夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
5月の審査結果発表
兼題「梅雨」
「ばいう」「つゆ」と読む。6月下旬に差し掛かるころからの約三十日間の時期を言う。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
キヨスクの朝刊風に濡れて梅雨
古瀬まさあき
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夏井いつき先生より
暦の上では六月十一日頃の入梅の日から三十日間の長雨、および雨期が「梅雨」です。「梅雨」は天文の季語ですが、時候の意味合いも含んでいるのが特徴。つまり「梅雨」とは、降ってくる雨粒だけを指すのではなく、長雨の続く時期も意味するのです。
「キヨスク」は駅の売店です。「朝刊」はお客さんがすぐ手に取れるホルダーに並べられているのでしょう。当たった雨粒によってではなく、「梅雨」の時期の湿気を含んだ風によって「濡れて」いるという後半の措辞が秀逸。硬貨と引き換えに受け取った「朝刊」を広げると、ホームに降り込む雨粒が紙面を濡らします。難しい季語を、天文と時候の両面から描いた一句に拍手を贈りましょう。
ゴミ箱にビニール垂れる垂れる梅雨
いかちゃん
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「ゴミ箱」にいい加減に突っ込んだ「ビニール」が「梅雨」の風に煽られてながら増々垂れ下がってくるのです。「垂れる垂れる」のリフレインが、「梅雨」の一語を引っ張り出してくる構造も巧み。
溶媒に梅雨のひかりの甘からん
ぐ
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「溶媒」とは物質を溶かすための溶液。フラスコの溶液に「梅雨」の時期の「ひかり」が甘そうに映っているのでしょうか、「梅雨」という時候を溶かす溶液が「梅雨」の雨滴だと読んでも面白いか。
青梅雨や埃しずかな薬品庫
古田秀
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「青梅雨」は青葉の印象を内包している季語。窓の外には青葉の雨が降り続く日々が移ろい、「埃しずかな」は埃の溜まっていく日々も感じさせます。下五にて薬品臭がツーンと読者の鼻腔を刺します。
荒梅雨のピアノに黒き獣飼ふ
樫の木
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「荒梅雨」は荒々しく降る長雨。室内に置かれた「ピアノ」にも強い湿気が及んでいくかのようです。ピアノに飼う「黒き獣」とは荒々しい和音か、楽曲か。「荒梅雨」も黒々と吼え立てるかのよう。
貝殻の奥から梅雨を見てゐたり
すりいぴい
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「貝殻の奥から」という発想に驚きます。「貝殻」の穴から見える雨粒はどんなだろ、降り続く日々をどう過ごそうと想像すると楽しいような憂鬱なような「梅雨」の日々が浮かんでは消えていきます。
万葉の梅雨あたたかき樹木葬いさな歌鈴
オランウータンは背を向けたまま梅雨の檻いさな歌鈴
青梅雨やテーブル下の果実酒瓶おんちゃん。
梅雨じめりアイツ殴った掌の記憶おんちゃん。
起きて寝て寝て起きてまだ梅雨のなか清島久門
荒梅雨や厩舎をさかる二三頭清島久門
介護実習モデルは「ケイコ」梅雨寒し比々き
ぼんのくぼふつさりおほふつゆじめり比々き
おほらかに梅雨のひかりを吐く轍ぐ
時は雫こぼるる梅雨晴れの献花ぐ
正苦泉のぬるりとぬるし梅雨の宿いかちゃん
腸の如き地下鉄抜けて梅雨いかちゃん
鯨幕に囲はれてゐる梅雨の家すりいぴい
見たこともない梅雨の蟲うぶぶぶぶすりいぴい
リノリウムの廊下の長し梅雨の夜樫の木
梅雨の夜の何かを踏んでゆくタイヤ樫の木
着陸すネオン煌々たる梅雨に古田秀
梅雨の放課後やチューバの長き音古田秀
梅雨深し透析室といふ真白古瀬まさあき
梅雨の日に父の背骨を拭いてゐる古瀬まさあき
梅雨ばうばう子犬がいても拾へない小川めぐる
梅雨の宿アカシアの間はいわくつき小川めぐる
梅雨寒や明け方の咳湿りおり鈴木由紀子
梅雨雲の山にちぎれて漂へり鈴木由紀子
二十円足りぬ梅雨の切手代露砂
日本より梅雨の匂ひの茶封筒露砂
梅雨深しボーイの磨く銀の匙にゃん
梅雨時の離れたがらぬドロップスにゃん
梅雨深し車両に湿る人いきれふじこ
梅雨の日を甘くふくらむスフレかなふじこ
街灯の無音なる波満つや梅雨ほろろ。
黒鍵のエチュード梅雨の礼拝堂ほろろ。
鉄分の臭ひの大気梅雨兆しうさぎまんじゅう
青梅雨やクランク多い城下町うさぎまんじゅう
満席の客は動かず梅雨のバスあまぐり
森の匂ひ濃し妖(あやかし)潜む梅雨あまぐり
梅雨寒や祖母すく髪の長きことかわせみ
梅雨籠なる言葉を知りて梅雨籠るかわせみ
魚屋の姐御は休み梅雨深しぐずみ
梅雨深し八百屋に欠伸する番犬ぐずみ
傷口の膿の匂ひて梅雨深しくりでん
梅雨空やペリカン喉の膨れをりくりでん
梅雨時や弓のごとくにしなる脚クロまま
梅雨空に肉球匂って寝るソファクロまま
ドライヤーコード抜けてた梅雨じめりサイコロピエロ
梅雨ぐもり手術四時間の音沙汰サイコロピエロ
梅雨といふ円周率のやうな鬱さとけん
窓に梅雨雲採血の赤黒しさとけん
剥き出しの鉄骨梅雨果てしなきしかもり
銀輪銀輪梅雨の駐輪場しかもり
月経の近づく痛み梅雨寒しじゃすみん
深煎りの水出し珈琲待つ梅雨じゃすみん
天井の染み島めくや梅雨に飽くすみ
青梅雨やカミツレの香の中にゐるすみ
ハ長調弾き終え梅雨はト短調ちゃうりん
梅雨ごもり小指の爪を青く塗るちゃうりん
荒梅雨や山に異臭の立ち始むテツコ
モーテルの看板匂ひ立つ梅雨テツコ
青梅雨や雫あかるきビニル傘ぬらりひょん
梅雨の闇ノースリーブの腕二本ぬらりひょん
干し葡萄食む梅雨知らぬトルファンではらぐちゆうこ
鼻呼吸音のみ響く梅雨のヨガはらぐちゆうこ
梅雨曇やどのスイッチでどの灯りふるてい
タギングの犇く梅雨の高架下ふるてい@タギング=スプレーペンキで描かれた落書きの一種
梅雨ながし机に閉じる中也の詩みやかわけい子
木琴の響かぬ家や梅雨深しみやかわけい子
鈍色の虫の骸や梅雨湿りみやこわすれ
梅雨寒や駅のピアノのジムノペディみやこわすれ
新聞の見出しやはらか走り梅雨ワカシ君一年生
茫として時報ラヂヲの梅雨籠ワカシ君一年生
青春は心の陰部黴雨の闇哀顏騎士
テレビ見て腹立つ日々や梅雨籠哀顏騎士
綿棒に取る青梅雨の湿りかな葦たかし
新宿の朝は出涸らし梅雨晴間葦たかし
青梅雨や弁当に半額シール或人
青梅雨や「万葉集」にひくライン或人
折ってみた青梅雨の新品チョーク井原千恵理
青梅雨やシェフの気まぐれ星パスタ井原千恵理
水族館出て泳ぎゆく梅雨の街一斤染乃
司会者の声はパステル梅雨なのに一斤染乃
毒の字が苺みたいな旱梅雨塩谷人秀
梅雨空や我が衣手は何もない塩谷人秀
梅雨にほふ横浜駅はなほ工事佳山
屋上の埋まらぬ梅雨の駐車場佳山
校庭の浅き凹凸梅雨長し可笑式
傘差さぬホスト大股梅雨の朝可笑式
荒梅雨のサバンナゾーンただ静か花南天
青梅雨のピンク電話へ積む十円花南天
梅雨寒や朝の独りのだし茶漬け甘平
予備校の机のキズや梅雨曇甘平
いつか読む本を積み上げ梅雨となる亀山酔田
梅雨深し光の如き砂糖菓子亀山酔田
象舎出る象待つ梅雨の傘二本亀田荒太
新聞に紙の匂いの梅雨の朝亀田荒太
梅雨寒や途切れる言葉つくろいて玉井瑞月
長梅雨や枠いっぱいに借りる本玉井瑞月
上京は二十八歳梅雨に逢う玉響雷子
引戸鍵きしと締まりて梅雨の夕玉響雷子
梅雨雲やゴドーを待つやうな二人玉木たまね
長梅雨に剣のごと傘携行す玉木たまね
深き梅雨計測器より目分量桑島 幹
梅雨の街薩摩切子の一口目桑島 幹
洗車して水滴美しく梅雨を行く溝口トポル
新宿の上半分が梅雨に消ゆ溝口トポル
号令に椅子を引くなり梅雨の窓綱長井ハツオ
海側の窓は閉め切り梅雨の佐渡綱長井ハツ
追ひ込みをかける駿馬や梅雨の中高橋寅次
腰椎へ食ひ込むボルト梅雨じめり高橋寅次
過去帳に考の筆文字梅雨深し 彩楓(さいふう)
梅雨寒やサビ取りしてる花鋏彩楓(さいふう)
狡る休みして梅雨の音聞いてをり山
しづかなり象の親子に降る梅雨山
えびの殻剥き終へ乾く指や梅雨山田喜則
なまぐさく匂ふ花咲くもう梅雨か山田喜則
灰青のみずうみをゆく梅雨の舟獅子党裕介
教室の孤独や窓に梅雨の湖獅子党裕介
青梅雨や黒髪も服も濡れちまえ潤目の鰯
店内に三人ほどが梅雨連れて潤目の鰯
梅雨空にチョークの文字の美しきはね松山帖句
梅の雨木の匂い立ちのぼる古書松山帖句
梅雨灯り蒼し螺旋のガラスペン上坊幹子
解体の工事静かや梅雨の町上坊幹子
山僧の語る鳴き龍梅雨が好き上野眞理
約束は梅雨あけてからもう一度上野眞理
梅雨湿り吾子の散髪むづかしき西藤智
薄紙のふくれのまろき梅雨湿り西藤智
梅雨雲や水いぼ潰すピンセット青海也緒
硬そうな鏡の乳房梅雨曇青海也緒
青梅雨や猫の猫草ほおばりて石川由美子
犯人が解るまではと梅雨籠石川由美子
梅雨寒や注文と違ふ珈琲赤馬福助
悪口と渡り廊下と梅雨の空赤馬福助
生肉のつやめく梅雨闇の虎舎倉木はじめ
恋人に飽き隧道の梅雨を行く倉木はじめ
荒梅雨やこつくりさんが帰らない多々良海月
標本の蛙鳴きけり梅雨じめり多々良海月
元彼へライスシャワーを投げる梅雨大槻税悦
忌避剤を家中に吹く梅雨の朝大槻税悦
梅雨の日の休憩多き仕事かな中西柚子
骸あり音なき梅雨の雨に濡れ中西柚子
荒梅雨や人はちいさくなってゆく登りびと
手のごとく木は青梅雨へ青梅雨へ登りびと
梅雨深し海はしとどに濡れにけり藤田康子
梅雨の記憶母の家出は日暮れまで藤田康子
荒梅雨よ富士の赤池喚び出でよ 徳
梅雨蒼くスワンボートの傾きぬ徳
梅雨深き電子マネーの音澄みぬ奈良香里
息をするたびにチョークの匂う梅雨奈良香里
梅天に千年杉の梢鳴る内藤羊皐
コンパスの描く真円梅雨湿り内藤羊皐
梅雨雲のしづか断崖の弾痕南風の記憶
梅雨雲は優しノートに百の「死ね」南風の記憶
青梅雨や乗合バスのリンスの香猫愛すクリーム
こめかみのずくんずくんと梅雨湿り猫愛すクリーム
梅雨寒や玻璃の鏡の羅生門白よだか
梅雨の庭ザムザのような虫がいる白よだか
空梅雨や拳の痛みと壁の穴白瀬いりこ
竹藪の骨の正体旱梅雨白瀬いりこ
休場の力士の名札梅雨の夕八木実
手洗場粉石鹸の汚す梅雨八木実
半眼の獣をりけり梅雨の檻飯村祐知子
青梅雨や大水槽をマンタゆく飯村祐知子
梅雨深し祝日のないカレンダー富山の露玉
青梅雨やガラスボールへ白き花富山の露玉
水満たす生殖器居た梅雨の闇福良ちどり
頸椎の四番五番梅雨来たる福良ちどり
梅雨長く師の達筆の読み辛く北野きのこ
苔清き煉瓦の隙間梅雨の朝北野きのこ
梅雨闇や耳の奥には蝸牛殻明田句仁子
長梅雨やのそりと閉まるエレベーター明田句仁子
売れ残る魚の腹や梅雨匂ふ茂る
振り返る記憶虫食い梅雨深し茂る
叡山の構えの低き梅雨かな有瀬こうこ
梅雨深しガードレールのぬいぐるみ有瀬こうこ
梅雨空や黄ばむ切り抜き読み返す葉るみ
梅雨近し計量匙の粉の跡葉るみ
梅雨の街足場濡れたる日曜日葉月けゐ
密やかに梅雨始まれり夜の底葉月けゐ
おしぼりはセルフサービス梅雨寒し鈴木(や)
風貌に合わぬ筆圧梅雨寒し鈴木(や)
潮の濃く匂ふ魚がし梅雨曇鈴木淑葉
梅雨寒や通夜のテントの溜り水鈴木淑葉
少年の舌打ち響く梅雨の駅momo
梅雨さ中自販機で買ふカップ酒Qさん
梅雨知るや水槽にエサひとつまみS.組
歯茎穿つポテトチップス梅雨ごもりあいだほ
梅雨の闇髭根取られし萌やしの山あまぶー
梅雨の朝なんだかとってもつまんないいおりん6才
出涸らしの色だけ青き梅雨曇いのり
梅雨深し棹の褌よぢれをりいわきりかつじ
母さんは豆腐の匂い梅雨寒しおくにち木実
梅雨暗し傘の裏絵の花は紅おざきさちよ
梅雨空や灰色落とす首都高速おさむらいちゃん
梅雨空やドリップ百円分を待つおばたよう
黴雨雲や笑い閻魔の暗き堂カオス
連れ立ちて森の蕎麦屋へ梅雨の昼かぬまっこ
梅雨の夜森の出来事秘密なりかもめ
偽革の靴音跳ねる梅雨がくるかわいなおき
スミ1の完封負けや梅雨曇きなこもち
青梅雨やフルートのミが少し低いぐでたま
梅雨寒や白衣に匂うホルマリンクラウド坂の上
梅雨しとど訪問歯科を待ちわびるくるめ絣
梅雨曇人間一つ年をとるクロエ
空梅雨やぽんぽん船は平たくてけーい○
嫁の炊く煮つけの甘き梅雨湿りケンG
青梅雨や天ぷら揚げる日曜日こばやしまき
梅雨冷や豚まん下げるエキストラこぶこ
梅雨じめり聞けばホッピーのみの店さとう菓子
訳ありの梅雨の花嫁駆けてくる さなぎ
長梅雨や言い訳ばかり七つ八つしゃれこうべの妻
ボールなげ花びんこわした梅雨だからちま(5さい)
梅雨曇りタピオカ店は今日も賑やかちょぴまる
紅茶にはミルクでせうか梅雨寒しつちのこ
梅雨の第一京浜ネズミ捕りの青てんてこ麻衣
空色の薬は偽薬梅雨曇とかき星
まっすぐ行こうかどの辻も梅雨の辻ときこ
倫敦へ帰るをみなに傘を梅雨としなり
渓流の苔むす岩や梅雨匂うとしまる
青梅雨や貴船の朝のけぶりたるはむ
梅雨の音今日はミとラが主役かなハムサンド
雨のままずっといたいと梅雨は言うひっそり静か
約束の街荒梅雨の只中にひでやん
梅雨曇無心で磨く洗濯機ひろ夢
梅雨という響き優しい父母の庭ふうこ
夜這いする梅雨も半ばの曇り空ふくろう悠々
梅雨呑み込む苔の静かや赤子寝るペトロア
青梅雨や制服のまま海月見にほしの有紀
窓に描くイロハニホヘト梅雨深むぼたんのむら
ハメハメハ大王のごと梅雨ごもりまちる
超音波ゼリーはブルー梅雨の空まどん
梅雨の日のやりたいことは水あそびみいちゃん3才
嘘つきの夫待つ椅子や梅雨の闇みかりん
オブラートに包む頓服梅雨じめりみそまめ
蝦夷梅雨や花田番屋の三平汁みなと
鍵盤の戻りの悪しき梅雨兆すみゆき
葉の上の最初の星が弾け梅雨むらさき(6さい)
骨接ぎのBGMはジャズの梅雨もつこ
頓服の在庫数える迎え梅雨ももたもも
梅雨曇湿布は背骨の右左ゆすらご
長き梅雨びっくり箱の武者震いゆづ
えら呼吸の記憶辿りて梅雨かなよにし陽子
梅雨寒や長湯の夫の「イエスタディ」ラーラ
梅雨籠り馬齢重ねと文を書くわかなけん
昔むかし襁褓旗めく梅雨の家亜紀女
梅雨の匂い中間テストの教室に満つ亜美子
象一頭落ちてきそうな梅雨の空愛燦燦
梅雨曇二駅先の特売日葵新吾
梅雨深しすぐになくなる緑のクレヨン安藤芽衣
梅雨の夜亡き友集ひ独り酒伊藤ひろし
筆持ちてにじみ美わし梅雨深し伊藤節子
産着干す豆腐屋の窓梅雨兆す衣川俊子
煮え切らぬ男の如き梅雨の空遺跡納期
青梅雨や古き愛車の黒光る宇佐美好子
白き荒梅雨や変圧器に烏烏飛兔走
梅雨の宵煮こごりのごと常夜灯遠藤百合
ペディキュアの十指違へてついりかな塩沢桂子
梅雨寒や患者の我妻を待つ加島
ダンゴムシ迷路に放ち梅の雨夏柿
梅雨籠り匂い残して犬の果つ花岡淑子
梅雨寒や黒傘ふたつ布教らし花屋
梅雨冷えや病身のわれに老母あり花喰い鳥
自販機の売り切れランプ梅雨じめり花伝
青梅雨や点滴キライ5病棟花紋
梅雨だしねそんなにがんばらなくていいよ海碧
「友達に戻ろう」「そうね梅雨だしね」海老名吟
同じ曲二度と聴けない梅雨の傘灰田兵庫
梅雨の朝漏れて聴こえる平井堅笠原理香
梅雨青し墳墓の堀のさざめける幾恋良石
梅雨曇り今日は見えない岬あり紀泰
梅雨籠りお茶とハヤカワミステリー亀山逸子
全身で前進の嬰梅雨近し菊原八重
乾燥機へ入れるパンツや梅雨はじめ菊池洋勝
けいこさーんつゆがとつとつやってきた吉田結希
梅雨じめり蔵書に多き旧字体久我恒子
梅雨なりきケニヤの紅茶濃く淹れて宮部里美
青梅雨やボタンをとめる糸細く薫子(におこ)
梅雨入りすひねもすフライタイイング畦のすみれ@フライフィッシング用のフライを作成すること
琴の糸張り直したり梅雨曇蛍子
梅雨さなか岩手の寺に稲穂料月の砂漠
梅雨長くして嵌まる大人の塗り絵見屋桜花
ひっそりと梅雨ひっそりと田を濡らし原田
白無垢の褄高くとる梅雨曇り原田彰子
腸炎の犬の鳴く夜や梅雨じめり湖雪
銭湯の「閉店」滲む梅雨の町五月野敬子
梅雨の灯を集め兜太の日記読む光子
梅雨の村ベンガラ競う吹屋かな甲山
梅雨の日に鏡みがきて部屋写す香子
梅雨の底シーツ纏わせたる素肌香羊
ままごとも倦怠期なり梅雨の昼高田祥聖
劉金の尾の跳ねる音梅雨ま近今井淑子
梅雨寒の犬の尸(かばね)を深く置く佐藤儒艮
梅雨激し怒れる猫の息臭し砂舟
骨接ぎの職人の皺梅雨の夕斎乃雪
焼鳥の煙ゆるゆる梅雨の路地坂まきか
骨拾い梅雨のみどりに箸うごく榊昭広
梅雨の空スカイウォークのオランウータン三浦ごまこ
「15の夜」流す五十や梅雨籠り三河五郎
灰色の紫暮れ六つ窓の梅雨山沖阿月子
梅雨の尾瀬みな戻りくるけもの道山口要人
梅雨曇占い今日はびりっけつ山山こすみ
畳の目ひやと吸いつき梅雨曇山内彩月
腹ばいで青い唇笑う梅雨市山利也
連れ帰へる古書の匂ひや梅雨深し慈温
駆血帯外せば梅雨の匂ひ立つ次郎の飼い主
空梅雨の舗道に零すレモネード七咲人天
青梅雨に漱ぎてひかり伊勢国七瀬ゆきこ
空き缶や梅雨には梅雨の匂ひあり室谷早霞
宿の名の薄きタオルや梅の雨若井柳児
梅雨暮れるグランクラスの赤ワイン秋月なおと
黒四は早梅雨なり仏岩秋水
梅雨に入り着物姿の母傘を秋代
淹れたての珈琲ほのか梅雨の朝重仁
青梅雨の木々に合羽に両の手に春都
梅の雨ハーバリウムに透けている小笹いのり
五月雲包茎手術は高すぎる小市
建仁寺の阿吽の龍の鳴きて梅雨小倉あんこ
梅雨冷えや指に食い込むレジ袋小池玲子
障害者の更新申請梅雨曇小嶋芦舟
梅雨寒やハイネの頁濡らす夜松ちゃん
右にラーク左にシャネル座る梅雨松野菜々花
どうせまた口だけのこと旱梅雨焼田美智世
南より利休鼠の梅雨がくる植田かず子
荒梅雨や仮設の庭に金次郎色葉二穂
蝦夷梅雨や空と大地の混じり会う森弘行
コピー機につまる英文梅雨兆す真宮マミ
梅雨に溶けしづかに泣くよ窓ガラス真繍
ハモニカの仕切り小さし梅雨匂ふ真壁正江
梅雨しとどスワンの船の目に涙酔進
梅雨寒やジャズの流るる露天風呂雛まつり
梅雨出水仮寝の宿のうすあかり菅利通
梅雨の夜や何かが靴に飛び乗りぬ瀬尾ありさ
梅雨空やまた読み返す三国志成田わや
降れば憂し降らねば困る梅雨農家清水容子
銀行のマットは斜め梅雨を来て西川由野
梅雨生まれ雨がお祝いしてくれる西村咲音
梅雨暗く蛇姫の墓碑過ぎりけり青い月
幾日の梅雨幾日の魚心地青萄
ヘイジュードトランペットで梅雨雲突きぬく石垣エリザ
梅雨寒やエアロバイクを永遠に赤橋渡
世界一周のパンフレットと梅雨籠り川村昌子
梅雨の朝キリマンジャロの香りから双子の父
梅雨湿りくにゃりと曲がる蛸煎餅倉岡富士子
小芝居で殻割る給仕梅雨曇多事
梅雨が来たメランコリックシンフォニー大久保響子
荒梅雨や紅茶の底の青の花大小田忍
宿題の多い休日梅雨籠大津美
梅雨ごもる独り李白の書写かな知足
早々と梅雨の気配でありにけり池田功
青梅雨や腹の子もまた眠る午後竹内桂翠
蝸牛考付箋のページ開く梅雨茶野ねずみ
きりきりと芥まはるや梅雨の淵中原久遠
オブラートくしゅりとちぢむ梅雨籠宙のふう
落語聞くうつつ忘れの梅雨の夜や鳥越
梅雨のカフェ飛入りありの朗読会直木葉子
梅雨じめり老母の爪も柔らかに鶴の子
梅雨の夜の老いの汚穢の後始末天鵲
行く当ての無くて図書館梅雨じめり田村利平
学校の渡り廊下や梅雨湿り田中ようちゃん
60色絵の具にある梅雨の色田畑尚美
テーラーの鋏まつすぐ梅雨湿り渡辺音葉
献体へ迎への車梅雨寒し渡辺牛二
喧騒の豊かなり新宿の梅雨渡邉一輝
飛行機の音歪みたる梅雨曇渡邉竹庵
保存食仕込む部屋の香梅雨の香や登久光
梅雨の星赫し実験ラットの碑土井探花
透析のじっとり梅雨の這いにけり冬のおこじょ
梅雨籠羊羹駄菓子のやうに食ぶ藤色葉菜
サンキャッチャーつんと弾いて梅雨の底藤田真純
梅雨の夜ロータリーに若者の輪徳庵
長梅雨の教室友の枝毛切る奈良素数
ロッカーの梅雨のにおいの体操服薙田碓
アスピリン三錠服んで梅雨かな楢山孝明
梅雨闇や猫の瞳は金環蝕楠田草堂
デジタルの刻む表示や梅雨籠尼島里志
無限なる点線街の滲む梅雨日午
電線に梅雨前線ひっかかり入江幸子
梅雨曇テールランプの太き波梅里和代
傘の先空を小突けば梅雨が来た博子さん
梅雨深し待たされている理髪店白米
墜栗花雨夫のピアノのまた始まる板垣道代
青梅雨や点字読みゐる指の先板垣美樹
梅雨冷に斎場までの地図を捨つ板柿せっか
梅雨じめり父のキセルの油色比良山
古鏡うつるその顔梅雨曇り百合乃
梅雨寒や粘っぱる湿布の冷やっこさ浜けい
骨壷のまだ温かし梅雨曇り風花
寝返れば耳から漏れる梅雨の音風舟
鈍色の波折りたたむ梅雨の海風峰
梅雨の街激辛カレーオーダーす 風紋
ネクタイの結び目固く梅雨の駅福井三水低
長梅雨や深爪の折る千羽鶴文月さな女
一日を玻璃越しにゐて梅雨しぐれ 文女
傘たたむ店員真顔梅雨曇片栗子
青梅雨のα波へとうたた寝す弁女
地球儀の梅雨の真青へ出港す豊田すばる
空梅雨やひりりと痛む失き乳房凡鑽
梅雨じめり別れた夫の妻に会う満る
番傘の香りをたたむ女梅雨椋本望生
梅雨籠あと一番と打ち続け木村波平
わが梅雨のひと日を寄席の浅草に門未知子
炒飯とワインで寝つく梅雨の夜門前町のり子
青梅雨や栞を挿むエピローグ野ゆき
高き塔登りてみても梅雨は梅雨野地垂木
女梅雨ドリンクバーは四杯目油揚げ多喰身
古書店の若き主人や梅雨青し有本仁政
梅雨時に生まれた母は祖母(はは)嫌い夕波
梅雨雲に近づいて行くタワーかな理佳
さつきからボサノバばかり梅雨のカフェ鈴木麗門
鎌倉へ梅雨の匂ひに誘われて連雀
ぽろろんと片手のショパン梅雨籠國吉敦子
寝たきり証明書署名捺印梅雨続く櫻井弘子
非常ボタン押して梅雨空運び出し祺埜箕來
青梅雨や昇降口に若き母苳
引越に連れてきた梅雨花色違う茉梨花
ひだりがわ淋しきままに梅雨来たる蓼科川奈
日の丸弁当食む土建屋の梅雨淺野紫桜
ぬるく臭ふ淀川の水梅雨曇中岡秀次
ヴィオロンの長きカデンツァ梅雨の宵朶美子
ぎつくりの一撃を以ち入梅す洒落神戸
小机に漱石と胃散梅雨に入る侘介
工房の木の香ほのほの梅雨に入るのど飴
心電図ひゆくと乱れて梅雨に入るはまのはの
オーボエのシの音くすみ梅雨に入る伊予吟会宵嵐
集団登校はカーニバルのごと梅雨の入り加裕子
完ぺきに趾爪切れて梅雨に入る村上敏子
落ちやすき丸鉛筆や梅雨に入る田村朋子
神具店のローソク特価梅雨に入る野ばら
梅雨明けのカーテン干せば透ける空畑詩音
飛び箱の八段飛んで梅雨明ける小山晃
梅雨が明けたら会いたい人がひとり居る朶美子
納骨に佳き日のしるし送り梅雨みやこま
走り梅雨銀のレクサスいま右折中岡秀次
梅雨晴やたまには泳ぐちんあなご野木編
梅雨晴やクレヨン百色解放宇田建
梅雨晴の夕陽帯びたる古デニム上原淳子
梅雨晴間かちかちの筆洗いけり城内幸江
梅雨晴を跳ぶよ義足のアスリート西尾至史
流木の獣めきたる梅雨の月由づる
傘たたむ真鍮のごと梅雨の月淺野紫桜
梅雨の星免状ひとつ増えた帰路充夜
描き終わる刺繍の図案梅雨夕焼八幡風花
高千穂の峰はたまゆら梅雨夕焼巫女
待つ待たぬ待つ梅雨夕焼の江の島暝想華
梅雨の蝶義母の電話に身構へる播磨陽子
守礼門へと縺れ合ふ梅雨の蝶水夢
梅雨の空未来が変えた過去に会う大本千恵子
青梅雨や着こなし上手な女が行く谷口あきこ
青梅雨やポツッと雫にカサッと去るnid
日めくりの格言眺む女梅雨AKI
窓を開け風の重さで梅雨を知るANGEL
空梅雨や菜園の庭猫通るmika-na
梅雨の傘江戸しぐさを語る教師sakura a.
梅雨空や灰から青へのリトマス紙あおか
涙眼を隠し見上げる梅雨の空あかり
しずかさや屋根をつらぬく梅雨の音あきけん
梅雨嬉し休みの母とドーナツとイカロス
笊と掛け迷う昼時梅雨曇イキイキ生活
木毎雨宿る梅雨知らずして保健室いっちゃん
朝刊をめくる指先梅雨じめりいまいやすのり
くるくるの髮と闘う梅雨の朝いろをふくむや
降り出して道路も匂う梅雨の午後うっしー
ゆく河の流れは絶えず梅雨の朝うどまじゅ
梅雨空や出掛けぬ理由ぐるぐるとオカメインコ
梅雨の朝ばいうえお云ふ子の支度おっとりガメ
青梅雨や白き指さき紅をひくおひい
飲んでも呑んでも梅雨の除湿器おぼろ月
雫だけ吊るす物干し竿や梅雨かつたろー。
から梅雨や砂漠のやうなドライアイキョロちゃん
退院と笑まひし父のついりかなくま鶉
生乾き晴れ間こいこい梅雨空にくるるん
梅雨曇燃えるゴミ持つ月曜日けいぜろばん
豪雨多し梅雨の雨音なつかしやこつみ
梅雨ぞらに下駄箱の靴及び腰こまたれぶー
「プーさん」の新しい傘孫の梅雨さかたちえこ
黴梅雨に五臓六腑の異変かなさくやこのはな
梅雨の海真珠のカーペットのごとしさだとみゆみこ
梅雨来たるレインブーツで華やかサチコ
梅雨につゆ盗む晴れ間に竿をさししかめっ面
弁当に冷ました煮物梅雨曇じょいふるとしちゃん
梅雨時もメアリー・ポピンズ来るかしらしらふじゆき
立て掛けし朱なる長傘梅雨の空すずくら
荒梅雨や窓へ前足揃う猫スローライフ
梅雨の空友の手作り傘きらりそれいゆ
梅雨空に見舞い施設と病院とタシャキ
梅雨穴に踏み鎮めたる子等神楽たすく
空押し上げ梅雨に負けない赤い傘たっくん
梅雨の犬本日休みごろりとすたむらせつこ
入念に薬塗り込む梅雨の夜てまり
足三里煙くゆらせ梅雨間近とみことみ
女二人癌を語りし梅雨寒しなごや
珈琲の冷め読み終へし梅雨かななめろう
梅雨曇り古民家宿は下駄を干しなんじゃもんじゃ
手フレーム重なる縦線梅雨の海ねがみともみ
夜の梅雨大地の香する地下通路ねぎみそ
梅雨音の巨人の如くなりにけりねこバアバ
梅雨時の五臓六腑は皆重しパシフィコ
里山を煙(けぶ)らせながら梅雨しとどひかる
町並みの移ろい早く梅雨寒しひなた
冷蔵庫1つしかない梅雨湿りひな芙美子
梅雨の間に重ねた本を読破するひめりんご
梅雨宿り赤ちょうちんに呼ばれてねひゃんひゃんと
梅雨寒に田んぼの父母と並びけりふじかよ
列島に梅雨の季節の早く来るふじたけ
梅雨の夜に雨音我が家を抱きしめてベリーベリー
梅雨寒し仮設の家の千羽鶴ポンタ
絶好の麻雀びより梅雨の中ぽん太
梅雨空や猫雨宿り軒の下まさ
泣く泣かない我と重ねる梅雨曇みさき
にらめっこ暦と予報と梅雨空とみなお
梅雨籠り猫の導くミステリーみはね
梅雨散歩肉球の跡ジグザグとみわ吉
戸の裏に妖怪いるか梅雨籠りめめそうじ
梅雨空も関係なしに皆スマホやったん
ゆで卵つるりと剥けた梅雨ごもりやまなみ
梅雨曇りカノンコードも短調にるりまつり
梅雨の髪暴れる母のDNAわたなべぃびぃ
眠れぬ夜難産俳句題は梅雨亜紗舞那
青梅雨や曇りモードで苔を撮る愛宕平九郎
ほり上げる癇癪玉を梅雨空へ安曇野多恵
芸人の笑ひ弾けて梅雨の夜伊藤順女
どしゃ降りの梅雨の雨音傘の中井上繁
梅雨の空歳また重ねしみじみと磯部和美
読みかけの本を見つける梅雨準備一杯
主婦力や梅雨の洗濯乾かすぞ稲架くぐる
長靴で溝をざくざく歩く梅雨稲垣由貴
バス待ちつニコリ横目に梅雨の小一烏龍
囲まれて梅雨の最中の誕生日羽沖
梅雨空やがん再発か兆しあり永井基美
杖をつき札所へ急ぐ梅雨の森延杜
連々と傘の花咲く梅雨来たり縁恵
フラスコの化学反応や梅雨霞黄蓮
白磁器にお茶そそぎたり梅雨寒や河合久子
梅雨来たり濡れて欅も艶めけり河畔亭
梅雨時はひねもす「源氏物語」花咲明日香
梅雨空を映す湖面の重き色海口あめちゃん
青梅雨やぐんと花茎の背伸びする蒲公英
夫の言う数冊手元に梅雨日和茅ヶ崎のりこ
梅雨なのに元気な犬に起こされる寒川談志
梅雨の朝頬に落ちるは雨粒か甘い苺
梅雨空や水田走る雲の影閑蛙
梅雨寒や新聞詰めるスニーカー丸山隆子
梅雨到来ぐんぐんぐんと叢(くさ)の伸び岸本元世
梅雨が好き静かに降る雨が好き吉田びふう
梅雨寒に温もり欲しく猫を抱く宮原ねこ
梅雨に想う母と歩いた畑道橋本あけみ
空梅雨や太公望の所在無し金林さかな
梅雨のハレずしりと鄙の引き出物銀長だぬき
全身を撥水加工しよう梅雨空遊雲
こうかくをあげてゆらぎのつゆごもり薫夏
青空や梅雨雲来いと赤き傘恵翠
梅雨寒に自販機の暖既になく桂山典子
梅雨雲を南へ突っ切る国際便元木まだら
梅雨の色何色問うた君遥か原善枝
梅雨知らぬトルファン土産干し葡萄原口祐子
水入り長靴吠える梅雨長し原田民久
梅雨寒に猫抱き寄せる老いの父源氏物語
梅雨晴間朱印を急ぐ寺巡り玄次郎
断捨離はまず衣類から梅雨に入る古史朗
梅雨晴間ライブTシャツはたはたと古都鈴
青梅雨の収穫カッパで甲子園戸根由紀
梅雨前の空はまばゆしカラス鳴く枯楓う
梅雨空やハンガーから行く乾燥機五味芳高
梅雨の滝手仕事止めて音楽しむ弘
クレヨンの青重ねたし明けぬ梅雨江川月丸
三角の外郎を食べ梅雨半ば江藤薫
鳥のフン車の窓に梅雨ぐもり高橋光加
目覚めては樋に溢るる梅雨を聞く克巳@いつき組
バス見つけ泥はね厭わぬ梅雨の朝国春
挨拶も無視され過ぎる梅雨の朝今井正博
梅雨の音と溶け落つ旋律ショパンかな佐藤花伎
空梅雨や実生の沙羅に水与え佐藤明美
水やりの楽な梅雨時少し好き佐保子
夫逝きて梅雨よ流してこの涙坂本千代子
青梅雨や子らが文字書くガラス窓桜姫5
いつしかに梅雨らしきもの蝦夷地にも三茶
子達の声聞けぬ令和の梅雨の朝山育ち
梅雨空や果てはいずこにスカイツリー山川芳明
梅雨空や憂き顔するはヒトばかり山太狼
梅雨晴れや古き写真の色具合山田啓子
青梅雨にキラリと光る蜘蛛の網山本康
通勤や排気と紛う梅雨梅雨梅雨山本先生
バス停で見馴れぬ顔の梅雨の朝仔新路
空梅雨や傘立てにあり去年に色紫雲英
梅雨時の乾かぬままの物干し竿紫小寿々
蝦夷梅雨を孕み号砲消える空詩扇
体中縁取られたる梅雨の駅児玉香織
梅雨寒や老犬乗せし乳母車慈悦
ルーペかけ歳時記ひらく梅雨ごもり鹿嶌純子
梅雨じめり枝にやすらふ鳥鳥鳥珠桜女絢未来
女子校の梅雨の傘立て色あふる樹林
梅雨雲を貫き建てんタワービル修芳
害よりも恵みもたらせ真備の梅雨秀耕
梅雨しとど虚無僧のごと鴉立つ秀道
梅雨曇り万国旗のごと部屋干しす初野文子
幼子の騒ぎし居間よ梅雨滂沱小鞠
梅雨曇払う子の声ソーラン節小熊猫
雨好む父の面影梅雨籠り小石丸
荒梅雨や雨声ドラムロールのごと小南子
梅霖やまだ通れりゃせんあの道も松浦麗久
梅雨の夜は母ちゃん家でカープ女子松島美絵
菅の笠棚田の水面叩く梅雨松尾義弘
壁越しに素振りの数や梅雨の朝城ヶ崎由岐子
開けおる新聞梅雨の匂いけり森都
過労気味梅雨でようやくひと休み森井はな
珈琲のよどみ見ている梅雨の朝深白小雪
梅雨寒や長蛇の列はラーメン屋真野悠
梅雨空に乗りて異国の友来る真理庵
万物躁ぐ多摩湖の空に梅雨の芯神谷米子
車椅子の車輪軋むや梅雨深む神田央子
梅雨寒や足踏みしつつ始発バス水木華
梅雨ごもりショパンと本とワインあり杉浦夏甫
静かなり吸い取るような梅の雨杉山
下よりも降りたりといふ荒き梅雨杉本時子
梅雨籠いつもより甘い御饅頭世良日守
交差点歩きスマホに梅雨の雨是多
五回目の命日の朝梅の雨成田むぎ
留守電や墓のセールス梅雨寒し星善之
荒梅雨や大根おろし鯖缶に晴好雨独
天地より逆巻く風雨男梅雨正岡恵似子
顎伏せて上目遣いの犬の梅雨正子@いつき組
梅雨の夜は夕飯まだかデリバリー正樹
ヘルメット被ふ合羽や梅雨の朝清水祥月
梅雨の鬱はじきとばさんボーリング西原さらさ
梅雨空に娘の産声届いたか西村優美子
米一升背負って一歩の大地梅雨西條恭子
心まで洗い流せぬ肩に梅雨西條晶夫
梅雨の宿推理小説読み終はらず青山あじこ
三味の音をたちまち隠す梅雨の郭青児
室外機にノラネコ梅雨籠の午後石ころ
山肌のえぐれし土に梅雨また来る雪割豆
梅雨籠ぱらりと図書を捲る午後川端孝子
文机に本積み上げて梅雨籠素花
梅雨の空青春こぼるる書店閉づ早川博子
梅雨だから制服の君同じバス痩女
空梅雨の空搾りたし持久走走流
散歩道コーヒーに誘われ梅雨やどり多田ふみ
フライパンじゅっと甘い香梅雨の午後駄詩
梅天や天保銭の如吾を囲み大山小袖
野仏と梅雨空仰ぐ日曜日大槻泉
太陽の次の出番は梅雨知らず谷川秋子
梅雨寒や放課後に履く濡れた靴智美
青い服キラキラ着けて梅雨曇り池愛子
青梅雨や光の帯の石畳池田桐人
梅雨空や我が物顔にオスプレイ竹口ゆう
腰痛は余生の友か墜栗花雨中井一雄
つゆ空よわれは孤独をもてあまし中沼妙子
結婚の儀の梅雨遠く令和かな中村純代
起こし田は命の連鎖梅雨の空中谷典敬
紀の郷の梅雨出荷待つ車列かな中嶋純子
寝そべってボール見つめる犬の梅雨衷子
純喫茶珈琲二つ梅雨暮るる長谷島弘安
友釣りの仕掛けを結はふ梅雨の縁天満の葉子
自転車の車輪回るや梅雨跳ねる天野姫城
梅雨曇吾には似合わぬ赤い傘田川さくら
梅雨の夜に染み込んでゆけ白髪染め田川彩
根深汁ゴマ油をたらす梅雨の夜田良穂
梅雨深むヨガに集中猫の伸び渡辺陽子
カフェオレとショパンに浸れし梅雨籠り土屋雅修
トランプのめくれぬ梅雨の机かな島崎伊介
新しいワンピ同窓会へ梅雨の街嶋村紀子
美容室のタオルの横へ立ちぬ梅雨嶋田奈緒
梅雨空も笑顔になるよな青い傘桃葉琴乃
梅雨籠「赤毛のアン」を読み返す藤原訓子
普羅句碑の読取れぬまま梅雨の街内本惠美子
思春期のまつげに迷ひ梅の雨日記
長梅雨に孫の写真を整理する馬笑
日本をせんたくするが如き梅雨馬場東風
梅雨曇り商品券で傘を買い梅納豆
もう少しこうしていよう梅雨だから函
傘が舞う調べはワルツ梅雨の空鳩礼
梅雨の夜余命ゆくすえあれこれと妃
洗濯物梅雨の浴室むぎゅと並ぶ飛来
容赦なき健診結果梅雨の午後琵琶京子
梅雨の朝長靴ピシャピシャはしゃぐ声美絵
オセロする子供にまじり梅雨ごもり美山つぐみ
傘の中リズム奏でる梅雨の音美翠
積ん読の数減る梅雨の休日よ美帆
梅雨空やマネージャーの喝午後練習百花
庭いっぱいあふれたつぼみ梅雨を待つ風来坊
特急をやり過ごす駅梅雨田んぼ福ネコ
ふるさとに梅雨前線近づきぬ福泉
今朝もまた古き傘持つ梅雨かな片岡佐知子
あのビルの地中に眠る梅雨の花穂積のり子
梅雨の傘乗り換えまでの五メートル北大路京介
梅雨休み病院バスに日の射して麻場育子
梅雨を背に北へ北へと単車旅麻生和風
とくとくと水注がれし梅雨の田枕独活
梅雨がいい梅雨もいいねと茶を注ぎ抹香
重力の嵩むがごとく梅雨暑し抹茶金魚
ポチの眼が外へと誘う梅雨の朝蜜華
梅雨空は寄り添うてくれる私に蓑田和明
梅雨曇流れなき溝覗きけり妙子
海峡の橋見失う梅雨の闇夢見昼顔
待ち人を見つけて上げる梅雨の傘無頓着
部屋干しのシャツも苦手な黴雨かな明惟久里
梅雨の河怒れる竜のごと繁吹く明良稽古
梅雨時の湿る仏花に生を見る木村和央
生乾き梅雨の電車の人すべて野胡のこ
梅雨けぶり里山の容浮かび出づ野曾良
書斎にて千句捻るや梅雨籠野中泰
梅雨のそらならぶ小傘がくるくると友舞
大中小並んだ足跡梅雨の土間由美子
梅雨寒やむずかり止まるギプスの子遊飛
青梅雨やワルツを刻む心電図梨音
今時の子はかぬ長靴梅雨さなか里惠子
赤鯉のホームラン消える梅雨雲に玲子
三億円あるごみ捨て場梅雨湿り鈴木上む
長梅雨や猫は玉取り駆けめぐり麗し
ウインカーカチカチ梅雨雲の迷い道惑星のかけら
梅雨空に馴れたる山も消えゆきて淺紫
耳澄ます唇固く梅雨の夕澪つくし
長梅雨や値引きシールの早き棚邯鄲
あいさつ運動響く廊下に梅雨の声齊藤立夏
梅雨近し力士の背中土湿り春風
梅雨間近半袖の白風になり渚
温暖化北海道に梅雨来る湊 かずゆき
持ち傘は花の模様や梅雨に入る村松登音
髪の毛の小さきちぢれ梅雨に入るたむこん
梅雨入りぬ田畑潤す雨となりぬ円
梅雨に入り特に予定のない木曜曽我真理子
継接ぎの歳を重ねて梅雨の入り惣兵衛
梅雨入りや堀ごと沈む野面積辻が花
流し台念入りに拭き梅雨に入る田村伊都
八つ手の葉玉転がして入る梅雨瀬波
梅雨入りて奇岩の群れの苔碧し白雨
母のヒト壊れ始めて梅雨に入る牧野敏信
蛇口の水少し濁りて梅雨入りす矢的
梅雨入りや果実太らす紀伊の郷本間美知子
梅雨入りも耕作放棄枯れる土地万白
積木の家崩す窓には走り梅雨蒼奏
走り梅雨鴉の白き糞洗ふ竹内うめ
走り梅雨ワンフレーズを叩き込む中島圭子
腹痛は大蛇のうねり送り梅雨よち桜
木の葉より雫ほろほろ戻り梅雨三泊みなと
我もまた免許返納梅雨明ける希林
白内障オペ終わり梅雨明けの空尾関みちこ
九つに戻る母の眼梅雨の月三浦真奈美
人形を机へひとつ梅雨の月大和田美信
終電に置き傘忘れ梅雨の月中島知恵子
君に借りた傘の皺伸す梅雨の月片岡ひまり
誕生日母は喜ぶ梅雨の雷川畑彩
梅雨の雷マンホールから目が二つ潮雲
梅雨夕焼スーラータンの旨い店ハルノ花柊
あかね色水面をす(統)べる梅雨夕焼け永花
水色の首輪遺して梅雨夕焼今井葉月
はじめての赤いペディキュア梅雨夕焼け池上敬子
地に這うや濡れて片羽根梅雨の蝶ふみ
玻璃越しに猫の見送る梅雨の蝶長谷川ロンロン
梅雨晴間介護日誌に花丸をあん
梅雨晴間テニスコートの破れ傘いくちゃん
梅雨晴にてるてる坊主の自慢顔お品
梅雨晴れ間スキップランラン子らが行くきさら
梅雨晴れや見上げる空に芸術の雲さきまき
梅雨晴間養浩館に座して二服の茶たじま
梅雨晴れや手土産くるは垣根越しのりっぺ
梅雨晴や歩行器並ぶカフェテラスパッキンマン
梅雨晴や園児の顔は皆まるしよりこ
梅雨晴れや母の紬を広げたり岡れいこ
梅雨晴れ間さみだれ色の葉の眩し吉成しょう子
梅雨晴れ間みずたまりのビル跳び越える吉田己香
人恋し梅雨の晴れ間の鳶の声教来石
逢えない日近くて遠し梅雨晴れ間菜奈子
奪ひあふ勘定書や梅雨晴間松田夜市
梅雨晴れ間窓開け海の声を聞く城山のぱく
するりんと開く古雨戸梅雨晴や真澄
梅雨時の晴れ間のような誕生日西村圭
梅雨晴れや日本酒の会開催す知音
今朝もまた鳩に起こされ梅雨晴間都乃あざみ
カツレツの頃よく揚り梅雨晴れ間藤井茂
梅雨晴や乳母車押す四歳児二鬼酒
カーブミラーの水のごと梅雨晴れの影睦月くらげ
梅雨晴間洗い観音の目を洗う野紺菊
水色の雲の速さや梅雨晴れ間来冬邦子
梅雨晴れ間水玉に笑顔さんざめき楡野ふみ
梅雨晴れの神保町やキーマカレー腹胃壮
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
- 船頭の漕ぐ手に落ちる五月雨月夜同舟
○小さな季寄せなどには「梅雨」と「五月雨」をまとめて解説している場合もあるのかもしれませんが、基本的には別の季語だと考えるべきです。講談社版『新日本大歳時記』では、「五月雨」は以下のように解説されています。【陰暦五月(陽暦の六月)頃に降り続く長雨。梅雨がその時候を含むのに対して、雨そのものをさす。】
そもそも季語は「時候・天文・地理・人事・動物・植物」と六つのジャンルに分類されます。「梅雨」「五月雨」はどちらも天文の季語ですが、前出のような違いがあるのです。まして「梅雨晴」「梅雨夕焼」「梅雨の月」「梅雨の雷」のような天文の季語は、表現される光景が全く違います。同じ季語だとみなすのは無理がありますね。
さらに「入梅」「梅雨入り」「梅雨明け」は時候の季語、「梅雨出水」は地理の季語、「梅雨の蝶」は動物の季語と、それぞれジャンルが違ってきます。
今回は、「人」「並選」ともに、ある程度は許容しましたが、これを機会に歳時記を確認して、その違いを整理してみて下さい。●季重なり
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「こどもの日」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみましょう。
- 梅雨もよし紫陽花の道雨散歩haru
- トタン板かたつむり這う梅雨の朝きつね火
- イモの葉にゆらゆら梅雨のアマガエルひこぞう
- 梅雨の空慈雨に色めく草木よ雅水
- 若き田に注ぐ梅雨の音蛙の音久保恵美
- 梅の実もてんとう虫も梅雨寒し犬飼茶太丸
- 梅雨しずく汗も心も地にしみて心の友蔵
- 朝焼けが移って燃える梅雨の空千川小舟
- 梅雨晴れ間ヤングコーンのおすそ分け鷹野みどり
- 梅雨の花芭蕉を見たか黒揚羽東風弘典
- 梅雨のしずく青きトマトに実りの予感任人
- 梅雨つゆつゆ納戸で遊ぶ黒いカビ夢おとめ
- 洗われて梅雨の晴れ間の白いシャツ矢野茂樹
●俳句の正しい表記とは?
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
- 梅雨空に 紛らす涙 天の母こもとびぃびぃ
- 念入りに 風呂の清掃 梅雨に入る星野茜
●兼題「梅雨」が入ってない
○今回の兼題は「梅雨」です。兼題を詠み込むのが、たった一つのルールです。
- 俄雨葉裏にじっと黒揚羽白水
- 子育てを終えて五月の雨が降る有迷人
●作者不明&兼題無し
- 雨音に心の中へといざなわれ
〇俳号は、その作品が自分のものであることを明確にするために符号です。投句する場合は、俳号を明記してください。似たような俳号が増えています。俳号には、必ず苗字もつけて下さい。
5月の兼題『梅雨』はGWの前半に投句が集中し、結果過去最多タイの2,743句でした。毎月投句いただき、本当にありがとうございます。
6月の兼題は『蝉』です。みなさまの投句、楽しみにお待ちしております(編集部)