夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
6月の審査結果発表
兼題「蝉」
盛夏の蝉は体も声も張りがある。みんみん蝉は色も美しい。
油蝉の声はいかにも夏の暑さを伝えるようで、聞いているだけでも汗がにじんでくる。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
牛乳臭き寸胴鍋やみんみん蝉
綱長井ハツオ
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夏井いつき先生より
「寸胴鍋」とは、円筒形の厚手の両手深鍋。長い時間の過熱に適しているので、煮込み料理や出汁をとる時に使います。容量も大きい鍋です。私は学校の給食室の「寸胴鍋」を思い出しましたが、勿論、家の台所や店の厨房の「寸胴鍋」を想像してもよいでしょう。
「牛乳」の臭いってほんとにしつこいのです。丁寧に洗って乾かしたのに、嗅いでみるとやっぱり臭う。きれいに洗えたかなと鼻を近づけたとたん、ムッと臭ってくるがっかり感。「や」の強調からカットが切り替わると、「みんみん蝉」の声が一句の世界に溢れ出します。暑さを引き摺るように鳴く独特の鳴き声。不快な嗅覚と暑苦しさを感じさせる聴覚の取り合わせが、実にリアルな作品です。
まあなんてよく燃えさうな蝉の声
せり坊
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「まあなんて」という感嘆、「よく燃えさうな」という比喩。一体何だ?と思えば「蝉の声」だという意外性と現実性。地面も太陽も人も木も全て「燃えさうな」真昼のストレートな実感を呟いた一句。
ぎやあぎやあと蝉の火だるま近づき来
古瀬まさあき
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オノマトペ「ぎやあぎやあ」は一瞬、赤ん坊かと思わせますが、中七の比喩「蝉の火だるま」が動きと音をありありと伝えます。下五「近づき来」の淡々たる描写がさらなる臨場感となって迫ります。
昼の蝉吊り橋揺れてない揺れてない
さとけん
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「揺れてない揺れてない」は、自分に言い聞かせるリフレインでしょうか。破調のリズムも「吊り橋」を渡るときの怖さを表現。熱い太陽、汗、傾く足元。平衡感覚を狂わしそうな「昼の蝉」です。
蝉がぶつかる煙草の箱のような家
山田喜則
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「蝉がぶつかる」で自分に向かってきたかと思えば「煙草の箱」だという。野外の卓に垂直に立てた「煙草の箱」かと思えば「~のような家」だと比喩する。一語一語の展開に驚かされた作品です。
壁薄きアパート耳に生えし蝉
ぐ
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「壁薄きアパート」と「蝉」の取り合わせはありますが、「耳に生えし」という比喩が魅力。我が耳に「蝉」が生えてしまってるのではないかという奇妙な虚のリアリティの虜になってしまいました。
しゃわしゃわと地熱のネジを蝉が巻くうさぎまんじゅう
鳴けぬほどぎうぎう詰めの蝉の籠うさぎまんじゅう
蝉時雨から蝉時雨うまれて愉ぐ
友の死の蝉の齢を越えんとやぐ
唖蝉や汽車は国旗に送られてすりいぴい
恙なく幹を放さん明日の蝉すりいぴい
全身に浴ぶる地熱や蝉時雨さとけん
スタジアム出て油蝉けたたましさとけん
千の銃声世界は白くなりて蝉ほろろ。
蝉のこゑ海馬のうづをひかりゆくほろろ。
蝉黒し空の濁りに触れしかば古田秀
水一杯施されたり蝉時雨古田秀
手のひらの蝉の冷たき固さかな綱長井ハツオ
下腹の鈍痛蝉の静かな夜綱長井ハツオ
蝉の音聞きつつ寝入る無職かないかちゃん
蝉の声蝉も食べたと百歳がいくちゃん
パンダ舎の硝子へ蝉の激突すせり坊
ああいう人いるよね蝉の鳴いているせり坊
蝉の声溢れ出したる内耳よりみかりん
看板の女の剥げて蝉時雨みかりん
クロスプレー判定までの蝉の声可笑式
大東京一本の木の蝉の声可笑式
濁音のばらばら落ちて油蝉城内幸江
夕蝉や教室は油の匂ひ城内幸江
階段は数えて上る蝉しぐれ青海也緒
夕蝉や家族の中に孤独な子青海也緒
漏水はリズムを打てり蝉時雨冬のおこじょ
蝉時雨耳石に於いて震度七冬のおこじょ
夕蝉やステンドグラス震はせて板柿せっか
登園を愚図る子みんみんの底へ板柿せっか
夕蝉や革靴で踏む郷の道北野きのこ
水曜や蝉の死骸のなんて軽い北野きのこ
蝉しぐれ手動で開く自動ドアあいだほ
五十円欲しくてセミを殺したよあいだほ
長々と謝罪の手紙蝉時雨あまぐり
拗ねた子を構うは蝉ばかりなりあまぐり
蝉時雨千切らぬやうにトロッコ列車いさな歌鈴
墨を磨る水を汲みに来蝉時雨いさな歌鈴
脚一本まで生き尽くし油蝉おんちゃん。
敵陣の銃弾めくや蝉時雨おんちゃん。
玉音に不敬ならざる蝉の声ぐずみ
ヒロシマの蝉を極秘に殺めたりぐずみ
蝉の嬌声シーツを引っ掻くネイルぐでたまご
病室や昨日の蝉と今日の蝉ぐでたまご
でこぼこの父の禿頭蝉しぐれくま鶉
看病の間の大あくび油蝉くま鶉
注射器の刺さらぬ硬さ蝉の腹クラウド坂の上
救急の硬きベンチや夜の蝉クラウド坂の上
油蝉猫はトタンを踏み出せずクロエ
飼ふつもりまつたく無くて蝉を採るクロエ
蝉の鳴く圧迫をゆくサラリーマンけーい○
黒き濃き健診の血や蝉の声けーい○
蝉時雨ラジオのアナログチューニングさだとみゆみこ
空っぽの空へ蝉のゲリラ豪雨さだとみゆみこ
油蝉ぎじりぎじりと鳴く夜明じゃすみん
大鍋にカレー夕蝉の団地祭じゃすみん
佃煮となりさうなほど油蝉すみ
錆びつきし夫のギターや夜の蝉すみ
蝉時雨だんだんバカになってゆくちゃうりん
一番蝉問5は√2Xちゃうりん
下へ降りれぬ踊り場に蝉ゐてはふるてい
蒼空へもがく仰臥の蝉の脚ふるてい
かの木こそ蝉の成る木や湧き出づるゆすらご
二日だけ休みを合わす油蝉ゆすらご
蝉の羽むしる子なれば抱きしめるラーラ
夕蝉や見舞いの夫はまだ来ぬかラーラ
鳴きながら食われ続ける蝉の声ラリロリラリラ
蝉の声いやいやあれは木の声だラリロリラリラ
大阪の水に合はせて油蝉葵 新吾
蝉時雨どれも合はない蓋ばかり葵 新吾
残業代出ない蝉時雨止まない或人
蝉鳴くやコンビニのぶっかけうどん或人
蝉つまむ指じじじっと焦げ臭し一斤染乃
素因数分解えんえん蝉時雨一斤染乃
蝉時雨参道降りて死の噂花屋
嫌われてほっとするたち蝉しぐれ花屋
千年も古墳ひとつや蝉の朝久我恒子
油蝉しづかに狂ふ砂時計久我恒子
海の音ただ乾きゆく蝉の腹居升典子
蝉時雨闘いのごと授乳する居升典子
雨粒に顔打たせつつ羽化の蝉玉響雷子
これらみな狭庭の生まれ蝉時雨玉響雷子
蝉しぐれ止めば虚血の胸きゅっと溝口トポル
八度目に音下げて蝉それっきり溝口トポル
蝉の一生祖母の一生火の如し彩楓(さいふう)
朝蝉や研師筵に荷を広ぐ彩楓(さいふう)
夕蝉は遠き鉄塔のどれかに七咲人天
文通が次来る前に蝉は死ぬ七咲人天
物干のシャツに大きく蝉の影走流
夕蝉や屋上遊園地に施錠走流
斎場の灯りに迷ふ夜蝉かな内藤羊皐
蝉時雨ラインズマンの脚縺る内藤羊皐
熊蝉やこの坂登ればもう実家日午
蝉時雨本日を以て閉山す日午
みんみんの数打ちや当るやうに鳴く比々き
死んで知るスターのその後油蝉比々き
非正規や夜蝉聞きつつ行く夜勤比良山
ジーリャオと蝉鳴くチャイナタウン明け比良山
大聲は暴力蝉は拳なり福良ちどり
鳴く蝉の軋む節々壊れそう福良ちどり
蝉の木に囲まれてゐる滑り台朶美子
カラカス幼稚園菓子袋一杯のセミ朶美子
蝉時雨百葉箱に籠る熱洒落神戸
蝉時雨我一本の筒となる洒落神戸
白犀の泥はでらでら蝉盛る古瀬まさあき
屋根を打つ蝉時雨なり茶を淹れるでぷちゃん
火葬炉の煙透明蝉しぐれ にゃん
蝉の家「冬のソナタ」の再放送はまのはの
松脂を塗り忘れたる蝉の声みやこまる
サーカスのテントの弛み蝉時雨みやこわすれ
蝉の声吸ひてビーフン茹で上がるみゆき
波紋なき池の素直や油蝉伊予吟会 宵嵐
強くなれ強くならねば蝉の鳴く花伝
蝉鳴けば私が一人見つからない玉木たまね
蝉の羽根一枚ちぎれ歩きをり高橋なつ
吾子先に目覚めてをるや昼の蝉高橋寅次
歌舞伎町明るし蝉、もう夜だよ高田祥聖
水団を母に教わる蝉時雨克巳@いつき組
満席の野外図書館蝉の声斎乃雪
夕蝉に沈みゆく宿灯を入れず榊 昭広
朝蝉の告ぐるこの日の上天気山内彩月
唖蝉の来て裸婦像の肩熱し次郎の飼い主
顔中の穴てふ穴へ蝉の声山名凌霄
朝蝉やぱりんぱりんのユニフォーム小川めぐる
飛び出した街の無音や蝉時雨小池玲子
蝉鳴いて一斉に空膨らみぬ青い月
蝉時雨喧嘩の傷の熱さかな多々良海月
蝉と乗るエレベーターや夜勤明大小田忍
渇水のダムのつちいろ蝉の声智美
蝉の目の白めく第三サティアン跡南風の記憶
戦争が退屈だから蝉を捕る白よだか
蝉時雨伽羅のただよふ仏間かな八木 実
蝉時雨消えて大樹の消えにけり飯村祐知子
尿検査コップ二列目油蝉富山の露玉
御神籤を折る内職や蝉時雨文月さな女
油蝉ぢっと森林管理署旗平本魚水
木星の使者かも知れぬ夜の蝉椋本望生
還暦がなにさみんみん蝉みんみん野ばら
焦げ臭き声あげ蝉の今日を生く野地垂木
造成地蝉と水道管の鈍鈴木由紀子
蝉しぐれ東寺の塔を包みたる杉本時子
第三の男ありけり蝉の穴AKI
フクシマとカタカナ表記蝉出づるQさん
蝉しぐれ川瀬に甌穴を探すsakura a.
ある蝉の殻脱ぎきれず雨に冷ゆあいむ李景
外つ国の言葉のふしぎ蝉時雨あつちやん
唖蝉の愚痴は樹液の中に溶けいなだ君二年生
人類の絶えて真昼の蝉時雨いのり
裏返り手足をたたむ蝉むくろいまいやすのり
蝉しぐれ体育見学者はひとりうどまじゅ
仰向けの蝉に木漏れ日滴れりおざきさちよ
犬の舌上下に荒く蝉時雨おばたよう
裾ゆれてバイクの僧に蝉しぐれおひい
今年から複式学級蝉鳴くやカオス
蝉時雨分厚きテキストに付箋かつたろー。
真つ白な頭の中へ蝉の声かぬまっこ
地平線ぼやけて曲がる蝉しぐれかもめ
翻訳機かざしてみたり蝉の声かわいなおき
ぴかどんの怒った日です油蝉きなこもち
蝉しぐれ黙祷に脱ぐ野球帽くりでん
駅へダッシュ体を貫く蝉の声こばやしまき
湯船なし眺望もなし蝉はやかましこぶこ
教会の椅子は固くて蝉時雨さくやこのはな
蝉時雨かき消されたる父の嘘さとう菓子
蝉の声痩けるからだのよそよそししかもり
狛犬の耳ほろろぐや蝉時雨せつこ
蝉しぐれ双子の吾子の泣くよ泣くよつちのこ
鉛筆を齧る再試や油蝉テツコ
丹田に力みんみん蝉の鳴き出せりとかき星
透明な針降りしきる蝉時雨ときこ
蝉時雨けふも勝つたと告ぐラヂオとしなり
夜の蝉廊下の奥の非常灯としまる
真鶴や接吻あとの蝉時雨なめろう
下宿屋の畳のたうつ夜の蝉ぬらりひょん
いとこ等と甘口カレー蝉しぐれのりこ
病む前の鼓膜に残る蝉の声パッキンマン
引き当てし会長職や夜の蝉はむ
ズキズキと包帯の指蝉鳴けりハルノ花柊
蝉時雨テスト用紙のやはらかきひなた
太陽にまだ立ち向かうあぶら蝉ひな芙美子
充電の切れたペダルや油蝉ほしの有紀
みんみんや暗記して食うコンサイスぼたんのむら
制帽に蝉のとまりて近衛兵ぽん太
飯盒がにいにい蝉を捕らえけりまどあみど
みんみんがないたらかいじゆうやつてきたみいちゃん3才
朝蝉や桁網降ろす父子船みなと
暁の大気とどめて羽化の蝉もつこ
放射線治療初日のあぶら蝉ヤヒロ
車椅子の膝を包むや蝉時雨よにし陽子
早引きの子みんみん蝉の声の中哀顏騎士
相続税払へぬ土地や蝉時雨葦たかし
蝉時雨シャッター街の空青く遺跡納期
ヴァイオリン軋み終わりて蝉時雨宇佐美好子
蝉はメロディー江ノ電はハーモニー宇田建
蝉の森そわか前方後円墳烏飛兔走
旅立ちに靴下卸す蝉しぐれ延杜
蝉のこゑ内出血のやうに湧く塩谷人秀
藍甕に波紋さざめく蝉の声佳山
油蝉長き廊下の黒光り花南天
蝉響く岬に抜けるトンネルや海口あめちゃん
蝉時雨ぴたりと止んでホームラン海老名吟
空蝉みつからない蝉やかましい灰田兵庫
クマゼミの死骸は少し重たいの花紋
路地裏に白き既視感油蝉蛙里
死蝉の骸の軽し湖暮るる樫の木
シャワシャワと障子に映る蝉の声閑蛙
蝉しぐれ施設の父の胸上下丸山隆子
埋蔵金伝説の山蝉時雨希林
それっきり蝉時雨無い林かな亀山酔田
不用意に触れたり裏返しの蝉亀田荒太
やがて死ぬ耳の中の油蝉吉田びふう
初蝉や忘れてしまふ活用形宮部里美
手の中で爆発したるくまんぜみ魚男
初蝉や聖火コースの見ゆる窓空遊雲
ポッポ焼き買わんと並ぶ肩に蝉栗子
蝉の声ひとすじ交じる闇の濃き薫子(におこ)
夕蝉やソルティードックの塩加減月の砂漠★★
蝉時雨「あたり」握って駆け抜ける見屋桜花
白む朝防犯カメラに映る蝉五月野敬子
ブランチやラジオにまじる蝉の声紅さやか
目の奥に蝉の声する夕まぐれ香衣
夕蝉や全二十巻読破せり香羊
上棟の宴や梁の蝉猛る佐藤儒艮
風やみて蝉の葬列見送れり佐藤千枝
蝉しぐれ引退試合延長へ坂まきか
夕蝉や人待つ君の真直ぐな背山
生コンをゆるりと練るや油蝉山太狼
切ないと刹那は似ている蝉の声山田啓子
蝉猛る篭持つ吾の手震わせて山踏楊梅
夕蝉や吐瀉物の鮮血赤し山本先生
欲望があってふじゆう油蝉七瀬ゆきこ
夜蝉飛ぶLEDの影虚ろ篠雪
蝉鳴くや原子力発電所前慈温
絞め直す眼鏡の螺子や蝉時雨若井柳児
蝉時雨苫家を抜けて水平線修芳
蝉しぐれ夕景映すリヤグラス潤目の鰯
曾祖母の嫁入りミシン蝉時雨宵猫
独り愛でる胸ポケットの中の蝉小亀甲
唖蝉や手足口病の高熱小鞠
デモ隊のひしめく街や蝉しぐれ小山晃
軽いとは言えない蝉の軽さかな小市
歌ひたかつたのはシャンソン終の蝉小殿原あきえ
街路樹に縺れほどけぬ蝉の声小南子
蝉じっと羽の付け根はまだ緑松永裕歩
島ひとつ蝉の要塞となりけり松山帖句
蝉の声わしわし届く朝ごはん上原淳子
蝉時雨点滅する信号の速さ森弘行
発音器使ひ枯らすや死蝉硬し真壁正江
蝉時雨毎日家にいる夫真野悠
湧水に初蝉の声映しをり水夢
蝉時雨病みし足指疼きけり酔進
落蝉や甘噛む猫にぢゝと鳴く杉浦夏甫
なりたての蝉ごつごつの樹皮透けて菅原千秋
蝉しぐれ生前葬に笑い声世良日守
蝉時雨轆轤回してどこまでも瀬波
どの木にも必ずセミが居た昭和是多
油さしバリカン弾み蝉の声星善之
朝蝉や遮断機ゆるりと軋み出し晴好雨独
大地いま揺れゐる如し蝉の昼清水容子
寝転びし潮のにほひと蝉時雨清水祥月。
鉄条網しづかに灼けて朝蝉清島久門
足の指擦りむけてまだ蝉時雨西川由野
蝉時雨の球体の中で黙祷西田武
蝉時雨思わずついた嘘責める西條晶夫
蝉鳴くやスノードームは森閑と青萄
行軍に斃れし君を蝉は啼いたか石垣エリザ
蝉時雨イヤホンの中の静寂石川由美子
自販機の補充のバイト蝉時雨赤馬福助
蝉しぐれあの子は既に母だろう浅井誠章
窓打ちて夜蝉のひとつ落ちにけり倉木はじめ
蝉を追い奥へ奥へと神隠し痩女
発条仕掛けのかたかた・かたと終の蝉蒼奏
終末は撥条仕掛け蝉の脚多事
死に際にチチと鳴きけり油蝉村松登音
出来ぬこと増えて唖蝉の腹は白村上敏子
携帯もエアコンもない蝉時雨駄詩
唖蝉はあの呪われた森に居る大久保響子
熊蝉やのみ跡粗し円空仏知足
油蝉の翅と芥を掃く日暮れ中岡秀次
蝉やるよ兄ちゃんは長男だから中山月波
少年の拳の中に叫ぶ蝉中山白蘭
空に雲スケッチブックにみんみん蝉宙のふう
落つるごとベランダに蝉現れる昼寝
吾子描く日記の蝉のでかいこと鳥越 暁
月に影映して蝉は地に帰る辻が花
飛ぶ蝉や波形大きく心電図天野姫城
初蝉や弟は今朝父となり田川彩
朝蝉や観光地図に載せぬ寺渡邉竹庵
グローブを穴があくほど油蝉登りびと
初蝉や子らは短縮授業なり都乃あざみ
404Not found蝉時雨土井探花
ふりがなに振るカタカナや蝉時雨嶋田奈緒
油蝉未だ開かぬ子宮口藤色葉菜
蝉の声しんしん積もる座禅石奈良香里
夕蝉や居間に置かれし焼香台奈良素数
夕蝉やお泊り会のカレーライス薙田碓
蝉の鳴く声を盗まれないやうに楢山孝明
パンダ舎にパンダのいない蝉時雨二鬼酒
蝉時雨町の映画のラストショー尼島里志
藍鼠に湿つた空や蝉時雨猫愛すクリーム
卵白のつの立ち上がる蝉時雨播磨陽子
吊革の等しく揺れて昼の蝉梅里和代
貝殻の吸い込んで吐く蝉時雨白瀬いりこ
本郷のちょと偉そうな蝉時雨飛来
蝉時雨生まれし家は外厠富野香衣
病窓のうす茜して蝉しぐれ 風紋
蝉の音蝉の音にてかき消され福井三水低
図書室は饐えた匂いや蝉時雨豊田すばる
鎌倉の地図に振りたし蝉の声蜜華
戻れたら蝉を手づかみ出来た頃明良稽古
モーパッサン読破す朝の蝉時雨茂る
みんみん蝉や赤子の百万馬力野ゆき
光秀の骸は何処や蝉時雨矢的
夕蝉は鳴くなり喪主は生きてをり油揚げ多喰身
蝉時雨すきまをさがす駐輪場有本仁政
蝉時雨ひとりで通るホテル街由づる
一人きり蝉を捕らへてより独り夕波
蝉時雨湯船の九九は四の段梨音
噂にもならぬ話や蝉時雨鈴木(や)
夕蝉や吾子の「と」の字の鏡文字鈴木淑葉
蝉の鳴く千年杉の七日間鈴木麗門
僧房の時間は止まり蝉時雨連雀
朝蝉やふちの焦げたる目玉焼き露砂
墨を磨る午後の教室蝉時雨國吉敦子
石畳濡れて高野は蝉時雨巫女
蝉鳴きて上毛三山揺らしたり楡野ふみ
寝はぐれて夜蝉の声の昏さかな蓼科川奈
千年を顰める仁王蝉時雨邯鄲
蝉の声届かぬ母の補聴器に4人のマミー
カップ麺食べ終えてなお網戸の蝉イキイキ生活
仰向けの蝉轢き止まる救急車ペトロア
教室にプールの匂い蝉の声むらさき(7さい)
蝉鳴くやマークシートの穴丸くゐるす
店長は嫌味が上手蝉時雨井原千恵理
南仏の蝉アポロンの色をして薫夏
蝉鳴くや壊れたままの道標根本葉音
女子寮に迷い込みたる油蝉城ヶ崎由岐子
まだ蝉の鳴き足りなくて不発弾曽我真理子
仰向けに海を観てゐる丘の蝉倉岡富士子
火曜日は燃えるごみの日蝉時雨増田賢一郎
アブラゼミ方程式の解いずこ卓女
蝉しぐれ無言館への白き道直木葉子
唖蝉や山門にある槍の跡渡辺牛二
贋作の広重にある蝉しぐれ内本惠美子
油蝉に耐え忍べない国である凪太
けっこんのせいげん時間せみ七日江島さゆり(9才)
ぬけがらはないてるせみがうらやましい江島さゆり
ママ!せみはなぜミンミンとなくのかな吉田結希
せみのこえそばにいったら逃げちゃったいおりん6才
げんきよくないてる蝉やかごのそとちま(5さい)
初蝉や二人で分けるチョコミントちょぴまる
初蝉や猫はカーテンよじ登りスローライフ
蝉の声のみ残るてふその日なりみやかわけい子
森ぴくりともせず蝉時雨加裕子
蝉になど負けるかア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ岸本元世
蝉時雨まだストローで吸えぬ吾子葛谷猫日和
街路樹に息をひそめて蝉たわわ菊原八重
夕暮れの透とおる蝉時を待つ原田民久
母の余命ひと月といふ蝉しぐれ色葉二穂
初蝉や逝く先語りだす媼真繍
蝉鳴かず廃墟の町の白昼夢徳庵
明日啼くか啼かぬかは蝉知りもせず白水
伯父の手の中より生るる油蝉八幡風花
地球より這い出す力蝉一歩風峰
あの頃は蝉を捕るため天までも穂積のり子
蝉のフェスロックに民謡カンツォーネANGEL
母逝きて声の限り蝉しぐれharu
木登りの伸ばす手の先蝉時雨mika-na
蝉時雨シュプレヒコール鳴りやまずmomo
晴れ上がる熊鈴の音蝉しぐれnid
鳴る蝉と賞を競わん吹奏楽あうあう
蝉の声好きになったり嫌いになったりあおか
あーーーっ微分邪魔する蝉野郎あかり
もう少し生かしてもらふ蝉しぐれあきけん
油蝉C#G#哉あさふろ
蝉止んでふと前栽の八つ手の葉あざむ
煩悩の終のひとつや蝉時雨あまぶー
テントには蝉撤収の手を止めてアンマンパン
当たり前に浅間神社のくまぜみいたまきし
閑さや山の向こうは蝉時雨いっちゃん
蝉を見て祖父の化身と孫はしゃぐいろをふくむや
玻璃越しに蝉見つめをり若しや妣いわきりかつじ
新品シャツに蝉の洗礼涙のむうっしー
セミ捕りの影躍動の石畳エゴさん
暗き穴覗けば蝉の覚悟見ゆオカメインコ
油蝉腹見せ仰向けアコーディオンおさむらいちゃん
おーい蝉僕もおしっこ飛ばせるぞおっとりガメ
熊蝉の体内時計いっせのせおぼろ月
透き通る緑の羽に蝉の汗おりーぶ
暁に青翅を茶にし蝉が飛ぶお品
妹と別れし朝や蝉時雨かわせみ
シネシネと熊蝉鳴けど聞かぬふりくるめ絣
瑠璃色の大地の悲鳴か蝉の声クロまま
息を呑む優勝パット蝉時雨けいぜろばん
爆音の去って俄かに蝉時雨ケンG
実家にも来てるだろうか蝉の声こつみ
土塊に返りゆく身に蝉時雨こまこ
雲泥のはざま滴る蝉の声こまたれぶー
雨槍よ討つな四週目の蝉はサイコロピエロ
蝉時雨「もういいかい」の音遠くさかたちえこ
うたた寝の夢に溶けゆく蝉の声さきまき
蝉置いて逝ってしまったシロの夏が来るサチコ
蝉時雨好きと言っても届かない さなぎ
バス停の木陰に入りて蝉しぐれすずくら
雨音か風かベッドに蝉しぐれタシャキ
殻割れぬ仲間鳴く鳴く十日蝉たすく
風が止まる蝉のテノール路地の夕たっくん
受話器越しの母の余命蝉時雨てんてこ麻衣
忍びよる黄泉平坂夕蝉ぞときめき人
玄関に生け捕りの蝉気取る猫とみことみ
みんみん蝉愛のソナタはアンダンテなんじゃもんじゃ
透けそうな羽化した蝉の無防備さねがみともみ
蝉鳴けりアコーディオンのごとき腹ねぎみそ
柔き羽根包みこむかな蝉時雨ねこバアバ
空近き蕎麦屋の道や蝉時雨のど飴
哲学や時に煩し蝉時雨はなあかり
独房を劈く蝉の歌に恋ハムサンド
蝉の声脳にしみ入る二千万はらぐちゆうこ
蝉の声飛びだして来る昭和の子ひかるこ
木の陰に蝉のひと鳴き天気雨ひこぞう
瞑想と喧騒の蝉ときを経るひっそり静か
素数てふ謎多きもの蝉ぞ知るひでやん
蝉の声短かき命燃やすよにひめりんご
真空の記憶を破る蝉の声ひろ夢
大災害去り嘆くよに啼くや蝉ふうこ
今妻の寝息が消える蝉時雨ふくろう悠々
子どもらの見守る蝉は羽化はじめふじかよ
大声で鳴いて飛び立つ落ちた蝉ふじたけ
終活の今日一日や蝉時雨ふみ
蝉の声生きてる証空の下ヘッドホン
蝉時雨わんわん降って早歩きベリーベリー
蝉時雨テニスのコールかき消してほたる純子
蝉と待つ片道切符の無人駅ポンタ
酩酊や土間で迎えし朝の蝉ポン太
更年期頭痛めまいになおも蝉みさき
青い空蝉に負けじと赤らむ子みなお
蝉時雨勝てぬ童の網とかごミネゴ
病床の静寂あしたの蝉を待つみはね
甲子園喝采のごと蝉しぐれみわ吉
母に付き添われ通院蝉時雨ももたもも
騒がしい蝉の声さえ愛おしいやったん
メニエール病荒療治蝉しぐれゆりたん
糸付きの蝉のおわすや蔵座敷よち桜
宮参り眠る稚児に蝉しぐれより子
蝉といふ生き方もあり同窓会りんご
アスファルト還る土なき蝉の微動ワイス
あと何度故郷で聞く蝉時雨わかなけん
初蝉に五十路の心なお逸るわたなべぃびぃ
境内や祈り通して蝉しぐれ亜紀女
蝉時雨若き躍動懐かしむ亜紗舞那
生まれたての柔らかき蝉声もまた亜美子
蝉しぐれつつ隠れ家のコンサート愛燦燦
駐車場の地面ゆるがす蝉しぐれ安曇野多恵
蝉時雨のシャワーを浴びて放尿す伊藤ひろし
婚活は縁だ焦るな昼の蝉伊藤悦子
諦めて慣れてしまって蝉時雨伊藤順女
セミも聴く実家の庭の笑い声井上 繁
泥だらけ胸に勲章の蝉がいる一秀
クマゼミやジジと鳴きやみ時止まる一重
蝉の声木を仰ぎ見る五秒間一杯
街路樹に蝉のセッション始まれり一條亜紀枝
この星を無音にするや蝉時雨稲架くぐる
蝉時雨マックで話す女学生稲垣由貴
蝉の来て見上げる木々の一休み右茶
あと少し羽化仕切れずに絶える蝉卯さきをん
落蝉や声絞り出し空掴む雲居の空
蝉は長生き早朝のLINEニュース永花
耳鳴りに似て蝉の声木霊する円
ミーンミン命のかぎり鳴く蝉や縁恵
蝉一つ漆黒の目に映す街遠藤百合
蝉声の一樹の下に佇みぬ塩沢桂子
じたばたとのたうつ蝉の余力かな横浜J子
湯上りの宿の鏡台夜の蝉岡れいこ
けふ出さう緑の届け蝉時雨夏柿
入り日さし山ごと揺する蝉時雨河畔亭
油蝉生まれし木々のギラギラと花岡淑子
遠い日の兄弟喧嘩や蝉時雨花喰い鳥
裏山の催し蝉のコンチェルト花咲明日香
幾年も育みし愛蝉時雨雅水
夏蝉が複眼で見る聖火台海碧
初蝉や二浪の甥の無精髭馨子
蝉時雨逢えないけれどそばにいる笠原理香
はしゃぐ父少年のごと蝉手捕る蒲公英
君何処2年前の蝉が鳴く甘い苺
初めての蝉の声入る小さき窓甘酢
七年の冤罪笑う蝉しぐれ甘平
蝉しぐれ憂さも怒りも溶け込ます紀泰
蝉時雨浴びる涙の乾くまで亀山逸子
急行の止まらぬ駅や蝉の声菊池洋勝
逢えぬまま地に落つ7日目の蝉橘薫
落ち蝉のせつな遊ぶか猫の爪久保恵美
油蝉みんなと演奏公園で久保弥邦
すきすきと精一杯の蝉の声宮武桜子
スマホから顔を上げれば蝉の声宮武由佳子
二桁の蝉陣地取り朴の幹橋爪利志美
蝉涼し社の縁に横寝して桐人
猫空振りす飛び去る蝉の空青し銀長だぬき
仏壇のリンの音色や蝉の声空
蝉時雨浴びて零れる記憶の香空龍
初蝉や空爆の始まりは何時桑島 幹
蝉を手に放さないのととなりの子薫氏
指のばす翅脈うかぶや蝉の羽恵翠
ふと目覚めここは何処か蝉時雨桂山典子
我五十路秘かに待つや蝉の声畦のすみれ
蝉が哭く輪廻転生六道を蛍子
蝉捕りのシャツをめくって風通す月見草
蝉時雨一瞬の沈黙時止まる月夜同舟
生か死かセミとカマキリ睨み合い犬飼茶太丸
死に近き蝉はこの世の生を鳴く原 善枝
初蝉や補助輪外す姪を追い原口祐子
能登輪島玄き瓦と蝉時雨原田
蝉の声お経とともに響き合う源氏物語
座禅組む耳を突き抜く蝉時雨玄次郎
蝉時雨あの日の君は制服で古都 鈴
勉強部屋網戸に学ぶ夜の蝉戸根由紀
剣道の稽古始まる朝の蝉湖雪
朝蝉や掃除中なる書斎かな光子
午後三時フォルティッシモの吾子と蝉江川月丸
信楽の蝦蟇の背に降る蝉時雨江藤鳥歩
唖蝉や父愚痴やまず母菩薩甲山
初蝉に少し背伸びの還暦や香子
蝉鳴くは短き命惜しむから高橋光加
焦げ臭い殻残し朝空へ蝉高田洋子
裏返る蝉の掴む指嬉し国春
父の忌や記憶に遠き蝉しぐれ今井淑子
マンションの庭に鳴く蝉静かなり今井正博
油蝉足つりそうな重労働今田哲和
第九歌う樹上の夢や蝉時雨佐藤ゆづ
アブラゼミ艶めく樹液の記憶佐藤花伎
庭先の鳴き果てし蝉そっと埋め佐藤明美
午睡より醒めても一人蝉時雨砂舟
怖そうに手に受けた蝉つついてる坂本千代子
脱皮して蝉のみどりは早茶色桜姫5
告白を二度聞く訳は蝉時雨三浦ごまこ
裁判官人生を説き蝉時雨三河五郎
生きている今生きている蝉時雨三茶
初蝉や大あくびする朝の猫山育ち
静止せる蝉時雨の午震度六山沖阿月子
止まぬ雨水底のごと蝉の庭山口トシ子
あみを手に見上げし木々に蝉しぐれ山崎直人
お喋りも熊蝉ももう聞き飽きて山山こすみ
蝉しぐれ瀬音と競う広瀬川山川芳明
初蝉の鳴き声響く真夜中に山田陽子
羽衣はかくなるものか蝉の羽化山本康
砂紋描く飛ばんと蝉の破れ羽市山利也
開けられぬ雨戸の向こう蝉時雨獅子蕩児
切り株や寝転び浴びる蝉時雨紫雲英
日時計や鳴いて鳴ききる油蝉紫小寿々
陽も蔭も蝉の音も降る山路かな詩扇
検査終えにわかに響く蝉時雨鹿嶌純子
蝉の背にあたる朝日子乱反射柴紫
片恋のおとこ励ます蝉時雨珠桜女絢未来
縁側に落ち蝉並べ不興買ふ酒暮
幾年も土に耐えたり蝉睦む秀耕
油蝉膝を抱えて四畳半秀道
蝉しぐれ上皇行幸京の地に秋水
蝉なける合わせて我も合奏す秋代
金金とその日暮らしの蝉時雨重仁
空気を詰めてタイヤ転がれ蝉時雨春都
黙祷の咳のあとから蝉時雨春風
幼子が見入るは殻を破る蝉初野文子
朝寝坊許さぬ蝉の大合唱渚
しがみつく蝉闇の中羽化を待つ小熊猫
納骨の喪服の列へ油蝉小笹いのり
蝉の声なんだかとってもねむくなる小川わたる
天敵のごと窓揺らす蝉の声小倉あんこ
蝉時雨あびて雑念消える朝松ちゃん
告白を聞こえぬふりや蝉時雨松田文子
亡き友と蝉捕り昼の夢悲し松尾義弘
補聴器が脳髄に喚き油蝉松本和加恵
孫見せるための延命蝉時雨松野菜々花
悲しみもせず喪服の徒蝉時雨焼田美智世
脱皮す蝉我が子へ贈る母ごころ祥葉
スマホ切り今日は青空蝉の声上野眞理
はいくのねてすとですのでこのはいく上條てすお
夜の蝉出口の見えぬ更年期城山のぱく
骨あげを終えて真昼の蝉時雨植田かず子
クマゼミに負けじ飲み過ぎうめく父森井はな
空蝉や飛んだ中身が鳴く十日森澤佳
授乳後の胸しぼみゆく蝉時雨真宮マミ
七回忌線香一本蝉時雨真優航千の母
初蝉や鳴きて聞き入る道祖神真理庵
蝉しぐれ嚏一つの休止符か神谷米子
蝉の寿命七日の通説間違いってよ雛まつり
蝉と我無言のままや網戸越し杉浦あきけん
唖蝉や背割る君は天使かと菅利通と
絵日記に蝉の音刻む十色ペン瀬尾ありさ
蝉涼し夜のとばりを明けて行く星野茜
鍬を立て空耳かしら蝉初音正岡恵似子
旧姓で呼ばれて想う蝉時雨聖月
蝉の羽化目をこすりつつ夜深けゆく西下真由
蝉時雨まぶたの裏に浮かぶ郷西村 圭
蝉の羽宝物にする子どもたち西村優美子
みんみんや存在のみを主張せり西尾至史
抗がん剤辞して家路に蝉骸西條恭子
「おまとめ」でうやむやとなり蝉時雨青山あじこ
初蝉の早やむくろなる宵の径青児
玄関の柱のぼるや白い蝉石ころ
蝉時雨もらいし果実の甘きこと雪割豆
初蝉や年々早くなりにけり千川小舟
蝉時雨シャワーのごとく浴びにけり川村昌子
朝練中無言で囲む蝉の羽化川端孝子
蝉渋滞細い枝でも良しとする川畑 彩
蝉蝉蝉飽くまで食す揖保乃糸双子の父
蝉鳴きて広島の空曇り行く惣兵衛
初蝉と子らの寝息と握り飯早山
蝉時雨家族の会話もままならず多田ふみ
唐突に泣き止む蝉の命かな大山小袖
爆弾で影まで焼かれ蝉時雨大津美
京町家抜けて裏庭蝉しぐれ大槻税悦
蝉が鳴くもっと生きてる我々は大本千恵子
長寿化の村へコンビニ蝉時雨大和田美信
脳漿の中に住まうは我の蝉只野花
雨の日もこの世のひと日蝉哀し谷口あきこ
アスファルト蝉の死骸に手を合わせ谷川秋子
声聞かずぽつんと蝉のベランダに池 愛子
蝉しぐれ我岩になり沁みいらん池上敬子
熊蝉の声に故郷を確かむる竹口ゆうこ
校庭の休み時間や蝉時雨竹内うめ
夕蝉や賀茂の河原の風の色中西柚子
玉音の涙の空に蝉時雨中谷典敬
蝉の腹つかめぬ空へ命果つ中島知恵子
押し黙る受話器の向こう蝉時雨中嶋純子
葉になると思ひし蝉の発つ朝衷子
蝉時雨幼き兄の逝きし朝潮雲
雨戸繰る音が合図や蝉の鳴く長谷川ロンロン
西日暮里ホーム降り立つ蝉時雨長谷川京水
廃寺の曼荼羅に鳴く蝉しぐれ長谷島弘安
夕蝉や嫁ぎし吾子の部屋広し鶴の子
抜け殻に銘々の形蝉時雨天野規之
老いし身の痛みと化すや蝉の声天鵲
リハビリの歩調整え蝉時雨田村伊都
蝉しぐれ顕微鏡から離せぬ眼田村利平
彼は誰の闇にむずかる蝉の声田中玄華
声合わす僧侶の読経蝉の声田中勝之
誕生日外は朝から蝉しぐれ田畑尚美
亡き友を偲ぶ木漏れ日蝉しぐれ田良穂
ラストラン遠く近くに蝉涼し斗三木童
喧噪に搦めて急かす蝉の声渡辺音葉
蝉鳴くや大泣きしたき日の夕べ渡辺陽子
万物と息共にして蝉時雨渡邉一輝
境内に羽化せし蝉の浅みどり土屋雅修
かくれんぼ下駄箱陰の油蝉嶋村紀子
夜の蝉枕に残る午前二時嶋良二
老い病みて天井の染み蝉の時東風弘典
一打差を競う夫婦や油蝉桃雨
イチゴ水恋を味わう若きセミ桃葉琴乃
知恵の輪のほどけぬ時の蝉時雨藤井茂
吸う息となりて身に入る蝉の声藤井眞おん
蝉時雨地上の暮らし謳歌して藤原訓子
蝉時雨時が止まりし無人駅藤田康子
黙々と遺跡発掘蝉しぐれ藤田真純
警策の喝受け蝉時雨止まる徳
冷たき雨に洗われて光る蝉楠田草堂
震ふ蝉包まれてをり吾子の手に日記
夕蝉や今日を限りと鳴き埋む入江幸子
早朝の初体操や蝉しぐれ埜水
蝉声をBGMに三島読む馬笑
うわさほど短命でなし蝉の息馬場東風
甲冑のごとき体(てい)した城の蝉博子さん
蝉眠り川の音聴こゆ燻し部屋白雨
蝉しぐれ絵日記帳は白いまま白土景子
蝉時雨寝転んで待つ無人駅白米
素数ゼミ少子化嗤ひ五十億函
蝉留まれ床柱には花連れて鳩礼
夕蝉の声止むときに風の止む板垣美樹
日曜市雑踏しのぐ蝉の声妃
蝉変わる夜明け色から朝の陽色琵琶京子
夜勤明け眠の中や蝉しぐれ美山つぐみ
夕暮れに響く強弱蝉の声美翠
初蝉にペディキュアは赤選び美帆
唖蝉や結び目堅き四ツ目垣百合乃
夕飯はカレーライスよ蝉時雨浜 けい
蝉逃し飛び散る滴ただ後悔敷島せっつ
茹だる部屋には経と蝉時雨のみ部流
友くれし動画で聴くや蝉の声風花
寝返れば耳から零る蝉しぐれ風舟
蝉しぐれぬけがら一つ空をみる風来坊
思い出は空蝉百匹ビンの中福泉
告白の其の先呑み込む蝉時雨片岡佐知子
初蝉を聞いた聞いたと話す子ら片栗子
唖蝉や別れし夫に似たる吾子弁女
何度でも何度でも言う蝉時雨牧野敏信
蝉は五つの目に風映す幟旗睦月くらげ
この蝉を命と思う文明を観る麻場育子
団旗振るけふの加勢は蝉時雨麻生和風
腹見せて大往生の油蝉抹香
異世界の魔王が生まれ変はり蝉抹茶金魚
樹上から屹度見おろす油蝉湊かずゆき
蝉鳴くや空巣入りたる窓の脇蓑田和明
青銅の鳥居くぐりて蝉時雨妙子
忍び網大樹にへばる油蝉夢おとめ
サイレンを追いかけるごと蝉時雨夢見昼顔
別れ道二人を急かす蝉時雨無頓着
週番のあみだくじ熊蝉の翅明惟久里
血の匂うひざのすり傷蝉時雨明田句仁子
大の字に空を見つめて蝉果てり門 未知子
街宣車去って静かに蝉時雨門前町のり子
朝蝉やワンパターンの目玉焼野紺菊
掌の中で狂える無音の蝉放つ野曾良
吾が生や碧き星での零れ蝉野中泰風
蝉の声途切れて右手プレーボール野木編
蝉時雨短波ラジオに止まる夫野々香織
つま恋の蝉時雨まだ語らずか矢野茂樹
手のひらの脱け殻ゆらす蝉の声有馬裕子
脱ぎ捨てよ青白き殻蝉の夜有本典子
母の声を再生して蝉時雨遊飛
母見舞う日帰り旅や蝉の声葉るみ
じじじじと網戸にしがみつくは蝉葉月けゐ
木曽路にて声も切なや蝉しぐれ里惠子
唇を噛む解き放つ蝉の空鈴木上む
蝉しぐれ二十三回忌となりにけり麗し
唖蝉よ鳴いてみたいか六本木和舟
蝉の死骸避けて車庫入れ午後六時惑星のかけら
蝉声を庇に残し夕日落つ侘介
蝉の腹地雷を跨ぐドアの前暝想華
亡き祖母の家を包みし蝉時雨櫻井弘子
小倉にて文豪も聴きし蝉時雨淺紫
手水舎の柄杓こぼるる蝉の声淺野紫桜
油蝉シンボルツリーのふくれたる澪つくし
外出の義母の顔色蝉しぐれ眞
夕蝉や色褪せ気味の漫画本祺埜箕來
鳴くや蝉もうこの惑星(ほし)は終わりかも籠居子
唖蝉や母に会いたくて人に会う苳
接戦の高校野球蝉しぐれ令子
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号には苗字を!
〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて姓をつけていただけると混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
●俳句の正しい表記とは?
- 遠き日に 思いを馳せる 蝉の声すうママ
- 蝉時雨 やにわに泣き止む 高い声みねご
- 今日忌明け 空き家離れぬ 蝉一つ下松かつ子
- 蝉の羽 小さいけれど 馬力あり千鶴姫
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
●季重なり
- トマト植え頭に注ぐ蝉時雨vivi
- 縁側で子らとお昼寝蝉しぐれたじま
- 降りそそぐ光も涼し蝉しぐれまさ
- 蜘蛛の巣に絡まる雨や蝉の声愛宕平九郎
- 杖傘をパラソルに替え蝉時雨一枝
- 汗をかく雨降り続くも蝉の声加島
- のどかなり蝉の声する山の宿吉成しょう子
- 蝉時雨昼寝目覚め雨の音弘
- ひこばえや蝉はどちらでお食事か江藤 薫
- 水打ちの音に黙する夕の蝉真澄
- 昼寝して目覚めてもなお蝉時雨福ネコ
- 蚊帳の中黒く染まるる熊蝉二匹玲子
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「蝉」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。
●違う季語
- うつせみや今朝旅立つとラインするきさらぎ
- ツーリングバイクのカバー空蝉がくるくるくるるん
- 空蝉をひろうて歩く遍路道ヨシクン
- 空き箱に蝉の脱け殻子の宝吉村悦子
- 空蝉を見つめし日々のありしかな古史朗
- 空蝉の己を睨む朝の蝉三浦真奈美
- 空蝉のベンチにひとつ雁坂路山口要人
- 空蝉や青森に来ず田村麻呂丹羽信道
- 空蝉や水音さやか苔の岩登久 光
- ブロックに爪立てたまま蝉の殻たむこん
- 蝉の殻両手で包み帰る子ら寒川談志
- 吾子の手をほどいてひとつ蝉の殻都忘れ
〇小さな季寄せなどには、「蝉」と同じ項目として扱っているものもあるかもしれませんが、「空蝉」「蝉の殻」は別の季語として扱われるべきでしょう。
- ひぐらしや旅立つ父の笑み透けて原田彰子
- 蜩や暫しとどめん君の笑み杉山
- 法師蝉足下より立つ奥比叡木村波平
- つくつくぼーしランドセルからこぼれる宿題の山中嶋知子
- つくつくぼーしランドセルからこぼれる宿題の山なかしまともこ
〇「蜩」「法師蝉」は秋の季語になります。
- 蝉生る漆黒に燃ゆ白き魄梅木若葉
- 蝉生る深酒の夜に涙湧く明里若葉
- 黄緑の羽や芽吹くごと蝉生る満る
- そこに空く令和元年蝉の穴羽沖
- 蝉の子の見あげる空で梢ゆれ河合久子
〇「蝉生る」を独立した季語としている歳時記もあれば、「蝉」の傍題としているものもあるかもしれません。「蝉の穴」は「蝉生る」の傍題です。「蝉の子」は幼虫のことでしょうか。
歳時記は、編者の考え方によって細部に違いがあります。複数の歳時記を手に入れ、比較できるようにしておくことをお勧めします。●「蝉」だけど季語としては?……
- 古希にして地中の蝉のごと朝本間美知子
- 蝉というイジメのありき初年兵きつね火@ビルマ戦線で「蝉をやれ」と言われると床から足を離し柱にしがみついて蝉の鳴きまねをするらしいです、「止めてよし」と言われるまで。季語にはならないかも知れませんが、蝉の鳴く時期になると話していたのを思い出します。
〇「蝉」が比喩として使われる場合、季語としての力は弱くなります。
●兼題「蝉」が入ってない
- 彼氏こん待ち首長く梅雨だにゃー王野
- 鳴き足りず骸となりて蟻が引く有迷人
○今回の兼題は「蝉」です。兼題を詠み込むのが、たった一つのルールです。
- 観音の喪裾に縋る春の猿徳田トミコ 5/30没@先生が大好きだった、母の辞世の句です。先生の目に触れるだけで喜びます。兼題と違う句をお送りして、申し訳ありませんでした。娘。
〇「春の猿」に命のひかりを感じます。ご冥福をお祈りいたします。
6月の兼題『蝉』は2710句もの投句をいただきました。記録的な日照不足、冷夏で蝉の声が中々鳴らないなか、みなさまには想像をうんと膨らませていただき、本当にありがとうございます。夏井先生より、俳号の付け方について注意事項をいただきましたので、投稿をされる方は「今月のアドバイス」を必ずお読みください(編集部)