村圭
残暑なほ照り返す陽にはせつなさも西村優美子
ベランダの手すり掴みて残暑知る青児
室礼の又迷いだす残暑かな青柳ふみ子
永らへて残暑に連れて往かれしや石垣エリザ
頬を刺すいたみに慣れて残暑かな石川幹裕
ゲームセット地を叩く子ら秋暑し赤橋渡
夕暮れの風じっとりと残暑かな赤寝子
峠過ぎ残暑に思う逝った友千賀節子
土俵際残る暑さの粘り腰千川小舟
甲子園終わりてふと思い出す残暑川崎建一
総すかん食ふや残暑のハイボール川瀬八弛
残暑かな何処のラジオか午(ひる)告げる川端孝子
髪を切り白いうなじの残暑かな川畑彩
地獄絵図幼子泣いて残暑かな泉
残暑の夜夢ばかり見て鳥の声泉子
拝啓残暑の候あれからずっと残暑です浅井和子
母逝きて十五回目の残暑かな前之園由紀子
膝枕残る暑さ君の匂い曽我真理子
移りゆく時が身にしむ残暑かな倉澤慶子
知らねども挨拶交わす残暑かな惣兵衛
孫去りて雑魚寝を終える残暑の夜早山
例祭へ復習う子らの音残暑〆早川博子
肩や腿衣に隠れて残暑かな痩女
「死にたい」と「生きたい」を知る残暑かな増田典子
白熱の球児へ残暑加はるや村松登音
走る子の額に光る残暑かな村人
猥雑な膝に当てあり街残暑多事
同窓会面面と会える残暑かな多田ふみ
北の大地をあきらめて残暑かな駄詩
酸欠の金魚のごとく行く残暑大蚊里伊織
大歓声球児残暑も打ち負かす大岸歩美
図書館の常連となる残暑かな大山小袖
さめやらぬビルのほてり残暑かな卓女
どっかりと居座るように残暑かな知足
残暑の日黒きうなじの甲子園池上敬子
一生のこれが最後の残暑かな池田 功
キッチンへ肉球臭ふ残暑かな竹口ゆうこ
残暑見舞いラインじゃなくて絵手紙で中間幸代
もういいと残る暑さにつぶやきか中山清充
退社する手には花束背に残暑中神主税
子ら帰り夫と茶漬けの残暑かな中村純代
食卓や残る暑さに白多く中村一美
金銭と名誉と仇と残暑かな中島圭子
色褪せし手拭い首に残暑かな中嶋純子
ビルビルビル合戦跡の残暑かな長谷川惠子
あやまちて身のおきどころなき残暑かな直
庭の草伸び放題の残暑かな鶴田京子
砂浜に残る暑さや恋終わる天津飯
秋暑し逃走犯と酷似かな天野姫城
老体を残暑が責めにやって来た田川有利子
子犬しきりに耳を掻く残暑かな田村朋子
地下出れば街は残暑に煮えたぎり田中勝之
残りたる暑さじりじりとアスファルト渡邊さゆり
はやぶさの車窓を残暑去り津軽渡邉竹庵
球児らの声残りたる残暑かな東奈美
残暑のコンクリート冷ます夜風よ藤■■■ル
幼きと残る暑さを背に指に藤井美琴
少女一人残暑の浜に膝を抱く藤井眞おん
秋暑し押売勧誘ベル鳴らす藤川哲三
順番にバスに乗り込む残暑かな藤田康子
文庫本大人買いして残暑かな藤田真純
革靴の少しきつめや残暑の日徳
農作業残暑のほほは骨とがり惇壹
畑に出る伴は残暑とリヤカーと内本惠美子
訓練のサイレンは残暑の空へ楠央
木星に物語あり残暑かな二宮陽子
パスワードエラーエラーの残暑かな馬場崎智美
影伸びて水ひとくちの残暑かな馬場東風
東京ドーム何杯分の残暑かな梅納豆
曇天や鉄塔の先に火残暑梅里和代
内臓にスープ染み入る残暑かな柏屋ちひと
ちょうげんぼう渡来す残暑のビル熱し白雨
焙煎に包まれる肌残暑かな畑詩音
鳶高く逝きし朋らを呼ぶ残暑八重葉
晩酌の肴を替える残暑かな八木実
グランドの砂掻き寄せて秋暑し鳩礼
洗い晒しリネンのシャツや秋暑し板倉君代
くつたりと倒るるかばん残暑かな飯村祐知子
潮の香が肌に染み込み残暑かな飯島康司
花も木も身も心も蝕む残暑尾添ひろ美
古希近く謡いはじめる残暑かな琵琶京子
浜風にのせて声援残暑ゆく美山つぐみ
先輩の志を継ぎ残暑に勝ち誓う美人教師
ニイニイにツクツク混じる残暑かな美帆
姉のもの欲しき坊やの残暑かな姫山りんご
庭に来た猫と目の合う残暑かな百合乃
上靴の外出したる残暑かな百草千樹
この残暑人を腐らすに足る浜 けい
夫への残暑見舞いに鍋焦がす芙蓉
この栄華安芸の残暑に始まりぬ武樹
取り止めし旅の荷解く残暑かな風花
巨巌にも残る暑さや土砂の町風泉
夕残暑孫ら去りゆき雲光る福ネコ
香持ちつ碑の影さがす残暑かな福弓
ホームドア開きて残暑背に残す福本羽心
残暑見舞い上司にゴマをする同期福留康夫
網戸張り替え残暑ごと取つ外す福良ちどり
異国語の行き交ふ街の残暑かな腹胃壮
冒険の終わり近づく残暑かな沸津雅子
じつとりと残暑居座る部屋の隅文女
友去りて澱もてあます残暑かな平田葉
点滴の速度もどかし残暑かな片岡佐知子
ゴム草履まだペタペタと残暑かな穂花
被爆者の悲痛聴く耳はなく早残暑牧野敏信
残暑なり鉄板焼をほおばりし本銅 守
黒ぐろと馬頭観音残暑かな魔童女
兄弟の争ひ果てて風残暑抹茶金魚
熱病の治らぬごとし残暑かな満る
残暑にも父の温もり薄れゆく未田翌檜
読書感想文残る暑さかな岬きさみ
つなぐ手の影が伸びゆく残暑かな蜜華
残暑でも新学期はやって来る蓑田和明
戸惑いて影を見つめる残暑かな無頓着
入相のジョッキ残暑を溢れさせ椋本望生
小便小僧タンクトップの残暑かな明惟久里
残る暑さや百の重みの優勝旗明良稽古
グローブにボール握つたまま残暑木村摩耶
その後は如何に過ごしや君の残暑野ゆき
ボニンブルー残暑受け止む座礁船野紺菊
よさこいや残暑の土佐に鳴子鳴る野中泰風
残暑より響く親父の褒め言葉矢川コウ
久方のジュリージュリーと残暑楽しむ矢野茂樹
サーカスの天幕張れて残暑かな油井勝彦
車椅子押す手に残暑突き刺さる有馬裕子
ネクタイを緩め信号待つ残暑葉月けゐ
長生きて後幾年や残暑かな里恵子
膝を打つ残暑のある日ひらめいて亮旬
日めくりを剥ぎとる夕べ残暑かな鈴木眞嘉
妥協せず頑固なまでの残暑かな鈴木(や)
整理日か図書館の秋暑き門鈴木あむ
土手の藪残暑搦めて臭いけり鈴木由紀子
忌明けして残暑に旅立つ仏かな連雀
溜め水に映る残暑の空は灰六平弥
海を向き並ぶ残暑の兵の墓和代
駒が成るシャツ捲る棋士残暑の夜惑星のかけら
曙に眠り深むる残暑かな巫女
還暦が集う残暑の同窓会暝想華
ペン握り堂々巡りの残暑かな楡野ふみ
良し決めた赤き紅引く残暑の夜櫻井弘子
残暑なるサインポールのまわる町淺野紫桜
父の背の皮ペリペリと残暑かな澪つくし
スエードの靴を選びて街秋暑瀟白
転倒の擦り傷苦(にが)し残暑かな祺埜箕來
未曾有の豪雨水害に重なる残暑茉莉花
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
一句に複数季語が入ることを「季重なり」といいます。「季重なり」はタブーというよりは、高度なテクニック。初心の間は、一句一季語から練習していきましょう。
以下、どれが季語なのか、歳時記を開いて確認してみましょう。俳句修行はそこから始まります。- あの人の打ち水続く残暑でもここな
- 残暑かな蝉の亡骸そっと埋めさかたちえこ
- 恋ケ窪残暑遠のき泉冷えスクープ
- 残暑一雨の涼息をつくすずくら
- 残暑避けおんぶ飛蝗は葉で昼寝スリット
- 残る暑さ野分風吹き始業式スワニー
- 荒れ庭にテッポウユリ咲く残暑かなともちゃん
- 葛草網戸に迫る残暑かなの菊
- 残暑でも秋物羽織るやせ我慢まめとかめ
- 熱波去りし青空浮く雲薄く残暑爽れんし
- 異常気象残暑の額に汗つたう伊藤悦子
- 盆過ぎて孫帰りゆく残暑かな井村澄子
- 残暑にはほどほど遠い猛暑日続き祈り桜
- 残る暑さプールの孫守疲れけり橋本あけみ
- 打ち水もすぐ乾きおり残暑かな原 善枝
- 秋立ちぬザンショザンショと蟬しぐれ五味芳高
- 残暑見舞い酷暑に受け取る異常気象後藤博文
- 蝉の声残暑をはらう木々のゆれ向井こうぼう
- 残暑痛っムーミン顏の茄子に棘佐藤由美子
- 秋暑し水欲しそうなへぼ胡瓜山川恵美子
- 甲高いひぐらしの声に残暑の匂い紫陽花
- 物干しの蚊も必死なり秋暑し出井早智子
- この猛暑いつまで続く次残暑瀬田ゆりえ
- 苦瓜の黄色く熟れる残暑かな大山裕美
- いつ残暑汗の流れの止まる日は大本千恵子
- 残暑来て焦り鳴くのは蝉だけか中谷典敬
- 青とんぼ残る暑さと宿題と田中玄華
- ゴーヤ枯れうだる残暑よ夕の声嶋村紀子
- 仰向けの蝉をそろり避けゆく残暑かな猫ノ介
- 昼寝する母の足裏残暑かな板倉文音
- 吹くかぜに涼まじりくる残暑かな湊かずゆき
- 故郷(さと)帰れず蝉の声に残暑かな柚香
俳句生活では、兼題と呼ぶ季語を出題し、その季語を使った句を募集しています。自回の兼題を確認して、再度挑戦して下さい。
- 打ち水で40℃の酷暑凌げるか!畦布哲志
- 百坪を刈る芝の先いわし雲才田克巳
- 花魁のうなじの如き無月かな三池宏
- 秋風や早くおいでよ待ってるぜ太子
- 永遠の恋夏の終わりのハーモニー國井祥行
8月兼題『残暑』の投句数は2,046句いただきました。回を重ねるごとに投句数が増えています。
たくさんの方が俳句を楽しまれていることに、編集部一同とてもうれしく思います。
9月の兼題は秋を代表する味覚の『秋刀魚』です。入選を目指してぜひチャレンジしてください(編集部より)。