夏井いつき先生の俳句生活

夏井先生のプロフィール

夏井先生のプロフィール

夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。

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3月の兼題

「木の芽」

1月の審査結果発表

兼題「煮凝」

 お待たせしました!1月の兼題「煮凝」の結果発表です。
 今月も夏井先生のアドバイスは必見です。冬の気配が器の中に留まっているような「煮凝」。ひんやりした朝の空気をまとう言葉です。投句からも、生活を背景に時間の経過や心情の移ろいを感じました。
 3月の兼題「木の芽」もふるってご応募ください。(編集部より)

「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。

画像:天
煮凝のほどけて時の遠近感

いたまき芯

夏井いつき先生より

 魚を煮て一晩おくと、その魚ごと煮汁が固まります。気温の低い時期は固まりやすいので冬の季語になっているのですね。
「煮凝のほどけて」とあるので、煮汁に戻りかけているものを「煮凝」の句と捉えてよいのかどうか、少々迷ったのですが、この句が表現しようとしているのは、煮凝という季語の成分には時間の要素があるという事実です。
 この季語の中にパッキングされているのは、煮魚を作り、食べ、夜のうちに冷え、朝になって「煮凝」になり、更にほどけかかっているという時間そのもの。「時の遠近感」という抽象的な表現には、作者の心情における遠近感も含まれているかのように感じます。この詩語が「煮凝」という極めて具象的な季語の本意を捉えていることに気づかせてもらった作品でした。

画像:地
煮凝や砂降る街で宿をとる

あおのめ

「砂降る」は黄砂を思いましたが、例えば桜島のような火山の町かもしれませんし、安部公房の「砂の女」の世界かもしれません。口に入れた「煮凝」にジャリリと砂の混じっているような読後感もまた。

煮凝や割り算にゐる余のやうな

カレー亭章之輔

「ゐる」には様々な意味があるため、解釈を少々迷っています。が、「煮凝」という存在を、割り算における「余」と捉えた機知には大いに拍手を送りたい一句。無駄なものは一つもないのだという人生観にも繋がって。

一生幸せに暮らしましたとさ煮凝煮凝

たけろー

 五七五を大いに逸脱したやり口。季語「煮凝」の持つ貧乏くさい側面を、日本昔話風に呟きました。下五「煮凝煮凝」という如何にも投げやりなリフレインには、人はこれを「幸せ」と呼ぶのかという自嘲も混じって。

煮凝や借金はせず財なさず

にゃん

 煮付けをした翌日の「煮凝」は、熱い白米にのっけて余す所なく食べる。そんな丁寧な暮らしぶりというか、質素な日常の上にある中七下五のような生き方を、世間の人は清貧と呼ぶのかもしれません。

煮凝を切るてふ柳刃の誉れ

葉村直

 貧乏くさい「煮凝」ではなく、割烹のような席で饗される上品なものを思いました。こんな美しい煮凝に刃を入れるのは、柳刃包丁にとっての「誉れ」。冬の季語というよりは、上質な無季の趣を感じる作品でした。

画像:人
  • 煮凝や空き家のままの両隣りあかねペン銀

  • 煮凝をはみ出て魚卵ふてぶてし阿部八富利

  • 煮凝りくずれるラジオから漫才あまぐり

  • 煮凝てふ独居と成りし夜をくづす家守らびすけ

  • スナックのママの煮凝てふ坩堝池之端モルト

  • 煮凝や人に隠れてする遊びイサク

  • 赴任地に馴染む十年こごり鮒小川野雪兎

  • 煮凝や世帯主とは名ばかりで荻原玲香

  • 煮凝や我慢の滓の沈め先おぼろ月

  • 煮凝や自分で自分の機嫌取る九ゼットン

  • 煮凝のひたひたと喪にこもりゐてげばげば

  • 煮凝や仮病二日目昼静か黒望

  • 煮凝を掬ひて老後とはこんな木染湧水

  • 煮凝や愛は内側から冷めるコンフィ

  • 煮凝や千円札の裏の富士佐藤志祐

  • お通しは煮凝部下は小生意気白猫のあくび

  • 煮凝の腐つた月のやうな色高田祥聖

  • 中年の諦念煮こごりの融けかかる鷹取碧村

  • 煮凝や喪の手続きの一覧表千葉水路

  • 煮凝や九谷の唐草に歪み坪田恭壱

  • 煮凝や放っておけばよいものを徹光よし季

  • 煮凝や沖には風の産屋ある長谷川水素

  • 煮凝や素面で言へぬなら言ふな弘友於泥

  • 煮凝や家族ごっこは冷えてゆくほしぞらアルデバラン

  • 拳骨が愛かよ煮凝へ箸を三隅涙

  • 煮凝にささめく昼の噂かな森重聲

  • 煮凝のゴリのあたりに骨がある亀田かつおぶし

  • 煮凝のごりの辺りの引っ掛かる酒井春棋

  • 煮凝の濁のところが本音です森毬子

  • 煮凝のふるふる星の欠片出づじゃすみん

  • 煮凝に星の欠片の浮き沈み花見鳥

  • 煮凝や腓返りの続く夜赤尾てるぐ

  • 煮凝や腓返りが痛すぎる糸川ラッコ

  • 煮凝に火入れ昨日の笑ひ声アーモンドよーせい

  • 煮凝の小骨に触る舌の先愛燦燦

  • 煮凝や夫だけゐない家族LINE青居舞

  • 煮凝の中に口惜しさうな鯛蒼空蒼子

  • 煮凝を崩す斜塔はそのままに青田奈央

  • 煮凝りや記憶は夜を去り難し青野みやび

  • 煮凝りや我文豪と酒食らふ青星ふみる

  • 煮凝や失うもののなきからだ赤尾双葉

  • 煮凝や音信不通は生存なりあが野みなも

  • 鍋の煮凝り昨晩のふて腐れあかり

  • 煮凝りの角や光の柔らかさ赤尾実果

  • 煮凝は大味親不孝な味愛柑いつき組note俳句部

  • 煮凝に箸ずぶずぶと伏魔殿空地ヶ有

  • 放置して鍋の形に煮凝りぬ秋月あさひ

  • 煮凝や巣鴨のママは今何処空き家ままごと

  • 煮凝りや猫が勝手に入る家秋山らいさく

  • 煮凝やものの散らかる台所芥茶古美

  • 煮凝や佳き写真ほど褪せてゐる芥もくた

  • 煮凝や友との確執解けぬまま圷美流

  • 煮凝や遠き湖国のみづの色明智明秀

  • 真夜中の煮凝崩す崩す崩す淺井翠

  • 鍋底の煮凝鳴り続く電話朝雲列

  • 上州の男煮凝を凝視す朝方静流

  • 煮凝を箸で崩せば昨日へと淺野紫桜

  • 好きよって言えた煮凝は蕩けたあさのとびら

  • 世はそんなものと煮凝つつく母浅乃み雪

  • 煮凝や母はいつ寝ていつ起きるあじさい卓

  • 煮凝や星の時間を掬ふ匙葦屋蛙城

  • 煮凝や記憶のははの著るきなり阿修羅

  • 煮凝りや主の居らぬ割烹着飛鳥井薫

  • 煮凝を解けば水爆の匂ひ明日ぱらこ

  • 煮凝りを飯に乗せ喰うケの日かな麻生恵澄

  • 煮凝や私の濁りゆく右目藍創千悠子

  • 煮凝や只ひたすらに待つ女あたしは斜楽

  • 煮凝や妻も祝わぬ誕生日あたなごっち

  • 煮凝り受け止めるささくれた心我孫子もふもふ

  • 煮凝や崩れて海が蘇る阿部斑猫

  • 煮凝の目は覚めず陽は昇れども甘茶トーシロー

  • 額に熱冷まシート煮凝美味雨戸ゆらら

  • 煮凝の中からみどり救ひ出すあみま

  • 煮こごりや塩に濁れる厨窓綾竹あんどれ

  • 煮凝や長押に掛かる神楽面綾竹ろびん

  • 煮凝の海を四角に割りにけり有村自懐

  • 煮凝や故郷いまや縁者なし有本としを

  • 煮凝の底に眠れる骨白しあわい

  • 煮凝の意思なき塊を崩す箸アンサトウ

  • 煮凝や介護の父の銀の匙安春

  • 鍋底の煮凝り心のこわばり飯沼深生

  • 鬱屈のいろしてをりぬ煮凝りぬ飯村祐知子

  • 胃の中のやうな煮凝胃の中へ十六夜の花札

  • 煮凝や昨日たくさん笑ったね石塚彩楓

  • 熱以て幽す愛は琥珀か煮凝か石塚壜太呂

  • 煮凝りや吾を誘ふかの風の音石原由女

  • 煮凝の眼に映る父の銛和泉園実

  • 「地球平面説」煮凝に箸いずみ令香

  • 煮凝りの夜を泳ぎきる背鰭かな石上あまね

  • 煮凝や鍋に螺鈿の光りあり市川卯月

  • 煮凝を買って募金箱へ百円市川りす

  • 煮凝や吾が内にある母のさがいつかある日

  • 煮凝や天気予報の当たる夜一久恵

  • 煮凝は箸慈悲深くするらしや一慎

  • 煮凝や父は昭和を生き抜きぬ伊藤亜美子

  • 心残りは煮凝まだ濁りをり糸冬因果

  • 煮凝や夕空は紺使ひ切り伊藤映雪

  • 羊膜にあらず煮凝とは柩伊藤恵美

  • 煮凝りや小さき漁港の定食屋伊藤順女

  • 煮凝や一目惚れにて半世紀伊藤なお

  • 煮凝や出涸らしなれど愛は愛伊藤柚良

  • 煮凝や畳紙の皺の形見分け伊ナイトあさか

  • また残業また煮凝が待っている稲光虎介

  • 煮凝や古りし事典の紙薄し居並小

  • 嫉妬する夫や煮凝こく匂ふ井上れんげ・いつき組広ブロ俳句部

  • 煮凝りぞうつぼきれいに刻まるる井納蒼求

  • 重力の憂き目に遭ひて煮凝れり井口良範

  • 煮凝や曖昧模糊はこんな色いまい沙緻子

  • 煮凝や生家は疾うに無人なりいまいやすのり

  • 煮凝や拗ねているのに気づかれず井松慈悦

  • 朝ドラ急転煮凝が掴めない妹のりこ

  • 煮凝や鉄の街には朝が無い伊予吟会宵嵐

  • 取り出されたる煮凝のたどたどし岩木順

  • 煮凝りや姉妹で父の酒買ひに岩佐りこ

  • 煮凝や夕影漏るる勝手口岩清水彩香

  • 煮凝りのとけて復縁承諾すうえともこ

  • 煮凝りや殺意多めの隠し味上野眞理

  • 喉荒れの喉に煮凝り降りてゆく上原淳子

  • 煮凝ややはらかに箸退けて鵜飼ままり

  • 煮凝つつくや正解はつまらないうからうから

  • 煮凝の一匙美しき余韻うた歌妙

  • 煮凝や土地半分の遺言書うただねこ科

  • ポジションは親友煮凝りの胡乱内田ゆの

  • 煮凝や崩せば戻る海の味空木眠兎

  • 煮凝や私立の方は受かったとうつぎゆこ

  • 煮凝や換気扇から貨車の音靫草子

  • 海鳴りに煮凍り震え鯛の鯛海口竿富

  • 煮凝や焼き場の空の薄浅葱海月のあさ

  • 煮凝は遠いあの日の戀のやう梅朶こいぬ

  • 煮凝やしづかな憤怒張りつめるうめやえのきだけ

  • 煮凝や法事の客の奥座敷浦城亮祐

  • ネクタイほどき煮凝にほどけゆく江川月丸

  • 実家へは帰らぬ煮凝へ穴江口朔太郎

  • 煮凝りは祖父の匙から貰う物蝦夷の珪化木

  • 煮凝のひかり沁みたり旅の夜蝦夷やなぎ

  • 煮凝や隠れしものを匙の跡蝦夷栗鼠の風

  • 煮凝や思い出の夜の舌触り越冬こあら@QLD句会

  • 煮凝や心の棘をそつと抜く絵十

  • 燗冷まし煮凝喰らい時事放談榎本雅

  • 前菜は煮凝古き洋食屋えりべり

  • 床鳴りの台所煮凝ぷるんANGEL

  • 煮凝やお皿に琥珀色の影延命寺

  • 煮凝や目玉の底にある泪近江菫花

  • 煮凝や婚家の朝のぎこちなさおおい芙南

  • 断面にときめくものに煮凝も大岩摩利

  • ハラールの煮凝右にございます大岡秋

  • 煮凝に閉じ込めたるは昨晩の嘘大久保加州

  • 煮凝や父母出会ふ話聞く大嶋宏治

  • 煮凝の飯に沿はむと凸凹す太田けいこ

  • 煮凝や鼻先皿に乗せるごと大塚恵美子

  • 煮凝や夜の匂ひを透明に大和田美信

  • 煮凝つつく同窓会の出欠欄おかえさき

  • 煮凝に虚しき穴のふたつ三つ可笑式

  • ローン組み今日の煮凝甘からい丘ななみ

  • 燗銅壺硬し煮凝軟らかし岡根今日HEY

  • 煮凝や視界の濁り澄むを待つ岡山小鞠

  • 煮凝や笑い上戸の妻へ酌小川さゆみ

  • 煮凝の溶けきるまでに和解せよ小川しめじ

  • 煮凝りをあひだに夫婦会話なく小川天鵲

  • 煮凝や似て非なる具の断面図小川都雪

  • 煮凝や惚れた腫れたはこりごりとオキザリス

  • 煮凝や祖母の初恋透けてをり沖庭乃剛也

  • 煮凝や欠けし器を捨てられず沖らくだ@QLD句会

  • 煮凝や櫂なき舟のごと揺らぎ小倉あんこ

  • 煮凝のやる気なさそなだらけ方おこそとの

  • 煮凝や来世は別の連れ合いと小田毬藻

  • 煮凝や鍋幾つ捨て転居するおだむべ

  • 祥月に煮こゞり二つ供へけりおつき澳吉

  • 煮凝りや疑念は解けぬ席を立つ御成山

  • 煮凝に天窓の星青白くおひい

  • 煮凝りや白内障の不透明海堂一花

  • 煮凝や宇宙のどこか膨らんで海峯企鵝

  • 女房と呼べる齢や煮凝れる香依蒼

  • 日帰りの湯や定食の凝鮒火炎幸彦

  • 煮凝や陋屋揺らす夜半の風案山子<いつき組広ブロ俳句部

  • 煮凝やだんまり続く箸の先風花まゆみ

  • 煮凝や六法全書閉ぢしまま風花美絵

  • 煮凝りや相場のラジオ聞く男風早杏

  • 煮凝や支所に勤続十五年樫の木

  • 煮凝や人も闇夜を泳ぎきり梶原菫

  • 煮凝を崩し光の生まれけり加田紗智

  • 煮凝やスマホ無き昭和の厨帷子砂舟

  • 朝食の煮凝り越しに夫のあり花鳥風猫

  • 取り寄せの煮凝まず角を少しかつたろー。

  • 煮凝や柱時計の遠き音ひだまりえりか

  • 煮凝りや酒の加減を月に問う桂葉子

  • 煮凝が骨身に沁みる病ひ明け加藤水玉

  • このマンションは煮凝の出来がいい加藤栗庵

  • 相続は拗れに拗れ凝鮒かときち

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  • 鶏の脚虚空掴みて煮凝れる霧澄渡

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  • 煮凝や拝むかたちの鯛の鯛くさ

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  • 骨董のごとき五徳や煮凝れりくずもち鹿之助

  • 煮凝や円やかに角ばってをり愚禿忍

  • 煮凝を鍋を揺らして確かめぬ國吉敦子

  • 煮凝や世のはしつこを生きてゐる熊谷温古

  • 煮凝は冷めて程良き恋のやう倉岡富士子

  • 雪舟に贋作あまた凝鮒眩む凡

  • 母と祖母煮凝好きの瀬戸の嫁ぐりぐら京子

  • 煮凝や水晶体の濁り濃し栗田すずさん

  • 煮凝りやまた自室へと引き篭もる空流峰山

  • 煮凝や袖よりたたむ割烹着久留里61

  • 煮凝や磨き抜かれしカウンター中十七波改め黒岩牡丹

  • 煮凝や大吟醸を所望せる愚老

  • 煮凝と納豆飯で見る大河くろだ@しろい

  • 煮凝りを掻き集めまた掻き集めくんちんさま

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  • 煮凝や指輪の抜けぬ薬指健央介

  • 煮凝や目玉の洞の透きとほる謙久

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  • 煮凝やカンバスの絵の具を剥がす小林脱太郎

  • 煮凝りや骨埋まりたる堆積層小林澄精

  • 煮凝に溺れた魚救ひけり小林久女

  • 煮凝や戦争を知る祖父の酒小林風翠

  • 溶けそうな煮凝見つつ長電話小林理真

  • 煮凝と昭和気質の友が良い独楽

  • 煮凝や母の年忌の指を折る駒形さかつ

  • 煮凝や無口な祖父母待つ祝宴駒茄子

  • 煮凝や発掘の壁のどに融け小山秀行

  • 煮凝の今日のはレベル七とみた今藤明

  • 煮凝や地震速報流れだすさいたま水夢

  • 煮凝や裸電球ぢぢと鳴く彩汀

  • 煮凝や昭和歌謡に浸る夜齋藤桃杏

  • 喜びの上澄みだけや煮凝はさおきち

  • 二人して煮凝崩しゆく無言さかえ八八六

  • 煮凝や時が馳走の鄙の宿坂口いちお

  • 喪に来しが煮凝此処に彼処にも坂島魁文

  • 煮凝を崩し安吾の堕落論櫻井こむぎ

  • 煮こごりや銀婚祝ふ隠れ宿桜鯛みわ

  • 煮凝や印判皿に畏まり桜月夜

  • 煮凝や浄土ケ浜の紺透かす桜華姫

  • 煮凝のあれば一夜を語りけり佐々木佳芳

  • 舌の上煮こごりの意思ほどけゆき笹靖子

  • 昨日といふ時間はどこへ凝鮒さざれいし

  • 煮凝を大事にすくふ酔ひちくれさち今宵

  • 煮凝のやさしい赤とこわい赤佐藤茂之

  • 煮凝や灯油の臭ふ湯治宿さとう昌石

  • 落選句肴に妻の凝鮒佐藤浩章

  • 煮凝や海の骸の美しき佐藤ゆま

  • 煮凝をゆすつて鬱を見てをりぬ佐藤レアレア

  • 煮凝の鍋ほのぐらき愛国心錆田水遊

  • 煮凝の鍋の凹みも形どりぬさぶり

  • 煮凝や箸で掬へる夜の澱彷徨ういろは

  • さうねと言ひつつ煮凝り崩しつつさむしん

  • 煮凝を崩して忘るることにする紗羅ささら

  • 煮凝や街の夜空のあはき紺佐柳里咲

  • 残業をしたぶん煮凝のいい感じさるぼぼ17

  • 煮凝やゆふべのハレの日の火照り沢拓庵◎いつき組カーリング部

  • 煮凝や今きみの目が泳いだわ澤田紫

  • 煮凝を出すような割烹は無縁澤野敏樹

  • 煮凝に小骨のざらり続く地震三角山子

  • 許さうか煮凝り舌にほどけゆく三月兎

  • 煮凝やパンゲアに国境はない慈雨

  • 煮凝や湖底遺跡の尖底土器塩風しーたん

  • 煮凝に玻璃の模様の残りけり柿司十六

  • 煮凝や未来に朽ちた巨大団地芝歩愛美

  • 薄つぺらな愛か煮凝あまきこと渋谷晶

  • 固まらぬ決心煮凝は未完成島掛きりの

  • 煮凝や戦友会を語る父島桜

  • まってまってまだ煮凝に道なかば島田あんず

  • 煮凝や本家の嫁のおし黙り島田ユミ子

  • 煮凝やまたねで終わる母の文霜川このみ

  • 母と似た皺映る煮凝啜る霜月詩扇

  • 煮凝や共に六十路の丙午霜月シナ

  • 煮凝の皿にきのふの崩れけり下村修

  • 煮凝を崩し始まる反省会沙那夏

  • 煮凝りや娘も保健室登校砂楽梨

  • 浜松を過ぎて煮凝くづしおり柊二@冨美夛

  • 煮凝を問わば昭和を語る母秋芳

  • 煮凝や泥炭なごるウヰスキー種種番外

  • 煮凝の目は正しさを笑はない常幸龍BCAD

  • 老いの身の懐に燠煮凝れる庄司芳彦

  • くつと喉狭まる煮凝に小骨正念亭若知古

  • 煮凝りもあのほとぼりも冷めし頃不知飛鳥

  • 煮凝と枕ご飯の堅き通夜白よだか

  • 煮凝や父饒舌な検査あと神宮寺るい

  • 人恋し煮こごりのふるへる夜はジン・ケンジ

  • 煮凝を翫味せし夜母逝けり新濃健

  • 煮凝の鯛透け光る珊瑚婚新森楓大

  • 煮凝やしゃがれた音のタンバリン西瓜頭

  • 白飯があの煮凝りを待っているすがのあき

  • 煮凝の眼張るは写楽好みかなすがりとおる

  • 煮凝や先づはさうでもない話杉浦萌芽

  • 煮凝や百尋の鮫嗤いだす杉岡ライカ

  • 煮凝の首の根つこに箸入れて杉尾芭蕉

  • 煮凝やほどろの夢のなまなまし杉本果ら

  • 煮凝に置き忘れたる目玉かな涼風亜湖

  • 煮凝の並ぶ漁師の祝い膳すずきじゅん

  • 喧嘩した翌朝煮凝味が濃い涼希美月

  • ぼやぼやの煮凝あすは木曜日鈴木由紀子

  • 雪平の煮凝り在りし日の赤貧すずしろ桂

  • 慰めないで煮凝の強情を鈴白菜実

  • 虚空見たまま煮凝の魚融けてゆく清白真冬

  • 煮凝ゆれる電車がたがたガード下鈴野蒼爽

  • 煮凝のいろがかたちをはみ出さうすまいるそら

  • 煮凝や卓に添へたる木曽の匙須磨ひろみ

  • 煮凝の照りぬらぬらと夜の海せいしゅう

  • 失恋の磨く綺麗や煮凝喰ふ瀬央ありさ

  • 思慮深き目玉の黙や煮凝とろん摂田屋酵道

  • 煮凝りに閉じ込められし涅槃かな走人

  • 煮凝や別れ話はすぐ決まる惣兵衛

  • 煮凝やけんかのなみだ甘かりき草夕感じ

  • 宝くじはハズレ煮凝りを食らう曽田利江

  • 煮凝やプラの器のお祝い膳外鴨南菊

  • 煮凝りの底におわする翁面そぼろ

  • 煮凝になってこの世の浮き沈みそまり

  • 口中の煮凝仲直りのライン染井亀野

  • 「日本人はいませんでした」煮凝突く空豆魚

  • 煮凝は厚し会談遅々としてたーとるQ

  • 煮凝の中に宇宙の見えしかな

  • 煮凝りを好むあの娘に決め給へたいらんど風人

  • 里帰りつるっと煮凝に涙高上ちやこ

  • 打ち直す夫婦座布団凝鮒高尾一叶

  • 煮凝りや舌にひそかなる火傷高瀬小唄

  • 煮凝を溶かすヒマラヤキャンプ飯小鳥遊こはく

  • 上役に相づち打っている煮凝り高嶺遠

  • 煮凝や軈て化石になるものら高橋手元

  • 煮凝りや金子みすゞの童話集高橋基

  • 煮凝の無垢になるまで読み返す高原としなり

  • 煮凝や歌麿の描くをんなたちたかみたかみ・いつき組広ブロ俳句部

  • 夕星の凝り煮凝におよばず高山佳風

  • 誰そ真夜の煮凝に穴一匙分滝川橋

  • ふかざめの煮凝古志の吟醸と武井保一

  • 煮凝を掻き寄せ失言悔やみおり竹内不撚

  • 煮こごりに父の癇癪なだめらるたけぐち遊子

  • 煮凝のかすかな地震でありにけりタケザワサトシ

  • 煮凝に沈んで魚の目は寂し竹田むべ

  • 鍋底に残る煮凝り母帰郷多胡蘆秋

  • 煮凝つても鯛と云わぬばかり哉多事

  • 引越の朝餉タッパーの煮凝多数野麻仁男

  • 煮凝の角丸く溶け再再婚糺ノ森柊

  • それじゃサァ煮凝にしてヨ僕の分多田知代子

  • 煮凝り割る屋台の闇を深くして田鶴子

  • 煮凝やすぷすぷすぷと震えたり立田渓

  • 煮凝や背骨を得るといふ進化立田鯊夢

  • 煮凝やこの世に未練いくつある辰巳電柱

  • 煮凝のふるえ余震のつもる郷立石神流

  • 煮凝や妻の意見に異議はなし伊達紫檀

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画像:佳作
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  • 金継ぎの皿の煮凝一人酌む山本八角

  • 出来の良い煮凝舌で崩れたり山本葉舟

  • 二の膳や煮凝越しのご返杯山姥和

  • 煮凝ぷるぷるアマギフ贈られる八幡浜うさの

  • 煮凝の粗炊きつつく祖母白寿友鹿

  • 煮凝や底に溜まりし過去の事宥光

  • 生々しき煮凝や痛みのアート柚子こしょう

  • 煮凝や我慢を強いる壁の詩ゆすらご

  • 煮凝を求め庫内のあかあかと柚木啓

  • 煮凝や思い出もかためちまって横山ひろこ

  • 鍋底の形残して煮凝れり横山道男

  • 煮凝りやこの世の闇に迫りたしよしぎわへい

  • 帰宅待つ皿は煮凝もう夜更け吉藤愛里子

  • 煮凝の美しきかな料理本Yoshimin空

  • 煮凝りに母とわたしの内緒ごとよみちとせ

  • 煮凝の目玉集めて義母は喰い楽和音

  • 吾ら古希蟹煮凝りや杯の音蘭帆星

  • しやばしやばと真夜の煮凝ぶつかけ飯理佳おさらぎ

  • 煮凝や昨夜の姿ひきずらずりこばば

  • 妻の留守三日食卓に煮凝竜退治の騎士

  • 皿に挑む冷えた煮凝の暗がり瑠璃ホコリ

  • 煮凝をせせる夫はなお無口麗詩

  • 煮凝りに亡き父思う帰らぬ日麗仙

  • 煮凝や奇跡のやうに海を割る黎明

  • 煮凝へ孤単の箸や想夫恋ロジック・ファットフィールド

  • 煮凝の明日は父の一周忌わきのっぽ

  • 煮凝よ嘘で固めたような女(ひと)わたこと

  • 手土産は煮凝友よいざ飲まん海神瑠珂

  • 朝まだき煮凝つつく厨かな渡邉花

  • 残り物いつしか煮凝る一品渡邉わかな

  • 煮凝りや鎌倉彫の棚の奥和脩志

  • 煮凝や戻り行く子の椀の中わをんはな

画像:今月のアドバイス
夏井いつき先生からの一言アドバイス

◆俳号のお願い二つ

  • ①似たような俳号を使う人が増えています。
     俳号は、自分の作品をマーキングするための印でもあります。せめて、俳号に名字をつけていただけると有り難く。共に気持ちよく学ぶための小さな心遣いです。

  • ②同一人物が複数の俳号を使って投句するのは、堅くご遠慮下さい。
    「いろんな俳号でいっぱい出せば、どれか紹介されるだろう」という考え方は、俳句には馴染みません。丁寧にコツコツと学んでまいりましょう。


●「煮凝り」を詠んだ句ではありますが

  • 煮凝鍋に金目鯛泳ぎだす岡本

  • 煮凝や化石となりし金目鯛白岩座匠

 むしろ、この二句は「金目鯛」を詠んだ句というべきかもしれません。「煮凝り」が季語として主役に立つように。それが、有季定型における基本的な考え方です。


●季重なり

  • 煮凝りや今日も散歩に寒き午後琵琶京子

  • 煮凝も融け行く春の肉淋したた

  • こごりぶな炬燵の奥で足重ねちがちゃん

 一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「煮凝り」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。


●煮凝りが比喩に

  • 煮凝りの体となりて寝返りす岩本遥

  • 煮凝りめく息子との関係はまだ詠・想風土

  • 海風よ夜のコンビニは煮凍れり綱川羽音

  • 寝泊りの人ら煮凝めく空港二重格子

  • 哀惜が煮凝るやうに顕るる匹田小春花

  • つれあひは煮凝つてもの柔らかき町田思誠

 絶対にダメというわけではないのですが、季語を比喩に使うと、季語としての鮮度が落ちます。無季との句として自覚して書く場合もあることを申し添えておきましょう。


●添削例

  • 煮凝や妹には多く分けき母岩田秋雀

「分けき」という使い方には問題があります。語順を変えて、意味が通るようにするとこんな感じでしょうか。
    【添削例】 妹に煮凝り多く分けし母


●今月の選外

 煮凝のある場所は台所や食卓、店のカウンター等かと思うのですが、例えば「煮凝りや家路を急ぐテールランプ」のような情景の句は、どう読めばよいのか悩みました。家に帰れば煮凝りがあるという句意ならば、季語である煮凝りはここにはないですし、煮凝りを買って帰る? となれば、季語自身がいかようにも動いてしまいそうです。同じく、「水辺」「舞台」など、煮凝りがどういう状況でそこにあるのかが、分かりにくい句が散見しました。
 更に、句意の解読に到達できないものも一定数。自句にとっての最も甘い批評家は作者自身。作った句は、しばし時間をおいて、客観的な目で自句を推敲する習慣を身につけましょう。

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3月の兼題

「木の芽」

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